底地と借地権をいっぺんに第三者に買い取ってもらうこと

第5 底地と借地権をいっぺんに第三者に買い取ってもらうこと

1 具体例

 
その1 借地人と地主が協力して,借地と底地を一緒に買い受けてくれる人を探す。その場合,仲介業者にお願いすることになる。
事前に,借地人と地主間で利益分配,手数料分配,解体費用を出すときは(更地として売却する場合)その費用負担などを決める必要がある。仲介業者を間にして話を取りまとめてもらうことも応じてくれる場合がある。
 
その2 不動産開発会社(いわゆるデベロッパーが開発する場合)が地主と借地人それぞれに個別に商談を持ちかけ底地と借地権を買い取る方法。
デベロッパーとしてはそれぞれについて有利な条件で購入しようとするため,底地の価格や借地権の価格について秘密にする傾向がある。それはほかの商談に情報が漏れると話がこじれてしまうことがあるからである。また,デベロッパー自体が秘密にされ一般の不動産業者が話を持ちかけてくることも多い。これは有名デベロッパーであると値段を吊り上げられてしまうことがあるので,それを避けるためである。

 

2 注意点

地主にせよ,借地人にせよ,底地の買い取りや借地権の買い取りの話を持ちかけられても,無下に断る必要はない。話次第では借地関係を終了させるよい機会となる可能性がある。
もっとも,契約内容については十分注意が必要である。
 
すなわち,底地を高く買うと言われても,借地権が購入出来なかったことを解除条件とされることがあるが,そうすると底地を売買契約したが,借地権の決裁がなかなかできずいつまでも底地の売買の決済もできず,宙ぶらりんの状況に置かれてしまうということがある。
 
また,地主が多数の土地を借地人に貸している場合に,すべての底地をいっぺんに譲渡できないと,虫食い状態の土地が残ってしまうような状況になりかねない。そうすると土地の価値が大幅に減少してしまう。
そこで,解除条件付きの契約などでは条件の吟味を十分して,期限を区切ることなどで対応するべきである。
逆に無条件の買い取りであったり,底地の移転登記と引き換えに金銭が支払われる契約の場合は,借地関係を消滅させるのに有効な場面と言える。

 

 

第6 借地を分割する等価交換

1 具体例

地主が借地を分筆し,一方の底地を借地権者に譲渡し,他方の借地権を地主が譲り受ける。
例えば100坪の土地について更地価格が5000万円だとした場合,借地権割合が60%だとすると,借地権者が有する価値は3000万円,底地の価値は2000万円である。
50対50で等価交換をすると,100坪の土地を60坪と40坪に分筆し,60坪分の底地を借地権者に譲渡し,40坪分の借地権を地主が譲り受ける。
そうすると,結局借地関係が解消され,底地権者と借地権者とで隣同士の土地の所有者となる。あとは所有権として譲渡ができるので借地人としても底地権者としてもメリットがある。

 

 

2等価交換の際の税制上の特例

所得税法58条,法人税法50条
土地や建物などの固定資産を同じ種類の固定資産と交換したときには,本来は一部譲渡をした以上,譲渡所得税,法人税が科せられるところだが,交換によって取得した財産を譲渡するまでは,課税が繰り延べられる。
注意すべきは税金が優遇されるのではなく,猶予されるにすぎないこと。
 
●要件
 
①交換により譲渡する資産および取得する財産は,商品など持ち続けることを前提とした固定資産でなければならない。従って,商品として譲渡するための土地や建物ではこの特例は使えない。
 
②交換する資産および取得する財産は互いに同じ種類でなければならない。
借地権と底地はともに土地という同じ種類とされている。
借地権と金との交換などはダメ。
 
③交換により譲渡する財産は,1年以上所有していたものであること。
 
④交換により取得する財産は,相手が1年以上所有していたものである必要がある。

⑤交換により取得する財産を譲渡する財産と同じ用途に使用すること。
 
⑥交換により取得する財産と,譲渡する財産との差額が,これらの財産のうち高い方の財産の20%以内であること。
(交換が完全に同じ価格ではなく,高い財産を譲渡したほうに他方から交換差金を授受することもあるが,その価格が上記20%以内なら等価交換の特例が使える。仮に20%を超える差金が生じる場合は,その超える部分は通常の売買と同じなので,等価交換の特例は使えないのが原則である)
 

第7 借地を分割しない等価交換

 
その1 借地人が借地権を地主に譲渡する代わりに,地主から地主がほかに所有している土地を譲り受ける方法。
その2 借地人が借地権を地主に譲渡する代わりに,地主から地主がほかに所有している借地権を譲り受ける方法。

 

 

第8 強制執行

●借地関係が終了したとしても,借地人が建物に居座って,出て行かない場合,借地人を追い出して,建物を解体し,更地の状態にして地主に引き渡す手続きが残されている。
 
●債務名義は(判決)建物収去土地明渡判決である。
ちなみに,借地人が建物に住んでいたとしても,上記判決とは別に建物退去の判決を得る必要はない。建物収去の強制執行を全うするために当然に建物退去をすることも予定されているからである。
 
●強制執行の申し立て(収去命令の申立)をする際に,代替執行費用支払の申立を裁判所にする。そうすると,裁判所から収去命令と共に代替執行費用の支払の命令も出される。
もっとも,借地人からその費用を取り立てることは事実上難しく,地主負担となることが多い。
 
●地主としては,代替執行の費用を借地人の代わりに立替え,解体業者を用意して,その解体業者が執行官の立ち会いのもと,解体する。
 
●解体した木材などは動産として執行費用などのために差し押さえて処分代金を回収することもできるし,無価値である場合は借地権者の同意なく破棄することもできる。

 

 

第9 まとめ

なるべく地主の視点から話をしてきましたが,借地人としても地主のことを知れば何に注意すべきかがわかるはず。
地主としては,できることはすべてするつもりで借地権者と交渉をすることが重要である。
結局,いい地主であり続けたいという気持ちは理解できるが,借地関係を終了するにはうるさい地主でなければならない。
賃料の増額も,借地権の譲渡承諾をしないこと,更新料を請求すること,増改築の承諾をむやみにしないこと,更新をする場合でもむやみに長い期間を定めないこと,などなど,こうしてみると大変なことばかりであるが,そのために専門家がいるのである。
一度,街の不動産屋さんや弁護士に相談してみることから始まることもあると思います。何もしないと,借地人の有利にことは進みます。

 

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投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
事務所概要
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