空き家対策の推進に関する特別措置法について

はじめに


従前の対応
これまでも、「空き家」で困るケースは多々あった


◇火事・倒壊や窃盗など、災害や犯罪の恐れが高くなるケース

◇いわゆる「ゴミ屋敷」のように近隣に多大な迷惑をかけるケース

このような場合に存在する、法律上の問題点には、以下のような点があった 

(1) 所有者が誰か確定できない場合

 (2) 所有者が「誰か」わかるが、連絡の取りようがない場合

 (3) 所有者はわかり連絡はつくが、所有の範囲や対象がわからない場合 

(1)所有者が誰か確定できない場合 


①行方不明者の場合

不在者財産管理人の選任を裁判所に申し立てる

ただし、「管理」をすべき者だけは確定する 
②生死が不明な者の場合


失踪宣告を裁判所に申し立てる。宣告が出されれば「死亡」と看做され相続開始 
③死亡は明らかな者の場合


戸籍等から死亡が明らかであれば相続開始 
cf.年齢だけ明らかな場合に、死亡と看做してくれるのか?

 →②の失踪宣告まで必要なのか
④相続人が不明な場合

相続財産管理人の選任を裁判所に申し立てる

「管理」をすべき者だけは確定する 

(2) 所有者が「誰か」は判るが、連絡の取りようがない場合

意思表示をする場合には、意思表示の公示送達(※)を、訴状を送るなら

訴状の公示送達(※)を活用する 

(3) 所有者は判り連絡は付くが、所有の範囲や対象が判らない場合

建物・土地の所有範囲はプロパーの問題である。


但し、「空き家」だと事実関係の確認が継続居住の場合に比べて圧倒的に難しいことから、

「占有継続」事実の有無(※)等の主張・立証が困難な場合もある
※「占有継続」事実の有無…所有権の時効取得の可否を巡って問題に。

  自身が所有者でないことを知っていれば(悪意)20年、知っていなければ(善意)10年間の占有継続で所有権を時効取得できる。

cf.共有物件の場合
一部共有者が判明している場合、その者だけできる行為(保存行為)なのか、共有者間の持分の過半数が必要な行為(管理行為)なのか、共有者全員の合意が必要な行為(処分行為)なのか、で解決法が異なる

従来の法律に基づく処理では解決までに時間・手間・費用を要することになる


そこで、もっと端的に「空き家」の現状(物理的状態)に着目した対処ができないか
という趣旨・目的から立法されたのが本特別措置法(以下では「本特措法」という)
但し、本特措法での行為主体は主に自治体を想定しているので、民間人同士の場面にどこまで活用の余地があるのかについては、
自治体の認定等行為の判断基準の定立及びそれに対する市民側からの働きかけ等、今後の事例の集積を待つほかない

1.立法の経緯と目的


●経緯
平成26年11月19日に成立
(平成26年11月27日法律第127号)

平成27年2月26日に施行
(後述の【立入調査権】【命令】関係等一部は5月26日)
(平成27年2月20日政令第50号)

●目的我が国の少子高齢化に伴い都市部、地方に関係なく「空き家」が増加している
特に、所有者が判らない、または判明した所有者が空き家を放置し続けるなど
適切に対処しないため、この「空き家」が最終的には朽廃・崩落の危険があったり、
人の気配がないことから放火や不法侵入の対象となるなど社会問題化してきた

これに対して、自治体が適切に対処できるよう、法的な裏付けをしたのが本特措法

2.関連法令等

重要なのは、特措法中で定義付けられる「特定空家等」と判断された場合に
「固定資産税等の住宅用地特例」の対象から除外することが
平成27年度税制改正大綱に明記されていること

住宅などの敷地として利用されている土地は固定資産税が課税標準額の6分の1~3分の1、
都市計画税が3分の1~3分の2に軽減される措置が従前からあるので、
特に地価が高い地域では、空き家かつ相当な古家になっても解体等せずに存続させてきた

要するに節税のためには「更地」にはしない、ということである
これは、問題のある「空き家」の存続を助長してきたことからの措置である。
後述のとおり、本特措法により、「特定空家等」に認定された場合には、
最も強硬な手段によると、最後は行政代執行により、問題空家は解体・除却されることになる。


しかし、このような強制除却にまで至らなくても、空家が存続する段階から、建物が存在しても上記の節税措置が使えないことになれば、少なくとも節税のために空家を存続させておく理由はなくなるので、任意での解体・除却から更地へとなっていくことが期待される。
しかも、更地となった上で(上記「特定空家等」の場合には更地となる前から)、固定資産税等に関する上記節税対策は使えないことになり、かつ、「空家」または「更地」ということで所有者は通常、物件からの賃料等の経済的利益も何ら得ることはない以上、これまでよりも、更地(もしくは上記「特定空家等」の場合には空家の建物付土地)を売却・処分しようと考える所有者が圧倒的に増えることが予想される。
これにより、特に、土地の供給がそれ程多くはない、現状では空家といえども、
建物が少なくとも一度は建築されているのであるから地価が高い優良な住宅地ほど、
比較的程度のよい土地の供給が進む可能性は高いものと思われる。

3.適用されるための要件

(1)本特措法上の「空家等」とは?
「建築物またはこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)をいう(同法2条1項)
但し、国または地方公共団体が所有し、または管理するものを除く(同項但書)
(2)同法上の「特定空家等」とは?
適切な管理が行われていない結果、地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼす
「特定空家等」とされるのは次のような状態に至っているものを指す(同条2項)

① そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

② または著しく衛生上有害となるおそれのある状態

③ 適切な管理が行われないことにより著しく景観を損なっている状態

④ その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると   
   認められる空家等

(3) 本特措法に併せて国土交通省と総務省により「空家等に関する施策を総合的かつ計画的に実施するための基本的な指針」(平成27年2月26日総務省告示・国土交通省告示第1号)を告示

年間を通して居住実態がないなど

「空き家」の判断基準や所有者特定のための具体的手段の事例を提示

一言で言えば「居住していないことが常態化している」のが空き家
具体的には…
居住していないことの基準:建築物の状況や管理の程度、人の出入りの有無、電気・ガス・水道の使用状況、所有者の登記や住民票の内容、所有者の主張等から客観的に判断される

所有者を特定する方法:不動産登記や住民票、戸籍謄本などの利用、固定資産課税台帳(従来は目的外使用として認められていなかったが必要な限度において利用できることになった)の利用も可能になった
特措法10条「固定資産税の課税のために利用する目的で保有する空家等の所有者に関する情報の内部利用について」
常態化の基準は、年間を通して使用されていないこと等から判断される
処分に悩む所有者からの相談や、近隣住民の苦情に応えられる仕組みの整備も提案した
3.適用されるための要件
4) 重要な判断基準については、
国からガイドライン(特定空家等の是正措置に関するガイドライン)が明らかにされている
cf.特措法14条14項「国土交通大臣及び総務大臣は、特定空家等に対する措置に関し、その適切な実施を図るために必要な指針を定めることができる。」同条15項「(同条の)前各項(=特定空家等に対する各措置)に定めるもののほか、特定空家等に対する措置に関し必要な事項は、国土交通省令・総務省令で定める。」
…ガイドライン上の主な判断の目安の具体例(同ガイドラインより)
例例1部材の破損や基礎の不同沈下等による建築物の著しい傾斜、基礎と土台の破損・変形・腐朽等、建築物の構造耐力上主要な部分の損傷、屋根や外壁等の脱落・飛散のおそれ、擁壁の老朽化等
ex.建物の傾きが20分の1を超える(高さ3mなら屋根のズレが横に15㎝を超える状態)、トタン屋根が落ちそう、ベランダが傾いている、などが見て判る etc.

例例2立木の腐朽・倒壊・枝折れ、立木が建物を覆うほど茂っている。道路にはみ出した枝が通行を妨げる etc. 
例3 建築物が破損し石綿が飛散する可能性、浄化槽の破損による臭気の発生、ゴミの放置や不法投棄による臭気の発生やネズミ、ハエ、蚊が発生し、近隣住民の日常生活に支障がある etc.
例4
 景観法に基づき策定した景観計画や都市計画に著しく適合しない状態になっている、屋根や外壁が外見上大きく傷んだり汚れたまま放置されている、多数の窓ガラスが割れたまま放置されている etc.
例5
 動物が棲み付くことによる周辺への影響、不特定の者が容易に侵入できる etc.
ex.土台にシロアリの被害があるetc.

4.適用された場合の効果
(1)空家等の所有者または管理者の責務
周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努める(同法3条)。
(2)市町村の責務
空家等対策計画(※1)の作成及びこれに基づく空家等に関する対策の実施その他の空家等に関する必要な措置を適切に講ずるよう努める(同法4条)
※1  市町村は、その区域内で空家等に関する対策を総合的かつ計画的に実施するため、基本指針に即して、空家等に関する対策についての計画(=空家等対策計画)を定めることができる(6条1項)
空家等対策計画では以下を定める(同条2項)
空家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空家等の種類その他の空家等に関する対策に関する基本的な方針
空家等の調査に関する事項









投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

事務所概要
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