動産の処分に係る事務手続き
◯概要
動産に関する法、行政代執行法の位置づけはなく、その取り扱いは明確にはなっていない。動産の種類、状態については、物件によって様々なケースが考えられ、一律な取り扱いを定めることが難しいことから、一般的に想定される動産の取り扱いを示し、後日、新たな知見が出てきた場合はそれを取り入れることとする。
具体的な動産の取り扱いに関する所有者等への対応等については、法に基づく協議会や空き家等審議会で専門家に意見聴取を行うことが考えられる。
◯動産調査
立入調査の結果、特定空家等に動産がある場合、リスト化を行う。
◯引き取りの催促
所有者等に対して、引き取りの催促を口頭あるいは文書(動産引取催告書)により行っていく。所有者等と調整が可能であれば、引き取る動産の範囲、時期等の打合せを行う。
◯動産の処分通知
再三の引き取りの催促に応じない場合は、動産の処分通知書を所有者等に送達する。
これらの手続きは、特定空家等に対する助言、指導、勧告、命令等に並行して行う。
◯動産の処分方法の検討
動産の処分は法の位置づけがないため、換価できるものについては、代執行による除却費用の回収を名目にして処分する。①差押換価(公売)を基本とし、成立しない場合に②任意売却を検討する。また、動産でゴミと判断されるものは、建築物解体時に廃棄するが、所有者等にとって重要と思われる動産(参考 国税徴収法第75条、民事執行法第131条 差押禁止財産 仏具、日記、勲章等)は保管し、返却を試みる。
◯動産の差押え
動産は、民事と違い差押手続はないので、不動産は代執行宣言後、行政庁の占有物となり、付随して内部の動産も占有物となる。
動産の行政庁の管理責任は代執行宣言後から発生する。
◯動産の処分
「動産の処分方法の検討」で記載した方法により動産を処分する。
①差押換価については、見積りにより動産の市場性を確認し、公売公告を行う。公告に併せて所有者等に公売通知書を送達する。
②任意売却については、古物商に対して買受希望動産の見積書を提出してもらい、最高価の見積価格を提示した者に売却する。
◯処分、保管費用の請求
動産の保管及び廃棄に要した費用の請求書を所有者等に送達する。
代執行に要した費用(公法上の債権)として徴収することのできる範囲は、代執行終了宣言を行った日以前に発生したものとなる。代執行終了宣言を行った翌日から動産の保管、廃棄を行った場合、その費用は、民法上の事務管理に要した費用であり、民事債権であることから、民事上の手続きにより債務名義(執行力のあること及びその範囲を示した公文書)を取得し、さらに強制執行の申立てを行うことによってその請求手続きを進める必要がある。
当該債権は金銭債権であることから、債務名義を取得するために、通常の手続より簡易な手続として支払督促の申立てによることができる。支払督促は、通常訴訟とは異なり、債権者の申立書だけで審理され、その請求の内容に矛盾がなければ、裁判所書記官から支払いを命ずる支払督促が債務者に送達される。そして、法定期間内に債務者が異議を申立てしなければ、債権者からの仮執行宣言の申立てを経て最終的にはそれが確定し、それを債務名義として強制執行の手続きを行うことができる。しかし、債務者から適法な督促異議がなされると、民事訴訟法第395条の規定により、支払督促申立ての時に訴えの提起があったものとみなされ、通常訴訟(本訴)に移行することになる。また、支払督促の申立てそのものは、議決事項である地方自治法第96条第1項第12号の「訴えの提起」には該当しないが、支払督促の申立て後、債務者からの異議申立てにより、訴えの提起があったものとみなされる場合には、議会の議決が必要とされている。このため、あらかじめ訴えの提起について、議会の議決を経ておき、まず簡易な手続きである支払督促を申し立てることが望ましい。
◯動産の取り扱い事例
行政代執行による除却の先進事例における動産の取り扱いを以下に例示する。
・様々な廃材があったため、廃材の撤去も命令書に含め、廃材を含めて除却をかけて行政代執行を実施した。
・所有者との話し合いが可能であったため、解体前に動産の搬出を行った。
・事前に建物の内部にまで立ち入りをせず、解体当日に動産の存在を確認し、ゴミと判断されるものは廃棄し、その他の動産を庁舎倉庫に保管した。文書で引き取りを催促したが、応答がないため、廃棄処分とした。
・行政代執行による解体後、動産の一部を所有者に引き渡した。
(3)行政代執行を進める上での留意点
◯勧告、命令、戒告書、代執行令書による通知の方法
所有者等に通知書の交付を行う際には以下の方法がある。
・直接本人に交付する。
・本人不在あるいは受取を拒否された場合、郵便受けに投函(差置送達)する。
差置送達(民事訴訟法106条3項)・・・名宛人の住所、居所において、名宛人が
正当な理由なく受領を拒否するときに通常送達すべき場所に書類を差し置く。
・配達証明付き内容証明郵便で送達する。
◯命令後の標識の設置
【法14条11,12項】命令を行った旨を公示した標識を空き家敷地内に設置し、その旨の公告を行う。
◯指導経過の記録
電話、訪問、文書等の助言・指導の記録について、訴訟になったときに説明できるよう、指導経過をまとめる。
所有者等への対応状況については、その経過を文書にして上層部まで報告を行う。当該報告文書は、抗告訴訟等に発展した場合に備え、手続き全般が組織の意思決定のもとになされていることを立証する書証として用いる。
◯弁明の機会の付与
弁明の機会の付与について、法成立以前においては、行政手続法により以下のとおりとなっていた。また、市町村においては、公表前に意見を述べる機会を与えることを規定している条例が多い。
建築物の除却命令等の措置命令は、特定の者を名宛て人とした不利益処分にあたる為、命令を行うにあたり、行政手続法の規定による聴聞又は弁明の機会の付与のいずれかの意見陳述手続を取る必要がある。建築物の除却命令などの作為義務を課する処分等は、行政手続法第13条第1項第1号イからロまでの聴聞の対象として列記されている不利益処分にはあたらず弁明の機会の付与で足りる。弁明の機会の付与よりも、慎重な手続きを必要とする場合は、行政手続法第13条第1項第1号ニを適用し、聴聞手続きを行うこともできる。
法成立後の取り扱いは、【法14条13項】「法14条3項の命令については、行政手続法第三章(12条及び14条を除く。)の規定は、適用しない。」により、行政手続法 第三章 不利益処分の規定によらず、【法14条4~8項】による事務処理となり、「意見書及び自己に有利な証拠を提出する機会」の付与、または請求があった場合「公開による意見の聴取」を行うこととなった。
◯代執行令書による通知
代執行費用の概算による見積額については、設計変更も想定して安全側の金額設定を行う。
代執行令書では、代執行終了日を「平成○○年○○月○○日(予定)」としているが、延期されることが予想される場合は、代執行令書に「ただし、終了期限を延長することがある」旨記入する。もし、延長をする場合は、再通知を行う。
◯訴訟の提起と代執行の関係
行政処分である戒告等には公定力があるため、裁判所又は取消権限を有する行政庁が取り消さない限り有効なものとして取り扱ってよい。
戒告の取消訴訟の提起があっても、執行不停止の原則から処分の執行は停止されない。
ただし、戒告の取消訴訟と同時に、執行停止の申立てが出される可能性がある。この執行停止が認められると、訴訟の結論が出るまで、行政庁は手続きを進めることができなくなるものであり、行政事件訴訟法第25条において、執行されることによって回復困難な損害が生じる恐れがある場合に執行停止ができると規定されている。しかし、危険な空き家等の解体については、回復困難な損害が生じる恐れがあるとは考えにくく、執行停止が認められる可能性は少ない。
◯抵当権の設定等と代執行の関係
建築物に権利保全の仮処分や抵当権の設定等がなされた場合でも、代執行の実施そのものには影響がない。
建築物に私法上の権利保全のために行う現状不変更等の仮処分や抵当権の設定がなされたときであっても、これらによって代執行の実行が妨げられることはないと解される。
仮に代執行により、建築物に対して私法上の権利を有していた者が損害を被ることになっても、行政庁が適法にそれを行っていれば、法的に賠償義務を負うことはない。ただし、権利の侵害にあたる以上、適法に行っているという前提のもと、少なくとも戒告時には抵当権者への通知をすみやかに行うなど慎重に進めていく必要がある。なお、過失なくして抵当権者が確知できない場合、当該抵当権者に通知を行うことはできないが、それはやむを得ないことと考えられる。
また、抵当権が付いている空き家等を行政代執行で除却した場合であっても、建物滅失登記は可能である。その場合、当然に抵当権は抹消されることになる。
○所有者が不明である場合の課題
【法第14条10項】
第三項の規定により必要な措置を命じようとする場合において、過失がなくてその措置を 命ぜられるべき者を確知することができないとき(過失がなくて第一項の助言若しくは指導 又は第二項の勧告が行われるべき者を確知することができないため第三項に定める手続に より命令を行うことができないときを含む。)は、市町村長は、その者の負担において、そ の措置を自ら行い、又はその命じた者若しくは委任した者に行わせることができる。この場 合においては、相当の期限を定めて、その措置を行うべき旨及びその期限までにその措置を 行わないときは、市町村長又はその命じた者若しくは委任した者がその措置を行うべき旨を あらかじめ公告しなければならない。
所有者が不明である特定空家等については、【法第14条10項】により代執行を行う旨をあらかじめ公告することで可能となった。また、どこまでの対応をすれば過失がないと認められるのかについては、国のガイドラインで『空家の所有者が分からないケースにおいて、例えば略式代執行を行うためには、「特定空家等」の所有者等及びその所在につき、市町村が法第10条に基づき例えば住民票情報、戸籍謄本等、不動産登記簿情報、固定資産課税情報などを利用し、法第9条に基づく調査を尽くす必要がある』と示されている。
また、所有者が不明である特定空家等にある動産については、あらかじめ、「引き取りを催促し、期限内に引き取りがなければ処分する」と公告したとしても、動産に関する手続きには法の位置づけがないため、万が一の訴訟リスクを回避するのであれば、重要と思われる動産については保管を余儀なくされることが考えられる。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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