借地権の譲渡におけるトラブルとは?地主の承諾が得られない時の対応方法を解説

建物所有を目的とする借地権は、重要な財産権として売買の対象になります。

しかし、借地権を第三者に譲渡するためには、地主の承諾が必要です。通常は、地主と借地人間で任意に交渉して借地権価格の1割程度の承諾料を地主に支払って承諾してもらいます。しかし、仮に承諾してもらえない場合には、裁判所に地主の承諾に代わる許可の裁判の申立てができます。

借地権の譲渡と転貸(また貸し)について、そもそも地主の承諾がいらない場合や、承諾が必要なのに地主が承諾してくれない場合の裁判所の手続等について、弁護士がここで説明します。

1.借地権の譲渡・転貸とは

(1) 地主の承諾が必要となる譲渡・転貸におけるポイント

借地権の譲渡とは、借地権者の地位を第三者に移すことです。借地権は借地上の建物に付随する(くっついている)ものなので、通常は、借地上の建物の所有権の移転とともに行われます。建物の所有名義を移転する(移転登記をする)こと自体には、地主の協力がいりません。建物の所有名義の移転により、借地権も移転したことになります。しかし、地主の承諾なしに借地権を譲渡すると、地主に借地契約を解除される可能性が高くなります。そのために、譲渡前に地主の承諾を得ておく必要があるのです。譲渡に似ているものに、借地権の転貸があります。転貸(てんたい)というのは「また貸し」のことで、借地権者が地主との関係をそのままにして、第三者に土地(自己の借地)を貸すことを言います。ただし、譲渡と同じように、借地上の建物の所有権の移転をする場合に限定されます(借地上の建物を貸すだけの場合は、借地の転貸ではありません)。つまり、建物の所有権は第三者に移転させるが、借地権は移転させないで又貸しするということです。この場合も、地主の承諾を取らないと、借地契約を解除される可能性が高くなり、解除された場合には、転借人とともに土地を地主に返さなければならなくなります。(*1) (*2)

このように譲渡にも転貸にも地主の承諾が必要です。地主が承諾してくれない場合には、裁判所が地主の承諾に代わる許可を出す制度があります。裁判所の許可決定があれば借地権の譲渡ができるため、借地権は取引の対象として市場価値をもつことになります。

(*1) 転貸は、転借人から地代を取る場合だけでなく、使用貸借(ただで貸すこと)も含みます。また、建物の所有名義全体を移す場合だけでなく、もとの借地権者との共有名義にする場合も転貸です。ただし、借地の転貸と言えるためには、借地上の建物の名義が転借人の名義(共有の場合は共有名義)となる必要があります。

(*2) 親族間(特に夫婦、親子)で、建物の名義を共有にすることは、それほど珍しくないのですが、それが転貸だという意識がなく、地主の承諾を得ていなかったということがありますので、注意する必要があります。なお、親族間の譲渡、転貸の場合、「背信行為」にまでは該たらない、として解除までは認められないこともありますが、解除が認められてしまうリスクもある以上、やはり、事前に地主の承諾を得るか、承諾に代わる裁判の申立をするべきです。

(2) 地主の承諾が不要な場合の注意点(注:借地上建物の賃貸)

借地上の建物を第三者に貸す場合、建物の登記名義は借地権者のままですが、建物が賃貸されると、建物の賃借人がその敷地も使うことになるので、借地権者以外の第三者が土地を使用することになるように一見、見えます。しかし、この場合は、借地権を譲渡や転貸したことにはなりません(前記のとおり、借地権の転貸は、借地上の建物の所有権を移転する場合のみをいいます。建物を貸す場合には建物の所有名義は変わらないので、借地権の譲渡や転貸とはならないのです)。そのため、地主の承諾も不要です。当然、承諾料を払う必要もありません( 最高裁昭和38年 2月21日判決) 。(*1) (*2)

(*1)通常の借地の契約では「建物所有目的」としか書いていないので、建物を第三者に貸すことができます。ただし、まれに、借地上に建てられる建物の種類や使用目的(用途)が契約書に書いてある場合があります。その内容によっては地主の承諾がないと第三者に貸すことができない場合もあります。例えば、「アパートとしての使用を禁じる」という場合です(この場合はアパートでなければいいので、一軒家をまるごと貸すことは許されることになります)。また、「土地の賃借人の住居として使用すること」という条項があるケースもあります。なお、このような場合には、借地契約の条件変更(契約条項の変更)を求めて、地主の承諾に代わる裁判所の許可を求めることができます。

(*2) その他、地主の承諾が不要な場合として、相続があります。相続で相続人の1人が借地を譲り受ける場合(遺言書がある場合や遺言書がなくて遺産分割する場合)、承諾は原則として不要です。また、借地権の持分譲渡・共有借地の分割や、離婚による財産分与で借地上の建物を譲る場合にも、承諾が不要であったり、承諾がなくても解除されない場合があります。

2.地主が承諾しない場合の対応方法(借地非訟)

(1) 地主の承諾に代わる裁判所の許可決定

借地権の譲渡・転貸の場合、あくまでも地主が承諾(もちろん、「承諾料」の金額についても「承諾」の対象には含まれます)しなければ譲渡はできません(無断で譲渡すれば借地契約を解除されるおそれがあります)。転貸も同様です。しかし、万が一、地主が承諾しない場合、裁判所が、地主の承諾に代わる許可決定をすることができます。これがあれば地主が承諾をしたことと同じことになります。借地権者は、裁判所にこの許可の申立てをすることができます。裁判手続としては「借地非訟」になります。借地非訟は、譲渡許可、転貸許可の他、建て替えの許可、非堅固建物所有目的から堅固建物所有目的への条件変更の許可などがあります。「非訟」というのは、訴訟ではない、という意味です。借地非訟は、一般傍聴はできませんが、ラウンド法廷のような場所で審尋という手続をします。

(2) 申立とその後に必要な手続

申立ては、申立書と資料を裁判所に提出します。申立書の様式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。一般の人でもできるようにとの配慮です。しかし、実際には、一般の人が自分で書くのは相当大変です。また、次に記載する手続上の問題もあるので、弁護士に相談した方がいいです。(*1)

申立書が受け付けられると、1か月半くらい後に期日が指定され、ラウンド法廷のような場所で、地主側と向き合って、審尋という手続をします(関係者以外の傍聴は認められません)。書面審査だけで決定が出ることはまずありません。この手続の中では、地主側が「介入権」の行使をすることもあります。また、時には地主が借地権の存在や、借地の境界を争う場合もあります。借地非訟を担当する裁判官は、借地権の存在や境界について、あくまでも(前提事項として)暫定的な判断をして、譲渡の許可、不許可の決定をします(最終的には、借地権の存否や境界は正式な普通の裁判(訴訟手続)で決まります)。暫定的な判断ですが、前提事項ではあるので、証拠資料も提出する必要があります。この点、裁判所が証拠を集めてくれるわけではなく、申立人側で証拠を提出する必要があることは他の手続(例えば人事訴訟手続)とも異なります。

また、ラウンド法廷のような場所での審尋手続が一通り完了すると、鑑定委員会が承諾料や介入権の金額を決めるために、現地で土地や建物の確認(現地調査)をします。そして、鑑定委員会の意見を待って、裁判官が承諾料や介入権の金額を決めます(地主から介入権の申立てがなければ、当たり前ですが介入権の金額は決めません)。

(*1) 仲介を依頼した大手不動産業者から「自分でできますよ」と言われて、不動産業者に相談しながらではありますが、自分で申立書を書いて裁判所に提出した方もいました。この方は、結局、その後の手続はできそうもない、ということで弁護士に相談し、依頼もしました。当事者本人が裁判所に提出済の申立書を弁護士が確認したら、その内容は「申立書」として到底使えるものではありませんでした。結局、全て書き直しました。裁判所が受け付けた以上、一応の要件は充たしていたのですが、相手方から指摘を受けると無駄に時間と手間を要するだろうと見込める内容でした。大手不動産業者でも扱い慣れていないと借地取引の経験がない社員が多いのが実情で、取引経験はあっても借地非訟の手続の詳細までは知らないのが当然です。

(3) 申立てにおける3つの要件

裁判所に申し立てをするのに、大事な点が3つあります。第1に、この申立は、必ず譲渡の前にしなければなりません。建物の移転登記または建物の引渡前なら申立は可能です。通常は、承諾があることを条件とする売買契約を締結する等した上で、許可の申立をします。(*1)

第2に、申立ての時に、譲渡の相手が決まっていなければなりません。どういう人に譲渡するのか分からないと、譲渡した場合に地主にとって問題があるのかどうか判断できないからです。よって、裁判所の許可をもらってから不動産仲介業者を通じて買主を探すということはできません(仲介業者を通じて予め借地権を買いたいという人を探し、買主が特定されてから裁判所に申立てをすることになります)。

第3に、裁判所に申立てをする場合には、借地上に建物が存在する必要があります。借地上に建物が建っていない場合に、借地権だけを譲渡したいので、許可してほしい、と裁判所に申立てることはできません。(*2) この点は借地の一部だけを譲渡する場合も同じです。建物が建っていない部分だけを譲渡したいと思っても、裁判所に許可の申立てをすることはできません。

なお、上記はあくまでも裁判所の許可を求める場合の話です。地主の承諾の内容には制限はありません。よって、予め地主の承諾をもらって不動産仲介業者を通じて売り出すことも可能です。また、借地上に建物がない場合でも、地主の承諾があれば、借地権のみを譲渡することもできます。

(*1) 裁判所の許可決定の前に、建物の引き渡しをしたり、建物の所有権移転登記をすることはできません。もししてしまうと解除されるおそれが生じます。そこで、地主の承諾もしくはそれに代わる裁判所の許可が確定したときに売買の効力が発生する契約書(これを停止条件付き売買契約といいます)を作成するのが実務上一般的です。他方、不動産業者が作った契約書の中で、契約書の締結でもって売買契約が成立したとして、裁判所の許可が得られなかった場合には、買主(譲受予定者)が契約を解除できるという内容のものもあります。その場合でも、引渡や移転登記をしていなければ一応、問題はありません。しかし、契約書には引渡の時期などが記載してあり、仮に契約書のとおりの引渡や登記の期限だとすると、裁判所の許可の前に引渡や移転登記をしなければならない場合もあり得ることになります。このような問題もあるので、契約書を締結する前に(結んだ後でも契約の変更が可能な場合もあります)、弁護士に、契約書の確認や、必要があれば修正をしてもらった方が無難です。

(*2) 建物の建替えをしようとして、地主が建替えの承諾をしたので、建物を取り壊しました。ところが、建替え資金の融資を受ける都合上(借地権者が高齢のため)、借地権者を同居の子どもにする必要が生じたのに、地主が譲渡の承諾をしてくれない、という事案がありました。この場合、建替え承諾があるので、建物が存在する場合と同様に裁判所が取り扱ってくれる可能性があるのかのように一見思えます。しかし、実務上もどちらとも言えません(法律の条文上はむしろ可能性はありません)。従いまして、借地上の建物を取り壊すことは非常に慎重に検討すべきです。

(4) 裁判所の許可基準

ア.原則は譲受人の資力と承諾料

裁判所の許可の基準ですが、裁判所は、第三者に譲渡しても地主に不利にならないと判断したとき(普通はそのように判断されます)、承諾料の支払いを条件に許可を出します。借地権譲渡の承諾料の相場は、一般的には、借地権価格(更地の60(住宅地等)~70%(商業地等)(=借地権割合))の10%とされています(譲渡代金の10%ではありません)。借地権価格は、裁判所が選んだ鑑定委員会の鑑定に基づいて決めます。借地権の譲渡を受ける者が、地代の支払い能力があるのかどうか、個人であれば収入の証明、法人であれば決算書などの提出を求められますが、借地権をわざわざ代金を支払って買おうとする個人や法人ですから、この点が問題になることは一般的には余り考えられません。

イ.借地期限が迫っているケースや建物が朽廃しているケース

許可が認められない場合とは、借地の期限が迫っている場合(期限まであと1年という時に申立てをする場合)や、建物が期間内に朽廃すると定められる場合(ただし、合意で期間を決めていなかった場合に限ります)です。このような場合には、地主に不利益になるということで許可されない場合があります。(*1)

(*1)借地権の譲渡は、借地権者が借地を使う必要がなくてお金に換えたい場合に行われます。それなのに、借地を使いたいという人に借地権が譲渡されてしまうと、地主がその土地を使う必要性があっても、借地契約の満了の時に更新拒絶が認められなくなる可能性があります。そこで、申立てが満期に近く、地主に借地を使う必要性があって、仮に現在の借地権者のままであれば、更新拒絶が認められると思われる場合には、譲渡許可が認められるべきではない場合があるとされています。

ウ.譲受人の借地における使用目的

借地を譲り受けようとする人の使用目的(計画)によっては、譲渡が認められない場合もあります。特に問題になるのは譲渡後の建替え予定です。譲渡した後で現在の建物を取り壊して新しい建物を建てることが予定されている場合に、地主の不利益になることが予想できる場合があります(*2)。例えば、建替えについての裁判所の許可の申立では、分譲マンションへの建築は認められない扱いになっています。譲渡承諾の許可のみを求めた場合でも、譲渡先が分譲マンション業者で譲渡後に分譲マンションを建てることを予定している場合には、譲渡許可決定までの段階(裁判所による審理の中)で、地主が不利益になることが予想されるため、譲渡許可の申立てが認められないことになります。 (*3)

(*2) 建替えは譲渡後ですから、本来は譲渡許可をもらい、その後で譲受人が建替えの許可を求めることになりますが、現在の借地権者が申立人になって、譲渡許可と建替え許可の2つの申立を同時にすることも許されています。無論、原則どおり、先に譲渡承諾の許可の申立てだけすることも可能です。

(*3) 地主側が譲渡承諾を求められた場合も、この点は注意する必要があります。譲渡先がマンション業者で分譲マンションを建てる予定だと知りながら譲渡承諾料をもらって譲渡承諾をしてしまうと、譲渡後に、マンション業者から建替えの申入れがあった場合に拒否するのが難しくなったりすることがあり得ます。

エ.借地の一部譲渡

借地の一部を譲渡することも認められます。ただし、この場合も、建物と一緒に借地権の一部を譲渡しないと、裁判所の許可を求めることはできません。一部譲渡というのは、借地上に複数の建物があり、そのうちの1棟と一緒に借地の一部を譲渡するような場合です。しかし、借地の一部を譲渡すると、地主が著しく不利になる場合があります。その場合には申立ては認められません。借地の一部譲渡をすると、譲渡されなかった部分と譲渡された部分が、別々の借地権者のものになり、借地が分割されます。このように分割された借地の一方が、建築基準法上、建物の再築ができなくなったり、借地の形が悪くなる(不整形地になる)場合があります。その結果、土地の価格が下がり、地主が著しい不利益を受けることになるため、申立てが却下される(許可を認めない)ことがあります(東京地裁昭和45年9月11日決定)。

(5) 許可決定とその後の手続とは

譲渡を認めるという決定は、地主からの即時抗告がなければ14日で確定します。決定は、確定後○○日以内に承諾料を支払うことを条件に許可する、という内容です。期間内に承諾料を支払えば交渉や和解等で解決する場合には、通常は地主側から振込先等の指定があります。しかし、この指定がない場合でも、( 地代の振込先口座などに送金すれば足ります。最悪、供託する方法もあります)借地権の譲渡ができます。なお、借地権者と(買主)との関係ですが、承諾があったら売買が成立するという内容の(承諾を停止条件とする)譲渡(売買)契約を結ぶのが普通です(この契約書も、申立てのときに裁判所に提出します)。このため、確定した後、承諾料を支払い、売買契約を決済します。そして、建物の登記名義を買主に移します(所有権移転登記)。借地権は通常は登記されていない(例外:賃借権や地上権の登記)ので登記手続はしません。しかし、建物の登記が移転すれば、借地権も移転したとみなされ、第三者にも対抗できます。許可決定に対して、地主側は、決定から14日以内に即時抗告(通常の裁判手続における控訴のようなものです)ができます。それから14日以内に抗告の理由書を提出し、今度は、高等裁判所が審理をします。審理と言っても、1からやり直すわけではないので、借地権者側及び地主側が反論の書面を提出するなどします。高裁が地裁の決定に問題がない(即時抗告に理由がない)と判断すると、即時抗告棄却の決定を出します。これで、許可の決定は確定します(最高裁に抗告しても確定はストップしません)。

(6) 手続に要する時間

申立をしてから、決定まで平均8か月要するとされています。平均8か月といいますが、8か月はほぼ必要だと思った方が無難です。大した問題もないのに1年以上を要することもあります。時間を要する原因の1つは、裁判所が鑑定をするからです(承諾料を決めるためです。なお、ここでも鑑定費用は国が負担するので申立人の負担にはなりません)。裁判所の許可は、特定の買い主に対して譲渡することの許可なので、その買主が、許可決定までに時間を要し過ぎて契約の解消を求めることがあり得ます。仮に解消ともなれば、折角決定をもらっても無駄になります。上記のとおり時間を要することは予め買主に説明して納得しておいてもらう必要があります。

例外的に早く終わる場合として、申立後の早い段階で、申立人(借地権者)と地主側とで和解(裁判上での和解)をして解消させる場合があります。これは、譲渡自体は地主も異論がないのに、承諾料の金額(その前提になる更地の価格等)に争いがあるようなときに、裁判官が鑑定に付す前に、承諾料について諸資料等に基づいて相応の和解案を提示して解決させる場合です。鑑定委員会の意見まで出ないと双方納得しないケースが多いですが、東京地裁や横浜地裁の借地非訟特別部または係の裁判官からの和解案の場合には、当事者も納得しやすいと言えます。ただし、急いでいるのは借地権者からですから、ある程度、借地権者側で譲歩すること、すなわち、「承諾料」についてはある程度(場合によっては相場額+α)支払うことを求められるとともに、申立後比較的早い段階で地主が弁護士に依頼して、この弁護士が地主に対してする説明等を信頼していることなどの条件が必要です。当事者が感情的になって紛争となっているような場合には難しいです。また、和解は双方が納得して譲歩し合わないと成立しない(和解の要件の「互譲」といいます)ので、一方的に有利な内容で和解をしたいと思っても成立は無理です。

3. 買主が負うリスク(借地権者が地主の承諾を得ること等へ協力しない場合・地主の介入権)

(1) 売主(借地権者)が承諾を得ようと積極的に動かない場合

借地権者から借地とその上の建物を買おうという人は、借地権者を売主として譲渡(売買)契約をします。通常は、地主の承諾や裁判所の許可を停止条件として、借地上の建物を借地権と一緒に売買する、という条件付きの売買契約となります。ところが、売買契約を結んだのに、借地権者が積極的に動かないということがあり得ます。通常の土地の売買契約の場合(借地ではなく土地所有権の売買契約の場合)には、買主は、代金を提供さえすれば、最終的には裁判で強制的に土地の引渡と所有権移転登記を求めることができます。ところが、借地の場合には、建物の引渡やその移転登記を同様に求めることはできますが、地主の承諾がないと、そもそも譲渡(売買)契約の効力は生じないし、仮にこれの効力が生じたとしても、借地権の譲受人(買主)は、地主側から借地契約を解除されてしまいます。問題になるのは、地主の承諾に代わる裁判所の許可申立てを行える者は誰か、という点です。仮に借地権者が消極的でも、むしろ買主が積極的に地主と話をして地主が承諾してくれるのなら、借地権を譲り受けても地主から解除されることはありません。

しかし、地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立ては、借地権者しかできません。すなわち、買主は申立てができません。ちなみに、民法423条に「債権者代位権」という規定があり、権利のある人(債権者)は、義務のある人に代わって、法律上の行為ができることになっています。しかし、地主の承諾に代わる裁判所の許可申立については、買主が債権者代位権を行使して、借地権者に代わって申立てすることは現在までのところ認められていません。また、強制執行の手段として、間接強制という手段(義務を履行するまでの間、お金を支払わせることで、義務の履行を強制する手続)がありますが、地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てのようなものは、そもそも借地非訟の申立てという裁判に準じた手続ですから、申立てをする気のない人に強制することはできません(地主と借地人間の継続的契約関係にある当事者間での手続の特性からすると、下手をすれば「思想・良心の自由」侵害ともなりかねません)。

つまり、買主が代わりに申立てをすることも、申立てをするように売主に対して強制することもできません。このため、売買契約をする時に、借地権者が地主の承諾に代わる裁判所の許可の申立てをしない場合には、単に「白紙解約」できることにしておくだけでなく、それなりの額の違約金を売主に払わせることにしておく必要があります。

(2) 地主の介入権

ア.介入権とは

地主には介入権という権利があります。地主の介入権とは、借地権者から裁判所に対して「地主の承諾に代わる借地権の譲渡許可の申立」があった場合、地主が、裁判所に「自分が借地権を買い取りたい」という申し入れができるという権利です。正確には、借地権と借地上の建物の買取になります。買取価格は、裁判所が鑑定に基づいて決めます(借地については鑑定で決まった借地権価格の9割程度が原則です)。介入権の行使が認められると、買主は、借地(=建物+借地権)の買い取りができなくなります。借地権者にしてみれば、本来は買主(譲受人)に譲渡したかったとは言うものの、結局は誰がお金を出そうが、借地がお金に変わるので文句はない、ということになります。但し、借地を買い取ることができなくなった買主から、無用なクレームをつけられないよう、譲渡契約書には、(介入権を行使された場合も含めて)地主が譲渡を承諾してくれなかった場合の清算条項等を入れておくべきです。

イ.介入権が認められないケース

地主の介入権が認められない場合があります。1つは、借地権者と買受予定者が特殊な関係にある場合です。例えば、同居している親子間で自宅の敷地の借地権を譲渡するような場合、地主の承諾がなくても背信行為ではない(=信頼関係の破壊がない)、ので地主からの解除が認められない可能性があります。このような場合でも後でトラブルになるのを避けるために、譲渡前に地主の承諾に代わる裁判所の許可を求める場合があります。この場合は、親が子に自宅を譲りたいという目的がある上に、そもそも地主とのトラブルを未然に防止するために申立てをしたのに、却って地主に介入権が認められれば、借地を取り上げることになってしまい大変気の毒です。このため、このようなケースでは、介入権は認められません。もう一つ介入権が認められない例として、借地上の建物が跨がり(またがり)建物の場合があります。跨がり建物というのは、所有者の異なる2つの土地の上に1つの建物が建っている状態のものをいいます。例えば、地主の所有する土地と、借地権者が自分で所有している土地が接していて、その2つの土地の上に借地権者が1つの建物を所有しているような場合です。跨がり建物について、介入権を行使した建物全体の買取請求(借地上の建物部分だけでなく、越境している部分を含めた建物全体の買取請求)はそもそも認められないとされています(最高裁平成19年12月 4日決定)。借地上の建物以外の部分について、当然ですが、裁判所には処分を命じる権限がない(=借地上の建物部分にしか介入権は及ばない)、というのがその理由です。

では、借地上の部分だけ(建物の一部だけ)についてはどうでしょうか。理論上は一棟の建物を切り取ることになります。物理的に不可能な場合は勿論認められません。また仮に、物理的に可能な場合でも、裁判所が、上記「一部」の範囲や切断の方法を特定して命じることは不可能または著しく困難です。従って、現在の借地非訟実務では、認められないとされています。しかし、借地上部分とそれ以外とが区分できる形の建物区分所有だったら可能ではないかという意見もあります。

以上のように、原則として跨がり建物の場合は、介入権行使はできません。但し、介入権が認められないことで地主の不利益が大きすぎる場合(例えば、買主の素性が極めて悪い場合でも、上記に掲げた「介入権までは認めることは出来ない場合」など)には、譲渡許可そのものが認められないこともあるとされています。

4.建物を子供の名義で建替えたい

親子で借地上の建物に同居している場合、建物が古くなって建て替えを考えることがあります。親が建物の名義人で、借地権者の場合ですが、この親が高齢の場合、建物の建替え費用を銀行から借りようとしても、高齢等を理由に貸してもらえない場合があります。そのため、仕事を持っている子供(成人です)の名義(または、いわゆる「親子ローン」)で銀行から借り入れをして、建替えをしようと考える人は多くいます。但し、他に担保になるものがあればともかく、借地権を担保にする場合、銀行は、新しく建てる建物の名義が子供(または親子の共有)でないと、子供の名義(または親子の各名義)でもお金を貸してくれません 。

そこで、地主との間で、3つの問題が起こります。1つめは、建物の建て替えの承諾、2つめは、借地権の譲渡の承諾(親から子に借地権(またはその準共有持分)を譲渡することになります。同居している場合には、単なる名義変更であり(信頼関係を破壊しない)とされる場合もありますが、譲渡に伴って建替えをする場合は、承諾が必要と思った方がいいです)、3つめは、建物(及び借地権)に抵当権を付けることの承諾です(法律上は必ずしも必要ではないとする解釈も不可能ではありませんが、銀行は地主の承諾書がないとそもそもお金を貸してくれません。親が亡くなった場合に子が家(建物)を相続することが確実な場合(両親のうち一人がすでに亡くなり、子に兄弟がいないような場合)に親の生前に譲渡するような場合は、親から子への譲渡の承諾料は、通常の相場(借地権価格の1割)の3割~5割程度に減額される場合もあります(そのような報告例もあります。事案によって上記の金額の範囲内で調整しているようです)。抵当権の設定については、建替えや譲渡の承諾料と合わせて、地主と交渉することになります。

ところが、このケースで大きな問題になったのが税金です。同居している親子の間では、借地は2人のものと考えがちです。ところが、税務上ではそうはいきません。 ただで借地権を譲渡(=生前贈与)すれば、贈与税がかかります。借地権も財産的価値が相当高額と認定・評価される事案も近年増えています。承諾料を払って、銀行から借金して、その上、贈与税まで払うことになると、借地人(親)ないし借地権譲受人(子)側が予算的に無理という判断になることも多いです。

なお、上記のケースの時には、制度がなかったのかも知れませんが、借地権者が65歳以上で、20歳以上の子や孫に対して借地権の贈与を行う場合(孫は代襲相続人など法定相続人である必要はありません)、贈与の時には贈与税が課せられず、贈与した時の借地権者(=贈与者)が亡くなった時に相続税(贈与税よりは税率は低くなります)で処理できる制度(相続時精算課税制度)が使えます。但し、贈与した翌年(の3月15日まで)に申告が必要ですし、その他の財産状況などによっては相続税の負担は過大になる可能性もあるため、生前贈与時に贈与税を負担してしまった方が無難な場合もあります。このような税務上のことは、是非、税理士にご相談下さい。当事務所の顧問税理士にも、相続税や贈与税などの資産税に強い専門家がいるため、心強いです。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。

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