行政代執行による除却の事務手続き

 概要

空き家等の適正管理に関する条例に基づく行政代執行による除却の事例は、全国ではまだ例が少なく、膨大な事務量と専門知識を必要とする割には、具体的な事務手続きを示した知見が少ないのが現状である。
こうした中、代執行による除却に関して、これまでは、行政代執行法第2条の要件(著しく公益に反すること)を充足する必要があり、また、所有者が不明である場合、条例に基づく対応ができなかったが、平成27年5月26日に完全施行された空家等対策の推進に関する特別措置法により、今後は、除却の命令に従わない場合、代執行が可能となり、要件が法で明確化された。(法第14条9項)

 

また、所有者が不明である場合についても、代執行を行う旨をあらかじめ公告することで可能となった。(法第14条10項)ここでは、所有者が除却に応じない場合の行政代執行による除却の事務手続きについて、市町の参考となるよう一般的な例としてとりまとめた。
 
また、動産については、行政代執行法の際の動産の管理方法に関する規定がないため、慎重に取り扱わざるを得ない状況にあり、参考例として取り扱いを記載している。
 
実際には、代執行による除却に所有者が同意しているかどうかなど、相手方の状況によって対応が大きく異なるほか、土地と建物で所有者が違う場合や所有者が不明な場合等、全てがケースバイケースで個々の判断が必要となってくる。今回は、所有者が特定されている特定空家等の除却を対象としており、所有者が不明な場合については課題提示を行っている。
 
なお、法と条例で重複している部分について、事務フロー図で重なっている項目を記載したが、条例の取り扱いについては、以下のように国の見解が示されている。
 
『同種の措置を規定した法律の部分が「全国一律に同一内容の規制をする」趣旨の場合は、当該条例の措置は無効』『同種の措置を規定した空家法の部分がナショナルミニマムを定めたものにすぎず「地方の実情に応じて別段の規制を施すことを容認する」趣旨である場合は、当該条例の規定は有効』
 

法、条例の標記方法

『空家等対策の推進に関する特別措置法』について、『空家等対策特措法』または『法』と標記している。『空き家等の適正管理に関する条例』について、『条例』と標記している。

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行政代執行による空き家除却の事務手続き

行政代執行による建物除却に係る事務手続き

空き家等審議会の設置(条例による)
管理不全な状態となった空き家等に対する措置について、審査、調査等を行うため、第三者による空き家等審議会を設置し、客観性を担保する。
審議会の構成員としては、建築士等の建築の専門家、及び弁護士等の法律の専門家を含める。また、法律の専門家には、顧問弁護士として、以後の様々な法律相談の対応にあたってもらう。
協議会の設置(法7条1項による)
法成立により、市町に協議会を設置できることとなり、これが空き家等審議会に代わることが考えられる。
【法7条1項】 市町村は、空家等対策計画の作成並びに実施に関する協議を行うための協議会を組織することができる。
【法7条2項】 協議会は、市町村長のほか、地域住民、市町村の議会の議員、法務、不動産、建築、福祉、文化等に関する学識経験者その他の市町村長が必要と認める者をも
って構成する。
【法6条2項】 空家等対策計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 空家等に関する対策の対象とする地区及び対象とする空家等の種類その他の空家等に関する対策に関する基本的な方針
二 計画期間
三 空家等の調査に関する事項
四 所有者等による空家等の適切な管理の促進に関する事項
五 空家等及び除却した空家等に係る跡地(以下「空家等の跡地」という。)の活用の促進に関する事項
六 特定空家等に対する措置(第14条第1項の規定による助言若しくは指導、同条第2項の規定による勧告、同条第3項の規定による命令又は同条第9項若しくは第10項の規定による代執行をいう。以下同じ)その他の特定空家等への対処に関する事項
七 住民等からの空家等に関する相談への対応に関する事項
八 空家等に関する対策の実施体制に関する事項
九 その他空家等に関する対策の実施に関し必要な事項

 

危険度判定の実施
危険度判定は点数制とすることで、公平性、説明性を確保する。
危険度判定表の作成にあたっては、建築士の資格を有する2名以上での対応が望ましい。
判定結果は、客観性、妥当性を確保するため、法に基づく協議会や空き家等審議会で専門家等に意見聴取を行うことが望ましい。
また、危険度判定を行う場合、敷地に立ち入って調査を行う必要が考えられる。

【法9条2項】第十四条第一項から第三項までの規定の施行に必要な限度において、当該職員又はその委任した者に、空家等と認められる場所に立ち入って調査をさせることができる。
【法9条3項】立入調査の5日前までに、当該空家の所有者等にその旨を通知する。ただし、当該所有者等に対し通知することが困難であるときは、この限りでない。
【法9条4項】立入調査をする職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求に応じて提示する。
立入調査については、国が示すガイドラインも参考に調査を行う。
調査結果から、建築物の各階平面図、立面図等を作成し、解体設計に生かしていく。
 
代執行の検討
動産の取り扱いについて検討する。動産を保管する場合、保管場所について検討する。
差押えの対象にできる財産の調査、鑑定評価、公売等の検討を行う。
解体工事で、基礎を残すかどうか、跡地をどうするか検討する。
行政代執行を検討する上でのその他の留意点を以下に示す。
・財政的な理由等により、特定空家等を全て行政代執行で除却することは難しく、
何故その物件を除却対象とするのか理由を整理する。
・代執行に要する費用の回収見込みについて、説明できるようにする。
・所有者等から損害賠償請求の訴訟を提起される可能性がある。
・特定空家等の倒壊等により第三者が損害を受けた場合、行政庁が著しく公益に反する危険な状態を把握していたにも関わらず、法、条例に基づく権限(代執行)を行使しなかったとして、国家賠償法による賠償責任を問われる可能性がある。
・全国的には、代執行の除却事例は少なく、報道機関の注目を集めたり、視察等の対応が予想される。
代執行に要する費用ついては、回収の見込みが立たないことがほとんどであり、特に所有者が不明である場合は、回収できないことが公然となっている。
回収見込みのない案件に、税金を投入し代執行することに、必ずしも住民全員が賛同するとは限らず、後に住民監査請求、住民訴訟の対象となる可能性もある。
条例では「民事による事態の解決を図ることを妨げるものではない」との記載があり、近隣住民、地元自治会が努力しても手に負えず、やむを得ず行政が介入するものであることなど、理由を整理し、説明責任を果たしていく必要がある。
 
行政代執行法第2条の充足性
法成立以前において行政代執行を行うには、行政代執行法第2条における以下の3つの要件を充足する必要があった。
①義務が履行されないこと。
②他の手段によって義務の履行を確保することが困難であること。
③義務の不履行を放置することが著しく公益に反すること。
「公益」とは、条例で記載された目的によって決まり、その目的に対し、命令が履行されないことで不利益が生じるということが基本となる。
これまでは③の公益判断が難しいところであったが、法第2条2項の「特定空家等」の定義より、特定空家等を放置することが著しく公益に反すると解され、法第14条9項において、命令に従わない場合は、行政代執行を行うことが可能となった。

 

組織的な代執行の意思決定
過去の指導・勧告・命令等に対する所有者等の対応状況、特定空家等を放置する危険性と解体費用とのバランス、費用回収の見込みと税金投入に対する説明性等を踏まえ、総合的に判断し、代執行へ向けて準備を進めることについて、首長を中心とした庁内の組織的な意思決定を行う。
 
庁内組織体制の整備
代執行に向けて全庁的な部局連携により取り組むため、庁内対策委員会を設置する。
また必要に応じて、部会、ワーキンググループを設置する。
具体的な検討内容を以下に例示する。
 ○代執行計画の作成(執行責任者の選定、組織体制と役割分担、連絡体制、スケジュール等)、○予算措置、○契約方法、○設計・工事の方法、○動産調査、○議会・報道機関対策、○代執行費用の徴収等の内容、方針等の検討
連携部局を以下に例示する。
・防災部局:空き家条例、行政代執行全般
・財政部局:解体費の予算措置
・総務部局:議会、報道機関
・建設部局:解体設計、工事
・衛生部局:廃棄物
・税務部局:代執行費用の徴収
・法務部局:条例、情報管理の法令チェック等

 

関係機関との連携
関係機関との連携を図るため、必要に応じて関係機関連絡調整会議を設置する。
連携機関を以下に例示する。
 ・消防(防災)、警察(防犯)、保健所(衛生)
 ・道路、水道、下水、電気、ガス、電話等の施設管理者
 
関係者への説明
代執行に係る説明を必要とする関係者には、地元関係者、議会、報道機関、国、県、関係機関、除却対象建築物等に抵当権を持つ金融機関等が考えられる。どの段階から説明を行うかは個別の判断によるが、代執行を行う方向性が組織決定された段階から、説明を検討する。説明の時期について以下に例示する。
 ・代執行を行うことを組織決定後
 ・条例による氏名等の公表時
 ・法第14条に基づく命令時
 ・代執行令書による通知時
 ・解体工事着手時(代執行宣言時)
 ・代執行終了宣言時

 

解体の予算措置
代執行のスケジュールに併せて、解体費に関する予算措置を行う。必要に応じて予備費の充当、他の事業費からの流用について検討する。
 
解体設計、工事発注方法の検討
防災部局から建設部局に対して、執行依頼(契約事務、設計書作成、工事監督)を行う。
解体設計については委託の有無、工事発注の方法(入札または見積り合わせ等)について検討する。
代執行令書に記載する代執行費用の概算による見積額については、解体設計における金額を根拠とする為、日程を調整する。
 
解体設計の実施
解体設計を委託する場合、委託仕様書を作成の上、設計金額、工期を設定し、執行伺の決裁・発注・契約を行う。委託仕様書に記載する設計の成果物として、図面、設計書以外に、動産調査、仮設計画書、解体工事の工程表等が考えられる。設計を委託した場合は、契約履行確認の完了検査を受ける。
立入調査時の情報をもとに、図面を作成、解体業者に見積依頼、設計書を作成する。
基礎の撤去の有無を検討する。また、後々の雑草等の問題もあり、跡地をどのようにするのか検討する。想定される考え方を以下に例示する。
・危険回避までが目的として基礎を残し、上物だけを解体撤去する。
・費用回収の見込みがなく、基礎解体までは行う必要がないとして、上物だけを解体撤去する。
・子供等が入って危険になるので基礎も撤去する。
・土地を差押え、公売するので基礎を撤去し、砂利敷きとする。
設備引込の処理方法を検討する。
 
解体工事の発注・契約
代執行令書に記載する工事開始日の設定は慎重に行い、密接に関係する発注、契約事務との日程調整を十分に行う。執行伺の決裁、発注、契約を行う。

 

解体工事の実施
解体工事着手前に地元関係者等に対して工事概要、工程表等を説明する。
必要に応じて解体前後の近隣家屋調査を実施する。
解体工事前に各種届出を行う。(建築基準法:除却届、建設工事に係る資源の再資源化等に関する法律:第11号による通知書)
解体工事着手前に代執行宣言文、執行責任者の職氏名の読み上げを行う。
代執行宣言後より行政庁の管理下に置かれるため、代執行初日に除却対象建築物及びその敷地を特定し保全するための仮囲いを設置する。
代執行期間中(仮囲いの設置から建築物解体撤去完了まで)の現場保全管理及び一般車両の通行の安全確保のために、請負者において期間中、警備員を配置する。
動産を保管する場合、「動産の搬出リストの作成」、「動産の搬出」、「搬出動産の運搬及び保管」を行う。
騒音等で周辺の住民から苦情等があった時は、執行責任者に報告の上、迅速かつ的確に対応する。
代執行期間中の全容がわかるように、適宜、写真・動画撮影を行い整理する。
除却作業の経過を記録した日報を作成し、適宜、報告書を作成の上、首長に報告する。
報道機関の現地取材については、執行責任者の対応を基本とする。
報道機関には事前に以下の注意点を説明する。
・社名入りの腕章をする等、身分を明確にする。
・代執行区域内には立ち入らない。
・撮影等のために隣接する民有地に立ち入らない。
・路上駐車をしない。駐車車両に「関係車両駐車証」を明示する。(必要に応じて仮駐車場を用意する。)
・代執行の妨げとなるような行為をしない。
・その他、執行責任者の指示に従う。
建築物の解体にあたり、その敷地内の電気・水道を使用する場合、行政庁(解体業者)が使用料金を支払い、代執行に要した費用に含める。
解体後の措置として、敷地周囲は木杭・ロープ等を設置し、関係者以外立入禁止の看板を設置する。
解体後は契約履行確認の完了検査を受ける。
すべての作業が完了した後、代執行終了宣言を行う。
 
代執行に要した費用の確定
行政代執行法第5条では、「代執行に要した費用の徴収については、実際に要した費用の額及びその納期日を定め、義務者に対して文書をもってその納付を命じなければならない」と、同法第6条第1項では、「代執行に要した費用は、国税滞納処分の例により、これを徴収することができる」と定められている。
代執行に要した費用(公法上の債権)として徴収することができる費用の範囲は、代執行終了宣言を行った日以前に発生したものがその範疇となる。
 
 
■建築物解体工事費用と動産に係る費用の法的性格等の関係(代執行終了後も動産を保管するケース)   

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代執行に要した費用の徴収手続に着手するためには、納付命令の対象となる費用の範囲及びその額を確定する必要がある。
行政代執行法第5条では、その費用の範囲は特定されていないので、代執行関連事業費の総計から、請求する費用の選択を行う。
・解体設計委託費
・近隣家屋調査委託費
・解体工事費
・搬出動産保管費用
(時間外手当等の人件費、顧問弁護士の日当の類の間接経費にあたるものを除く。)
身分証明書の交付
国税滞納処分の例により、徴収を行うこと(強制徴収を行うこと)になるため、国税徴収法第147条に規定する身分証明書を関係職員に交付する。
 
納付命令
行政代執行費用納付命令書及び納付書を送達する。
送達手段は、配達証明付き内容証明郵便、配達証明郵便、差置等による。
 
督促
納付命令に従わない場合、督促を送達する。
 
財産調査
督促の指定納付期限を過ぎた場合、差押えのための財産調査を行う。
財産調査の方法として、不動産については、市の固定資産税台帳より所有する不動産を抽出し、債権である預金債権について、金融機関に調査依頼をかける。代執行に要した費用の徴収金に優先する被担保債権の現在額について調査を行う。
差押の実行
公売を行う場合、滞納処分費への充当及び先順位債権者への配当後、さらに代執行に要した費用徴収金への充当が見込める物件を差押対象とする。
地方税である固定資産税に滞納があれば、公課である代執行に要した費用徴収金に優先する。
金融機関に対する預金があっても、差押えと同時に金融機関による本人に対する貸付金債権との相殺がなされる。不動産については、不動産差押嘱託登記の申請を行い、登記済証を受領する。不動産については差押書を、債権、動産については差押調書の謄本を、所有者等に送達する。
差押不動産の鑑定評価
公売価格を決定するため、差押手続後、差押不動産の鑑定評価の委託手続を行う。
鑑定事務所より差押不動産の鑑定評価書(評価価格)が提出される。
公売見積価格の算定、決定を行い、公売期日を決定する。
差押不動産の公売
公売公告を行い、公売通知書を所有者等に送達する。
公告と同時に、公売通知書兼債権現在額申立催告書を公売不動産上の担保権者に送達する。
入札に先立ち、入札参加者は国税徴収法の規定による公売保証金を納付する。受付時に現金又は小切手による公売保証金の納入に対して領収書を交付する。納入された公売保証金は、入札が終了するまで会場内で保管し、買受申込者以外の者に対して、交付した領収書及び公売保証金返還請求書兼領収(受領)書と引換えに返還する。入札の執行は、物件ごとに概要説明を行い、入札、開札、入札価格の読み上げを経て最高価額申込者の決定を行う。入札終了後、不動産公売最高価申込者等決定の公告を行い、同通知書を買受申込者及び公売不動産上の担保権者に送達する。
 
売却決定・配当
買受代金納入通知書を買受人に交付する。買受代金納入通知書による買受代金の納入を確認し、売却決定通知書を買受人に交付する。換価財産が不動産の場合は、買受人の換価財産の取得に伴う権利移転登記を行う。また国税徴収法上、買受人がその権利を取得したときには、不動産上の担保権は消滅することになっており、その抹消登記を行う。
配当計算書謄本(国税徴収法第131条)を、公売不動産上の担保権者に送達した公売通知書兼債権現在額申立催告書に対して申立てがなされた債権現在額に基づき作成する。配当の第1順位は、直接の滞納処分費である委託した不動産鑑定評価料があてられる。配当計算書謄本を、登記嘱託書への添付と同時に買受人及び換価不動産上の担保権者にも送達する。
権利移転等の登記の完了後、登記済証を買受人に交付する。
代執行に要した費用徴収金に優先する地方税債権への配当並びに滞納処分費及び代執行に要した費用徴収金への充当処理を行い、換価配当手続が終了する。
公売(競売)は、その売却決定により、滞納者と買受人との間に売買契約が成立した効果が生ずることになり、その後の引渡手続は当事者間の責任において行う。
滞納者や占有者が任意にその引渡に応じない場合、民事上の競売物件では、簡易な引渡命令の申立手続が用意されており、それにより強制執行を行うこともできるが、公売の場合は、明渡請求訴訟の提起から始めなければならない。

事務所概要
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
神奈川県横浜市中区日本大通14
KN日本大通ビル
(旧横浜三井物産ビル)2階
関内駅から徒歩5分
日本大通りから徒歩1分
民法改正開催延期(日時未定)横浜市開港記念会館7号室