夫婦間の離婚において住宅ローンに適切に対処し、相場より高い養育費の支払等を実現できた事例
これは、夫婦の離婚に関する交渉において、相場より高い養育費の支払を実現できた事例です。
当職は、奥様から離婚に関するご相談を受けました。夫との間には、調停等は申し立てられていなかったことから、当職が奥様の代理人となり、離婚等請求示談交渉事件として受任することとなりました。
奥様と夫との間には、2人のお子様がいらっしゃいました。
当職は、まず奥様と協議した上で、夫に対して、離婚をすることを前提に、①お子様の親権者をいずれも奥様とすること、②夫が養育費として月額合計16万円(但し、長男が大学を卒業したあとは月額13万円を支払うこと、③離婚成立まで婚姻費用として夫が月額23万円を支払うこと、④夫と子の面会交流、⑤夫が慰謝料として300万円を支払うこと、⑥財産分与、⑦年金分割を離婚条件として夫に提案しました。
これに対して、夫は、離婚を積極的に望むものではないが、条件によっては離婚に応じる、との回答でした。具体的には、お子様の親権、養育費(但し、一部条件はあり)、離婚までの婚姻費用については、おおむね当方からの上記提案に応じるとのことでした。しかし、その一方で、慰謝料を支払う意思はない、財産分与は行わない、年金分割は行わないとされたため、これらの点(及び面会交流の具体的条件)を中心に交渉が継続することになりました。
当方からは、引き続き、夫に対して、慰謝料、財産分与、年金分割を求めました。
これに対しては、夫から奥様に宛てた手紙が送られ、その中には「争いを止めたい」旨が記載されていました。
当方としては、あくまでも慰謝料、財産分与、年金分割はいずれも実現させるべきものと考えていましたが、上記夫からの手紙の内容や今後の紛争の長期化を避けるため、奥様との協議の上、慰謝料請求、財産分与は行わないこととし、年金分割のみを求めることとしました。
夫側は、当初、年金分割についても行わないことを求めてきていましたが、これについては、当方が最大限の譲歩(=慰謝料請求及び財産分与を行わない)をしていることを踏まえ、最低限、年金分割だけは行われるべきと考え、夫にこれを求め、最終的には、夫側も年金分割を行うことは了承しました。 2
また、上記のとおり、財産分与は行わないこととなりましたが、夫婦の財産の中に、夫婦共有の不動産(自宅土地建物。奥様の持分6分の1)があったことから、これをどうするかが問題となりました。というのも、この自宅土地建物には住宅ローンが残っており、この住宅ローンについて、奥様が夫の連帯保証人となっていたからです。
この点については、夫側から、上記住宅ローンの連帯保証人から奥様を抜けるのであればそのようにし、仮に抜けない場合でも残ローンは全て夫が責任をもって支払うことを条件に、奥様の共有持分6分の1を夫に譲渡することを求められました。
これに対しては、6分の1の共有持分を持ち続けることよりも、残住宅ローンの連帯保証人から抜ける(あるいは抜けられなくても夫側がその責任で残住宅ローンを全て支払う)ことの方が、奥様の利益に適うと判断し、夫側の提案に応じることにしました。
その後、細かな内容の調整を行いましたが、おおむね次の内容で合意するに至りました。
①奥様と夫は離婚する。
②お子様の親権者は、いずれも奥様とする。
③夫はお子様の養育費として、月額16万円(但し、長男が大学を卒業後は13万円)
を支払う。
④夫は、奥様に対し、離婚成立まで、婚姻費用として月額23万円を支払う。
⑤奥様からの慰謝料請求は行わない。
⑥財産分与は行わない。但し、夫婦共有となっている自宅不動産については、奥
様が残住宅ローンの連帯保証人から抜ける(抜けられない場合でも残住宅ロー
ンについては夫が全ての責任を負う)ことを条件に、奥様の共有持分6分の1
を夫に譲渡する。
⑦年金分割は行う(分割割合は2分の1とする)
⑧夫は、第三者機関を利用し、お子様との面会交流を行う。
上記合意については、夫の養育費支払を担保するため、離婚合意書のみではなく、公正証書まで作成することとしました。
公正証書の作成費用については、当事者の折半とするのが通常ですが、本件では、奥様において、慰謝料請求及び財産分与を行わないという点で非常に大きな譲歩をしたこともあり、全額夫の負担とすることを強く求め説得した結果、最終的には夫側もこれを了承しました。そのため、公正証書の作成費用は全額夫の負担となりました。
以上の経緯を踏まえ、奥様と夫との間で離婚合意書を締結し、されにこれを踏まえた公正証書の作成まで行いました。
これによって、奥様は夫と離婚することができ、お子様の親権も取得し、夫側から離婚までの婚姻費用の支払を受けることができました。また、夫からの養育費の支払は、公正証書の作成により担保することができました。
また、夫婦共有不動産(自宅土地建物)に対する共有持分(6分の1)は失ってしまいましたが、実質的に残住宅ローンの責任から解放されたことに加え、相場(裁判所が使用する養育費算定表に基づき算定される金額)よりも高額の養育費の支払を実現することができたので、結果的には奥様の利益を実現することができました。
さらに、財産分与については、奥様が夫に対して求めない替りに、夫も奥様に対しては一切求めないことで合意できました。このため奥様名義の財産(預貯金等2000万円以上)はそのまま手元に残すことができました。
このように、離婚条件に関する緻密な交渉により、最終的には奥様の多大な利益を実現することに成功しました。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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