Q&A | 借地人による「借地権の譲渡」を承諾することの対価として「承諾料」520万円を受け取った地主…譲渡契約が白紙になったことで「支払った承諾料を返して欲しい」と返還を求められましたが、地主は返金する必要があるのでしょうか?
借地人からのある者(買受予定者)への「借地権の譲渡を承諾して欲しい」と地主が頼まれました。そこで地主は借地人から譲渡承諾料520万円を受領することと引換に、借地権譲渡を承諾しました。しかし、借地人と買受予定者との間で契約が破談となりました。そのため、借地人から「支払済の承諾料を返して欲しい」と地主は求められました。地主に返還義務はあるのでしょうか。借地問題について多くを扱ってきた弁護士の鈴木軌士が、裁判例に基づき解説します。
事案の詳細
地主から相談される案件
私(地主)は所有している土地を貸している地主ですが、その借地人から「(特定の)ある者に借地権と建物を併せて5400万円で売却する予定なので、借地権の譲渡を承諾して欲しい」との要望が出されました。その後、私(地主)と借地人、借地権の買受予定者の三者間で「借地人から私(地主)に譲渡承諾料として520万円を支払うことと引換に、借地権譲渡を承諾する」という内容で合意し、私は、借地人から譲渡承諾料520万円を受領しました。ところが、それからまもなくして、買受予定者の債務不履行により、借地人と買受予定者との間で借地権等の売買契約が解除されたとのことです。
そこで、借地人から私(地主)に「支払済の譲渡承諾料520万円を返還して欲しい」と求められて困っています。というのは、借地人は売買契約の解除に伴う違約金として1080万円を受け取っているようなのです。そのため、私が譲渡承諾料を返せば、借地人はこの違約金1080万円と併せて二重に利益を受けるのではないかと考え納得できないのです。私は、譲渡承諾料を返金しなければならないのでしょうか。
裁判所が下した判断
本件については、東京地方裁判所令和元年11月27日判決の事例が参考になります。借地権等の売買契約が解除されたとなれば、借地権の譲渡承諾料も当然返還されるのでは、と思われます。しかし、本件の事例で、裁判所は、地主は借地人に対し受領済の譲渡承諾料を返還しなくてもよい、と判断(判決)しました。
その理由ですが、主として「借地権売買契約が解除となった場合について、地主と借地人との間で、受領済の承諾料について返還すべき、という取り決めをしなかったから」とされています。
更に具体的に見てみましょう。
裁判所が譲渡承諾料を「返還不要」と判断した理由
・本件借地権の譲渡の承諾や本件承諾料の支払に係る部分は、あくまでも借地人と地主との間で合意されたものであること
・借地人としては、今後、地主に対して本件承諾料の支払をしたとしても、のちに、買受予定者が借地人に対して売買代金の支払を怠るなどして本件売買契約が解除される可能性があることも想定することができ、そのような場合に支払済の本件承諾料の返還を求めることができるものとするのであれば、あらかじめ地主との間でその旨を合意するなどの対応を採ることも可能であったこと
・しかるに、借地人と地主との間の合意では、そのような場合の取扱いについての定めは特に設けられていないこと、従って、借地人と買受予定者も、本件売買契約が解除されたからといって、当然には本件承諾料の返還を求めることができないものと認識していたことがうかがえることが認められる。
・これらの認定された事実に照らせば、借地人と買受予定者との間の本件売買契約が解除されたからといって、ただちに、そのことが、借地人と地主との間の本件承諾料を支払う旨の合意の効力に消長を来すものではないというべきである。
なお、借地権の売買契約が白紙になったのに、譲渡承諾料を地主が保持し続けるのは公平ではない、ということも借地人は主張しましたが、この点については、借地人が売買契約解除の違約金として1080万円を受け取っていることを理由として、直ちに公平に反する訳ではない、と裁判所には判断されています。
この裁判事例から、借地権の譲渡をする場合は、借地人としては、地主への承諾料の支払いについて、借地権譲渡契約が解除されたり等して白紙となった場合も想定して、承諾料の支払・返還について地主との間で合意して書面で取り決めをしておく必要があることが判ります。
※この記事は、2021年5月5日時点の情報に基づいて書かれています(2024年8月21日再監修済)。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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