Q&A | 「借地権の買取などとんでもない。借地契約を終了させるならすぐに更地にして返してもらいたい!」強硬な地主のために窮地に陥った借地人…借地人側としては何か対抗する手段はないのでしょうか?」

不動産業者はできる限り優良な不動産物件を探しています。しかし折角、探した物件でも複雑な法律問題がある場合、このような問題物件は適正価格で売れず、その結果、依頼者の希望に添えないことがあります。このような場合でもビジネスチャンスを失わないため有効なのが、法律の専門家である弁護士の「協力」です。不動産に関わる法律問題を数多く解決してきた実績をもつ鈴木軌士弁護士が、事例を交え解説します。

借地権の買取に応じない強硬な地主に対して採り得る手段(「建物買取り請求権」)

背景

◆A氏:地主。
◆B氏:A氏から借りた土地上に建物を所有する(借地人)。

借地人B氏は、A氏から土地を借り、自宅を建てて20年間居住していました。しかし、高齢になったことから施設に入所することになりました。そこでB氏はA氏に対して「借地権の買取り」を要望しました。 ところがA氏からは、「使わないならすぐにでも建物を壊して更地にして返してもらいたい」と借地権の買取を拒まれてしまいました。

B氏は、借地権を買い取ってもらえないと施設への入所費用を捻出できません。そこでB氏は、不動産業者へ相談しました。すると、「建物は築20年で価値は0です。しかし借地(権)については、自分が利用してもいいので100万円なら買い取れますよ」と提案されました。B氏は低額であることについては不満ながらも、紛争を抱え続けることを嫌い、この金額でも構わないと、不動産業者との(建物及び借地権の)売買契約書を作ってもらうことにしました。

ところが、A氏は不動産業者へ借地権を譲渡することも承諾してくれません。何度働きかけても無理とのことで不動産業者もお手上げです。そのため、弁護士へ相談することにしました。万が一、地主の承諾なしに、無断で譲渡したということになると、借地契約は地主から解除されてしまう可能性もあります。

しかし、借地権の譲渡が背信行為(=信頼関係の破壊)に当たるといえない特別な事情があるときは、例外的に借地契約の解除ができないという最高裁の判例があります。この場合には、建物を譲り受けた者からの建物買取請求をすることが考えられます。逆に、そのような「特別な事情」はないとして、(譲渡承諾を得られない結果、)借地契約の解除が認められてしまう場合には、建物を譲り受けた人は建物買取請求はできるのでしょうか?

この点、建物買取請求権は、借地人が更新を希望しない、あるいは地主側に正当事由が認められるため、存続期間の満了で借地権が消滅することが要件となります。すなわち、示談の不払や借地権の無断譲渡等(+信頼関係の破壊)により債務不履行で契約が解除された場合は要件を満たしません。また、合意解約の場合も、建物の買取り自体を合意しない限り、建物買取請求権は放棄されたと解されます(最判昭29・6・11半タ41・31)。 

本件ではA氏が更地返還を頑なに求めていること(→B氏に建物の解体費用を負担する余裕はないので無理)、不動産業者の属性(資力が十分であることなど)に問題がなく利用形態も変わらないことなどの事情があり、信頼関係の破壊があるといえない(解除できない)と判断される可能性もそれなりにあると思われます。

しかし、仮に信頼関係の破壊がある(解除できる)とされた場合には、不動産業者は建物の買取りは請求できません。つまり、不動産業者は建物解体(更地返還)費用を負担することになり、不動産業者からB氏は建この費用分の支払を求められるどころか、建物及び借地権の売買契約を解除されて売却代金の返還及び損害賠償請求をされることになります。

弁護士は以上についてB氏と不動産業者へ丁寧に説明し、両者はA氏の承認を得られない状態で借地権の譲渡契約は、やはり締結しないことにしました。

その結果として借地契約は解除されないことになりました。不動産業者への譲渡がなくなったことで、却ってB氏はA氏から見直される結果となり、その後B氏はA氏に対して少なくとも建物の買取りは請求して最低でも数百万円を得ることができました。

すなわち、この買取価格は、一般的に土地を占有していることの場所的利益として土地価格の1~2割程度、さらにプラスで建物価格としてたとえ市場価値がゼロ査定であっても最低50万円程度の値が付くことが多いのです。

貸主が借家権の譲渡を承認しないテナントの事業を継承

【登場人物】

◆A社:寿司屋の会社
◆Bさん:A社の代表
◆Cさん:A社2号店の店長

Bさんは30年前に資本金500万円でA社を立ち上げ、A社で取得した自宅兼店舗(1号店)で寿司屋を営み、10年後には駅ビルの一角を借りて2号店をオープンさせました。その後20年が経ち、Bさんは引退を考えはじめました。A社及びBさんの資産は預金額と負債額がほぼ同額なので、実質自宅兼店舗だけという状態でした。ですからBさんは、その物件を売却して老後の費用に充てたいと思っています。  

問題は会社の引き受け手です。彼に子どもはなく、2号店の店長であるCさんがいますが、彼は1号店まで手が回らないので、2号店だけを引き継ぎたいと言っていました。ところがテナントの貸主はCさんとの接点がなく、それゆえ「知らない人に店舗は貸せない」と借家権の譲渡に応じてくれません。このままでは自宅兼店舗(ないしA社)を売却することができません。困ったBさんは、知り合いから弁護士を紹介してもらいました。弁護士が考えた打開策はこうです。BさんがA社から自宅兼店舗を「退職慰労金の給付」という名目で取得し、A社の株式をCさんに資本金(そのまま)500万円で売却します。要するにA社の経営権をCさんに譲って、営業は2号店のみで継続する(1号店は閉店する)ことにしました。これならばテナントの借主はA社のままなので、貸主は文句を言えません。Bさんは株式のCさんへの売却後、自宅兼店舗も不動産業者に依頼して売却し、その売却代金で駅前の便利なマンションを購入し転居しました。

なお、この事例は税理士とも協業し、よりBさんの満足度を高めることができました。BさんがA社の自宅兼店舗を「退職慰労金の給付」として取得したので退職所得控除の利用によって節税効果を得ることもできたからです。さらに取得後は「自宅として」売却できたので、居住用財産の特例が適用されて売却益(譲渡所得)に対する税金(譲渡所得税)も節税(但し課税の繰り延べ)することもできたからです。


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