PDF 管理組合の意思決定の諸問題、5管理組合の資金面も含めた運営方法から

第2章 管理組合の組織と運営

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管理会社をめぐる問題

それだけではなく、日頃の広報が継続的に行われていること、決定までに、 たとえば、アンケートや聴き取りなど、区分所有者の意思を確認するプロセ
スを踏んでいることがとても重要です。つまり、区分所有者の多数の意思を 反映する形で総会運営しているのかが、ポイントとなります。

理事長が独断専行で総会提案すると反対にあうのは、そのようなプロセス を踏まないためです。また、総会における提案を理解してもらうために、わ
かりやすい資料を付けることも重要です。総会運営を円滑に進めるためには、 コミュニケーションをとりながら、わかりやすい資料を作成し、多数の意思
を尊重して、臨む姿勢が求められます。それが結果として、充実したマンシ ョンライフを送ることにつながります。

れた決議について、事後にその効力を否定する場合は、やはり安定したマン ション管理運営にとっては支障があるといえます。そのような観点から、そ
の瑕疵が極めて軽微な程度にとどまるものであって、かつ、決議の結果に当 該瑕疵が影響を及ぼさないことが明白であるような場合には、例外的に当該
決議を有効とすべきものといえます。

具体的には、瑕疵の内容や程度、瑕疵に至った経緯、決議の具体的内容や 重要性といった諸般の要素を勘案してその有効性が判断されます。

裁判例では、総会において旧管理規約を廃止して新規約を制定する決議 がなされたものの、総会に先立ち、あらかじめ旧規約廃止・新規約制定を議
題とする旨の通知がなく、議案の要領の通知も欠いていた事案で、「召集手 続の瑕疵は決して軽微なものとはいえ」ないとして決議を無効としたもの(東
京地裁昭和62年4月10日判決(判時1266号49頁))や、2理事選任決議や規約変
更決議について、総会において理事に選任され、その後理事の互選により理 事長となった者が、当該総会において、代理人と称する区分所有者でない多
数の者を出席させて威圧的な言動をした事実などから理事選任決議を無効と し、また、翌年の総会における規約変更決議は、無効な決議によって選任さ
れた理事長が招集したものであり、区分所有法35条5項が定める議案の要

領の通知もなく、特別決議の要件を充足していないことを認定したうえで、 「招集権限のない者によって招集された総会であり、区分所有法所定の事項
等をあらかじめ通知せず、特別多数決議の要件も満たさない規約変更決議を 行うなど瑕疵が著しい」として決議を不存在と判断したもの(東京地裁平成13
年2月20日判決(判タ1136号181頁))等があります。

I 管理会社をめぐる問題

1 自主管理方式と管理委託方式

管理組合は、「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」を行う団体ですが、 その業務の内容は、共用部分等の保全、保守、清掃、修繕、長期修繕計画の
作成と実施、予算・決算の作成、出納などの会計業務、管理費等の徴収、滞 納管理費等に対する措置、広報や渉外業務等々、多岐にわたります(標準管
理規約32条参照)。

以上のマンション管理を行う方式には、自主管理方式と管理委託方式があ 035

管理会社に委託するのではなく、管理組合とそれぞれの業者が直接契約す る方式を自主管理方式と呼びます(すべてを管理組合で独力実施する場合は、

今ではあまりみられませんが、一般的に自力管理方式と呼びます)。

一部を管理会社に委託する場合は、管理委託方式のうち部分委託(一部委 託)と呼びます。また、すべてを管理会社に委託する場合は、管理委託方式
のうち全部委託と呼びます。

8 区分所有者の意思が反映される総会運営

管理組合の最大の課題は何かと問われれば、それは、物事の決め方や手続 だといえるかもしれません。マンションでは、実にさまざまな問題が発生し、
その取組み方が日々問われています。区分所有法、管理規約、細則などが、

物事を決めるのに重要な役割を果たしていることは間違いありません。ただ、

現在では、ほとんどのマンションで管理委託方式を採用しています。信頼

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第2章 管理組合の組織と運営

| 管理会社をめぐる問題

できる管理会社との共同作業で、所有者や居住者が安心してマンション生活 を送ることができるようにすることが重要です。

2 管理会社の選定と管理委託契約

(1) 管理会社の選定 管理会社は、大手だから大丈夫、安心ということはありません。管理会社
を評価する際に、会社の規模や資本金の大きさ、管理戸数も目安にはなりま すが、中堅企業でも実績があり、誠実さで信頼されている会社があります。

大手でも、当該会社で採用している管理方法にこだわり、管理組合の意見に 聞く耳をもたず、不評を買う会社があります。ですので、一概に大手だから
よいということではありません。また、管理委託費の金額も安いほうがよい ということで管理会社を選択してみたら、対応が悪かったという事例もあり 37.
「それでは、どのようなことに着目して管理会社を選ぶのがよいでしょうか。 国土交通省のマンション管理業登録会社であることは当然として、ここでは、
簡単にポイントをご紹介します。 (A) 管理業務への適切なアドバイス

理事会がマンション管理の素人集団であるとすれば、管理会社は頼れるマ

(C) 大規模修繕工事を自社で請け負わない

大規模修繕工事は、10年~ 15年に1回行う、大切な修繕工事です。多額 の金額がかかり、積立金の取崩しを行います。日頃は、管理委託費を安くし
て、その分、大規模修繕工事を受注することで取り返そうとする管理会社が 残念ながら一部存在します。大規模修繕工事の公正な相見積りを行ううえで
も、管理会社は大規模修繕工事を行わないことを会社理念とする姿勢が求め られます。

(D) 緊急時や小さな補修修繕に対応する能力

水漏れなどの緊急時にその原因まで突き止める総合的な判断能力がある会 社に存在感があります。不具合を未然に防ぐ対策や方法などを紹介できるこ
とも重要です。また、小さな補修修繕に機敏に対応する構えが大切です。

(E) 瑕疵問題で管理組合をサポート

管理組合と売主との間においては、マンション建築の瑕疵問題に関する交 渉は大きな課題です。この際、管理組合側に立ち、しっかりアドバイスでき
るかどうかが試金石になります。売主と同じ系列の管理会社で、売買時に存 在していた瑕疵を十分調査しない場合、大規模修繕工事の際に管理組合側の
負担で修繕することになりかねません。そうならない配慮が管理会社には必

5.

(2) 管理委託契約書 「管理会社との間でよくトラブルになるのが、管理組合が期待している業務
を実施してくれないというものです。しかし、その期待が過度であり、管理 会社が行う業務として管理委託契約書に明記されていないことがあります。
また、管理会社が理事長からパワーハラスメントに近い嫌がらせを受けるこ ともあります。管理組合と管理会社に適度の緊張感がありつつ、良好な関係
が築かれたとき、そのマンションは「よい管理状況」といえるでしょう。そ の視点からも、肝となるのは、管理委託契約書であるといえます。

管理委託契約書は、少なくとも更新時期ごとに見直しましょう。マンショ ン標準管理委託契約書には、一般的なことしか書かれていませんので、専門

ンション管理のプロであるはずです。理事会からの相談に適切に助言できる

役割を期待されます。これが十分にできない会社が意外に多いのが実態なの で、管理会社の選定のみならず、担当者の力量を見極める必要があります。

(B) 収納口座が管理会社名義ではない

法的には、収納口座は、管理組合理事長名ではなく、管理会社名義でもか まいません。しかし、管理組合の大切な財産の保全のために、管理会社のい
いなりにならず、すべての口座は管理組合理事長名義にすることをお勧めし ます。口座名義を管理会社名義とした場合、もし管理会社が倒産でもしたら、
その預金が管理会社の財産なのか管理組合の財産なのかで紛争となってしま

うこともあり得ます。

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第2章 管理組合の組織と運営

III 管理会社をめぐる問題

家と相談しながら内容を深めるようにしましょう。

なお、マンション標準管理委託契約書は、それまで標準的な管理委託契約 書指針として「中高層共同住宅標準管理委託契約書」(昭和57年)があり、そ
の後平成15年4月に「マンション標準管理委託契約書」として改訂され、また、

平成22年5月1日より、財産の分別管理等に関する改正マンション管理適 正化法施行規則が施行されたことで、さらに改訂され、現在に至っています。

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管理会社の変更

(1) はじめに 新築マンションを購入した場合、すでに管理会社が決まっていることがほ
とんどです。その管理会社に問題があるときは、管理会社の変更を検討する ことになります。ただし、管理会社の変更を考える前に、管理会社と話し合
って改善を求めることが重要ですし、管理委託契約の内容を修正して管理会

社の業務内容を具体的に明確にするなどの措置も有効です。また、せっかく

さらに、委託契約には解約申入れについての規定があるのが通常ですから、 その規定に基づき解約することもできます。管理会社の債務不履行があると
きは、契約の解除、損害賠償請求も可能です。ただし、管理会社の義務が明 確に規定されていないときは、債務不履行があるかどうかが争点となります。 (B)
管理者である場合

原始規約で、管理会社を管理者と定めているケースもあります。この場合 は、総会で解任することができます。管理会社に不正な行為があれば、個々
の区分所有者がその解任を裁判所に請求することもできます(区分所有法25

条1項・2項)。

(3) 管理会社を変更する場合の手順と留意点 (A) 区分所有者への説明

管理会社の変更の必要性や合理性を区分所有者全体が理解できるようにす ることが重要です。そのため、まず、総会で管理会社の変更を検討すること
につき承認をとることが望ましいでしょう。選定方法は、理事会中心で行う、 専門家に依頼する、専門委員会を設置するなど、管理組合が自主的に定めます。

(B) 統一仕様書の作成と見積りの受理

専門家に依頼して作成してもらうか、理事会において、または専門委員会 を設置するなどして、統一仕様書を作成しましょう。次に、統一仕様書に基
づいて複数会社から見積りをとります。

(C) 選定会社の絞り込み

管理会社にもゼネコンやデベロッパーの系列会社である会社もあれば、そ のような系列に属していない会社など、さまざまな性格の会社が存在してい

5 管理委託費の金額が安くても、管理組合が望む業務を実行できなければ意 味がありません。金額だけでなく、会社の規模、理念の違い、ゼネコンやデ
ベロッパー系列か独立系かを比較するために、ある程度の差があるところを わざと選んで絞り込むことも1つの方法です。

管理会社を変更しても以前と実態は変わらなかったなどということのないよ うに、変更先は十分に調査検討のうえ、契約を締結することが肝心です。管
理委託費の値段の安さだけで査定するのではなく、担当者の力量や経験、会 社のバックアップ体制、小回りがきくかどうかなどをポイントにすることを
お勧めします。会社の規模や資本金の大小よりも管理組合の立場に立って、 運営を進める管理会社の姿勢のほうが大切です。前記2(1)の管理会社の選定
の基準を参考にしてください。

(2) 管理会社の変更手続 「管理会社の変更は、以下に示すとおり、管理会社の法的地位(管理業務の
法的根拠)によって手続が異なってきます。新規に契約を締結する場合は、 マンション管理適正化法が適用され、同法により説明会の実施などの手続が

定められています。 (A) 管理委託契約を締結している場合

管理委託契約書に契約期間の定めがあれば、期間満了により終了します。

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更な記事な事業を共品

11管理会社をめぐる問題

第2章 管理組合の組織と運営

(D) ヒアリングは現実的な対応をチェック

ヒアリングを行う際のポイントは、担当者の理事会運営能力です。これを 査定できるように管理組合で事前に質問項目を整理しておくことをお勧めし
ます。または、マンション管理業務の力量のある専門家に相談したり、同席 してもらったりすることも有効です。

(E) 総会による承認と変更後の効果測定

総会で承認を得て、管理会社の変更をした後が大切です。ほとんどの管理 組合で変更後の効果測定をしていません。効果測定をすべきことを指摘した
り、実際に効果測定できる専門家が少ないのも実態ですが、少なくとも1年

程度は変更後の効果測定を実施することをお勧めします。

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管理会社をめぐる紛争

(1) はじめに 前記のとおり、管理会社にマンション管理を委託することは多くのマンシ ョンにおいて行われているところです。

管理組合と管理会社とがコミュニケーションをとり、管理組合が管理会社 を適切に監督することができれば、マンション管理は円滑に進められると思 われます。
「しかし、多くの場合、分譲当初から管理会社は分譲会社の関連の会社で決 まっており、その後も特に契約内容などを見直すことなくきてしまっている
ということもあります。その場合、管理組合が管理会社の業務を十分に把握 していない、あるいは契約内容が適切でないにもかかわらず是正されないま
まきてしまったなどということで、管理会社の業務に問題があり、管理組合 に損害が生じる場合も起きうるところです。
「この場合、管理組合としては、管理会社と対応を協議し、管理会社を変更 するなどの対応で解決することも多くあることと思います。

刊行されている裁判例を見ても、現実に管理組合と管理会社との間の問題 が訴訟にまでなることは必ずしも多くはないと思われますが、こういった背

景もあるものと思われます。 そこで、以下では、具体的に訴訟になった事例を踏まえて、管理組合にお
いて、管理会社との紛争にどのように対応すればよいのかを述べていくこと にします。

(2) 管理会社が負う義務 管理会社は、前述のような管理業務を行いますが、適切な管理がなされる
よう、平成13年にマンション管理適正化法が施行されました。この法律は、 基幹業務(経理に関する事務および大規模修繕に関する事務のことをいいます(マ
ンション管理適正化法2条6号))を含む業務を受託する管理会社に対して、 管理業務を受託するにさまざまな規制を設けています。

一般的には基幹業務を含む管理業務を委託することが多いと思われますの で、管理組合から管理業務を受託する管理会社は、マンション管理適正化法
の規制を受けて、業務を行わなくてはなりません。具体的には、管理会社は、

同法に基づき、以下のような規制を受けます。

民法上、受託者は 0 信義誠実の原則(マンション管理適正化法70条)

善管注意義務を負います(民法644条)。このことは、マンション標準管 理委託契約書においても明文化されているところです。マンション管理
適正化法も、管理会社に対し、業務を行うにあたって信義誠実義務を負 わせています。 2
管理委託契約締結時の重要事項説明義務等(マンション管理適正化法72 条) 管理会社が管理組合との間で管理委託契約を締結しようとする
場合(新築マンションの場合を除きます)、管理会社は、あらかじめ、管理 組合の区分所有者および管理者の全員に契約内容等に関する重要な事項
を記載した書面(重要事項説明書といいます)を交付し、区分所有者およ び管理者に対して、説明会を開催して重要事項の説明をしなければなら
ないとされています(同条1項)。また、同一内容にて管理委託契約を更 新する場合には、区分所有者全員に重要事項説明書を交付し、管理者に
対して契約内容を説明しなければなりません(同条2項・3項)。この場合、

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第2章 管理組合の組織と運営

管理会社をめぐる問題

説明会の開催は不要です。重要事項の説明は管理業務主任者が行わなけ ればならず、説明書には管理業務主任者が記名押印しなければなりませ

ん(同条5項)。 3 管理委託契約締結時の書面交付義務(マンション管理適正化法73条)

管理会社は、管理組合から管理業務を受託した場合、管理事務の内容 や実施方法、管理事務に要する費用並びにその支払いの時期や方法など
法定の事項を記載した書面を、管理者(管理者がいない場合には、区分所

有者全員)に、交付しなければならないとされています。 Q 基幹業務の一括再委託の禁止(マンション管理適正化法74条) 管理

会社は、管理組合から業務を受託する場合であっても、基幹業務を一括 して再委託してはなりません。 6 財産の分別管理義務(マンション管理適正化法76条)
管理会社は、

修繕積立金など管理組合から預かっている財産と、自己の財産とを分別 して管理しなければなりません。
そのほかにも、帳簿作成義務(マンション管理適正化法75条)、管理事務報 告義務(同法77条)などを負います。
「管理組合としては、まずは、委託している管理会社がマンション管理適正 化法を遵守しているかどうかを監督していく必要があります。しかし、それ
だけで管理会社の管理が問題なくなるという保証はありません。 「そのため、マンション管理士などの専門家も活用しながら、管理会社を適

切に監督していく必要があるといえます。

(3) 管理会社との紛争 (A) 紛争類型

管理組合と管理会社との紛争の中で多いのは、やはり金銭に関するもので す。たとえば、管理会社自身が預り金を横領したことの責任追及、理事が横
領したことに対する管理責任の追及、管理会社が支出した費用が不適切であ るなどとして損害賠償請求がなされる場合などがあります。管理組合が行う

業務内容は多岐にわたりますので、紛争類型も多岐にわたるものと思われま

以下では、いくつかの類型において、裁判例も紹介しながら解説します。 (B) 管理会社自身の横領

管理会社は、管理組合が行う修繕積立金等の徴収業務を代行し、徴収した 金銭を預かることになります。あってはならないことですが、管理会社の従

業員が預り金を横領する事例もあります。 この場合、実際に横領した従業員はもちろん、管理会社に対しても、横領
されたことにより生じた損害の賠償をすることができます。

この事例に関する裁判例としては、東京地裁平成22年3月22日判決など があります。

管理組合としては、個人に対して責任を追及していたのでは資力がなく損 害賠償を受けられない場合でも、より資力があると見込まれる管理会社から

損害の賠償を受けられることになります。 もっとも、従業員個人の責任を追及する場合であれ、管理会社の責任を追
及する場合であれ、管理組合の過失が考慮され、全額の賠償が認められない こともあり得ます(なお、前掲・東京地裁平成22年3月22日判決では過失相殺の

主張は否定されています)。

ですので、管理組合としては、管理会社の担当者の出納業務について、適 宜チェックをしていくことが重要といえるでしょう。 (C) 理事による横領

管理会社だけではなく、管理組合の理事が管理費等を横領する事態も生じ ています。近時では、横領額が多額となり、刑事事件に発展する事態も生じ ています。

この場合、管理組合としては、管理会社に対しても、財産管理に不備があ ったとして被った損害の賠償を求めたいところです。しかし、基本的には、
管理組合が理事の業務の執行を監督する立場にあります(標準管理規約51条 も理事会は理事の職務の監督をすることとされています)。

そのような事例に関し、東京地裁平成17年9月15日判決は、以下のとお

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第2章 管理組合の組織と運営

11管理会社をめぐる問題

り述べています。

この事案は、管理組合が、管理会社を相手として、理事長が横領した金銭 についての損害賠償請求をしたものです。判決文が認めた事実によれば、理
事長が通帳の届出印を、管理会社が通帳を保管している中で、理事長が、無 断で通帳の再発行をするなどして預金口座から金員を引き出して横領しまし
た。その後、通帳が再発行されたことを知った管理会社が理事長に問合せを したところ、その弁解は不審なものだったのですが、管理会社は、理事長か
ら再発行した通帳を預かっただけでそれ以上の措置を講じなかったのです。 そうしたところ、理事長は再度通帳の再発行をして無断で預金を引き出して

複数回にわたり横領行為を繰り返しました。

判決では、上記の事実関係のもと、管理会社が、理事長が通帳を無断で再 発行した事実を認識した時期以降の横領行為に関しては、管理会社の債務不
履行であるとして、その賠償を命じました。

もっとも、この事案では、管理組合の担当理事が適切な任務を怠っていた ことや監事の監査が十分になされていなかったことが損害を拡大させた大き
な要因であるとして、管理会社は債務不履行により生じた損害のうち4割の

賠償のみ命じられました。 「このように、管理会社が理事の横領行為を認識し得たにもかかわらず、こ
れを防ぐ適切な措置を講じていない場合には損害賠償が認められることがあ ります。しかし、基本的には管理組合が理事の監督を行うべき立場にありま
すので、そのような場面は限定的に解されますし、賠償が認められるとして も、過失相殺がなされる可能性が大きいと思われます。

ですので、管理組合としては、理事が適切に業務を行っているのか、管理 会社に任せきりにせずに、監督をしていくことが重要です。 (D)
日常的な費用の支出に関する責任

管理会社は、管理組合の予算に基づいて、管理組合の口座から、管理や修 繕等にかかる経費を支出することになります。この場合、個々の支出につい
て管理組合の事前の承認がない場合もあるでしょう。

このような場合に、管理会社が行った支出が不適切なものであるとして、 その賠償を請求することができるかが争われることがあります。裁判例とし ては、
東京地裁平成16年11月30日判決、の東京地裁平成21年5月21日判

決があります。 「0の事案は、管理会社が、管理人室の机やいすなどの備品の購入に関して、
事前に管理組合の承認を得ずに支出したとして、債務不履行を理由として賠 償が求められた事案です。この事案において、裁判所は、事後に総会で承認
されている点を理由に、管理会社に債務不履行はないとして管理組合の請求 を棄却しました。

また、2の事案は、管理人(管理会社の従業員)が、理事長の事前の承認な く種々の支出をしたことなどが、管理会社の不法行為にあたるとして損害賠

償を求めた事案です。当該事案でも、裁判所は、少額の支出につき逐一承認 を求めることが現実的ではなく、決算において支出についての承認がなされ
ていることなどから、管理会社には不法行為はないとしました。

費用について、予算に概算が計上され、また決算が承認されているような 場合には、個別の支出について事前に承認を得ていないからといって、当然
にその賠償を求めることは難しいと考えられます。

もっとも、このような少額の支出が管理されずになされていった結果、多 額の横領事案につながるということも考えられます。
「ですから、管理組合としては、管理会社が行う支出について、適宜報告を 受けるなどして適切な監督をしていくことが重要であるといえるでしょう。 (E)
管理費が時効にかかって消滅してしまった場合

管理会社は、管理費の徴収代行業務も行い、滞納している区分所有者に対 しては、手紙を出すなどして請求をしています。他方、最終的に訴訟などの
法的手続をとるのは、管理組合が総会や理事会で決議をして行うこととなり

5.

管理費の消滅時効は5年間とされていますが(最高裁平成16年4月23日判決 (民集58巻4号959頁))、管理会社がついているにもかかわらず、管理費が消

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TV

第2章 管理組合の組織と運営

IV 専門家の活用

委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被る時期として、 報酬を喪失した場合を含まないとするのが判例です(最高裁昭和43年9月3日

判決(集民92号169頁)。

マンション標準管理委託契約書を前提にした場合、解約の申入れに関して、 相手方に対して少なくとも3カ月前に書面で行うという要件を設けています
ので、この場合には契約内容に従って処理することになると思われます。し かし、そのような特約がない場合には、基本的に、解除が否定されたり、あ
るいは管理会社が受け取ることができたであろう報酬の支払いをしなければ

ならないということはないと思われます。

V 専門家の活用

滅時効の期間を徒過し、結果的に回収できなかった場合、その責任を管理会 社に求めることはできるのでしょうか。

この場合、管理会社の義務違反があるのかが問題になりますので、管理組 合に対して、契約上、いかなる義務を負っているかを検討する必要があります。
ここで、マンション標準管理委託契約書を参考に検討すると、同契約書に よれば、管理会社が行うことは、管理組合に対して報告をすること、滞納し
てからの数カ月間、電話などの方法で支払いの催促をすることとされており、 上記によっても滞納が解消されない場合には、管理会社の業務は終了し、以
降は管理組合が滞納の解消のための方策をとっていくことになるとされてい ます(同契約書3条1号、別表第1・1 (22)。

上記契約内容からすると、5年の時効期間を徒過しないようにするために は、管理組合が対処する必要があるのであって、管理会社がそもそも何も報
告をしていなかったために管理組合が滞納の事実を認識していなかったとい うような場合を除けば、基本的に管理会社がこれに対して責任を負うことは
ないといえそうです。

この点、東京地裁平成18年7月12日判決は、管理委託契約書において、 滞納に関して管理会社が負っている業務内容が督促等の通常業務に限られ、
長期滞納者等の扱いについて無償で補助する旨の義務までは認められないと して、管理組合の管理会社に対する請求を棄却しています。

ですので、管理組合としては、管理費の滞納に関して管理会社が契約上ど こまでしてくれるのかをしっかりと確認するとともに、管理会社に任せきり
にせず、管理委託契約書の内容を踏まえ、管理組合として滞納の解消のため に行うべきことをしっかりと行う必要があるといえるでしょう。

(F) 管理委託契約の終了に関する紛争

管理組合と管理会社との契約は、準委任契約ですので、契約上特段の定め がなければ、管理組合はいつでも契約を解除することができます(民法651条
1項)。受任者にとって不利な時期の解除の場合には、委任者は、受任者の 被った損害を賠償する義務を負います(同条2項)が、「不利な時期」とは、

管理組合の業務は、標準管理規約32条に明記されていますが、いわば素 人の集団である管理組合のみで実務上これを全うすることは到底不可能で
す。そのため、管理会社にこれらの業務を委託することが大半です。

また、専門家をうまく活用することにより、管理組合運営がスムーズに進 むと考えられます。どのような専門家に依頼すればよいのかの例をあげると
(表3)のようになります。

ほとんどの業務は管理会社が受託できます。しかし、注意点として、たと えばゼネコンやデベロッパーの系列の管理会社が受託する場合、その系列の
親会社の意向を無視することができないとも考えられます。親会社に遠慮し て、瑕疵などの指摘ができなくなることや、管理組合として把握しにくくな
ることがあります。少なくとも、瑕疵調査や建物診断、大規模修繕工事など

は、実務を行う専門家と、できるだけ直接契約および実質的なやりとりをす

ることが望ましい管理組合の運営方法と考えます。

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V 団地型マンションの管理

第2章 管理組合の組織と運営

(表3] 管理組合の業務と活用することが可能な専門家

V 団地型マンションの管理

1 団地型マンションとは

+

of

業務・決議事項

必要な業務 適任と考えられる専門家 1 収支決算案、事業報告案、収支予算「相談、ひな型|マンション管理士、税理

案および事業計画案

PEST 2 規約および使用細則等の制定、変更 相談、ひな型|マンション管理士、弁護 または廃止に関する案

PES 「士、司法書士 3 長期修繕計画の作成または変更に相談、案の作マンション管理士、建築 W53#

4 専有部分の修繕等、バルコニー等の「相談、実務補| マンション管理士、建築

保存行為、窓ガラス等の改良工事の承認|助 または不承認 6 会計年度の開始後、総会の承認を得|相談、実務補|マンション管理士、税理
るまでの間、経費の支出が必要となった「助

場合の承認または不承認 6 管理費等の滞納者に対し、請求に関|相談 マンション管理士、弁護 する訴訟その他法的措置の追行

I #

# 0 区分所有者等が、共同生活の秩序を「相談 マンション管理士、弁護 乱す行為を行ったとき、その是正のため 必要な勧告または指示

#m

# (8) 共用部分の保存行為(大規模修繕工|相談 マンション管理士、建築

事などの計画・実施

#1

建築士事務所の資格を

もった管理会社、建築士 9 工事瑕疵の調査および交渉

相談、実務補|マンション管理士、建築

士、弁護士 10 専有部分内工事の内容確認、検査」 「届出事項の|マンション管理士、建築

THER

WŁ 0 管理組合の法人化

k

マンション管理士、司法

+

#WEWE Āt 2 管理会社の変更

マンション管理士

(1) はじめに 区分所有法65条は、団地に関し「一団地内に数棟の建物があって、その団
地内の土地又は附属施設がそれらの建物の所有者の共有に属する場合」と規 定しています。

具体的にどのような場合に「団地」となるかについて、区分所有法は上記 のとおり述べるのみで正面から定義を設けていませんが、一団地内に数棟
の建物があること、その団地内の土地または附属施設がそれらの建物の所 有者の共有に属する場合に団地と扱われることになります。つまり、団地と
は、団地建物所有者の共有に属する団地内の土地または附属施設があること を前提にして成立することになるのです。
「たとえば、以下のような場合に団地関係が成立することとなります(稲本 洋之助=鎌野邦樹『コンメンタールマンション区分所有法(第3版)』448頁。図お
よび説明は横浜弁護士会編『マンション・団地の法律実務』257頁、258頁をもとに PET).

(2) 団地型マンションの特殊性 以上のように、団地型マンションにおいては、団地内の数棟の建物全体の
共有となっている部分と、棟(個々の所有建物のことを「棟」といいます)ごと の所有者や団地内の一部の所有者のみの共有となっているものとの2つが存

在し得ます(たとえば、〈図1》Dの場合、敷地は団地全体の共有となりますが、 各棟の建物の共用部分は、後記の管理規約がない場合には当該棟の所有者の共有
となります)。 「そのため、団地型マンションにおいては、管理の方法や管理規約の設定等 において、単棟型マンションとは異なった対応が必要になるのです。

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