不動産トラブルに強い弁護士が教える「行政代執行」とは

一般的な「行政代執行」の概要 

1 行政代執行とは

抽象的には、「行政が自己の権利を実力で実現させる手段の一つ」
具体的には、行政上の強制執行手段の一つとして、民事上の強制執行と違い、行政権が裁判所を介在させずに上記「権利を」「実現させる」手段の一つ
←そもそも、裁判所を介在させない行政上の強制執行は、自力救済禁止の原則の例外として行政権に認められた特権である。
法律(法律の委任に基づく命令、規則及び条例を含む。以下、同じ)により直接に命じられ、または法律に基づき行政庁により命ぜられた行為(他人が代わってなすことのできる行為に限る)について義務者がこれを履行しない場合、他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるときは、当該行政庁は、自ら義務者のなすべき行為をなし、または第三者をしてこれをなさしめ、その費用を義務者から徴収することができる(行政代執行法2条)。
戦前の行政執行法が行政代執行法の施行(昭和23年6月14日)により廃止されたことにより、行政執行法により認められていた行政上の義務の履行確保手段である①行政代執行(※1)②執行罰(※2)③直接強制(※3)のうち①の行政代執行のみが残された。

※1①行政代執行と③直接強制の違い

A:対象となる義務、B:手段選択の順番、C:費用の強制徴収の可否、D:義務の実現の仕方の4点において違いがある。
A:対象となる義務
=①行政代執行…代替的作為義務に関する手段
③直接強制…代替的作為義務、非代替的作為義務、不作為義務のいずれにも適用可能な手段
B:手段選択の順番=①行政代執行…まずはこれで、という第一次的手段
③直接強制…①行政代執行ができない場合に初めて可能
C:費用の強制徴収の可否=①行政代執行…相手方からの費用徴収が前提
③直接強制…原則として費用徴収は行わない。
D:義務の実現の仕方=①行政代執行…義務者の意思を忖度し、義務者の立場を尊重し、義務者の財産権に配慮する、というような執行方法を採る。
③直接強制…義務者の意思を実力で曲げるものであり、執行において、あくまでも「違法な状態を除去する」という行政の意思が実現されるということを意味する(なお、個人の基本的人権を最大限に尊重すべき新憲法の下では直接強制は極めて限定的にしか規定されていない。Cf.成田国際空港の安全確保に関する緊急措置法(成田新法))。

※2 非代替的作為義務または不作為義務についての行政執行手段。例:過料(廃止前の行政執行法5条1項)。なお、現行法では砂防法36条のみ。

※3 行政執行手段のうち、最も強力なもの。非代替的作為義務または不作為義務についても認められる。現行法では学校施設確保令21条、成田新法3条等。

⇒非代替的作為義務または不作為義務の不履行→上記の僅かな例を除いて、行政上の強制執行はできない。

 

2 行政代執行の要件

 

(1) 行政代執行を「したがらない」行政実務

←執行に人員を割くことが難しい。
←代執行に慣れていないため代執行のやり方がわからない。

←処分の相手方に問題がある。

←代執行費用の回収が見込めない。

←より「ソフト」な手段である行政指導によれば足りると考えられる場合も多い等、現場の様々な声から。
⇔違法な状態を長期間にわたって放置することが許されるわけではない。
⇒代執行のやり方を知らない等の理由から代執行によることを検討もしないで行政指導を繰り返すこと≠代執行も可能な能力も備えつつ行政指導で対処すること⇒権力の濫用は戒めなければいけないが、行政権限を行使すべき状況にあるのに権限を行使できない、ないし行使しないのもよくない。
 

(2) 行政代執行法2条の要件

① 義務者に義務の不履行があることが前提→比例原則の観点から「義務の不履行」の程度が問題とされている=とるに足らないような「義務の不履行」に代執行という権力的な手段が発動されることは釣り合いが取れていない。
② 「他の手段によってその履行を確保することが困難」→「他の手段」に行政指導も入るか?⇒入る。むしろ行政指導によって改善見込があるのに代執行という手段を敢えて採れば比例原則違反が問われる。
③ 「その不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」→代執行の前提となる「義務を課す」という行政行為は、個別の法律に基づき、その個別の法律の定める要件に従って発せられている⇒その個別の法律の趣旨・目的、どのような法益が問題とされているのか、「義務を課す」行政行為を発する際の要件規定はどうなっているか等を考慮して「その不履行を放置することが著しく公益に反する」か否かが判断される。=不履行の放置が「著しい」か否かという程度の問題は、代執行の「必要性」の程度の問題として置き換えられる。→代執行の「必要性」が高ければ「その不履行を放置することが著しく公益に反する」ことになる。
Cf.【東京高判昭和42年10月26日高民20巻5号458頁】
「控訴人は、被控訴人の違反増築により日照通風の妨害を受けているが、特定行政庁たる東京都知事は右除却命令の実効を期するため、行政代執行による代執行の措置をとらなければならないのに、これをしなかったから、控訴人に対し不作為による不法行為責任を負うべきであるという。しかし行政代執行法第2条による代執行は、「他の手段によってその履行を確保することが困難であり、かつその不履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」に限りこれを行いうるもので、違反建築については、たとえば消防、防災上きわめて危険であると認められるような事案は別として、本件のように隣家の日照通風を妨げたというだけの場合についてまで、これを前述の代執行の要件にあたると見るのはかなり疑問である」

 

(3) 代執行と裁量権

代執行をするか、しないか、という判断は、行政庁に委ねられている(=「効果裁量」が認められている)。
Cf.前掲の【東京高判昭和42年10月26日高民20巻5号458頁】
裁量権について「元来行政上の強制執行は国民の私権に深くかかわりを持つものであるから、たとえ(これをなすべき)法律上の要件を具備したからといって、行政庁が常に必ずこれをなすべき義務と責任を負うものということはできない。けだし、この場合は法規によって保護さるべき公、私法上の法益と執行によって不利益を受くべき特定人の法益とが対立しているのであり、その大小、軽重及び強制力行使の時期あるいは他に対立解消の方法がないかどうか等は個々の条件につき具体的に考慮、検討することを要し、しかもその考慮にあたっては、関係法規の正確、適切な解釈、運用が不可欠であることは当然ながら、更にその時点における行政全般の時間的及び場所的要請を無視することができず、その限りにおいて当該行政庁の合理的判断に基づく自由裁量に委ねることが妥当と考えられる。」

 

(4) 「法律…により直接に命ぜられ、または法理に基づき行政庁により命ぜられた行為」(2条)とは?

① 法律により直接に命じられた義務(A)または
② 法律に基づき行政庁より命じられた義務(B) である。
Aの例…火薬類取締法22条(※1)のような比較的限られた場合
※1=「製造業者もしくは販売業者が……許可の取消その他の事由により営業を廃止した場合……において、なお火薬類の残量があるときは、遅滞なくその火薬類を譲り渡し、または廃棄しなければならない」→このように、法令により直接に具体的特定的な義務を課すことは比較的少ない。
Bの例…行政処分に基づく義務
③ 上記AにもBにも当たらない義務は行政代執行の対象にはならない(※2)。
※2【大阪高決昭和40年10月5日行集16巻10号1756頁】
 市長Yが市職員組合Xに市庁舎の一部を組合事務所として使用することを許可していたが、これを取り消す旨の処分(講学上の撤回)をしたところ、Xが退去しなかったため、YがXに対し、組合事務所内の存置物件を搬出するよう、行政代執行法3条に基づく戒告をした事案→「本件庁舎の管理権者であるYが、Xに対する庁舎の使用許可を取消すときは、庁舎の使用関係はこれによって終了し、Yが管理権に基づいてXに対し庁舎の明渡ないし立退きを求めることができ、Xはこれに応ずべき義務あることはいうまでもないが、右義務は行政代執行によってその履行の確保が許される行政上の義務ではない」なぜなら「本件の如き庁舎使用許可取消処分については、処分があれば、庁舎の明渡ないし立退きをなすべき旨を直接命じた法律の規定はない。また右使用許可取消処分は単に庁舎の使用関係を終了せしめるだけで、庁舎の明渡ないしは立退きを命じたものでもないし、またこれを命じうる権限を与えた法律の規定もないからである。」⇒このような場合の履行強制→市を原告とする民事訴訟または公法上の当事者訴訟によることに。

(5) 「他人が代わってなすことのできる行為に限る」

代執行の対象=代替的作為義務に限られる。→不作為義務(例:営業停止処分に従う義務)=代執行の対象にならない。
作為義務であっても非代替的なもの(例:芸術家による作品の制作等)は代執行の対象にならない。

①不作為義務の作為義務への転換

行政法規で一定の行為(例:無許可での工作物の設置)を禁止しても、当該禁止に違反しただけでは、不作為義務に違反しただけにすぎない→代執行の対象とならない⇒代執行の対象とするためには、当該不作為義務違反に対し、作為(例:無許可で設置された工作物の除却)を命ずる規定を置く=不作為義務→代替的作為義務への転換が必要(道路法32・71条、河川法26・75条、都市公園法6・27条等)→【重要】条例において一定の行為の禁止を定める場合も同じなので、代執行の対象とする際には注意が必要。

②複数の履行方法がある義務・履行に専門技術性を要する義務

例:建築基準法の建ぺい率に関する制限に違反した建築物→適法な建ぺい率となるよう是正することが命じられ、その義務を履行する技術的方法が複数ある場合→当該義務は代替可能性を欠くことにはならない。⇒行政庁は、最も合理的かつ義務者の利益を害することが少ないと考えられる技術的方法において代執行を行い得る。…ある義務の履行について複数の履行方法があり、かつ、その履行に専門技術性を要する場合でも行政庁自らまたは他の専門家等を用いることにより義務者が自ら行う場合と同様に目的を達し得るときは、当該義務は代執行の対象となり得る。
例:公害の発生源である工場施設の改善命令等についても同様。
⇔但し、改善命令については、上記建ぺい率違反の是正の例に比べてより多様かつ技術的に困難なものがあり得る→改善命令等によって課される義務自体が、名宛人が履行可能な程度に特定されていることが前提になる。

③明渡義務と代執行

土地・建物の明渡義務=【重要】非代替的作為義務→それ自体の代執行はできないはず⇔当該土地上または建物内に存する物件の除却義務は代替的作為義務であって代執行が可能である→当該物件の除却の代執行により、事実上、当該土地・建物の明渡の強制執行が可能になるのではないか?
市長Yが市職員組合Xに対し、組合事務所内の存置物件搬出の代執行を行い得るかが問題となった事案=前掲【大阪高決昭和40年10月5日】→代執行を否定した。←「YがXに対してなした行政代執行の前提たる戒告は、……庁舎内にある相手方組合事務所の存置物件の搬出についてであって、組合事務所の明渡ないしは立退きについてではないが、組合事務所存置物件の搬出は組合事務所の明渡ないしは立退義務の履行に伴う必然的な行為であり、それ自体独立した義務内容をなすものでは……ない……。⇒……組合事務所存置物件の搬出のみを取り上げ、これが物件の搬出という面では代替的な作為義務に属することの故に代執行の対象とするが如きことが許されないのは、いうまでもない」
Cf.【大阪地判平成21年3月25日判自324号10頁】=都市公園にテントを設置し、そこで生活している人(ホームレス)に対して、当該公園を設置管理している市長がテントの除却命令を行い、行政代執行によって当該テントを除却した事案→代執行を適法とした。←「本件除却命令は、各原告に対し、同人らが本件各公園内に設置する物件(本件テント等)を除却する義務を賦課することをその法的効果とする処分にすぎず、それを超えて、本件各公園の敷地である土地の明渡を命じる趣旨までをも含むものではない」「本件テント等の除却によって本件テント等の設置場所ないしその周辺場所に対する原告らの事実上の排他的支配状態が失われることとなるとしても、それは、本件テント等の除却によって生じる事実上の効果にすぎないのであって、これをもって本件テント等の除却命令の法的効果の実現であるということはできない」⇔ホームレスによる占有の有無を明らかにすべきであり、占有が認められるのであれば、テントの除却=占有解除(明渡)→行政代執行によることはできない(公園管理者は明渡請求訴訟を提起→確定判決に基づいて強制執行を行うべきである)との指摘あり。
Cf.土地収用法102条の2第2項前段=「前条の場合(明渡裁決があった場合)において、土地もしくは物件を引き渡し、または物件を移転すべき者がその義務を履行しないとき、履行しても充分でないとき、または履行しても明渡の期限までに完了する見込みがないときは、都道府県知事は、起業者の請求により、行政代執行法……の定めるところに従い、自ら義務者のなすべき行為をし、または第三者をしてこれをさせることができる」と規定しており、代替的作為義務である物件の移転義務のみならず、非代替的作為義務である土地・物件の引渡義務(明渡義務)についても、行政代執行法の定める執行方法を認めているように読める→この規定の解釈については、直接強制説(「直接強制」を明文により認めたものとするもの)、空文説(逆に「直接強制」は現在は認められていないことから「空文」にすぎないものとするもの)、存置物件撤去説(存置物件の撤去という代替的作為義務についてのみ定めたものとするもの)、意思表示代執行説(義務者の意思表示についてだけ代執行を行うものとするもの)が対立。

 

(6) 「他の手段によってその履行を確保することが困難」であるとき(補充性)

→仮にこの規定がなくとも行政活動一般に妥当する比例原則の適用はあるので、特別に定められた意義は見い出しにくい、とも。

「他の手段」に行政罰(行政刑罰及び行政上の秩序罰)が含まれるか?→含まれないと解される。←行政罰の存在は、間接的に義務履行確保の機能を有し得るとしても、直接には制裁≠義務履行確保手段

   行政指導(=自発的な義務履行を求めるもの)は含まれ得る。
 ⇔行政機関にとって手続的負担の少ない行政指導で義務履行を確保できるにもかかわらず、敢えて行政指導を行わずに手続的負担の重い代執行を選択することは通常考えにくい→行政指導の努力に欠けるところがあったという理由から代執行の要件を欠くとされることは実際上、ほとんどない。
 義務者の義務履行を容易にするための便宜等の提供=場合によっては「他の手段」に含まれる。ホームレスのテント除却の代執行に係る前掲大阪地判平成21年3月25日は「被告は、原告らに対し、自立支援センター等への入所を促し、あるいは高齢または病弱な者に対しては生活保護に関して区役所の窓口等への取次をするなどしながら、本件テント等の任意の撤去を求め続け」たことを認定して、補充性要件を充たすとしている。
 ホームレス自立支援法11条も考慮すると、河川や都市公園等に居住のためのテント等の工作物を設置しているホームレスに対して、施設管理者が住居の斡旋や提供等の自立支援策との連携を図りつつ対応することは、「他の手段」に当たり得ると解される。

 

(7) 「その履行を放置することが著しく公益に反すると認められるとき」

義務を課する場合に要求される公益上の要請よりも一層大きい公益上の必要が代執行に際して要求される←義務を課することとそれを強制的に実現することとは、自由の侵害において異質的であり、代執行は、単なる義務の賦課よりも一層由々しい自由の侵害であるから代執行を極力控えるために。⇒義務の不履行は全て公益に反するが、その公益違反が特に著しい場合に初めて代執行を許すという趣旨=比例原則の表れ→実際には、義務賦課処分自体が、公益違反に対して直ちに行われるとは限らない→義務賦課処分がなされた時点で既に著しい公益違反が生じていることも充分あり得る。→このような場合には、義務賦課処分の違反によって直ちに代執行における公益性の要件が充足されると考えられる。
 ⇒「著しく公益に反する」か否かの判断→行政庁に裁量権が認められると解される→代執行の司法審査において公益性要件は行政庁にとっての大きな障害にはなりにくい→実際、裁判例では、公益性要件の充足が比較的容易に認められる傾向にあり、公益性要件の不充足を理由に代執行を違法とした裁判例は見当たらない。
 補充性要件及び公益性要件=いずれも行政代執行法上明文で規定されている→行政実務上、代執行に際して、必ず要件充足の有無が検討される(訴訟に持ち込まれた場合には、要件充足の有無が審査されることが意識される)→不文の一般原則である比例原則が適用される場合よりも実際上、代執行を抑制する方向に作用する可能性あり+これらの要件の意味が明確でないことから代執行を過度に抑制する結果になっているとの指摘もあり。⇔公益性要件が代執行を行おうとする際の妨げになっているという面+他の要因で行政機関が代執行を行いたくない場合に「代執行の不実施の理由付けに用いられている可能性」や「行政にとっては着心地の良い『隠れ蓑』になっている」という面も指摘されている。
 補充性要件&公益性要件には上記のような問題点あり→個別法でこれらの要件を課さないこととして代執行の促進を意図した例あり=建築基準法9条12項、土地収用法102条の2第2項(前掲)、都市再開発法98条2項等)⇔必ずしも初期の効果を上げていない。
Cf.空家対策特別措置法14条9項=補充性要件&公益性要件を課さない緩和代執行を規定。

 

(8) 個別法による略式代執行

 除却等の措置を命じられるべき者を過失がなくて確知することが出来ない場合→行政庁は、その者の負担において、その措置を自ら行い、またはその命じた者もしくは委任した者に行わせることができる(=略式代執行)を個別法で規定している例あり(屋外広告物法7条2項、河川法75条3項、道路法71条3項、廃棄物処理法19条の8第1項2号、空家対策特別措置法14条10項等)。
→この場合は、相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨&その期限までにその措置を行わないときは代執行を行う旨を、予め公告しなければならないものとされている。

 

3 行政代執行の具体的手法

(1)手続(代執行の戒告・通知)

①戒告(行政代執行法3条1項)に対する抗告訴訟は可能か?→戒告が、相手方の既に発生している履行義務に新たな義務を付加するものではないことから問題に。→「代執行の前提要件として行政代執行手続の一環をなすとともに、代執行の行われることをほぼ確実に示す表示でもある。→代執行の段階に入れば多くの場合直ちに執行は終了し、救済の実を挙げえない点から→戒告は後に続く代執行と一体的な行為であり、「公権力の行使」に当たる→これに対する抗告訴訟を許すべき(前掲大阪高決昭和40年10月5日)。
 ⇒では、戒告に続く代執行の差止訴訟(平成16年改正行政事件訴訟法3条7項)は可能か?→既に戒告の処分性が上記決定を含む多くの裁判例で認められている(但し、最高裁判例はまだ)こと&救済要件として、取消訴訟の方が差止訴訟よりも訴訟要件を充たし易くより手厚いと考えられること→戒告の処分性を認める解釈を維持すべき(東京地判昭和41年10月5日行集17巻10号1155頁)。
 ⇒戒告の処分性を認めた場合、行政手続法第3章に定める不利益処分手続(意見陳述手続等)が適用されるか?
→結論:適用されない←戒告=「事実上の行為及び事実上の行為をするにあたりその範囲、時期等を明らかにするために法令上必要とされている手続としての処分」に該当。

(2) 手続(代執行の実行)

 
①代執行のために現場に派遣される執行責任者の証票携帯・呈示については規定あり(行政代執行法4条)。→これ以外に代執行の実行に関する具体的規定なし。→そのため、次の②③が問題に。
 
②代執行に対する抵抗の排除
義務者が代執行に物理的に抵抗した場合の排除について→行政代執行法は規定していない。⇔「代執行は義務内容の強制的実現をはかるための強制執行手段として認められるものであるから、その実効性の確保のために、代執行の内容たる事実行為の遂行に対する抵抗を排除するためにやむを得ない最少限度で実力を用いることは、代執行に随伴する機能として認められる」(学説)≒「実定法上行政代執行が行政上の義務履行確保のための原則的な手段とされた上、他の手段によっては履行を確保することが困難な場合であることがその要件として規定されていることをも併せ考えると、その根拠法令である行政代執行法は、民事執行法6条のような明文の規定を待つまでもなく、代執行に際し抵抗を受けるときは、代執行の目的を円滑かつ確実に実現するために必要最小限度の範囲内で、自ら威力を用い、または警察官の援助を求めるなどして、実力行使に及ぶことを許容する趣旨のものと解される」(前掲大阪地判平成21年3月25日)
※義務者の抵抗が予想される場合→警察官に同道してもらい、不退去罪(刑法130条後段)、公務執行妨害罪(同法95条1項)で現行犯逮捕をしてもらう方法が考えられる。
⇔いずれの方法も、行政代執行法に規定がないために実務上やむを得ず採られている便法である⇒本来は、必要最小限の実力行使について要件及び手続を明確に法定すべき!
 
③代執行に伴う物件の保管
代執行によって移動・撤去した物件の保管→行政代執行法に定めなし。
「代執行により移動・撤去された動産等を保管する行為については、本来、行政代執行の作用に含まれるものではないけれども、行政庁には上記動産等を義務者本人に返還すべき義務があると考えられるから、当該行政庁は、代執行開始前または終了後に、義務者本人に直ちにそれを引き取るべき旨を通知すれば、原則として保管義務を免れる一方、執行責任者が代執行終了後暫時上記動産等を占有し、所有者自ら直ちに引き取りができない場合のような特段の事情がある場合には、当該行政庁には、事務管理者として要求される程度の注意義務をもってそれを保管・管理する義務があると解するのが相当である(さいたま地判平成16年3月17日訟月51巻6号1409頁)。
 ⇔当該行政庁が本件代執行後に義務者本人に当該動産等を引き取るべき旨を通知し、相当期間が経過した後は、行政庁は保管・管理義務を免れると解される(民法700条参照)。←代執行は、義務者が指示命令、監督処分、戒告及び代執行令により命じられた原状回復を履行しない結果行われるものであるから、義務者において引き取りに応じず任意放置している場合についてまで、なお行政庁が一定の保管・管理責任を負うとすることは明らかに不合理と考えられるから。
 

4 行政代執行の効果

(1)代執行の実行に伴う諸問題→上記(2)の手続①②③に記載したとおり。
(2)費用の徴収
①代執行費用の納付命令
代執行=義務者が自分で行うべきものを行政庁が代わりに行うもの→「代執行に要した費用」=義務者が自分で行えばかかる費用→含まれる。⇔義務者が自分で行う場合でも行政が負担すべき費用→含まれない。
…代執行に伴って動産等の移動及び一時保管が必要になった場合→当該動産等の移動及び合理的期間内の保管に要した費用→「代執行に要した費用」に含まれると解すべき⇔合理的期間を超える保管義務はそもそも認められないことは上記(2)③のとおり。

※どのような代執行を行うべきかの調査に要した費用も「代執行に要した費用」に含まれるか?→廃棄物処理法に基づく措置命令の後、市が行った措置工事の方法についての調査を事務管理と認めて、民事訴訟手続による費用償還請求を認めた(名古屋地岡崎支判平成20年6月4日判時1996号60頁及びその控訴審判決である名古屋高判平成20年6月4日判時2011号120頁)←代執行の方法についての調査費用が行政代執行法5条・6条の規定により強制徴収できる費用には含まれないという立場を前提としている⇔代執行を行うための調査費用=義務者本人が行う場合にも必要→「代執行に要した費用」に含まれる、という見解も。

②代執行費用の徴収
代執行に要する費用→「実際に要した費用の額」の納付を命じなければならない→代執行の完了後に請求することに。
本条=行政上の強制徴収⇔民事上の強制執行の手段を用いることはできないか?→できない(←最大判昭和41年2月23日民集20巻2号320頁の考え方(=いわゆるバイパス理論))。
 ⇒【重要】代執行の費用請求権を保全するために、義務者の財産に対して、民事保全法上の仮差押をすることはできない。
 民事上の代替執行=執行前に執行裁判所への申立てにより、債務者に対し予め債権者に必要な費用を支払うべき旨を命じることができる(民事執行法171条4項)⇔行政代執行については、そのような規定がない。
 ⇒【重要】代執行の完了によって債権額が確定したときには、義務者たる法人の倒産や所有財産の第三者への移転等→費用の回収ができなくなる可能性あり→代執行の利用を抑制する一因にも。
 ⇒【重要】この問題に対する実務上の工夫
 廃棄物処理法19条の4第1項に基づき行った原状回復の措置命令が履行されないため、県が事務管理(民法697条)として汚染除去工事を行うこととし、その費用を「本人のために有益な費用」(民法702条)と構成して、将来の給付の訴え(民訴法135条)により予め請求することとし、義務者(債務者)の支払を確保するために民事保全法に基づき仮差押の申立てをした事案→これを認めた裁判例(盛岡地決平成13年2月23日判例集未搭載)
 ⇔同様の請求(但し、措置命令が出されておらず、廃棄物処理法19条の5に基づく改善命令のみが出されていた事案)について、将来の代執行の費用の償還を求めるものと判断した上で、行政上の強制徴収が認められているから民事手続によることは許されないとして、仮差押命令の申立てを不適法とした裁判例(福岡高決平成17年8月22日判時1933号91頁)
 ⇒最高裁判例の採るバイパス理論は見直されるべき←行政上の強制執行が実際には民事執行よりも簡易迅速で実効的な手段とはなっていないことに照らすと。
 ⇒この問題に対応する立法論=代執行費用の事前徴収制度(cf.ドイツの制度)の導入が提案されている。
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