株式会社 全国賃貸住宅新聞社 主催 賃貸住宅フェア2014

事例1

A不動産会社の営業職員であるBさんは、平成23年7月1日午前11時ごろ、とある物件(居住用マンション)を、買主を紹介してきた仲介業者Cさん及び買主候補者Dさんに物件内覧させるために、同人らとの計3人で現地にA不動産所有の営業車で、Bさんの運転で赴いていた。
 
ところが、場所が判り辛い所でBさんが何度も道を間違えてしまったため、Cさんが気を利かせて、好意からBさんと運転を変わってあげ、その後はCさんの運転で無事目的地である本件売買物件に到着しようとしていたところだった。

しかし、到着のほんの5分程前に、Eが3年前に5年のマイカーローンを組んで購入し所有・運転する自家用乗用自動車と衝突し、Cさんは全治2週間の軽傷を、Bさんは全治6か月の重傷を、Dさんに至っては10か月の入院と退院後も6か月の通院を要する重傷を負わせてしまい、かつ、Dさんは治療終了時に後遺障害等級12級の後遺障害が遺ってしまった。
ちなみに、Eは軽傷で済んだが、後日調べてみると、Eの車両は車検証上、ローン会社の所有となっていて、かつ、Eは自賠責保険しか加入していなかった。

この場合に、各被害者らは、誰に対し、どのような請求ができますか?
 

事例2

О不動産会社の代表取締役であるPさんは、平成21年7月1日午後1時ごろ、とある物件(事業用賃貸倉庫(閉鎖工場の再利用物件))を、借主を紹介してきた仲介業者Qさん及び借主候補者Rさんに物件内覧させるために、同人らとの計3人で現地に赴いていた。

上記3人で物件内部を内覧中、中2階があったため、広さ等利用可能性を確認するため、そこへ上るための梯子を3人で順次上り床や壁や柱や窓付き状況等を確認していた。

ところが、確認を終了するや否やPさんもQさんも全く気付かないうちにRさんがPさんにもQさんにも告げることなく梯子を降り始めていたが、Rさんは梯子から足を滑らせて、そのまま後頭部から1階のコンクリート床に叩き付けられた。

幸いにRさんは一命は取り留めたものの、全治6か月の重傷と、等級7級の後遺障害が遺ってしまった。
ちなみにRさんが梯子から転落した原因であるが、元々この梯子は、工場の中2階に上がる用に、当時の工場の所有者兼使用者が設置したものであったが、鉄製でこれ自体それなりの重量物だったため、1階コンクリート床上に斜めに置いて中2階の床面の端部分に当てているだけで、梯子の下端と1階床の間も、梯子の上端ないし中端と中2階床面端部分の間も、熔接もボルト接合はおろか、かぎ状フックや1階床面穴への梯子下端設置など、梯子自体が動かないようにするための工事等は一切されていなかった。
後日調べてみると、本件内覧物件は、工場時代にはこの時代のオーナーが火災保険及び工場内作業による事故等を付保する損害保険に加入していたが、オーナーが変わり事業用賃貸倉庫としてからは、火災保険に加入するのみで、倉庫内作業による事故等を付保するための損害保険には加入していなかった。
この場合に、各被害者らは、誰に対し、どのような請求ができますか?
 

第1 仲介業務中の事故について

1 事故態様は色々考えられる。cf.交通事故(事例1)、内覧中の人身事故(事例2)
2 事故が起きた場合、事故に関する責任としては①刑事上の責任②行政上の責任③民事上の責任の3つが考えられる。
3 ①刑事上の責任について→A:自動車運転過失致死傷罪、B:業務上過失致死傷罪等が考えられる。→A:7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。軽傷のときは情状により、刑の免除が可能。B:5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金。
 

論点B


でいうところの「業務」とは何か?→「本来、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であり、かつ他人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるものであることを要するが、行為者の目的がこれによって収入を得るにあるとその他の欲望を満たすにあるとを問わない(最判昭33.4.18刑集12-6-1090)。

上記判例の基準に当てはめると、仲介業者が、客付業者ないし客を物件の内覧へ連れていく行為は、必ずしも上記の「他人の生命・身体に危害を加えるおそれのあるもの」とは言えないので、業務上過失致死傷罪が成立する可能性は少ないものと考えられる。

せいぜい、過失が重大なものであった場合に重過失致死傷罪が成立する可能性があるくらいと思われる。
但し、上記内覧への連れ出し行為が自動車の運転を伴うものである場合に、上記自動車運転過失致死傷罪が成立する可能性があるか否かは別問題。

②行政上の責任について→色々なものが一応考えられるが、例えば、事故が仲介業務上の職務中に従業員が起こしたものだった場合には、労災事故に該当する場合があり得るので、事業所である仲介業者(宅地建物取引業者)から、労災関係の所轄役所(労働基準監督署)等へ労災届の提出が必要。

③民事上の責任について→主として損害賠償責任が問題に。後述する安全配慮義務の一環として、職場で事故が起こりにくいようにする普段からの事故予防義務も認められる。

本セミナーでは、上記①ないし③のうち、実務上もっとも多く接することになるであろう③の民事上の責任にテーマを絞ることとする。

 

第2 民事上の責任について

1 損害賠償義務

本件事故と因果関係のある損害が認められる場合、その賠償責任者が誰か問題になる。

(1)  損害賠償義務には、不法行為に基づくもの(民法709条以下)と債務不履行に基づくもの(民法415条以下)がある。  両者の実務上の現実的な違いは、主として①訴訟になった際の主張・立証責任と、②損害賠償請求権の消滅時効にある。 

ア 不法行為責任→①損害賠償請求をしていく原告側に主張・立証責任がある。よって、主張・立証ができなければ原告側が請求棄却の敗訴となる。

②加害者及び損害の発生を知ったときから3年で消滅時効に、不法行為時から20年で除斥期間にかかる(民法724条)。
3年は実務的には意外とあっと言う間なので、時効にならないよう、注意しなければならない。ちなみに、自賠責保険金の保険金請求権は事故時から2年で消滅時効となるので、早目に請求する必要がある(事例1)。

また、労災の請求も事故時から2年で消滅時効が原則なので、早目の請求が必要である(事例1及び2)。
消滅時効が迫っている場合には、取り敢えず内容証明郵便で加害者宛に損害賠償請求する旨の意思表示(これを「催告」」といいます)をしておけば、そこから6か月以内に提訴等の時効中断措置を採れば、催告した時点で時効を中断させることができるので、是非、早目にこの措置を採っておくことを勧める。
 
イ 債務不履行責任→①損害賠償請求をされた被告側に、自身が責任を負わないことについての主張・立証責任がある。
  よって、主張・立証ができなければ被告側が請求認容の敗訴となる。

ちなみに、実務的には、上記原告側に主張・立証責任がある場合も含めて、単に主張・立証責任の有無だけで即座に請求棄却や請求認容になどはならずに、訴訟上で適宜裁判官からも各当事者に対して釈明等がなされ、主張・立証責任の帰属に関わらず、ある程度、事実関係を明らかにしていこうという努力がなされる。

しかし、その努力も行き詰まり、いよいよ判決を裁判官が書くだけの段階になった場合には、主張・立証責任の帰属で請求棄却・認容が決められないとも限らないので(例えば過失相殺を基礎づける事実等について等)、原告・被告側いずれになった場合でも、主張・立証責任は尽くしていなければならない。

②消滅時効は、債務不履行によって生じる損害賠償請求権の消滅時効は、本来の債務の履行を請求しうる時からその進行を開始する(最判平10.4.24判時1661-66)から、後述する安全配慮義務違反を債務不履行の理由とする場合には、本来の安全配慮義務を尽くせと言える時点、すなわち事故日が時効の起算点と考えられる。

時効期間は10年と考えるのが有力(cf.国の国家公務員に対する安全配慮義務の懈怠に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年ではなく、民法167条1項により10年と解すべきである(最判昭50.2.25民集29-2-143(陸上自衛隊八戸事件)))。

 

(2)  上記の「ア 不法行為責任」か「イ 債務不履行責任」かを分けるために、本件各事例のような仲介業者については、仲介契約が締結されているか否かで分けるのが原則となる。
 

ア  契約締結前

A 仲介業者に帰責性(故意・過失)が認められるか?(不法行為責任について)

仲介契約締結前なら、仮に仲介業者が責任を負うとしても、原則として不法行為責任しか負わない。不法行為責任として責任追及される場合、行為者の使用者(勤務先など)は使用者責任(民法715条)を負い、被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったと証明できない限り、使用者も責任を負う。
 
この場合の故意・過失、特に過失の内容である注意義務は、契約関係には入っていない当事者間であることから、一般人に要求される程度と同程度と解釈されるのが原則である。しかし、たとえ仲介契約前であっても、例えば、仲介業者と客付業者ないし客がある程度親密な関係にあり頻繁に物件の紹介を受けていて本件内覧もその一環として実現したようなケースや、逆に今回一見の客付業者ないし客ではあるが、内覧の対象物件が、本件仲介業者でないと内覧させることができないような極めて特殊な事情があるようなケース(逆に言えば、本件仲介業者は当該内覧物件への道程(事例1の場合)や当該内覧物件自体(事例2の場合)に潜む危険性まで当然に知っていたか知るべきであったと評価されるようなケース)には、一般人に要求される程度を超えた高度の注意義務を本件仲介業者が求められる場合もあり得るものと考えられる。
  
よって、一般人ならば追及されないであろう不法行為責任を、本件仲介業者ゆえ追及される、ということも、ケースによってはあり得る。

B 仲介業者に帰責性が認められるか?
(契約締結上の過失ないし契約準備段階における信義則上の義務違反の法理について)

通常は、取引行為に関する損害ないし義務違反の場合の議論である。
例えば、不動産売買等の契約締結に向けて売主・買主ともに準備をしていたのに、どちらか一方が、一方的に契約の締結を壊したような場合に、準備行為等に要した費用関係(例えば交通費とか各種書類の取り寄せ費用とか)等を請求できるか、といった議論である。

しかし、仲介契約も、契約の一種であることには変わりなく、かつ仲介手数料も、特に売買の場合などは高額になりがちである。
よって、仲介契約締結に至っていなくても、締結に向けた準備行為時から既に仲介依頼者と仲介業者の各当事者間においては、単なる契約当事者外の一般人が負う不法行為責任だけではなく、契約締結上の過失ないし契約準備段階における信義則上の義務違反の法理が適用される可能性はある。

この場合に、特に仲介業者側に契約締結上の過失ないし契約準備段階における信義則上の義務違反が認められるか否かの判断基準は、上記Aの最後に述べた、例えば、仲介業者と客付業者ないし客がある程度親密な関係にあり頻繁に物件の紹介を受けていて本件内覧もその一環として実現したようなケースや、逆に今回一見の客付業者ないし客ではあるが、内覧の対象物件が、本件仲介業者でないと内覧させることができないような極めて特殊な事情があるようなケース(逆に言えば、本件仲介業者は当該内覧物件への道程(事例1の場合)や当該内覧物件自体(事例2の場合)に潜む危険性まで知っていたか知るべきであったと評価されるようなケース)には、本件仲介業者に契約締結上の過失ないし契約準備段階における信義則上の義務違反が認められる場合もあり得るものと考えられる。

但し、契約締結上の過失等が認められる場合の賠償の範囲は、契約関係にまでは至っていないこと等を根拠に履行利益までは認められず、信頼利益にのみ限定する考え方が一般的である。

しかし、一口に「履行利益」や「信頼利益」と言っても基準としては不明確であり、結局は、当該過失行為と相当因果関係のある損害の範囲はどこまでか、が問題となるものと思われる。
 
 

C 仲介業者に帰責性が認められない場合

帰責性ある者(例えば事例1における事故車の両運転者や事例2における梯子の管理不行届だったオーナー等)に対し、不法行為責任の追及をすることになる。
これらの者と各事例における被害者の間には、契約関係は何もないものと考えられるからである。
 

 イ 契約締結後

A 仲介業者に帰責性が認められるか?仲介業者(債務不履行責任について)

(準)委任契約における(受任者の)安全配慮義務の問題
→仲介契約は、判例で問題となった、雇用契約や賃貸借契約のような比較的長期間を予定した契約とは異なり、比較的短期間(売買の場合、通常は3か月ごとに更新)を予定した契約であるが、継続的契約である点は共通している。

そこで、仲介契約であっても、判例の認めた基準すなわち「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触関係に入った当事者間においては、一方が他方にその生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を信義則上負っているものと解すべきである(上記最判昭50.2.25民集29-2-143(陸上自衛隊八戸事件))と判断される場合も大いにあり得る。
→仮に仲介業者に安全配慮義務が認められると、その義務違反は契約上の責任として上記の債務不履行責任を追及されることになる。
→本件事例1、事例2に関わらず、一般的に仲介契約の締結にまで至った以上、客付業者や客に対して、少なくともその生命・身体を危険から保護するよう配慮する義務が、仲介契約上の義務として認められるものと考えられる。
 
よって、事例1においては、例えば内覧物件に向かう経路等はより安全な移動手段や時間帯等によるべきであった等と判断され、安全配慮義務違反が認定される可能性がある。

また、事例2の場合には、客付業者や客の安全を配慮すべく、梯子で中2階に上がるような場合には、その梯子や上がる場所である中2階の安全性については、オーナー側の仲介業者は、少なくともオーナーに近い注意義務を負っていると解釈される可能性が高い。

なぜなら、事例2の客付業者や客と違い、本件仲介業者はオーナー側である以上、当該問題物件へは反復・継続して案内等をしていたであろうし、仮に案内が初回だったとしても、事後の内覧の案内等業務の反復・継続性は当然、想定されているからである。
 

B 仲介業者に帰責性が認められない場合

帰責性ある者(例えば事例1における事故車の両運転者や事例2における梯子の管理不行届だったオーナー等)に対し、不法行為責任の追及をすることになるのは、上記アのCと同様。

なお、仲介契約締結後については、仲介手数料請求ができるか、を巡って次のような問題が生じる。
a 事故により(仲介業務が)履行不能の場合→危険負担の問題=原則どおり債務者主義→仲介手数料は請求できず。←内覧させた(あるいはさせようとした)だけで、売買や賃貸の契約成立への成果はほとんどないことから、当然と言えば当然。
 
b 事故によっても(仲介業務が)不能でない場合→(準)委任契約継続が原則→しかし、(準)委任者・受任者間の信頼関係破壊されていないか?
→破壊されていれば、契約は通常、終了するものと思われる。
→仲介手数料の全額の請求は不可。
→終了した時点までの仲介手数料だけでも請求できないか?
→ 一部不能の場合と同様に、一部だけ危険負担の問題に=原則どおり債務者主義→この場合もやはり(一部でも)仲介手数料は請求できない。←売買や賃貸の契約成立への成果は、やはりほとんどないと評価されることから、当然と言えば当然。
但し、終了時点までに要した経費は、請求できる余地はある。
←受任者の費用償還請求(民法650条1項)として。
また、(準)委任事務を処理するのに必要と認められる債務を仲介業者が負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求または債務が弁済期になければ相当の担保の提供を求めることもできる(同条2項)。
さらに、仲介業者が、(準)委任事務を処理するため、自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求できる(同条3項)。
→ 信頼関係が破壊されていなくても合意解除または委任者・受任者側からの解約申入れ(告知)は可能か?
→(準)委任契約である以上、合意解除はもちろん、一方または双方からの一方的解約申入れも可能(民法651条1項)。

但し、この一方的な解約申入れにより相手方に損害が発生した場合には、不可抗力の場合を除き、それを賠償すべき義務が認められる場合はある(同条2項)。
以上の、(準)委任契約に関する民法の定めと異なる定めを仲介契約書に入れておくことは不可能ではない。
しかし、仲介契約の拘束力を異常に高めたり、仲介業者にのみ一方的に有利な契約条項等にした場合には、公序良俗に反して無効とされたり、消費者契約法違反とされる可能性がある。
 

第3 各事例へのあてはめ

1 事例1について

各被害者の請求先と請求の根拠について

(1)  対Eに対して:不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)。

E車の運転者に過ぎないEに対する契約責任の追及は無理。
Eの車両が車検証上ローン会社の所有となっている点について
→自賠法上の「運行供用者」は必ずしも所有者でなくても、当該車両を使用している者であれば足りるから、車検証上の所有名義のいかんにかかわらず、Eが(上記不法行為責任の言わば特則である)自賠法上の責任を負うことは争いない。

むしろ、実務的には、Eは強制保険である自賠責保険こそ加入してはいた(仮に自賠責保険すら加入していない場合には、自賠責の無保険車により事故を起こされた被害者のための政府保障が存在する)が、自賠責法上は、保険金請求の上限額が定められてしまっている。

よって、自賠責の保障の範囲を超えて請求していくことを考える場合には、Eの資力等を十分に調査の上、訴訟等提起していくこと等の費用対効果を考えなければならない。
 

(2)  対Cに対して

仲介契約締結前と考えられるため、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)。A車を偶々運転したに過ぎないCに対する契約責任の追及は難しいものと考えられる。

但し、被害者とCとの関係が、上記のように特殊なものになっていた場合には、契約締結上の過失等が認められる可能性もゼロではない。この場合には、少なくとも不法行為責任の認否を巡って、Cの注意義務がより高度になる可能性は高い。
仮に、被害者とCとの間で仲介契約が締結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。

CはBと異なりオーナー側の仲介業者ではないことからすると、安全配慮を求められる義務の程度はB程ではないものとも考えられる。
しかし、偶々Bと交代していたにすぎないとは言え、現実に車を運転していたのはCであり、しかもCも曲りなりにもBと同じく仲介業者というプロである。

 よって、本件事例1の場合のCに求められる安全配慮義務は、Bに勝るとも劣らない程度のものであると考えられることも十分にあり得る。 

 

(3)  対Bに対して

仲介契約締結前と考えられるため、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)。A車の運転をCに交代してもらっていたとはいえ、それにより事故から生じる責任の一切を免責されるとは到底考えられない。

元々運転を交代した原因はBにあったことや、内覧物件の現地までは、オーナー側の仲介業者であるBは当然、C以上に危険個所等について知っておくべきだったとも評価できる。この点は、上記偶々運転したにすぎないC以上に責任が重いとの評価もありうる。
かつ、被害者とBとの関係が、上記のように特殊なものになっていた場合には、契約締結上の過失等が認められる可能性もある。Bはオーナー側の仲介業者であることからすれば、少なくとも不法行為責任の認否を巡って、Bの注意義務がより高度になる可能性は高い。

また、仮に、被害者とBとの間で(但し、通常は次の(4)記載のとおり、仲介契約の締結はAという会社との間であろう)仲介契約が締
結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。
 

(4)  対Aに対して

仲介契約締結前で、Bが上記のとおり(不法行為)責任を負う場合、その使用者であるAも責任を負う(民法715条1項)。B(及びA)がオーナー側の仲介業者である点に鑑みれば、この場合に、Aが、上記の「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」(同項但書)の証明をすることは難しいものと考えられる。

また、仮に、被害者とAとの間で(通常は仲介契約の締結はAという会社との間であろう)仲介契約が締結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。
なお、仲介契約締結の前後を問わず、Aが自賠法上の「運行供用者」として損害賠償責任を負う点は争いない。 
 

2 事例2について

(1)  対Qに対して

仲介契約締結前と考えられるため、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)。借主を紹介してきたに過ぎないQに対する契約責任の追及は難しいものと考えられる。
但し、被害者とQとの関係が、上記のように特殊なものになっていた場合には、契約締結上の過失等が認められる可能性もゼロではない。この場合には、少なくとも不法行為責任の認否を巡って、Qの注意義務がより高度になる可能性は高い。
仮に、被害者とQとの間で仲介契約が締結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。
 
QはPと異なりオーナー側の仲介業者ではないことからすると、安全配慮を求められる義務の程度はP程ではないものとも考えられる。しかも、事例1の場合とは異なり、Qが現実に車を運転していた、といった事情もない。
 
確かにQも曲りなりにもPと同じく仲介業者というプロである。しかし、客付業者側では、本件内覧物件の状況等については、十分に把握し切れないことも多いものと思われる。
よって、本件事例2の場合のQに求められる安全配慮義務は、通常はPに劣ることは明らかである。
例外はP(O)よりもQの方が内覧対象物件についてより詳しい場合など、極めて例外的な場合しかないものと思われる。
 

(2)   対Pに対して

仲介契約締結前と考えられるため、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)。
内覧物件の現地まで及び内覧物件自体の危険性等は、オーナー側の仲介業者であるPは当然、Q以上に危険個所等について知っておくべきだったと評価できる。この点は、客付業者側にすぎないQ以上に責任が重いと評価されるのが通常。
かつ、被害者とPとの関係が、上記のように特殊なものになっていた場合には、契約締結上の過失等が認められる可能性もある。Pはオーナー側の仲介業者であることからすれば、少なくとも不法行為責任の認否を巡って、Pの注意義務がより高度になる可能性は高い。
また、仮に、被害者とPとの間で(但し、通常は次の(3)記載のとおり、仲介契約の締結はOという会社との間であろう)仲介契約が締結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。
 

(3)   対Oに対して

仲介契約締結前で、Pが上記のとおり(不法行為)責任を負う場合、その使用者であるOも責任を負う(民法715条1項)。P(及びO)がオーナー側の仲介業者である点に鑑みれば、この場合に、Oが、上記の「使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、または相当の注意をしても損害が生ずべきであったとき」(同項但書)の証明をすることは難しいものと考えられる。
また、仮に、被害者とOとの間で(通常は仲介契約の締結はOという会社との間であろう)仲介契約が締結されていた場合には、同契約上の安全配慮義務違反として債務不履行責任の追及も考えられる。
 

(4)   参考判決例

 東京地裁平成16年(ワ)第16085号、平成16年(ワ)第19123号損害賠償請求事件(平成18年2月23日判決)(LLI/DB判例秘書登載)
(判示事項)被告Y1所有の土地建物について、内覧のため、この建物内に立ち入った原告が、地下2階部分にあった点検口内に転落して負傷した事故に関し、原告が被告に対し、不法行為に基づき損害賠償を求めた事案について、本件事故は、被告らの共同過失により発生したもので、被告らの共同不法行為が成立するとし、この事故の発生には、原告の過失も寄与しているとして、認定した損害額から、5割の過失相殺をした残額及び遅延損害金の限度で、請求を認容した事例
 (事案の概要)本件は、被告Y1がその所有する土地建物(以下「本件不動産」という)について、賃貸人側の業者として被告Y3に賃貸の仲介を依頼していたところ、賃借人側の仲介業者である被告Y2の従業員と共に、内覧のため、本件不動産のうちの建物(以下「本件建物」という)内に立ち入った原告が、地下2階部分にあった点検口内(以下「本件点検口」という)に落下して、傷害を負った事故(以下「本件事故」という)に関し、原告が被告Y1、被告Y2及び被告Y3に対し、不法行為に基づき損害賠償を請求した事案である。
→本件で言えば、事例2のO及びPが上記Y3、Qが上記Y2、物件のオーナー(事例2では出てきてはいないが)がY1にそれぞれ該当する。

(5)   工作物責任(民法717条)

事例2にアルファベット記号では特に出てきてはいないが、内覧した賃貸目的物件の現オーナーに対する責任追及として工作物責任も考え得る。
すなわち、事例2の物件の梯子の状態等が「土地の工作物の設置または保存に瑕疵がある」と認定された場合には、①工作物の占有者が②占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは所有者が、被害者へ損害の賠償をしなければならない(同条1項)。

オーナーが所有者からの賃借人で転貸しようとしていた等の場合には上記「占有者」に、オーナー自身が所有者の場合には上記「所有者」に、それぞれ該当する。
 

第4 事故やトラブルへの対処法全般について

1 証拠を保全しておくのが第一。まずは、事故現場等を写真撮影しておくべき。

撮影は詳細なほどよい。できればアナログのフィルム式カメラがよいが、デジタルでも高性能のものであれば、映りは問題ない。但し、デジタルの場合、改ざんが容易な分だけ、それを疑われる可能性は残る。
 

2 ちなみに、事例1ならば、衝突した車両は双方とも、できれば全方向から撮影しておくべき。

あと、現場に残されたブレーキ痕や車両以外に衝突した箇所なども撮影しておくことが望ましい。できれば、事故直後、車両がまだ衝突した状態のままを撮影できれば、なおよい。
 

3 事例2ならば、落下したり倒れた地点のコンクリート床、中2階の状況、
  梯子の設置状況等を極力細かく撮影しておくべき。

特に、梯子の設置状況と、中2階までの高さ等は、より判り易く撮影しておくと、後日、非常に貴重な資料となる可能性がある。

 

以上