賃貸・借地借家トラブル|不動産問題

賃料(地代・家賃)の値上げ(値下げ)

「物件の価値が上昇した(下降した)ので、地代・家賃を値上げしたい(値下げしたい)・・」

「突然の地代・家賃の値上げ(値下げ)要求を承諾できない・・」

地代・家賃の変更(値上げ・値下げ)が認められるのは、正当な理由がある場合だけです。具体的には以下の事情があります。

・固定資産税等、土地や建物の経費の増額・減額があった場合
・経済情勢の変動によって対象物件の時価が大きく上昇・下降した場合
・近隣の同種(地代・家賃)と大きな差額がある場合 地代・家賃(賃料)の値上げ・値下げ(の要求

を承諾できない場合は、借主(貸主)は、相当と認める賃料を「供託」(=借主。貸主は「請求」)できます。 借主が賃料を払わずにいると、債務不履行で賃貸借契約を解除されたり、損害賠償請求されたりするおそれがありますが、賃料を供託(同上)することで、借主はそのような事態を回避することが(貸主は従前の賃料を受領)できます。

「正当な理由」について、当事者間に争いがあれば、借地非訟手続中の賃料増額(減額)請求手続きによって決められることになります。決まるまでは借主は従前の賃料を支払っていれば責任を問われることはありません(増額請求の場合)。貸主は従前の賃料を受領できます(減額請求の場合)。裁判で決着が付くと、不足額(増額請求の場合)や超過額(減額請求の場合)に、年10%の利息を付けて借主は支払ったり(増額請求の場合)貸主は返金したり(減額請求の場合)する必要が生じますので注意して下さい。

敷金・権利金・保証金

賃貸借契約を交わす際には「敷金」・「権利金」・「保証金」・「礼金」等、契約締結のときに借主から貸主へ支払われる金銭の性質については確認・理解しておきましょう。

契約のときに支払う色々な名目での金銭

名目内容
敷金賃貸借契約の際に借主が貸主に対して預けるお金のこと。賃料の滞納や故意・過失による損壊等による損害があると、その金額が敷金から差し引かれる。
権利金賃借権(特に借地権)を設定するための対価として支払われる金銭。当然であるが、契約が終了しても返還されない。
保証金賃貸借契約に定めた各事項を守ることを担保するために支払うお金。敷金とほぼ同じ意味で使われることもあるが、賃借人から賃貸人への貸付金として、例えば一部を償却(=控除)した後で償却後の残金のみが返還されるものもある。
礼金賃貸借(特に借家)契約の際に貸主に支払う金銭の一種。敷金や保証金と異なり、契約が終了しても返還されない。

上記のうち、保証金は、敷金と同じ意味に使われることもあります。しかし「建設協力金」等の名目で借主から貸主への貸付金として支払われるものもあります。結局、契約当初に保証金の性質、償却の有無、返還時期及び返金予定額などを明確に定めておく必要があります。 また、原状回復費用と敷金の返還の紛争が多く生じています。「敷引特約」は、契約時に予め原状回復後の返還敷金額を決めておくことで契約終了時の、このような紛争が起こる心配がなくなります。そこで敷金から控除される金額(=敷引金の額)が問題となります。敷引金の額が賃料月額の2倍~3.5倍である敷引特約を有効とした判例もあります(最高裁平成23年3月24日判決)。

更新料

「土地(建物)を自分が使う必要が生じたため、更新を拒絶したい」(貸主側)
「更新したいのに、更新料を承諾できない」(借主側)

賃貸借契約は更新されるのが原則となっています。 更新を拒絶するためには、期間満了の1年前から6ヶ月前に拒絶の通知を出す必要があります。また、賃貸人から更新を拒絶するには正当な事由が必要です。 更新を認めない賃貸借契約は、「定期借地契約・定期借家契約」があります。建物賃貸借については「賃貸住宅標準契約」を活用し、更新については、それぞれの事情を、その方法や条件面等の中で考慮できることが望ましいです。まずは当事者間で協議して契約内容を修正したりするのが良いです。

「更新料」については、判例は一般的にその支払義務を認めていませんが、実際には全国で更新料が請求され支払われているのが実態です。更新料の紛争を予防するために、契約時によく話し合い、更新料が定められている理由、金額が合理的か等を確認し、双方が了解した上で契約を締結することが大切です。当事務所では、法律相談の中において契約書の簡易なチェックを行っております。(契約書の簡易チェックも含めて)法律相談のみで最終解決できる場合も少なくありません。

必要費・有益費

借主が支出した「必要費」「有益費」は、貸主に対して償還請求することができます。

例えば 古くなった壁紙(クロス)や床のカーペット敷などを新品に交換した場合、その費用を貸主に請求できる場合があります。支出した費用が必要費・有益費に該当するかを検討してください。必要費なら支出後直ちに、有益費なら契約終了時に返還を求められます。また、クーラーや畳等、取り外しのできる物は造作ですが、これらは貸主に対して買取請求できる場合があります。

 内容請求できる時具体例
必要費現状維持(保存)・原状回復のための費用直ちに請求可雨漏りの修繕費 トイレ(等水回り)の修理費 等
有益費物の改良(価値増加)のため支出した費用契約終了時(価値の増加が残っていることが必要)壁紙・カーペットの交換費など

※ただし、特約がある場合はこの限りではありません。

原状回復

建物等(土地賃貸借の場合の原状回復は建物の解体・撤去が問題となります)から退去し明け渡す際に、借主は原状回復義務として修繕費用を負担させられることがあります。実務的には、敷金からその修繕費用分が控除さ(=差し引か)れます。原状回復義務の内容(程度)については、借主は自分が入居する前と全く同じ状態にする必要はありません。この原状回復義務の内容(程度)について法的紛争になるケースは多いです。この問題に対処するため、国土交通省は、建物の劣化の種類と修繕義務について、ガイドラインを定めています。また、東京都は、賃貸住宅紛争防止条例(東京ルール)を定めています。

 内容
経年劣化壁紙や畳の日焼け等、年数を経過することで発生する傷や汚れのこと。家主が修繕義務を負担する。その対価として家主は家賃を受領するから。
通常損耗通常に建物を使用する範囲内で発生する建物の劣化や損傷のこと。これも家主が修繕義務を負担する。その対価として家主は家賃を受領するから。
借主の故意や過失による損耗通常の使用方法を超えた使い方をした場合や故意や過失(注意義務違反)によって汚れや傷をつけた場合は、その修繕費用は借主の負担となる。(債務不履行責任の一種だから)。

下記イメージ画像:東京都住宅政策本部「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン第4版(P14~17)」より引用

承諾料

「増改築を承諾してもらいたい」

「賃借権の譲渡を承諾してもらいたい」

承諾料は、賃借人が、希望する条件を承諾してもらう代わりに賃貸人に対して支払うお金です。承諾料が支払われる場面は、契約書上に増改築禁止特約がある場合の借地上の建物の増改築、借家の改装、転貸、店舗等の使用方法の変更や居抜きで入居者(テナント)が変わる場合の借家権の譲渡等です。承諾料は当事者の合意によって支払われるものですが、ある程度は相場が決まっています。

 相場
借地条件の変更更地価格の5%~10%程度とされることが多いが、諸事情を考慮して当事者同士で納得のいく金額を決める。
増改築の許可更地価格の3%(条件変更のない場合)~5%(条件変更のある場合)前後が一つの目安。あるいは増改築費用の10%程度を承諾料として支払うケースもある。規模が小さいものであれば、更地価格の1~1.5%で済むこともある。
借地権の譲渡(譲渡の対象である)借地権価格(更地価格の60%(住宅地)~70%(商業地)程度)の10%程度が原則。

立退料

不動産の賃貸借契約において、契約を更新拒絶や合意解約などで終了させて明け渡しを請求する場合、賃貸人から賃借人に対し、しばしば立退料(あるいは明渡料・移転料・補償金など)の名目で一定の金銭の支払がなされることがあります。 立退料の算定は、貸主が土地(建物)を必要としている事情、借主が移転できない事情、契約期間、賃貸物件の規模と構造、賃料、敷金・礼金・権利金等の金銭の授受の有無などを基準として行います。

立退料支払の根拠

契約書をみると、「賃借人は賃貸物件の明渡しをする場合、その事由、名目の如何を問わず、立退料、移転料その他の金銭の支払を一切請求しない。」というような条項がよく見られます。それにもかかわらず、なぜこうした支払がなされるのでしょうか。 これは、借地人・借家人の保護を目的とした借地法・借家法の昭和16年改正により、賃貸人の更新拒絶に「正当事由」が要求されることになったことと関係があります。つまり、判例上、その正当事由の判断要素の1つとして、立退料などの財産上の給付の有無も考慮されるようになったのです。 借地法、借家法は、その後平成3年に「借地借家法」に改正統合されました(平成4年8月施行)。そして、その際それまでの判例理論も踏まえ、賃貸人の更新拒絶等の「正当事由」の判断要素の1つとして、従前の経緯や不動産の利用状況等のほか、賃貸人が「財産上の給付」をする旨の申出をした場合にはその申出(及び金額)も考慮して判断することが明記されました(6条、28条)。 したがって、今日では、地主・家主の更新拒絶等による契約終了が認められるために要求される「正当事由」の補完的事情である「財産上の給付」には立退料も含まれると考えられています。

明け渡しを請求する場合、立退料の必要性

不動産の賃借人に明け渡してもらう場合、立退料の支払が常に必要という訳ではありません。 例えば、一時使用のための借家契約の場合や借家人に債務不履行がある場合、定期借地・定期借家の場合などは、本来「正当事由」は問題にならないので、立退料も問題になりません。
また、賃貸人側の自己使用の必要性が特に大きく、それのみで「正当事由」ありと認められる場合(現実には事例として極めて少ないですが)も、補完的事情としての立退料は不要とされる可能性はあります。 但し、賃借人の賃料不払等の債務不履行があるために、法理論上は本来なら立退料が不要であるにもかかわらず実務上は立退料を支払っているケースも見られます。これは、そもそも法律上「立退料」支払の必要性があるかどうかから問題となります。しかし、上記のケースは、「債務不履行」解除が認められるか否かを裁判等で時間をかけて争うより、早期決着を優先した結果、いわば「解決(和解)金」として敢えて支払っているものと考えられます。 立退料を支払う必要性、立退料の額については、実務上、多くの紛争が存在します。紛争になったら、まずは、専門家(=弁護士)にご相談することをお勧めします。

造作買取請求・建物買取請求

造作とは、エアコン・畳・ガラス戸・障子・雨戸・電灯引込線・水道設備等、建物の価値を客観的に高めるために借家人が取り付けた付属物をいいます。借家人が貸主の同意を得て取り付けたエアコンなどの造作を借家契約終了時に時価で買い取るよう請求することができる旨の特約が結ばれていることが多いです(契約書を確認して下さい)。
建物買取請求は、借地人が借地に建物を建築した場合で、契約の更新がされないときに、地主に対して建物の買取を請求できる権利です。建物買取請求権は、借地人にとって重要な権利(建物の(減価償却後の現存)価値でもそれなりの金額になることがあります)であるため、特約で排除することはできません。

駐車場経営

駐車場経営は、土地の所有者にとっては魅力的な賃貸方法です。手間がかからず、安定した収入が見込めるメリットがあります。また、借地借家法の適用がないため、専門知識も少なくてすみます。土地所有者が駐車場経営を始めるにあたっては、下記のような法令の規制があることに注意しましょう。

最近では例えば「タイムズ」などのように時間貸しのコインパーキングに、一定の広さの土地をそのまま貸す形態も多くなっています。これらの場合、まずは契約書のチェックから入り、最終的にどの業者を選択するかについては、個々の条件を比べての費用対効果等の経営判断も大事になります。

当事務所は、このような観点からのアドバイス等も実施しております。

賃貸借に伴う税金

賃料や共益費、更新料、承諾料、権利金、礼金、頭金、返還を要しない敷金や保証金など、不動産賃貸借契約によって得た収入(不動産収入)は、不動産所得として課税の対象になります。不動産所得とは、不動産収入から固定資産税や都市計画税、損害保険料、修繕費、減価償却費、借入金利息といった経費を控除したものをいいます。 中でも減価償却費は控除金額が大きいので、留意する必要があります。 また、不動産所得の計上時期・計算方法は、それぞれの名目によって異なり、消費税がかかるケース・かからないケースがある等、非常に複雑です。 必要があれば当事務所の顧問税理士を紹介させて頂きます。

定期借地権

定期借地権とは、一定の要件を満たした場合に認められる、原則更新のない借地権のことをいいます。通常の借地契約では、更新が原則であるため、「一度土地を貸してしまうと、なかなか戻ってこない。」というイメージが強く、借地契約に慎重になる地主も多くいますが、定期借地権を利用することで、柔軟に土地を運用することが可能になります。 定期借地権には、目的に応じて「一般定期借地権」「事業用定期借地権」「建物譲渡特約付借地権」があります。定期借地権の設定には、公正証書による契約をお勧めします(最低でも「書面」によることが、一部は「公正証書」によることが、法律上求められます)。

借地非訟

利用されることがある主なトラブル

借地非訟とは、借地権に関するトラブルのうち、訴訟のように公開の法廷で対審構造をとるのではなく、借地の契約内容変更や借地権譲渡などの場面で、土地の所有者と借地権者との協議が整わない場合に、非公開の法廷で裁判所が後見的に間に入り、借地条件を変更したり、土地賃借権の譲渡を許可したりするものです。 借地非訟事件には、次のような種類があります。

(1) 借地条件変更申立事件(条件変更事件)

借地契約には、借地上に建築できる建物の種類(居宅・店舗・共同住宅など)・建物の構造(木造・鉄骨造・鉄筋コンクリート造など)・建物の規模(床面積・階数・高さなど)・建物の用途(自己使用・賃貸用・事業用など)等を制限している例が多く見られますが(この制限を借地条件といいます。)、借地権者が、借地条件を変更して借地上の建物を建て替えたいのに土地所有者が反対して合意できない場合には、借地権者は「借地条件変更の申立て」をして、裁判所が相当と認めれば、借地条件変更の裁判(の言渡)を受けることができます。

(2) 増改築許可申立事件(増改築事件)

借地権者が、借地上の建物の建替・増築・改築(修繕)等をしたい場合で、かつ借地契約書にいわゆる「増改築禁止特約」が定められているときは、土地所有者の承諾を得る必要がありますが、土地所有者が反対して承諾が受けられないことがあります。 このような場合、借地権者は「増改築許可の申立て」をして、裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる増改築の許可の裁判(の言渡)を受けることができます。

(3) 賃借権譲渡・土地転貸許可申立事件(譲渡(転貸)事件)

借地契約が土地賃貸借契約の場合、借地権者が借地上の建物を譲渡する場合には、借地権について譲渡または転貸をする必要が出ます。この譲渡(転貸)については、土地所有者の承諾を得る必要があります。

しかし、土地所有者が譲渡等(転貸)に反対して承諾してくれない場合があります。このような場合、借地権者は「賃借権譲渡(転貸)許可の申立て」をして、裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる許可の裁判(の言渡)を受けることができます。

(4) 競売又は公売に伴う土地賃借権譲受許可申立事件(公競売事件)

裁判所で借地上の建物が競売された場合、競落人は建物所有権とともに借地権も一緒に取得することから、競落人は、借地権の譲受けについて土地所有者の承諾を得る必要があります。しかし、土地所有者が、借地権の譲渡に反対して承諾をしてくれない場合があります。このような場合、借地権者は「競売に伴う賃借権譲受許可の申立て」をして、裁判所が相当と認めれば、土地所有者の承諾に代わる許可の裁判(の言渡)を受けることができます。なお、この申立ては、競売代金の納付の日から2か月以内にしなければなりません。

(5) 借地権設定者の建物及び土地賃借権譲受申立事件(介入権事件)

上記の(3)譲渡(転貸)事件及び(4)公競売事件の場合、土地所有者には借地権を借地上の建物と一緒に優先的に買い取ることができる権利(「介入権」と呼んでいます。)が与えられています。審問手続の中で、裁判所が定めた期間内に介入権の申立てがあると、原則として、土地所有者が借地権者の建物及び借地権を、裁判所が定めた価格で買い受けることになります。

☆従来は、身元も判らない者が借地人となることを防ぐ、土地所有者側の防御を目的とする権利と考えられてきました。しかし、上記のとおり建物及び借地権の価額を裁判所(具体的に査定や意見するのは鑑定委員会等)が決めてくれるため、最近では任意で売却する場合よりも高額となる場合も増えています。高額での買取を実現させる、という意味では、借地人側からでの(敢えて借地権譲渡の場面として土地所有者に介入権を行使させるように動く、という)積極的な活用も考えられる時代になりました。

(6) 更新後の建物の再築許可申立事件(借地借家法18 条)

本手続は、現行の借地借家法施行(平成4年8月1日)後に締結した借地契約を更新した後に問題となる類型です(平成34(令和4)年8月以降に申立てが可能となります)。

手続の進行方法

借地非訟事件の手続は、概略、以下の手順で進行します。

・借地権者(「申立人」といいます。)が、申立書を提出する。
・裁判所が、申立書を土地所有者(「相手方」といいます。)に郵送し、第1回審問期日を定める。
・裁判所は、第1回審問期日を開き、当事者から事情を聴く(必要に応じて第2回、第3回と期日を重ねる。)。
・鑑定委員会が借地に出向き、現地の状況を調査する(当事者も立ち会う。)。
・裁判所が鑑定委員会に、承諾料額、賃料額、建物及び借地権価格等について意見を求める。
・鑑定委員会が裁判所に意見書を提出し、裁判所は意見書を当事者に送付する。
・裁判所が、鑑定委員会の意見について、当事者から意見を聴くための最終審問期日を開き、審理を終了する。
・裁判所は決定書を作成し、当事者に送付する。

発生しうる費用

申立時には、申立手数料の納付が必要です。申立手数料は、借地の価格を基礎として算定されますが、借地について地方税法349条の規定による価格(いわゆる固定資産税評価額)がある場合は、その価格を基準とします。なお、借地の土地固定資産評価証明書に、登記地積と現況地積との両方が記載してある場合には、現況地積を計算の基礎とします。 目的物の価格の算出方法や申立時に要する裁判所へ納める費用(印紙代、郵券代等)の詳細については、弁護士にお尋ね下さい。

サブリース

サブリースとは、不動産会社が物件を賃借し、それを第三者に転貸する形式の事業形態をいいます。場合によっては、広告に「アパート一括賃貸」「30年賃料保証」などと謳われており、一定期間の賃料の支払を借主となった不動産会社が保障等することから、不動産オーナーにとって大変魅力的なシステムとも思えます。しかし、サブリースには以下のようなデメリットもあり、紛争に関するいつくかの裁判例も出されています。また、新築サブリースに関しては、建物建築請負契約の内容についても、併せて検討する必要があります。

サブリース契約のメリット・デメリット

メリットデメリット
建築の段階から不動産会社が一括で指揮・管理してくれるため、専門知識が不要。不動産会社が指定した条件・建築費で建物を建築しなければならない場合がある。
不動産会社が賃借人を見付けてくれるため、オーナーの負担が少ない。入居(満室⇔空室率)ばかりを気にする余り、外国人など、オーナーの意向に沿わない者が入居する場合がある。
空室分・滞納分の賃料もオーナーに支払われる。市場や経済状況の変動により、賃料が見直され、減額請求されるリスクがある。 サブリース会社の倒産のリスクもある。 転貸料が安く設定された場合、契約終了時の維持費をオーナーが多額に請求されるリスクがある。
原状回復は、不動産会社又は提携・所轄の管理会社側が行ってくれる。建物管理・修繕などの条件・仕様について不動産会社が(一方的に)指定するものとなる場合がある。

サブリースについての裁判例

サブリース契約について以下の最高裁判例があります。

(最高裁判所平成15年10月23日判決)

事案不動産賃貸業等を営む甲が、乙が建築した建物を一括して賃借し、第三者に転貸する、いわゆるサブリース契約を締結した。同契約の内容として、甲が乙に対し10年間にわたり1平方メートル当たり月8,047円の賃料を保障する旨の「賃料保障特約」が定められていた。乙からの賃料支払請求に対し、甲が借地借家法32条1項に基づき賃料減額請求をした事案。
判旨本件契約では、賃料保障特約があり、その保障賃料額からの減額請求の可否が問題とされたが、本件契約が建物賃貸借契約に当たり、借地借家法の適用がある以上、特段の事情のない限り、本件契約にも借地借家法32条1項の適用があるとしたうえで、賃料減額請求の当否・相当賃料額の判断に当たっては、契約当事者が賃料額決定の要素とした事情を総合考慮すべきであり、特に本件契約においては、賃料保障特約の存在や保障賃料額が決定された事情をも考慮すべきであるとしたうえで、本件賃料減額請求は可能であると判断した。

(最高裁判所平成15年10月21日判決)

事案不動産賃貸業等を営む甲が、乙が建築した建物を一括し、第三者に転貸する、いわゆるサブリース契約を締結した。同契約の内容として、建物竣工時から3年経過するごとに、その直前の賃料の10%相当額の値上げをする「賃料自動増額特約」、及び、急激なインフレ、その他経済事情に著しい変動があった結果、値上げ率・敷金が不相当になったときは、協議の上、値上げ率を変更できるとする旨の調整条項が定められていた。乙からの賃料支払請求に対し、甲が借地借家法32条1項に基づき賃料減額請求をした事案。
判旨本件契約には、借地借家法32条の適用があるとしたうえで、賃料減額請求の当否・相当賃料額の判断に当たっては、契約当事者が賃料額決定の要素とした事情その他諸般の事情を総合的に考慮すべきであり、本件契約において賃料額が決定されるに至った経緯や賃料自動増額特約が付されるに至った事情、とりわけ、約定賃料額と当時の近傍同種の建物の賃料相場との関係(賃料相場との乖離の有無、程度等)、転貸事業における収支予測にかかわる事情(賃料の転貸収入に占める割合の推移の見通しについての当事者の認識等)、敷金及び銀行借入金の返済の予定にかかわる事情等をも十分に考慮すべきであるとしたうえで、本件賃料減額請求は可能であると判断した。

不動産管理信託

平成18年の信託法の改正により、信託制度が大変利用しやすくなりました。不動産管理信託を利用することにより、サブリース契約に比べ、安心して不動産の管理を委託することができます。また、遺言に比べ、相続争いの防止にも役立ちます。もっとも、不動産管理信託は、不動産の名義を委託者から受託者に移転することから、強い信頼関係が必要です。また、不動産管理信託には、以下のような機能があります。

意思凍結機能

信託設定当時における委託者の意思を、意思能力喪失や死亡という個人的事情の変化が委託者に生じたとしても、設定当時の契約どおり長期間に亘って維持するという機能です。

受益者連続機能

委託者によって設定された信託目的を長期間固定しつつ、信託受益権を複数の受益者に連続して帰属させるという機能です。この機能により、世代間にわたる受益権の承継ができる「跡継ぎ遺贈型の受益者連続信託」が可能になります。

倒産隔離機能

信託が設定されると、信託財産の所有権が、委託者(不動産オーナー)から受託者(信託会社)に移転するので、委託者が破産しても、委託者の債権者は、信託財産に差押等をすることができません。また、受託者は管理権者に過ぎないため、受託者が倒産しても受託者の債権者は受託財産に対し差押等をすることができません。したがって、委託者・受託者の破産(倒産)によって、受益者の利益が害されるリスクが減少します。

不動産問題 、賃貸・借地借家トラブルに関する法律相談は当事務所まで

法律相談における一定の質の確保のため、有料(基本は30分5000円+消費税)での法律相談とさせて頂いております。トラブルが心配な方、お悩みの方は、安心してご相談いただけます。まずはご相談にお越しいただくことが解決の第一歩です。ご相談の上、事案に応じて明朗、適切な弁護士費用をお見積りいたします。詳しくは下記「ご相談の流れ」をご覧ください。

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投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
事務所概要
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