不動産取引での重要事項説明書の活用を弁護士が解説

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第1 重要事項説明義務について

1 (宅建業者の)重要事項説明義務とは?

宅建業者(売主業者、代理業者、仲介業者)は、買主に対し、取得しようとしている宅地建物に関し、その売買契約が成立するまでの間に宅地建物取引士(旧宅地建物取引主任者)をして、少なくとも宅建業法35条1項1号から14号に掲げる事項(法定重説事項※1)を記載した書面(=重要事項説明書)を交付して説明させなければならない。

※1 法定重説事項

「少なくとも~」との文言及び規制の趣旨→限定列挙でなく例示列挙(裁判例①②)。

【重要事項】

買主にとって当該契約を締結するか否かの判断または意思決定のために重大な影響を及ぼすもの。→宅建業者以外の(※2)買主に対しては(※3)等しく説明しなければならない。

※2 宅建業者以外

重要事項説明の対象となる買主には宅建業者も含まれるが、平成28年の宅建業法改正により、宅建業者である買主に対しては、重要事項説明書の交付はこれまでどおり義務だが、説明は省略可能に(改正法35条6項。平成29年4月1日施行)。

※3 宅建業者自らが賃貸人として賃貸業を営んでも賃借人に対し重要事項説明書の交付・説明義務、37条書面の交付義務は負わない。←賃貸人が宅地建物を賃貸する行為は、宅建業法2条2号にいう「宅地建物取引業」に該当しないから、賃貸業は宅建業法による業務規制の対象ではないため。

☆買主から売買仲介の委託を受けているかどうかにかかわらず買主に対し重要事項の説明義務を負う。→売主から売却仲介を受託した仲介業者も、買主に対し重要事項説明義務を負う。但し、実務上は買主だけでなく売主に対しても重要事項説明書の交付・説明がなされている。

故意による重要な事実の不告知・不実告知の禁止との違い

宅建業法47条1号=宅建業者が、業務に関し、故意に重要な事項を告げず、不実の事項を告げることを禁止し、違反したときは業務停止処分の対象に止まらず、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処せられ、またはこれを併科される(法65条2項2号、79条の2)。

対象:「宅建業者の相手方等」であり、売主・賃貸人を含むので法35条の対象よりも広い。

時期:法35条のように売買等契約締結前に限らず、契約締結後に宅建業者が知った重要な事実の不告知・不実告知も禁止する。←47条1号A「(売買など)契約の締結について勧誘するに際して」B「(売買などの)契約の申込の撤回もしくは解除を妨げるため」C「宅地建物取引業に関する取引により生じた債権の行使を妨げるため」

事項:「宅地若しくは建物の所在、規模、形質、現在若しくは将来の利用の制限、環境、交通等の利便、代金、借賃等の対価の額若しくは支払い方法その他の取引条件又は当該宅建業者若しくは取引の関係者の資力若しくは信用に関する事項であって、宅建業者の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなるもの」(法47条1号イないしニ中、特にニ)

2 重要事項説明義務違反の効果

宅建業法

宅建業者の業務を規制対象とする事業者規制法(公法)であって、宅建業者とその取引の相手方(買主・借主、委託者等)との売買・賃貸借契約や仲介契約について直接規律するもの(私法)ではない。→宅建業者は、宅建業法の義務規定や禁止規定を遵守して適正に宅地建物取引業を行うべき。→そこで次の(2)へ。

宅建法上の重要事項説明義務も、(私法上は)(例えば仲介契約において)信義則上負うべき附随義務の一環→売主業者の買主に対する業務上の注意義務、仲介業者の委託者に対する説明義務などの善管注意義務、仲介業者の第三者に対する業務上の注意義務の内容の検討材料に、宅建業法31条、35条、47条1号等が定める義務や禁止事項が判断基準の一つとなる。→宅建業者の民事上の注意義務違反を根拠付ける指標に(cf.裁判例③)。 

3 (重要事項等)説明義務の類型

基本事項

  •  取引物件の所有者(取引当事者の同一性)、代理権限、売買・賃貸借等の処分権限を有するか等権原に関する事項
  •  取引物件の同一性に関する事項
  •  取引物件に設定された抵当権等の有無に関する事項
  •  取引物件の法令上の制限に関する事項

個別(確認)事項

A:売買取引の経過事実、売買契約書・重要事項説明書、物件資料等に照らし、買主がどのような目的で不動産を買い受けたか(購入目的)

B:仲介業者が買主の購入目的、購入後の利用形態等を認識していたか

C:買主は、いつ、どのようなきっかけで取引物件を知ったのか

D:買主は、誰から、どのような物件資料を受け取ったか

E:現場案内した仲介業者の担当者は誰か、宅地建物取引士か

F:重要事項説明書はいつ受け取ったのか、同説明書に補足資料として全部事項証明書(いわゆる旧「登記簿謄本類」が添付されていたか

G:重要事項説明をした宅地建物取引士と現地案内した営業担当者とは同じか、違う場合には意思疎通はきちんと出来ていたか

H:取引物件の現況は居住用建物か事業用物件か

I:事業用物件の場合、その建物は何に利用されていたか

  • 取引物件・権利関係に関する説明義務

宅建業法

仲介業者が買主に説明すべき重要事項を指す。

売買の目的物である「当該宅地又は建物の上に存する登記された権利の種類及び内容並びに登記名義人又は登記簿の表題部に記録された所有者の氏名(法人にあっては、その名称)」(1号)

  • 「登記された権利の種類」=所有権、抵当権等の他、仮登記、仮処分、差押等
    • 「権利の内容」=登記目的、登記受付年月日、登記原因等
      • 調査方法:登記所で全部事項証明書(建物登記簿謄本等)を入手等→「甲区」欄に誰が所有者として登記されているか、差押・仮処分・仮差押等の登記がなされていないか、「乙区」欄に抵当権等の登記が設定されていないかを事前に調査→その結果を重要事項説明書の「登記記録に記録された事項」欄の「所有権に係る権利に関する事項」、「所有権以外の権利に関する事項」に記載し買主に説明する。
      • 調査時期:最新(極力、重・説作成日の当日。なお、決済前の調査として、契約日及び決済の当日にも確認するべき)の全部事項証明書を入手→取引物件の権利関係を調査する→調査を怠り権利関係の変動を看過すると仲介業者の調査義務違反となる(裁判例④)。
  • 法令上の制限に関する説明義務

宅建業者(売主業者、代理業者、仲介業者)が「都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限で……政令で定めるものに関する事項の概要」、政令である施行令3条1項各号に掲げる都市計画法、建築基準法等の法令上の制限について調査し、その結果を買主に対し説明すべき義務を定める(2号)。=これらは例示であり限定列挙ではない。→宅建業者は、買主の購入目的に支障があるとか利用目的を達成できないような建築制限、土地利用制限等の法令上の制限がないかどうかを調査し、その結果を買主に適切に説明しなければならない(裁判例⑤)。

調査の対象

  • 法律だけでなく政令=例えば建築基準法施行令等
    • 建築基準法40条に基づく条例=例えばがけ条例のような委任条例
    • 宅地開発行政の分野における開発指導要綱等の行政指導をも含む。
      • 調査方法:関係法令に関する事務を所掌する市役所、都道府県庁、土木事務所等に出向いて問い合わせ、照会することにより法令上の制限やその制限内容に関する情報を容易に入手することができる。
      • 法令上の制限に関する裁判例:宅建業法施行令3条1項各号に掲げられていない法律の規定について、宅建業者が調査・説明義務を負うとしたものがある(裁判例⑥ないし⑬)。
      • 用途変更手続の要否に関する説明義務

用途変更手続に関する建築基準法87条1項(6条1項準用)は、上記の宅建業法施行令3条1項2号には掲げられていないが、上記のとおり宅建業法35条は例示列挙→同法施行令に掲げられている事項もまた例示列挙→同法35条1項2号や施行令3条1項2号は建築基準法87条1項、6条1項の規定を説明すべき事項から殊更除外するものではない&用途変更に関する建築規制を受けることについて、仲介業者から事前に説明を受けていれば、買主は、当該不動産の購入を断念したか、売買価格の減額を求めるだろうから、用途変更に関する建築規制の存在やその内容は買主が売買契約を締結するか否かの判断や意思決定に影響を及ぼす重要事項に該たる。→用途変更手続に関する規定は、宅建業者が買主に対し説明すべき「法令に基づく制限」に含まれる。⇒仲介業者は、買主が従前「事務所・倉庫」として利用されていた建物を店舗に利用する目的で買い受けることを認識しているときは市役所の建築指導課等の所轄機関に問い合せて

A:用途変更に当たるかどうか

B:用途変更手続きが必要かどうか、を確認し、

C:用途変更手続のためには用途変更工事が必要になること、について買主に適切に説明すべき(※)。

※但し、仲介業者は宅地建物取引の専門家ではあっても、建築に関する専門家ではない。→買主に対し、どの程度の費用を要するかについて具体的に説明することまではもちろん不要。「用途変更手続に伴う工事」については、買主が建設業者や建築士等に相談して、不動産を買い受けるか否かの判断を検討するように促す等の助言をすべき。→このような助言があれば、買主は建設業者、建築士等に相談して、どの程度の規模の店舗に用途変更するのか、どのような規模の用途変更工事が必要となるのか、その費用はどの位かについて具体的に検討を行う機会を得ることが可能に。→買主は検討の結果、用途変更手続の要否、用途変更工事の内容・規模・費用等を考慮して、本件建物の購入を断念するという判断も可能に。

Cf.賃貸の仲介において、賃借人の利用目的を仲介業者が認識し、その目的を達成するには建築基準法上の用途変更の確認申請が必要なのに、これを買主に説明しなかった仲介業者について説明義務違反による損害賠償責任を認めた例がある(裁判例⑭)。

  • 瑕疵に関する説明義務

瑕疵の存在についての調査・説明義務

瑕疵の存在=買主にとって当該売買契約を締結するか否かの判断や意思決定に影響を与える事項に該たる。

仲介業者は、売買の目的物について現地見分するにあたり、通常の注意をもって現状を目視により観察し、その範囲で買主に説明すれば足り、これを超えて瑕疵の存否や内容についてまで調査・説明すべき義務を負わない(千葉地裁松戸支判平成6年8月25日判時1543号149頁、大阪高判平成7年11月21日判タ915号118頁等)

←仲介業者は建築士・不動産鑑定士と異なり、取引物件の物的状態の調査・検査能力や鑑定能力を備えている訳ではないから(大阪地判平成20年5月20日判タ1291号279頁)。⇔仲介業者が取引物件における瑕疵の存在を認識したり、瑕疵の存在の可能性を推認できるような事実を認識していれば、瑕疵の存在またはその可能性について説明する義務を負う。

←買主にとって契約締結に影響を与える重要な事実に該当するため。また、仲介業者が瑕疵の存在を認識しながら、これを買主に告げなかった場合、宅建業法47条1号ニの「故意に事実を告げず」に該当する。

→買主から具体的に瑕疵の存否について質問や問い合わせがあった事項については、仲介業者は速やかに売主に照会等をして、その結果を買主に報告・説明すべき義務を負う。⇔例えば上記照会の際に、仮に売主が事実に反した内容を回答したとしても、仲介業者において特に疑念を抱くものでない限り、買主にそのまま報告すれば足りる。

物件状況等報告書による報告

宅建業法35条=瑕疵の存否について重要事項説明義務の対象事項とはしていない。 ⇔瑕疵に関する紛争が多いことに鑑み、取引実務では、売主が「物件状況等報告書」 を売買契約時に買主に交付する。同報告書には、売買の目的物の瑕疵やその近隣での 自殺・殺傷事件等の心理的影響があると思われる事実を記載すべき欄がある。

→仲介 業者が買主から事故物件ではないかどうかとの質問や照会を受けた場合、売主に対し、 買主の質問を伝達し、売主の回答をそのまま買主に報告すべき義務を負う。

⇔例えば、 上記質問や照会の有無に関わらず、売主が事実に反した内容を記載し買主に提出した 場合、特段の事情(上記同様「仲介業者において特に疑念を抱くもの」)がない限り、 仲介業者はこれを再調査・確認すべき義務を負うものではない。

電気設備・消防用設備に関する調査・説明義務

宅建業法35条1項は、飲用水、電気及びガスの供給並びに給水施設の整備状況を説明すべき事項とする(4号)。事業用建物の売買仲介において、電気設備・消防用設備に関する仲介業者の調査・説明義務の有無が争点となった事案あり(裁判例⑮)。

瑕疵に関する裁判例

  • 仲介業者が瑕疵の存在を認識している場合→これを買主に説明すべき義務を負い、履行しなければ、瑕疵についての調査・説明義務違反を認められる(裁判例⑯⑱⑲)。
  • 仲介業者が通常の注意を払えば認識できた場合にこれを怠った場合→調査・説明義務違反を認められる(裁判例⑰⑱⑲)。
  • 事故物件に関する説明義務

売買の目的物が自殺・殺人等の事件・事故の現場となった履歴があること=一般に嫌悪すべき歴史的背景等に起因する心理的瑕疵に該たる。

→買主が売買の目的物を買い受ける契約を締結するかどうかの判断や意思決定に影響を及ぼす重要事項に該たる。

→仲介業者は、売主から自殺の事実を告げられたり、物件調査に際して当該物件の周辺に居住する者から自殺の事実を聞かされたときは、売主にこれを確認して買主に説明すべき義務を負う。

⇔一般的に仲介契約について「事故物件性のない物件の契約成立に尽力する合意が前提として含まれている」とまでは言えない。=仲介業者の調査・説明義務は仲介業者が瑕疵の存在を認識し、または認識できる場合に限定すべき

←仲介業者が売主に対し事件や事故の有無を照会するとしても、売主が取得した以前の所有者まで遡って仲介業者に調査義務を負わせるのは調査の困難性やプライバシーに関わることだけに酷に過ぎる←(理由)A心理的瑕疵は目視で把握できるものではない。

(理由)B「事故物件性」といっても物質的瑕疵と異なり多種多様であり、主観的な要素も強く、かつ時の経過や所有者の変転を経て「事故物件性」が薄れていくという特殊性がある。

(理由)C仲介業者は、取引物件の瑕疵の存否を調査する能力も調査のための法的な手段も確保されておらず、心理的瑕疵は過去に発生した事件や事故に関する事項であることから当該物件の現地確認・調査では瑕疵の存否が判らないものがほとんどであり「事故物件性が疑われる事情の有無を問わず」調査義務を課す根拠はない。

心理的瑕疵について仲介業者の説明義務違反を認めた裁判例(裁判例㉑、㉒、㉓(※1))

同否定した裁判例(裁判例⑳(※2))、東京地判平成18年7月27日WL、東京地判平成22年3月8日WL、東京地判平成26年8月7日WL)

※1 「売買契約締結後、残代金支払義務の履行期までに契約の効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実を認識した場合には、履行期までに買主等にこれを説明すべき義務を負う」旨を判示。

※2 「売買の目的物の現況が更地(青空駐車場等)であった場合、仲介業者は以前に解体された建物が事故物件かどうかまで調査する義務は負わない」旨を判示。

仲介業者から事情聴取する場合の注意点

① どのような経緯で仲介取引に関与したか

② 売主・仲介業者から現地案内を受けたか、その時の様子(空き家かどうか)、売主・仲介業者からどのような説明を受けたか

  • 買主はどのような目的で購入しようとしたのか
  • 事前に売主または仲介業者に事故や事件の有無を質問したか、これに対する売主の反応や回答(どのように説明したか、言わなかったか等)
  • 売主に物件状況等報告書の作成を依頼したか、自殺等の有無の記載は誰がどのような表現で記載したか(売主が自ら作成したのか、仲介業者が代わって作成したのであればなぜか)、売買契約締結時に記載内容を売主に直接確認したか

⑥  いつ、どのような経緯で、誰から事故や事件があったことを知らされたのか

⑦  仲介業者が売主や売主側の仲介業者に事故物件であるかを問い合わせたときに売主は事故や事件があったことを知っていたのか

⑧事故物件であることが判明した後、売主と仲介業者は事前に事故事件であることを告げなかった理由をどのように説明したか

宅建業者の秘密保持義務との関係について

宅建業者は、正当な理由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない(宅建業法45条=秘密保持義務)。

→心理的瑕疵に関する事項は、家族の自殺や殺人事件等、売主が他者に知られたくない事項であることが多い→この秘密保持義務と宅建業者の説明義務・不実不告知等(同法35条、47条1号)との関係が問題に。

⇔自殺や殺人事件があった事実が目的物の「心理的瑕疵」に該たることは確定された裁判例

→仲介業者が上記のような事実を売主から打ち明けられた場合には、当該事実を伏せたまま売買することは、仮に瑕疵担保免責条項が設けられていた(中古物件等の)売買等だったとしても、「知りながら告げなかった事実」(民法572条)として、免責されないことを売主に説明し、事故物件であることを開示した上で売却することを助言すべき

→売主が上記のような事実を他者に知られたくないと望んでいるからといって、仲介業者が買主にこれを告げずに売買契約を締結させることは、後日、買主が売主に対し瑕疵担責任に基づく損害賠償請求をしたり解除を主張して争ってくることが十分に予測され、却って依頼者である売主の利益を損なうことになる。⇒売主と仲介業者は、買主に対し「説明義務違反」という共通の義務違反に基づいて損害を与えることから、売主と仲介業者の各損害賠償義務は不真正連帯債務の関係に立つ。かつ、仲介業者の行為は、宅建業法47条1項に定める「故意に事実を告げず」に該当する→刑事責任の追及もあり得る!!

  • 仲介業者の((買主等の)委託者等に対する)助言義務

その業務に関する専門性が高いことから、仲介業者は、売主または買主から売却または購入の仲介の依頼を受けた場合、仲介契約の本旨に従い、善良な管理者としての注意義務を負い、委託者が不測の損害を被らないように取引に関して適切な助言、指導をすべき義務を負う。

→特に、買主が売買契約を締結するか否かの判断や意思決定に影響を及ぼす事項(=いわゆる重要事項。住宅ローン特約(※1)や買換特約(※2)も含む)に関する情報を的確に調査し、その結果を買主に提供し、これを説明するだけでなく、特には助言、指導すべき義務を負う。

⇒これらの義務に違反して委託者に損害を与えた場合には、仲介業者は委託者に対して債務不履行責任または不法行為責任として損害賠償義務を負う。

※1 仲介業者は、買主が融資(通常は住宅ローン)を利用することを前提に売買契約を締結しようとしていることを認識し、または認識できる場合、①買主が金融機関の融資を利用するかどうか②融資を利用するのであればローン特約に関する概要を説明し、ローン特約を設ける方法があることを助言し、買主が売買契約書にローン特約を設けることを希望するか、どのようなローン特約を設けるか等ローン特約について買主の意思を確認しておく義務を負う。

※2 買換について、現実の取引においては、売却と購入の売買契約を同時並行で締結し、代金支払・引渡時期を同日にすることが多い。裁判例㉔の仲介業者のように、依頼者から、新物件の購入仲介の委託を受けながら、他方で旧物件の売却仲介を受託することも多い。→☆仲介業者は、成約に関心はあっても取引上のリスクに対する意識が薄く、契約当事者は取引経験がないため取引上のリスクを想定していないことが多い。→上記のように購入仲介と売却仲介を同時に受託する仲介業者は新物件の購入目的・代金の調達方法、旧物件の売却目的・代金に加えて各売買契約の進捗状況を十分に把握できる。⇒仲介業者は、旧物件を他に売却できるか否かが確実でない状況においては、依頼者に対して取引上のリスクを回避できる条項を設けるよう助言する必要がある。→例えば旧物件を売却できなかったり、手付解除等により売却代金を受領できない場合には、新物件購入のための売買契約を無条件で解除できる旨の特約(=いわゆる買換特約)を付する等、リスク回避の方法を助言・指導し、同特約の記載を確保しておくべき。→要するに、①依頼者が損害を被るおそれが大きい取引であることが②不動産取引の専門家である仲介業者にとって容易に判断できる場合に、③仲介業者が取引上のリスクを説明したり助言や指導を怠ると→仲介業者の「助言義務違反」として依頼者の被った損害を賠償すべき責任を負わされることもある、ということ(裁判例㉔)。

第2 具体的事例(裁判例)

①【津地判平26・3・6判時2229号50頁】

「宅建業法35条1項は、宅建業者が重要事項として説明すべき事項を限定して列挙しているものではなく、同項各号に列挙した事項について『少なくとも』これを説明しなければならないと定めていることや、宅建業法が宅建業者に対し重要事項の説明義務を課しているのは、宅地建物取引についての知識経験が乏しい一般の購入者等が取引物件に関する正確な情報を十分知り得ないままに土地を買い入れることにより、契約の目的を達成することができずに損害を被ることを防止するところにあると解されていることからすれば、宅建業者は、同項各号に列挙された事項についてのみ説明すれば足りるというものではなく、ここに掲げられていない事項であっても、購入者の判断や意思決定に影響を与える事項についてはこれを説明すべき義務を負う。」

②【東京地判平26・3・26判時2243号56頁】

買主Xは、売主Y(宅建業者)から給油所とその敷地(本件土地)を購入し8年以上給油所として賃貸するなどしていたが、Yが給油所建設に際し建築承認に付されていた条件を遵守せず、建築基準法7条1項に基づく完了検査の手続を行っておらず給油所が建築基準法・都市計画法に違反した状態になっていることなどが判明し、XはYに対し説明義務違反を理由とする損害賠償請求などをした。
裁判所は、説明義務違反の不法行為の成否について、「宅建業者は。自ら不動産売買の当事者となる場合や売買契約の媒介を行う場合には、宅建業法35条に基づく説明義務を負い、当該説明義務を果たす前提としての調査義務も負う」。「宅建業法35条はその文言から、宅建業者が調査説明すべき事項を限定列挙したものとは解されないから、宅建業者がある事項が売買当事者にとって売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項であることを認識し、かつ当該事実の有無を知った場合には、信義則上、相手方当事者に対し、その事実の有無について説明・義務を負う場合がある。」とし、Yは宅建業者であるから上記調査説明義務を負うとした

③【東京地判平21・4・13WL】

買主Xらは、工房件居宅(約100㎡)を新築するため、仲介業者Y2の仲介により売主業者Y1から本件土地を購入した。重要事項説明書の「法令に基づく制限の概要」欄に「第2種高度地区」と記載されていたが、同規制の内容を具体的に説明した書類は含まれていなかった。本件土地の周辺は第2種高度地区に指定され建築物の高さが制限され、建ぺい率80%であるため、1フロア当たり床面積は最大で24.416㎡しか確保できず、延床面積100㎡程度の建物を建築するには4階建とするほかなく3階部分の一部が斜線制限の影響を受け延100㎡程度の建物を建築することは法的に不可能であった。Xらは、Yらに対し説明義務違反を理由に損害賠償請求した。
裁判所は、①仲介業者の説明義務違反について、「宅建業者は、媒介に係る売買等の当事者に対し、都市計画法、建築基準法その他の法令に基づく制限に関する事項の概要等の重要事項を説明する義務を負う(宅建業法35条1項)。また、不動産媒介契約は、民事仲立であり民法上の準委任契約に該当するところ、媒介業者は、媒介契約に基づき、委任者に対し、契約の本旨に従い、善良なる管理者の注意義務を負う(民法第656条、644条)。宅建業法は、取締規定であり、宅建業者とXらとの間の契約を直接規制するものではないが、同法が、業務に対する規制によって宅地建物の取引の公正の確保を達成するだけでなく、購入者などの利益の保護を目的としている事(同法1条)、宅建業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないと規定していること(同法31条)を考えあわせると、宅建業法上の重要事項説明義務は、媒介契約における善良なる管理者の注意義務の内実をなすというべきである。Y2は、XらとY1との間の本件各不動産の売買契約を媒介するに当たり、宅建業者として、本件売買契約に基づき、本件土地に関する法的規制を説明する義務を負う。そして、Y1がXらから本件土地の延べ床面積100㎡の建物を新築する予定であると告げられていたという具体的事情の下においては、上記債務の内容には、単に存在する法的規制の種類、名称等を告げるのみでなく、本件土地に課せられた法的規制の具体的内容の説明を通じて、Xらの希望に沿う建物が建築できないことをも説明することが含まれる」としてY2の債務不履行を認定した。②売主業者の説明義務違反について「宅建業者は、宅地建物の売買の売主となる場合、買主となろうとする者に対し、宅建業法35条1項各号に規定された重要事項について説明義務を負い、同義務は、当該売買を宅建業者が媒介した場合でも、免除されないと解される(同法35条1項本文参照)」、「Y1は、売買契約の売主として、信義に従い誠実にどう契約上の債務を行わなければならないところ(民法1条2項)、前記のとおり、宅建業法は、宅建業者が取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行わなければならないと規定しているから(宅建業法31条)、宅建業法上の重要事項説明義務は、売買契約上の付随義務の内実をなす」とし、Y1が、本件売買契約に付随する説明義務に違反した債務不履行を認め、Xの請求を一部認容した。


④【東京地判昭59・2・24判時1131号115頁】

仲介業者Y2は、本件店舗の所有者Aの夫Y1から賃貸仲介を依頼され、同人から建物登記簿謄本・登記済証などの提示を受けるなどして本件店舗の権利関係を確認したが、賃借人Xとの賃貸借契約締結に当たって、Y2は、自ら登記簿謄本を取り寄せるなどして本件店舗の権利関係を調査することなく物件説明書(現在の重要事項説明書)を作成しXに交付した。Xは、賃貸借契約を締結して引渡しを受けたが、契約締結の8日前に本件店舗が第三者Bに譲渡されていたため、その後、所有者であるBから明渡請求を受け、明渡しを余儀なくされ、XはYらに対し、不法行為に基づく損害賠償を求めた。
裁判所は、宅建業法35条によれば、宅建業者は、賃貸仲介に際して、借主に対し、賃貸借契約が成立するまでの間、特に重要な権利関係等について記載した書面を交付することが義務づけられている。「不動産の権利関係が1か月の間に変動することがしばしばあり、しかも容易に登記簿で権利関係を調査することができるにもかかわらず、Y2は、Xに対する物件説明書を作成する際、1か月前にY1から受領した本件店舗の登記簿謄本を過信し、本件店舗の権利関係の再調査をせず、そのため本件店舗の真の所有者がBであることに気付かず、Y1が本件店舗の権利者であることを前提として物件説明書を作成し、これを信頼したXに本件賃貸借契約等を仲介したもの」である。Y2の本件仲介行為に過失があるとし、Xの請求を一部認容した。

⑤【津地判平26・3・6判時2229号50頁】

宅地分譲業者Y1(宅建業者)は、Y2の市長からランド開発区域の宅地造成事業につき開発行為の許可を受け、Xに対し、造成後の本件土地を売却し、ZがXとの請負契約に基づき建物を建築した。その後、本件土地の西側道路を中心に最大深度約3mの陥没が発生し建物が傾きXは転居を余儀なくされた。Xは、Y2に対し国家賠償請求、Y1に対し、債務不履行(説明義務違反)に基づく損害賠償請求をした。原審はYらに対する請求を一部認容し、Yらが控訴した。控訴審はY2に対する敗訴部分を取消しXの請求を棄却した(名古屋高判平27・11・27WL)。

裁判所は、「宅建業者は、宅地又は建物の売買に当たり、その相手方等に対し、取引主任者をして、少なくとも宅建業法35条1項各号に掲げる重要事項について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならず、都市計画法第29条1項及び2項に基づく制限はこの重要事項に含まれている(宅建業法35条1項2号、同法施行令3条1項1号)。したがって、宅建業者は、宅地の売買の相手方等に対し、当該宅地について開発行為をしようとする場合に開発許可を受ける必要がある場合に該当するか否かについて書面をもって説明するとともに、既に開発許可を受けている場合には、その開発許可の内容についても同様に説明すべき義務がある」。本件開発許可には、「都市計画法32条の規定により協議された事項について遅滞なく行うこと、すなわちランド開発区域が磨き砂の採掘跡地であり、地盤に問題があり得るため、Y1が責任をもって空調調査及び安全対策を実施する等を定めた許可条件が付されていた。かかる開発許可の条件は、開発許可の内容を構成するものであるから、宅建業法35条1項2号に定める重要事項に該当する」。Y1は、Xに対して、本件土地に関する重要事項の説明に際し、本件開発許可条件を明らかにしその許可証を説明資料として添付していたが許可条件の示された許可証の別紙を示していなかった。したがって、「Y1は、宅建業者として、Xに対し、取引主任者をして、都市計画法29条1項に基づく制限として、本件開発許可に付された許可条件について何らの説明もさせず、書面も示さなかったものと認められ、説明義務に違反した」とし、XのY1に対する請求を一部容認した。

⑥【宅建業者の調査・説明義務を認めた裁判例】

(1)都市計画区域の指定の可能性(都市計画法5条)
施行令3条1項1号には都市計画法5条が掲げられていないが、東京地判昭56・10・30判時946号78頁は、仲介業者は、土地付近の区域に対する都市計画区域の指定の可能性及び本件土地の市街化区域もしくは市街化調整区域のいずれに含まれるかについて調査、告知義務があるとする。

⑦ (2)開発許可手続(都市計画法36条1項)

都市計画法36条1項(工事完了検査済証の交付)は、施行令3条1項1号に掲げられていないが、大阪高判昭58・7・19は、買主が建物を建てる計画で土地を購入することを売主業者及び仲介業者が知悉していた事案において、重要事項説明書で開発許可を取得することを説明しただけでは足りず、建物を建築するには都市計画法に基づき開発行為について開発許可を受けたうえ開発許可を受けた者が開発行為に関する工事を完了し検査済証の交付を受けることが必要であるとの建築規制が存在することについて説明義務を尽くさなかったことは宅建業法35条1項に違反し違法であるとした。

⑧ (3)建築確認(建築基準法6条)

施行令3条1項2号には建築基準法6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)が掲げられていないが、大阪高判昭58・7・15判時815号119頁は、宅建業法違反等被告事件において、買主が既存建物を買い受ける場合、建築確認を受けた建物かどうかは、「購入者の利益に関する重要な事項であることが明らかである」とし、宅建業法35条各号、施行令3条は宅建業者として契約締結までに説明すべき最小限度の条項を列挙したものであることは、同条1項に『…少なくとも次の各号に掲げる事項について説明しなければならない』とあることからも明らかである」とする。

⑨ (3)横浜地判平9・5・26判タ958号189頁

こちらの判例では、買受け仲介業者は、耐火建築物違反の増築部分が存在すること(違法建築であること)について説明義務があるとした。


⑩ (3)大阪高判平11・9・30判時1724号60頁

こちらの判例では、売主業者及び仲介業者は、土地付建
物(未完成物件)が適法な建築確認を受けていないことについて説明義務があるとする。

⑪ (4)建築基準法40条に基づくがけ条例

東京高判平12・10・26判時1739号53頁は、施行令3条1項2号に建築基準法19条4項、40条に基づくがけ条例、行政指導が掲げられていないが、仲介業者は、買主が土地上に建物を新築する場合、同法19条4項、神奈川県建築基準条例、がけ付近に建築する建築物の指導指針による規制があることについて告知義務があるとする。がけ条例に関する裁判例はREITO94号40頁以下に詳しい。

⑫ (4)東京地判昭59・12・26判時1152号148頁

こちらの判例では、施行令3条1項2号に建築基準法42条及び開発指導要綱が掲げられていないが、仲介業者は、建築基準法42条の道路及び開発行為に関する指導要綱(行政指導)の説明義務があるとする。

⑬ (5)建築基準法7条、指導要綱

買主Xが売主Y(宅建業者)から給油所を購入したが建築基準法・都市計画法に違反した状態になっていることなどが判明した事案において、東京地判平26・3・26は、「宅建業者である売主は、売買当時における売買目的不動産についての法令に基づく制限について説明義務を負うことからすれば、Yは、都市計画法及び本件要綱[甲町宅地開発指導要綱]により、本件売買契約締結当時に必要になる排水施設の内容について調査説明すべき義務があったというべきである。そして、Yがこの調査義務を履行すれば、本件給排水図との対比により本件不動産における排水施設の現状が法令の制限に反していることがYには容易に認識できたことになる。本件不動産への排水施設の設置は相当額の費用を要するものであることからすれば、上記事実は売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項に該当するというべきである。したがって、Yは、本件不動産において、必要な排水施設に関する法令の制限について調査義務を負っていたというべきであるが、Yは同義務を履行せず、Xに対する説明を行っていない」。Yには、宅建業者としての調査・説明義務を懈怠したことによる不法行為が成立するとし、Xの請求を一部認容した。


⑭【東京地判平28・3・10WL】

Xは、介護施設として利用する目的で仲介業者Y2、Y3の仲介により賃貸人Y1と本件建物の1階部分367.49㎡(本件賃貸部分)の賃貸借契約を締結して借り受けた。重要事項説明書の用途制限には「介護施設」と記載されていた。本件建物は1階が物品販売業を営む店舗、2階以上が共同住宅として利用され、1階部分を介護施設として利用するためには、建築基準法上、原則として用途変更の確認申請が必要となり(同法6条)、申請手続には本件建物の確認済証と検査済証が必要であったが、Y1は建築時において完了検査を(同法7条)を受けておらず、検査済証の交付を受けていなかった(本件事情)。Y1側の仲介業者Y2の従業員甲は、複数の業者から、本件賃貸部分を介護施設として利用したいとの照会を受けた際、本件建物には検査済証がない旨告知すると業者らは全て諦め、問い合わせてきたY3の担当者乙に対しても、本件建物には検査済証がなく、介護施設として利用したいと照会してきた業者がいずれも諦めたとの事情を告知したが、乙は、X代表者にその旨伝えていなかった。Y1との賃貸借契約締結後、Xは、本件賃貸部分の内装工事を完了したが、介護施設として利用するには用途変更の確認申請が必要になること、当該建物が適法であることなどが指摘され、Xは、調査報告制度(同法12条5項)を用いることにより用途変更の確認申請が可能となるためY1に対応の回答を求めたが、Y1はこれを拒否した。Xは、Y1との賃貸借契約を解除し建物を明渡し、①Y1に対し介護施設として使用収益させる義務違反(債務不履行)に基づき、②Y2に対し説明義務違反(不法行為)に基づき、③Y3に対し調査義務違反(債務不履行)に基づき、Yらに対し連帯して損害賠償請求し認容された。
裁判所は、不動産賃貸借を仲介する宅建業者は、「当該契約の目的不動産について、賃借人になろうとする者の使用目的を知り、かつ、当該不動産がその使用目的では使用できないこと又は使用するに当たり法律上・事実上の障害があることを容易に知り得るときは、それが重要事項説明書の記載事項(宅建業法35条1項各号)に該当するかどうかにかかわらず、賃借人になろうとする者に対してその旨を告知説明すべき義務がある」。上記③について、「介護施設としての利用に適する物件の探索を依頼して、X・Y3間の仲介契約が成立していたのであるから、Y3は、当然、賃貸借契約の対象となる不動産の使用目的が、介護施設としての使用であることを認識し」、「Y3は、Xの本件賃貸部分の使用目的を知り、かつ、本件建物には検査済証がないという事情を知っていたことになる。(略)仲介業者であれば、仲介する賃貸借契約上の目的建物の使用目的によっては、当該建物について建築基準法6条1項の定める用途変更確認が必要となること、その場合、当該建物の確認済証と検査済証が必要になることは、身に付けておくべき基本的知識といえるから、上記の事情を認識した段階で、Xが本件賃貸部分を介護施設として使用するためには用途変更確認が必要であるのに、その確認申請に必要な検査済証がなく、そのままではXの使用目的に支障が生じることを容易に認識し得たといえる。また、その時点では用途変更に関する知識を欠いていたとしても、甲[Y2の担当者]から告知された情報を前提とすれば、Y3としては、本件賃貸部分を介護施設として使用することに疑問を持ち、その原因を調査する義務を負うというべきであり、かかる調査を尽くしていれば、上記の認識に到達することは容易であったといえる。したがって、Y3には、X・Y3仲介契約に係る信義則上の義務として、甲から本件建物には検査済証がないことを聞いた段階で、必要な調査をした上で速やかに本件事情をXに告知説明する義務が発生しており、それを怠ったことにより生じた損害について、債務不履行に基づく賠償責任を免れない」。②について、Y2の担当者甲は、「本件建物に検査済証がないことを従前から知っており、かつ、乙とのやりとりにおいて、Xの本件賃貸部分の使用目的を知ったのであるから、Y2は、遅くとも本件賃貸借契約締結時に、Xに本件事情を告知説明すべき義務を負っていたというべきであり、これを怠ったことによりXに生じた損害について、不法行為に基づく賠償責任を免れない」。甲がY2に対し、本件建物に検査済証がないことなどを伝えていたが、「X以外の業者は、いずれも検査済証がないと知った段階で諦めていたというのであるから、そのことを聞いたはずのXがあえて契約締結を希望することに対して疑問を持つのが通常であり、少なくとも本件賃貸借契約締結の際には、Xに直接その旨を伝えて意思を確認する機会があったのであるから、事前に仲介業者であるY3に伝えていたというだけでは、宅建業者としての注意義務を履行したことにはならない」とし、Y2の説明義務違反を認めた。裁判所は、XのY1に対する主張を排斥し、Xの過失を3割、Y2とY3の過失を7割とし、損害は、Y2とY3がそれぞれの立場で仲介した本件賃貸借契約を巡り、いずれもXに本件事情を告知・説明しなかったという共通の注意義務違反に基づいて発生したものであり、その責任の法的根拠において、債務不履行と不法行為という違いがあるにすぎないから、Y2とY3の支払義務は、不真正連帯債務の関係にあるとした。


⑮【東京地判平27・6・23判タ1424号300頁】

売主A側の仲介業者Bと買主Y側の仲介業者XとC(代表者はYと同じ)との仲介により、Yは、本件不動産を購入した。Yが約定仲介報酬を支払わなかったため、XはYに対し報酬請求した。Yは、本件不動産の電気設備・消防用設備に補修すべき瑕疵があり、Xの債務不履行を理由に報酬支払義務を負わず、補修費用と相殺する旨主張した。
裁判所は、(1)電気設備について、宅建業法35条1項4号の規定の「趣旨は、宅建業者が購入者等に対し取引物件、取引条件等に関する正確な情報を積極的に提供して適切に説明し、購入者等がこれを十分理解した上で契約締結の意思決定ができるようにするための、宅建業者の仲介業務における重要事項の説明義務について規定したものであると解されるところ、かかる趣旨からすれば、宅建業者が調査した上で説明すべき程度及び内容は、個々の取引における動機、目的、媒介の委託目的、説明を受ける者の職業、取引の知識、経験の有無・程度といった属性等を勘案して、買主等が当該契約を締結するか否かについて的確に判断、意思決定することのできるものであることを要すると解するべきである」。電気設備の整備の状況については、「生活や事業を営む上で必要不可欠の設備であり、その制限いかんによっては買主が契約の目的を達することができない場合もあることから説明すべき事項とされたものと解されることからすれば、一般的には、施設の内容はどういうものか、普通の状態で普通の使い方で継続的に使えるものかどうか、その施設が直ちに使えるものがどうか等について調査・説明が行われる必要があると解される」。(2)消防設備について、「上記の宅建業者の調査・説明義務の重要性からすれば、法35条1項各号の列挙事由は少なくともこれだけは説明しなければならない事由を規定したものと考えられ、列挙事由以外の事項についても直ちに調査・説明が不要と解するのは妥当ではなく、個々の取引における個別的な事情に照らして、個別具体的に検討する必要があると考えられる。
この点、消防設備は建物の種類、性状等によってはその設置や維持、点検等が求められるものである(消防法17条以下)ことからすれば、売買の目的物が消防施設の設備が求められる建物でありながら、そもそも設置されていない場合や、設置はされているものの全く維持されていない場合などは、通常は買主の意思決定に重要な事項と考えられることから、買主の属性や経験、取引目的、契約条項等の事情によっては、仲介業者に調査・説明義務が生ずると考えられる」。(3)ア 本件調査・説明義務の程度等について検討するに、電気設備については、「本件建物はテナントが多数入居する商業ビルであるから、電気設備がそもそも設置されているか否かは当然調査・説明義務の対象となると解される。のみならず、この電気設備が通常の使用に耐えうるものであるか否か、直ちに修繕を要する事項があるか否かについても、基本的には調査・説明義務の対象とすべきと考えられる。ただし、本件売買契約においては、特約条項において、物件状況確認書の作成・交付を行わず、引き渡し時の状態のまま引渡すものとされ(2条)、付帯設備について設備表の作成・交付を行わず、引渡し[時]の状態のまま引渡すものとされ、各設備について売主が一切の修復義務を負わないとされている(3条)点に鑑みれば、当事者はかかるリスクを考慮の上価格を決定したものと考えられるから、価格決定に影響を及ぼすような修繕事項がある等の場合は別として、通常のメンテナンスの範囲内の修繕・交換等を要する事項がある程度の事項についてまで、調査・説明義務を負うものではない」。消防設備については、「本件建物が特定防災対象建築物に該当することからすれば、消防設備が設置してあることはもちろん、これが維持されることについては基本的には調査・説明義務の対象となると考えられるが、上記の特約に照らせば、電気設備と同様、価格決定に影響を及ぼすような修繕事項がある等の場合は別として、通常のメンテナンスの範囲内の修繕・交換等を要する事項がある程度の事項についてまで、調査・説明義務を負うものではないと考えられる」。イ 本件売買契約の仲介業者は売主側がB、買主(Y)側がXとCであり、「まず第一に、売主側に仲介業者がいるのであれば、売主側の仲介業者は(買主側に比して)調査が容易である、当該売買契約における売主の瑕疵担保責任等に配慮を要する立場にある等の観点からすれば、上記アのような調査・説明義務を負うのは一時的には売主側の仲介業者であり、買主側の仲介業者は、主として売主側の仲介業者を通じて説明に必要な情報を得るのが通常と考えられる」。「第二に、買主側の仲介業者が2名というのは、通常とは言い難い(略)、CはYと代表者が同一であり、(略)CがXのおよそ倍もの仲介手数料を得ているのは、Xへの本件媒介報酬の額を減額する目的であったと認められる。とすると、当事者間の合理的意思解釈ないし信義則の観点からすれば、Cへの仲介業者としての責任を差し置いて、Xの責任を加重する方向で考慮すべきではない」。Xは、「電気設備及び消防設備については、基本的には売主側仲介業者であるBから得た情報を基礎として説明すればよいものであり、これに加えて宅建業者として通常の注意を払えば知り得る情報や、特に買主から依頼があり、これを受託した事項についても、調査能力の範囲内であって、過大な費用ないし労力の負担なく調査できる範囲において、調査・説明を行えば足りる」とし、Xにおいて債務不履行はなくXの報酬請求を全部容認した。

⑯【東京高判平13・12・26判タ1115号185頁】

買主Xらは建売業者Aから建売住宅を仲介業者Y(担当者甲)の仲介により購入したが、軟弱地盤のため地盤が沈下し建物に床の高低差の発生など著しい不具合が生じた。XらはA、Yに対し説明義務違反を理由に損害賠償請求した。
裁判所は、「不動産の仲介業務を依頼された者が、買主に対して負うべき説明・告知義務の内容及び本件において[Yの担当者]が本件各土地が軟弱地盤であることについて説明、告知義務を負う」ことは原判決のとおりである。「なお付言すれば、宅建業者は、宅建業法上、土地建物の購入者等の利益の保護のために(同法1条)、取引の関係者に対し信義誠実を旨とし業務を行う責務を負っているものであり、(31条)、同法35条は、重要事項の説明義務を規定している。そして同条が、『少なくとも』同条に掲げられた事項について、宅地建物取引主任者に説明させるべきものとしていることに照らせば、同条に規定された重要事項は、買主保護のために最低限の事項を定めたものに過ぎないと解される。そうすると、宅建業者は、信義則上、同条に規定された事項は勿論、買主が売買契約を締結するかどうかを決定付けるような重要な事項について知り得た事実については、これを買主に説明・告知する義務を負い、この義務に反して当該事実を告知せず、又は不実のことを告げたような場合には、これによって損害を受けた買主に対して、損害賠償の責めに任ずるものと解するのが相当である」。Yにおいて本件各土地が「軟弱地盤であることを認識していたというためには、報告書に記載されたような地質についての詳細な分布までを正確に認識していなければならないと解すべきものではなく、水分が多くて軟弱であり、沈下を起こしやすい地盤というほどの意味を認識していれば足りる」とし、Yの説明義務違反を認め、Yの控訴を棄却した。

⑰【東京地判平16・4・23判時1866号65頁】

仲介業者Y2の仲介による売主Y1と買主Xらとの中古住宅の売買において、建物の台所の一部が火災に遭い焼損(建物本体の一部の炭化)として残存している事情は「買い手の側の購買意欲を減退させ、その結果、本件建物の客観的交換価値を低下させ」たのは瑕疵に当たる。売主・買主双方から仲介の依頼を受けた仲介業者Y2は、「売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観(建物内部を含む)から認識することができる範囲で、物件の瑕疵の有無を調査して、その情報を買主に提供すべき契約上の義務を負う」。「本件焼損等は、Y2がこれを認識している場合には、信義則上買主に告知すべき事項であるところ、Y2は、本件焼損等をY1から知らされていなかったが、注意して見分すれば本件建物の外観から本件焼損の存在を認識することができたということができ、そのうえでY1に問いただせば、本件火災や消防車出動の事実も知り得たと認められる」。Y2が「本件焼損等を確認した上で、買主Xらに情報提供すべきであったのに、これを怠った」としY2の債務不履行責任を認め、Y2に支払った報酬相当額の損害賠償請求を認めた。

⑱【大阪地判平20・5・20判タ1291号279頁】

買主Xは、「本件建物に居住する目的で本件[売買]契約を締結することとしたのであるから、その前提として、本件建物が居住に適した性状、機能を備えているか否かを判断する必要があるところ、[仲介業者である]Y代表者も、Xの上記目的を認識していたのであるから、本件建物の物理的瑕疵によってその目的が実現できない可能性を示唆する情報を認識している場合には、Xに対し、積極的にその旨を告知すべき業務上の一般的注意義務を負う(なお、そのような認識に欠ける場合には、宅建業者が建物の物理的瑕疵の存否を調査する専門家ではない以上、そうした点について調査義務まで負うわけではない。)」。「Y代表者は、本件建物の見学において、雨漏り箇所が複数あると認識し、白アリらしき虫の死骸を発見し、白アリ被害について多少懸念を抱いており、1階和室以外に、玄関左右の端、浴槽、収納部分の角にも腐食があると認識していた上、柱にガムテープが貼られるなどしていることも認識していたというのであるから、白アリ被害や柱の腐食等の存在により、本件建物が居住に適した性状、機能を十分に備えていないのではないかと疑いを抱く契機が十分に存在したと認められる。さらに、本件建物にはA[所有者]の妹が居住しており、A自身は、平成7年1月以降、本件建物に全く行っていなかったというのであり、Y代表者もそのことを知っていたと推認されるから、Aによる本件建物の状況説明が現状を正確に反映していないことを疑う余地も存在した。以上の諸事情を考慮すると、Y代表者は、Xに対し、白アリらしき虫の死骸を発見したこと、1階和室以外にも腐食部分があること、雨漏りの箇所が複数あることなどを説明し、Xにさらなる調査を尽くすよう促す業務上の一般的注意義務を負っていたというべきであるが、実際には、そのような注意義務を尽くさなかった」とし、Xの請求を一部認容した。

⑲【東京地判平21・2・5WL】

仲介業者の担当者は、売主から、建物地階1階でたびたび漏水のあったことや黒カビが発生したことなどの説明を受けていた事案において、「雨漏りを疑わせる重要な事実でもあるので、宅建業者としては、上記のような事実を明らかにして、買主が、雨漏りの有無を調査確認したり、売買価格の相当性、契約条項の相当性を検討する機会を与える信義則上の義務があった」。仲介業者の担当者が建物地下1階に漏水のあった事実を何ら説明していないことは、信義則上の説明義務違反がある。同種の案件として東京地判平8・32・27判時1592号86頁。

⑳【東京地判平24・8・29WL】

本件土地1及び2には昭和49年2月建築の木造2階建共同住宅が建っており、Aが昭和52年11月にこれを購入した。本件土地3及び地上の共同建物(旧建物)はBが所有していたところ、平成15年10月、旧建物の一室で変死体が発見され同居人が殺害容疑で逮捕され、当時の新聞に報じられた。Cは、アパートを建築するため妻が代表者の宅建業者Y1の名義で平成17年11月に本件土地1及び2並びに共同住宅を購入し平成18年2月に本件土地3及び旧建物を購入した。Cが本件土地3及び旧建物を購入する際、重要事項説明書には本件殺人事件に関する記載はなかった。Cはアパート新築のために旧建物を取り壊したが、妻からアパート経営に反対され、仲介業者Y2の仲介により平成19年9月、本件各土地をXに売り渡した。Xは、建物を新築したが、平成22年8月、担保不動産競売開始決定により第三者が落札し所有権を失った。Xが仲介業者に本件土地の任意売却を依頼したところ、旧建物で本件殺人事件があったことを知った。XはYらに対し不法行為を理由に損害賠償請求をした。
裁判所は、Yらについて、旧建物において本件殺人事件が起きたことを知っていたということはできないとした上で、Y2について、「一般に、土地売買の仲介業者が、売買契約締結当時、その約1年前に建物が取り壊されて更地になっている場合には、特段の事情がない限り、取り壊された共同住宅において、過去数年間に何らかの事故が発生していたか否かについてまで調査すべきであるとはいえず、本件媒介契約ないし本件売買契約において、仲介業者であるY2がこのような調査義務を負うべき特段の事情があったことを窺わせる事情は見当たらない」とし、Xの請求を棄却した。


㉑【東京地裁八王子支判平12・8・31判例集未登載:詳解不動産仲介契約621頁】

仲介業者Y2の説明義務違反の成否について、「Y2は、一方、X[買主]らから、建物を建てて家族で住むためのものであるから、いわく付の土地を購入することはできない旨明確に伝えられており、他方、Y1[売主業者]からは、本件事件の存在を伝えられ、購入者には本件事件を伝えるよう指示されていたにもかかわらず、本件売買契約に際して、Xらに対し何ら本件事件の存在を告知しなかったのであるから、Y2には、Xらが本件売買契約の締結を決意するにあたって決定的に重要な事項について一切説明を欠いた説明義務違反があった」とし、Xらが本件売買契約締結に伴い支払った売買代金、固定資産税、仲介報酬、ローン事務費用、司法書士登記手続費用等からY1に払った売買代金を差し引いた額を損害とした。

㉒【福岡地判平22・9・6判例集未登載(福岡高判平23・3・8判時2126号70頁)】

仲介業者の売主側担当者は、売主から、売買の目的物である居室が前入居者により風俗営業に使われていたとの噂があり、管理組合が前入居者に明渡等訴訟を起こしたこと自体、居室にまつわる特別な事情であり、住居目的で購入する一般人のうちには、あえてそのような物件を好んで購入しようとはしない者が少なからず存在するものと考えられ、宅建業者がすでに買主の購入の意思決定に影響を及ぼしかねない特別な事情を認識している場合には、善管注意義務に基づき、これを自己に対する委任者である買主に対して説明あるいは告知する義務がある。仲介業者の担当者がこの点について相当程度の情報を認識していたのであるから、過失によりこれを告知あるいは説明することを怠ったものとして債務不履行責任を負うとし、買主の仲介業者に対する損害賠償請求を一部認容した。

㉓【高松高判平26・6・19判時2236号101頁】

X2は、仲介業者にYの仲介により、売主A(個人)から居住用建物を建築する目的で本件土地を購入する契約を締結し、X1とX2に所有権移転登記した。契約締結後、Yの担当者甲は残代金決済の数日前に同業者と本件土地について話す中で本件土地が、”訳あり物件”であるかもしれないと認識し、甲及び乙において確認したところ、20年以上前に本件土地上の建物で自殺事故があったことを知った。甲は、20年以上前の出来事であり建物が取り壊され、その後土地売却が繰り返されていることなどから、Xらに説明しなかった。契約書では売主の瑕疵担保責任は排除されていた。Xは、Yに対し、不法行為(説明義務違反)を理由に損害賠償請求した。第1審はXらの請求を一部認容し、Xらが控訴、Yが附帯控訴したが、控訴審はいずれも棄却した。
裁判所は、調査義務違反の有無について、「宅建業者は、売買の仲介にあたり、売買当事者の判断に重要な影響を及ぼす事実について説明義務を負う(宅建業法47条1号ニ)。したがって、説明義務を果たす前提として、一定の範囲内で調査義務を負う」。「対象物件が事故物件か否か、より具体的には、過去に自殺等の事故があった物件か否かは、その性質上、対象物件の外形からは認識し得ない事柄である。また、このような自殺等の事故は、通常の物件においてよく見受けられるというようなものではない。対象物件上で自殺があったというのは、極めて稀な事態でもある。したがって、売買の仲介にあたる宅建業者としては、対象物件の隠れた事故物件性については、その存在を疑うべき事情があれば、独自に調査してその調査結果を説明すべき義務を負うが、そうでない場合には、独自に調査をすべき義務までは負うものではない」。説明義務違反の有無について、「本件土地上で過去に自殺があったとの事実は、本件売買契約を締結するか否かの判断に影響を及ぼす事実であるとともに、締結してしまった売買契約につき、その効力を解除等によって争うか否かの判断に重要な影響を及ぼす事実でもあるといえる。したがって、宅建業者として本件売買を仲介したYとしては、本件売買契約締結後であっても、このような重要な事実を認識するに至った以上、代金決済や引渡手続が完了してしまう前に、これを売買当事者であるX1に説明すべき義務があったといえる(宅建業法47条1号ニ)」。「Y担当者である甲及び乙は、自殺されており、本件土地が相当以前から更地となっていたことなどから、本件土地上で過去に自殺事故があったらしいとの事実をX1に説明しなければならない理由はないと考え、これをしなかった。したがって、Yは、Xらに対し、この説明義務違反(不法行為)と相当因果関係のある損害を賠償すべき責任を負う」。Xらは「マイホーム建築目的で土地の取得を希望する者が、本件建物内での自殺の事実が近隣住民の記憶に残っている状況下において、他の物件があるにもかかわらずあえて本件土地を選択して取得を希望することは考えにくい以上、Yが本件土地上で過去に自殺があったとの事実を認識していた場合には、これをXらに説明する義務を負う」。Yが売買契約締結に先立ち事故物件の調査義務を負うかについて「本件売買契約が小さな子供を含む家族のマイホームを建築する目的であったとしても、対象物件が自殺等の事故物件であることは極めて稀な事態であることからすれば、事故物件性の存在を疑うべき事情がない場合にまで、売買の仲介に当たる宅建業者に事故物件であるかを調査すべき義務があると認めることはできない。なお、Xらは隣人に確認すれば容易に事故物件であることを確認できたことを指摘するが、この点は調査義務の有無を左右する事情には当たらない」とした。


㉔【東京地判平24・10・12WL】

Xは、仲介業者Y1(担当者甲)に対し、平成21年7月12日、X所有の自宅(土地建物)の売却仲介を委託する(専属専任媒介契約、媒介価額5850万円)一方で、Y1に対し、母親の介護に適した建物を建築するために自宅の売却代金を新たな宅地の購入代金に充てたいとの話をして購入物件の紹介を依頼した(一般媒介契約、媒介価額5850万円)。Y1は、XにY2所有の本件土地を紹介し、10月22日、本件土地の買受け仲介を受託し(代金4980万円)、自宅売却の媒介価額を5980万円に変更した。XとY2は、12月10日、本件売買契約を締結し(代金4750万円)、Xは、Y2に手付金を交付し、Y1に仲介報酬を支払った。Xが残代金を支払わなかったため、Y2は、契約解除し手付を没収した。売買契約書には、自宅が残代金の決済日までに売却されることを停止条件とする旨、あるいは自宅が残代金の決済日までに売却されないことを解除条件とする旨の特約(本件特約)の記載がなされていない。Xは、Y1に対し債務不履行または不法行為(注意義務違反)に基づく損害賠償請求、Y2に対し錯誤無効を理由に不当利得返還請求、Y2は、Xに対し、不当訴訟を理由に損害賠償請求をした。
裁判所は、本件売買契約締結当時、Xは、Y1に対し、「自宅についての売買契約が成立することを条件に、本件土地売買の仲介依頼をしていた」ことを認定し、Y1は、「仲介業者として、顧客であるXの上記依頼内容に反する売買契約を成立させないよう注意すべき義務があるのに、その義務を怠ってXの上記依頼内容に反する内容で本件売買契約を成立させ、もってXに損害を与えた」とし、Y1のXに対する債務不履行責任を認めた。甲は、Y1の従業員として、上記義務に違反して本件売買契約を成立させ、もってXに侵害を与えているとし、Y1のXに対する使用者責任に基づく損害賠償責任を認めた。XがY1に交付した仲介報酬、Y2に交付した手付金を損害として認め、Y2に対する錯誤無効の主張を排斥しXの請求を棄却し、Y2のXに対する請求を棄却した。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
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