消費税増税について
1.消費税増税実施日と不動産の関係
(1)平成25年9月30日までに建物新築等の請負契約を締結した場合
→完成・引渡が平成26年4月1日以降でも、消費税率は5%(特例措置)。
(2)平成26年3月31日までに新築建売物件の売買契約を締結した場合
→決済(登記・引渡)が平成26年3月31日までなら5%
同上が平成26年4月1日以降なら8%
2.不動産における課税対象行為
(3)建物新築等の請負契約や、新築建売物件の売買契約を締結した場合
の課税条件は、いずれも、請負人、売主とも「事業者」であることが前提。
■ 「事業者が事業として行う国内取引」が課税される。
⇒「事業として行う国内取引」=対価を得て行われる資産の譲渡等を反復・
継続かつ独立して遂行すること=取引のほとんどが課税対象になる。
■ 「事業者」=個人事業者(事業を行う個人)と法人。
⇒法人は全て「事業として」になるが、個人事業者は、消費者の立場で行う
資産の譲渡は「事業として」には含まれない。
※個人事業主が消費者の立場で、建物新築等の請負契約や、新築建売物件の売買契約を締結しても課税されない。
(4)個人事業主が消費者の立場で行う行為は課税されない。
例1) 請負契約が、全く異分野の請負(通常反復・継続されることはないであろうから)を偶々、縁故で請けたような場合
例2) 売買契約が、不動産事業者でも自宅として使用していた建物の売却の場合
例3) 不動産事業とは縁遠い事業者によりなされた売買でも、その対象が本来の事業用に供されていた事務所、店舗、賃貸住宅等を売却した場合には課税される場合がある。
(5)個人事業主または法人が事業者の立場で行う取引は、必ず課税される。
注意0)自宅の売却は通常、事業として(事業者の立場で)行うものではないので、消費税の課税事業者でも課税されない。
注意1)新築でない中古の建物の売買であっても課税される。
注意2)土地(含:借地権等)の売買・賃貸については売主・貸主が誰かに関係なく一切課税されない(土地は「消費」されないから)。
注意3)貸主が事業として行っても、後述のとおり、建物のうち住宅の貸付については貸主が誰かに関係なく一切課税されない(社会政策的な配慮(住宅の借家人はただでさえ家賃の支払が大変)から。
消費税増税と借家関係
1.消費税が課税される借家関係
(1) 住宅を貸す場合
■ 原則:非課税。
例外:住宅でも1ヶ月未満の貸付や別荘の家賃は課税対象に。
■ 家賃=礼金、更新料、敷金及び保証金等で返還しない部分、住宅部分 にかかる共益費等も含まれる。
(2) 非住宅を貸す場合
■ 原則:課税。
例外:特になし。
■ 事務所や店舗等の貸付は、貸主が個人で(不動産賃貸業以外には)
非事業者でも、賃貸すること自体が「不動産賃貸業」という事業と
判断される。
2.5%→8%消費税アップを交渉にどう生かすか?
(1) 原則:便乗値上げは許されない。
例外1)事業全体で適正な転嫁をしている場合…
当該事業者が事業全体として税率変更に見合った適正な転嫁をしていれば便乗値上げには該たらない。
例外2)免税事業者が仕入価格に含まれる税額を転嫁する場合…
免税事業者であっても、その仕入価格には消費税が含まれていることから、これに相当する額を価格に転嫁することは便乗値上げに該たらない
(2) 家賃の値上げ交渉にどう繋げるか?
■ 住宅の家賃は、消費税は非課税。
■ 事務所や店舗等の家賃に限定されるが、例えば、5%→8%への3%の値上げの際に、適正家賃までの値上げ要求を盛り込むのも一つの方法。
値上げ要求の例
「今回、4月1日からの消費税アップに伴い、家賃にかかる消費税も8%にアップすることになりました。
(本来ならば消費税8%込で○○○○円になるところ)
ところで、本件家賃については従前より相場よりもかなり低額で頂いて参りました。
つきましては、今回の消費税アップを機にという訳ではありませんが、今後の家賃を(消費税込で例えば10%を加えた)○○○○円とさせて頂きたく存じます。」など。
→これは、実質的には2%の値上げに他ならない。しかし、上記(1)例外1の場合には便乗値上げにはならず。
あとは、この実質的な2%の値上げが適正か否か、後述する賃料増額請求が認められるかの問題に。
(3) 問題のある借家人の立退にどう繋げるか?
■ 上記(1)例外1の活用を考える
例えば、同じような借家人が多数いる場合に、問題のある借家人にだけ消費税の値上げ分を集中させるような転嫁の仕方もあり得るかもしれない。
⇒鉄道会社の運賃等と異なり、借家契約における家賃は月額である等、各金額も大きく、各契約の個別性・独立性も高いことから、一概には採れる方法ではないものと思料される。例えば時間や日にち単位でのレンタルルーム等の場合にのみ使える発想ではないか?
■ 消費税の値上げとリンクさせるか否かには関係なく、やはり、後述する賃料増額請求等をぶつけることを考えてみる。
■ 問題ある借家人対策としては、更に、①解除②正当事由を伴う解約申入または更新拒絶により借家契約を終了させて立退を求めることが考えられる。具体的方法等は借地の場合も併せて後述する。
消費税増税と借地関係
1.消費税は借地関係では通常は課税されない。
(1) 原則:対象が土地なので、そもそも消費税は課税されない。
(2) 例外
■ 貸付期間が1ヶ月に満たない一時的な貸付
■ (その土地のための)施設の利用に伴う貸付
例1)設備(フェンス・コンクリートやアスファルト敷)のある駐車場の使用料
例2)建物、テニスコート等スポーツや遊戯場等の施設の利用に伴う貸付の対価
2.消費税アップを生かせられる交渉があるか?
(1) 上記1(2)の例外は、むしろ消費税が課税される上記借家に準じて考えればよい。
(2)借地ではなく借家への変更を。変更できるなら変更後の家賃はむしろ相場よりも低額でよい。
敷地使用について従来、借地契約で来ていたが、借家の敷地利用権として認めたとしても問題がないのであれば、例えば今回を機に借家への変更を要望する。但し、地主が家主になるために、当然、従前の借地人から建物は買い取ってやらなくてはならない。「今般、~~の事情により、貴殿(借地人)所有の下記建物を買い取ることを要望致します。但し、買い取った後も、貴殿が借家人として(消費税であるため上記のとおり)事務所や店舗として)利し続けて頂くことは一向に構いません。ちなみに、4月1日から消費税が8%に値上げされ、家賃を頂く場合には、従前の家賃相当額に8%を乗じた消費税も一緒に頂かなくてはいけませんが、今回の当方からの申し出に応じて頂けた場合に限り、家賃に課税される消費税は(例えば)3%に特別に減額致します(結局、差額5%は実質値下げに他ならない)(あるいは、これ以外にも、家賃本体の相当な減額をうたってもよい)。これを機会に是非とも前向きにご検討下さい。」など。
問題のある賃借人に対する対抗策
1.賃料増額請求等
(1) 賃貸人からの一方的意思表示(口頭でもよい)により増額請求できる。
(2) 増額が認められるのは増額請求の意思表示が賃借人に到達した時から。
(3) (増額0円も含めて)いくらの増額が認められるかは、争いになった場合には、最終的には裁判所が判断した金額による。
(4)争いになった場合には、いきなり訴訟ではなく、まずは調停の申立てが必要(調停前置)
(5)増額後の賃料を受領した後、仮に争いになり、受領賃料が多過ぎた場合には、最終的に認められた適正賃料との差額に、受領時から年10%の利息(単利)を乗せて賃借人に返金してやる必要あり。
(6)争いになった場合、鑑定評価をするか否か、鑑定人は誰とし、どのような鑑定事項とし、鑑定方法はどうするか、どのタイミングでどんな鑑定結果を相手方や裁判所に伝えるか、など専門的な知識や経験を要する。
→交渉や調停段階から、専門家である当職ら「不動産に強い弁護士」に依頼することをお勧めします。
(7) 定期借家契約における賃料不変更特約の活用
2.解除による賃貸借契約の終了
(1) 解除原因
1)賃料の不払→少し前までは延滞期間6か月程度が要求されていた。
⇒最近は3か月程度に短縮されつつある。
⇒特に事業用賃貸借で賃料が高額な場合は、要求される延滞期間が長いと賃貸人に酷だから。
⇒単純な滞納額だけでなく、今後の支払可能性等を重視すべき。
⇒基本は履行を催告した上で履行されなければ解除。ただし、不履行額が余りに大きな場合で賃借人が資力に乏しい場合には、無催告解除もあり得る。
2)用法遵守義務違反→単純な契約使用目的違反のケース
(住居⇔事務所⇔飲食店等)
⇒騒音や振動、異臭等近所への迷惑行為の場合…受忍限度論
⇒その他、用法を巡る問題…cf.ペット飼育の可否等
⇒催告解除が原則だが、履行可能性低ければ無催告解除も。
3)無断転貸借や賃借権の無断譲渡→親族への「また貸し」等…身分関係の濃淡は?
⇒主法人の場合に資本構成、組織内部、名称の変更等→実質的な経営者は誰か?役員の個人的な信用により賃貸した場合等
4)その他、賃借人の債務不履行責任
(2) 信頼関係破壊の法理→賃料不払や用法違反等の場合に解除を制限する法理論。
■ 元々は、継続的契約関係において継続の肯否を決定。
■ 賃借人側から解除への対抗措置として濫用のきらいあり。
(3) 背信行為の理論→無断転貸や無断譲渡等の場合に解除を制限する法理論。
■ 賃貸借契約の属人的な性格に着目してのアプローチ
■ 結果、属人的には問題なしで解除否定されるケースあり。
(4) 解除が権利濫用や信義則違反になる場合
■ 借家でもそうだが、特に借地の場合には、賃借人が失うものが大きいため、判例は更にこれらの法理論を用いてまで解除を否定するケースがある。
(5)以上の解除は、認められれば問題ある賃借人を、いわば無償で退去させることができるわけだから、賃貸人にとっては非常にメリットがある手段。
■どのような場合に認められるのか、当該具体的ケースにおいてはどこまで認められるのか、認められるためには、具体的にどのような要件を充たしていけばよいのか、判断はそう簡単ではありません。
→早目に専門家である当職ら「不動産に強い弁護士」に依頼することをお勧めします。
3.正当事由を伴う解約申入または更新拒絶
(1) 正当事由とは?
■上記の解除権が否定される場合でも、正当事由が備わることで解約申入や更新拒絶により賃貸借契約を終了することができる場合がある。
■どのような場合に認められるのか、当該具体的ケースにおいてはどこまで認められるのか、認められるためには、具体的にどのような要件を充たしていけばよいのか、判断はそう簡単ではありません。
→早目に専門家である当職ら「不動産に強い弁護士」に依頼することをお勧めします。
(2) 立退料の活用・相場等
■ 上記(1)の正当事由の補完事実として認められている。
■ ごく簡単に言えば、各具体的な正当事由を基礎付ける事実以外に立退料の支払ないし弁済提供があれば、全体で見て正当事由が備わった場合同様に解約申入等が認められる、ということ
■ どのような場合に認められるのか、当該具体的ケースにおいてはいくらで 認められるのか、認められるためには、具体的にどのような要件を充たしていけばよいのか、判断はそう簡単ではありません。
→早目に専門家である当職ら「不動産に強い弁護士」に依頼することをお勧めします。
まとめ
1.消費税について
■ 支払うときは5%にこだわること
■ 受領するときは8%にこだわること
2.借家関係について
■ いたずらに契約関係の解消にこだわらず、高い家賃を受領して利回りをよくするのも解決策の一つと思われます。
3.借地関係について
■ まだまだ地代が非常に低廉に抑えられていることに鑑みれば、少々の費用・時間・手間を要しても、契約関係の解消に挑んでみるのも価値があることと思われます。
投稿者プロフィール
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弁護士 鈴木軌士
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。