借地の更新の際に支払う金銭トラブル

借地契約は建物が存在していれば、仮に期間が満了したとしても終了しない(=更新する)のが原則です。このとき、更新料について紛争になることがあります。地主側が借地人に更新料の支払を求め、借地人がによってその額について「高すぎる」とか、「そもそも支払義務がない」とか主張することは、よくあります。このように借地人によって地主側からの更新料請求が拒否されることは頻繁にあります。 

そもそも更新料支払義務の有無は何によって決められるのでしょうか。それは、借地契約内容や過去の支払実績の有無等の経緯によって判断されます。更新料についての詳細は弁護士から説明させて頂きますので、是非、法律相談をご利用下さい。

 

借地における更新料とは

借地の更新料とは、借地の更新の際に、借地人が地主に支払うお金のことを指します。そして、これは、(地主と借地人間に合意がなければ)法律で義務付けられたものではありません。

更新には合意によって条件を決める合意更新と、更新合意をしないが、法律上更新が認められる法定更新があります。更新料は、合意更新の際に、その支払額を含めて合意して支払うのが一般的です。また、法定更新の場合でも、予め、借地契約中に「次回の更新の時に法定更新でも更新料は支払う」と定めている場合には支払義務があること及びその内容は明らかですが、このような合意がない場合には、更新料の支払義務が、そもそもあるのか、その額について、何か基準等があるのかが問題になります。

なお、建物所有を目的とする借地権は、平成4年7月31日以前に設定された借地権とその翌日以降に設定された借地権があり、法律上の契約期間が異なります。

しかし、1992年8月1日以降に設定された借地は、更新が問題になるのは早くても2022年8月1日です。また、そのほとんどは更新のない定期借地権と言われています(※1)。そこで、ここでは、平成4年7月31日以前に設定された借地権について記述することにします。

これらの借地の期間や更新については、旧「借地法」が適用されます。

(※1)前の借地権者から借地権を買い取って、借地権者になる場合があります。その場合、地主と借地契約を締結し直すのが一般的です。しかし、この締結し直した契約の時期が平成4年8月以降でも、借地権が、新法の借地権になるわけではありません。買い取った対象である従前の借地権がそのまま引き継がれるので、旧法での借地権のままです。

更新料の相場と金額

更新料の相場とその意味

契約書には更新料を支払うという条項がない場合でも、更新の時に地主から更新料の請求を受け、相場の金額だったら、払って合意更新をしたいと考える借地権者はいます。しかし、そもそも相場が判らない場合も多く、請求された額が相場に比べて高いのか低いのかのも判断できません。仮に契約書上は更新料の支払義務が定められていても、その具体的な算定方法等が記載されてなかったり、「更新時の相場」とか「近隣慣習や更新時の相場に従って協議の上決定する」等の記載になっている例が多いです。

更新料の相場については、東京都や神奈川県内の場合、更地価格の3%~5%と言われます(堅固建物所有の期間30年の借地で3%もありますが、非堅固→堅固の条件変更が伴う場合は6%が多いです)。あるいは、借地権価格の5%と言われることもあります。(仮に借地権割合6割の場合、更地価格の3%=借地権価格の5%なので同額です)。 (※1)。

増改築や借地権の譲渡に対する地主の承諾料は、ある程度相場があります。これらは、地主の承諾に代えて裁判所が許可をする制度があり、承諾料も裁判所が決めます。そのため裁判所には承諾料算定の基準があり、これが承諾料の相場になっています。ところが、更新料の場合は、裁判所の基準はありません。しかし、更新も建物増改築も借地権の存続期間を延ばす、という意味では経済的には同じですので、少なくとも増改築の承諾料に関する裁判所の相場は更新料の算定にあたっても十分参考になります。(※2)

更新料の額は、相場で決まるのではなくて、当事者が契約(合意)で決めることです。契約上で、「相場で決める」となっている場合には、相場により決めることになります。しかし、その場合も、契約書上の記載に従うから、相場により決めるわけです。

契約書上、「相場」と書いてあっても、当事者双方とも「相場」は、当然、自身に有利に解釈するでしょう。このことから、裁判所が判断する場合には、仮に契約書上に「相場」と記載されていても、各当事者の考える「相場」の意味が大きく異なる場合には、そもそも上記契約書自体、「合意」が成立していなかったと解釈される可能性もあります(更新料の「合意」としては「無効」となります)。(※3)

(※1)不動産鑑定士と税理士の2つの資格を持つ人たちが東京区部を調査したところ、更地価格の5%が23区の平均だったと公表されています。しかし、この種の調査は公共機関が統計を取るような幅広い調査ができているわけではないので、具体的な参考事案も少ない上に、地域的に偏ったりしています。地代との関係も色々です。公表者も、あくまでも「参考程度」としています。

(※2) 裁判になった場合、最終的に裁判官が判断することになりますが、裁判所が更新料の相場を決めるのは、契約書の内容が「近隣相場を更新料額とする」と記載されていた場合や、記載がなくてもそのように解釈できる場合です。つまり、裁判所の基準が相場になるのではなくて、裁判所が「契約書に記載されている『相場』とは何か」を追究することになります。そのような裁判の場合、裁判官の経験則を補うために、多くは不動産鑑定士に鑑定を依頼することになります。鑑定士は、周辺の更新料等を調査して結論を出すことになります。調査方法や具体的な事案の数など問題は多くありますが、裁判所は、何らかを根拠として決めて解決しなければなりません。ちなみに当該ケースでは、借地権価格の6%という結果になりました(当該事案の契約書上の「更新料の相場」の解釈です)。

(※3) ネット上には「借地権価格の3%から10%が更新料の相場」と書いてあるものもあります。

なお、契約書上に「相場相当」と書いてあるのに、地主側の不動産業者が借地権者に、更地価格の10%の更新料を「相場だ」として請求した例もありました。借地権者側は、前回の更新のときと同じ額だと思っていたので、高額の請求に大変驚きました(借地権割合が70%なら、更地価格の10%は借地権価格の約14%です)。

(更地価格)X×0.7=Y(借地権価格)

(更地価格)X×0.1=Y(借地権価格)×Z

(更地価格)X×0.1=X×0.7×Z

(X×0.1)/(X×0.7)=Z

0.1÷0.7=Z

0.14≒Z

ここまで差額があるなら、当事者双方で「相場」の認識が違うと判断され、契約書の合意自体が無効になる場合もあり得ます。

契約書で金額が分からない場合

更新料の金額は契約で決めてある、と言っても、契約書に具体的な算定方法が何も書いてなければ、更新料に関する契約(合意)をした時の当事者の意思を模索することになります。(※1)

前回更新して更新料を払った場合は、どうしてその時にその金額に決めたのかが判れば非常に有力な材料となります。ただし、20年や30年も前の話ですから、当事者死亡で相続が開始して当事者から話が聞けない場合もあります。

当時の更地価格と更新料額を知ることができれば、おそらく、この様に計算したのではないか、ということをある程度、推測できます。交渉で決めるものですので(例外的に、地主が一方的に算定してそれを支払ったというケースもない訳ではありませんが)、最終的には算定基準や相場によることなく互譲により決めたのかも知れません。しかし、当時の更地価格や借地価格の何%だったのかがある程度は分かるので、次の更新(今回の更新)でも同じように決めることを合意(予定)していたもの、と考えるのが一般的だということになります。

ただし、前回の更新時は、増改築の承諾料と一緒に一括して更新料を支払ったが、今回は更新だけ、というような場合もあります。前回の更新時に承諾料はいくら、更新料はいくらと決めていれば話は別ですが、通常は、両方合算していくらと決めることも多いです。このため、この場合には例えば建替承諾料の金額が一見して判るような場合を除けば、前回の金額だけを参考にして今回の更新料を決めることは難しくなってしまいます。

最終的には、「その更新時の相場で決めることにしたのだろう」となります。

しかし、「相場」と言っても、かなり曖昧です。賃貸人と賃借人の合意で決める場合(裁判上の和解も含みます)は、改めてそこで決めるようなものですから、いかようにも調節可能です。しかし、どうしても合意ができず、判決になった場合には、どうなるのかは一概には言えません。あくまでも「相場」を追究してそれで決めるのか、それとも契約で基準がない、かつ合理的ではない合意内容だとして更新料の支払条項(合意)自体が無効になる(その場合、当然、法律上の更新料の支払義務はありません)のか、事案ごとに別々の扱いとならざるを得ません。

(※1) 東京高裁令和2年7月20日判決によると、将来の更新の時に更新料を支払うと契約書に書いてあった場合でも、裁判所が更新料の金額を決められる基準が書いてない場合には、その条項は無効だとしました。どこまで具体的な基準が必要なのかまでは判決には書いてありません。「近隣相場」でも有効かどうかは不明です(そもそも「近隣相場」というもの自体不明瞭です)。裁判所が契約書の意味を解釈しようとしても、更新料の金額を決める基準が不明の場合には、更新料の支払条項は無効だというのが、この判決の解釈です。そもそも裁判所が決められない位なのだから、当事者間でも金額の合意は少なくとも明確にはできていなかったと判断したものと思われます。

高額すぎる更新料の合意について

「更新料は法定更新の場合でも、借地の2割5分とする」という条項のある借地契約がある場合、有効といえるでしょうか。

通常は、契約書に明記してあれば、その効力は争えません。単純に相場よりも高いという理由だけで「無効」にはなりません。また、借地について、ある程度の法律知識があれば「更新料は借地の2割5分」と書かれていれば、借地権価格の2割5分を更新料として支払う」という意味だと理解することは出来ます。契約書は多かれ少なかれ、法律用語が書いてはあり、もの凄く専門的な用語であるために一般人が通常理解できないようなものでもない限り、「意味が分からなかった」という理由では無効と、少なくとも裁判官は判断しません。

上記事例は偶然、過去の更新料額が契約書に書いてありました。「今回の更新料は○○円とするが次回の更新料は法定更新の場合でも、『借地の2割5分』とする」と書いてありました。

このような場合、そこに書いてある前回の更新料の額をまず問題とすべきです。今回の更新料額(借地権価格の2割5分)と比べた場合、この金額の1/15程度でした。この前回の更新時の更新料を当時の更地価格等から推認したら、当時の借地権価格の3%~5%程度でした。

すなわち、前回の更新料額は借地権価格の3%~5%程度だったのに、次回(今回)更新の更新料を借地権価格のいきなり25%(およそ5~8倍以上)にする合理的理由は全くありません。契約書(前回の更新の契約書)は、地主側が用意したもので、地主側は更新料が高くなるのを望むのは当然です。しかし、借地権者が借地権価格のいきなり25%にも上げられた高額の更新料の支払いに応じる合理的な理由は通常はありません。仮に契約書上に署名・押印があっても借地人は「よく判らないまま署名した」と確認されます。

契約書を交わしているのに、後になって「そんなつもりではなかった」と言い出すのは通常無理です(それがとおるようなら、契約書を作る意味がなくなってしまいます)。

しかし、「借地の2割5分」と契約書に書いてあったからと言って、借地の法律に詳しくない借地権者が、それを借地権価格の2割5分と理解したものと解釈し、効力を認めても良いのでしょうか。そもそも、当該借地人が「借地権価格」の計算方法を理解していたのかどうかすら分かりません。それゆえに、具体的にいくらになるのか理解していたとも思えず、請求されて借地人は大変驚いてしまいました。また、前回のいきなり約5~8倍以上となる更新料の支払いに応じるべき客観的な理由もありません。しかも、仮に借地権価格の25%の更新料を支払うとすると、借地上建物(収益物件です)の売上額の数年分にもなり、経済的合理性も認められませんでした。つまり、客観的にもあまりに不合理な合意をしたことになります。従いまして、合意をしたとき(前回の更新契約のとき)に合意内容を理解していなかったものと思われます。よって、裁判になった場合でも合意自体が無効になる可能性が十分あるものと思われます。

これに対して地主側からは、反論として、「商業地の収益物件の場合、借地権価格の10%を更新料とする例は結構ある。その倍+α程度なのだから、問題ない」という反論がなされる可能性はあります。しかし、前回の更新料の金額をここまで(=いきなり5~8倍以上にまで)上げる合理的な理由はありません。

以上は結局、「程度問題」ではありますが、上記の上昇率だと、さすがに無効となる確率の方が高いものと考えられます。

前回の更新料が安価である場合、地代が安価である場合の更新料合意の有効性

地主によっては「前回の更新の時には、相場よりも随分安くしたのだから、今回は高くするべきだ」と主張する方々もいます。

しかし、契約書に上記の増額事実及びその理由等が書いてある場合等を除けば、「前回も、安い更新料で更新したのだから、今回も同じ様に(安く)する」と解釈するのが、普通です。

これに対して、「地代を安くしていたのだから、更新料は高くするべきだ」という地主の主張には一理ある場合もあります。「更新料」の法的性格の捉え方にもよりますが、仮に「地代の前払や後払」と考えるならば、地代が安い分を更新料で補充する、という解釈は十分成り立ち得ます。しかし、この解釈部分をしっかりと契約書に明記していないと、「地代の増額理由があるなら地代を上げればよく、更新料はあくまでも別」と借地人側から反論され、地代が、よほど安価でもない限り、裁判所もなかなか上記の解釈を積極的にはしてくれないものと思われます。

将来の更新料の決め方について

話し合いや裁判で、とりあえず、更新料が決まっても、20年ないし30年経つと次の更新時期を迎えるため、また更新料の問題が起こります。

法定更新でも更新料を支払ってもらうためには、契約書に「法定更新の場合でも更新料を支払う」と記載しておく必要がありますが、金額は、はっきりしません。「相場」と書いても、賃貸人、賃借人、それぞれ、自分に有利に考えてしまうので「基準」にはなり得ません(賃貸人はより高く、賃借人はより低く考えます)。しかも、客観的に「更新料の相場」が決まっているわけではありません。このため、仮に裁判で更新料の支払義務が認められることになっても、金額を巡っての紛争になります。

紛争となって将来に禍根を残さないようにしたいとすれば、「相場」といった曖昧なものではなく、算定方法を可能な限り具体的に決めておくべきです。「その時の相続税路線価で算定(=通常÷0.8した公示価格)した更地価格の何%」と決めておけば、自動的に決められ紛争にもならない可能性が高いと思われます。

実際に20年、30年も経つと経済情勢等も大きく変わるので、上記算定基準がどこまで妥当するのかは正直未知の部分はありますが、本来、借地契約はこのように20~30年間隔で、その合理性を追究すべきものですので、やはり上記の算定基準まで定めておくことが現時点でできることの最良だと思われます。しかし、当然の話ですが、そもそも(現時点で将来について)具体的な算定基準・方法を決める段階で(特に何の何%にするのかの部分で)、揉める可能性は十分にあります。

更新料における支払い義務の有無

契約時に定めていない場合は支払い義務が発生しない

借地契約において更新料を支払うことが定められていなければ、更新料の支払義務はそもそもありません。

借地契約というものは、かなり昔からございましたが、更新料の支払は、昭和30年代になって東京都内の中心地から発生したもののようです。よって、相当古い契約書の場合、更新料の支払に関しては何も書いてないことが多いです。

では、なぜ地主は更新料の支払を求め、借地権者は支払ったのでしょうか。

まず、地主側は、旧借地法により多大な制約を負わされることになっています。そこでこの制約に見合うだけの対価を地代以外に求めたという事実があります。次に借地人側は、現在でも多少名残がありますが、借地人には「地主さんから土地を貸してもらっている」という意識恩義があります。また、期間満了で借地権を失うのは、借地権者にとって経済的損失が非常に大きなこと(建物を所有(=占有利用も)できない)であるため、極力、紛争を避けたいという意識もあったと考えられます。両当事者の上記の各思惑から両社の利害を金銭の支払いによって調整すべく、「更新料」の支払という制度が広がったのかと思います。

「慣習」とは法律と同じように、(法的にも)拘束力のある約束事、という意味です。上記の「慣習はない」というのは、両当事者間に合意がなければ強制されない、という意味です。

合意更新を行い、更新料を支払うことは双方納得した上での行為であるため、トラブルになることはありません。トラブルになりやすいのは、法定更新の場合です。法定更新の場合でも、契約で更新料を支払うことが定められていれば、更新料を支払う義務があります。しかし、契約で定められていない場合には更新料の支払義務はありません。必ずしも契約書に記載しておく必要はありませんが、契約書に記載が無いにもかかわらず、更新料の支払合意があったことを証明することは困難であると思われます。

過去の支払い実績によって将来の支払を約束することにはならない

契約書内に「(合意または)法定更新の場合でも更新料を払う」と定めていなければ、更新料の支払義務は発生しません。過去に更新料の支払いを行ったとしても、当時の更新の際に、更新料を支払うことを合意して更新を行っただけで、次の更新の際にも更新料を支払う約束をしたとは言えない、と判断されます。このようなトラブルが発生する背景としては、更新料の支払をして合意更新して、更新の契約書を作ったとしても、次回の更新の時には更新料を「支払う」とまでは書かれていない契約書がほとんどであるからです。(※1)

(※1)なお、東京高裁令和2年7月20日判決は、過去に更新料の支払があり、契約書に将来の更新料の支払いをすることが書いてあっても、裁判所が更新料の金額を決められない内容の場合(金額の基準が書いていない場合)には無効としました。この判決によると、金額の基準についてはそれほど厳密でなくても有効という感じですが(20年~30年後の更新時の金額ですので)、更新料の金額を裁判所が決める手がかりがなければ更新料の支払義務がないことになります。「手がかり」以前の問題として、更新料の支払合意が仮にあったとしても、その合意内容が明確でなければそもそも更新料支払義務はないことになるからです。あくまでも、更新料はその内容も含めて契約(合意)に基づくという当たり前のことを上記の裁判例は言っています。

また、抽象的に「更新料を支払う」という合意をしただけでは、更新料支払いの合意にはならない、ということも意味しています。上記の判決は、特段、画期的なことを言っているわけでもありません。要するに金額の「基準を決めておく」ことは重要なことである、ということです。地主も借地権者も、更新料をその金額関係なく(いくらでもいいから)払えばいいとは当然思っていません。したがって、金額を決めていない、ということは、「更新料の合意」をしたことにはならないという当たり前のことを上記の高裁判決は言っているだけです。

地主と借地人間の交渉時において「更新料を払う」等の発言をしたとしても支払い義務は発生しない

この場合でも、更新料が相場位の金額であるならば更新料を支払って合意更新を考える借地権者も多いのも事実です。

逆に、合意更新のとき、更新料の交渉をした結果、金額の合意ができずに交渉決裂となることがあります。この場合には、「合意」が成立しなかった以上、法律上の更新料支払義務は発生しません。(※1) (※2)

借地権者が相場程度の更新料は支払う予定であったにもかかわらず、合意に至らないケースというのは、管理不動産会社が変わったり、地主が相続により代替わりしたりして、過去の更新の時や相場の更新料と比較しても高額な更新料を地主側が要求するケースです。しかし、地主側にとっても、合意に至らない場合には(法定更新時でも更新料を支払う、という特約がない限り)、法定更新された上に更新料も取れない、ということになります。

ですから、更新料については、借地人側は、そもそもそれを支払うか否か、及びその金額についても交渉の余地は十分にある、ということになります。借地人側が仮に更新料を支払っても法律上のメリットは、特殊なケースを除けばほとんどありません。

よって、地主側も、このような(メリットがほとんどない、という)借地人側の事情をよく理解した上で(極力「更新料」を支払わせ、かつ次回以降の更新時にも法廷更新も含めて支払い義務を認めさせる方向で)、交渉していく必要があることになります。

例えば、借地人側が仮に更新料を支払ったからとしても、更新後に増改築をする場合に建替承諾料を払わなくてもいいということに必ずしもはなりませんし(契約書にそのように書いてあれば別ですが)、更新料を支払った分、増改築(建替)承諾料が安くなるわけでは必ずしもない、というのが裁判所の取り扱いです。ただし、経済的には「更新料」と「建替承諾料」ともに借地期間の延長ないし保障という意味で重複する意味があることは裁判所も理解しています。

また、今回の更新料を支払ったとしても、次回の期間満了時に地主側の更新拒絶が認められにくくなる、ということもありません。(※3)

更新料の性質については法解釈上、様々な考え方がありますが、契約書に書いてない場合には合意しない限り法律上の支払義務が認められない、という点は争いありません。よって、それでも合意した上で支払うというのは、(慣習による)謝礼(礼金)的なものというのが最も実態に近いと思います。よって、地主側からすれば、合意更新、法定更新のいずれの場合も契約書上、その支払義務を明記しておくことが肝要となります。

(※1) 更新料の交渉の際に「(相場位の金額ならば、あるいは前回の更新時と同じ程度の金額なら支払う」と述べたとしても、地主側もこれに同意して両者間の合意が成立して初めて、更新料支払義務が発生します。「交渉途中で更新料を支払うと言った場合であっても、金額はともかく、更新料の支払義務を認めた」ということにはなりません(東京地裁平成21年 3月13日判決。東京高裁令和3年 3月18日判決)。なぜなら、更新料についても当然、その金額が合意の要素である以上、その(金額についての)「合意」が不可欠だからです。

(※2) 金額の合意がなければ更新料支払義務がない、というのは、事前に「更新料を支払う」という合意はなく、期間満了時に合意更新する場合です。予め契約書に「法定更新の場合でも相場相当の(但し、できる限り具体的な金額または算定基準を入れておくべきです)更新料を支払う」と書いてあった場合には、具体的な金額が書いてなくても(前回更新の時には20年後のことは分からないので確かに具体的な金額まで書けない場合が多いですが、少なくとも「算定基準」(例えば更地価格の3%等)を書いておくことは出来ます)、更新料支払義務は認められます。ただし、上記のように「相場相当」だと、当事者の認識が全然違ったりする場合もあるため、金額について裁判所が決められない場合には、上記のように仮に契約書中に書いてあっても無効になる場合もあります(東京高裁令和2年7月20日判決)。

(※3) 更新が認められるか(逆に言えば更新拒絶に正当事由があるかどうか)が問題になった場合、裁判所の判断としては、過去の更新料の支払を借地権者に有利な材料として更新を認めたり、逆に更新料を支払っていなかったことを借地権者に不利な材料として更新を認めないという裁判例は確かにあります。しかし、更新拒絶が認められるかどうかは、借地権者と地主双方の土地使用の必要性等が最重要の判断材料ですので、過去の更新料支払いの有無は、公平上の判断に若干の影響を与えるにすぎません。たとえ過去に更新料を支払っていない場合でも、それだけの理由で、借地人側の使用の必要性が低くなるわけでもなく、まして地主側の使用の必要性が高くなるわけでもありません。よって、更新料を支払っていなかっただけで更新が認められなくなる、ということにはなりません。ただし、更新料の不払いを「債務不履行」として契約解除までされるか、という問題とはまた別です。

契約書上「更新料を支払う」旨が書かれている場合の書き方

契約書上に「法定更新の場合にも更新料を支払う」と書いてあれば、更新料支払義務が認められます。

★契約書の書き方によって、支払義務が認められないケースも出てくるので注意が必要です。「法定更新の場合にも更新料を支払う」は明確ですが、ここまで明確でない場合は微妙です。

例えば、契約書の内容が

「期間満了時、建物が存在する場合は、賃借人と賃貸人は協議のうえ更新することができる。」「その場合には相場額の更新料を支払わなければならない」とある場合には、「法定更新」には適用されない可能性があります。上記の各文章中の「その場合には」は、その前の「協議のうえ更新することができる(=合意更新)」のみを指していて「法定更新」は含まないと判断されるからです。(※1)

上記の合意更新の場合に限定せずに、「本件契約が更新されたときは、賃借人は賃貸人に対して(相場による)更新料を支払わなければならない」とだけされていた事案について、裁判所は「この条項は合意更新の場合にのみ更新料を支払うことを約束したもので、法定更新には適用されない」とした例すらもあります(東京地裁平成23年 7月25日判決)。

ただ、この事案はかなり複雑なので、上記条項の場合に、法定更新に必ず適用されない、ということもできないものと思われます。上記と似た条項で、「法定更新の場合にも更新料の支払義務がある」とした裁判例もあるからです。

また、東京地裁平成25年 2月22日判決は「合意更新の場合には」とわざわざ契約書に明記してあったのに法定更新の場合にもその適用を認めました。

この事案は、地主と借地人間で協議したけれども、金額について合意が成立しなかったため、法定更新になったケースでした。そのため、そもそも「更新料を支払う」という条項自体が契約書に書かれていたこと及びその記載された理由がポイントだったようです。

借地契約書では、将来の更新料の条項については、詳細は決めておけないのが通常です。契約書上に何も書かれていなくても、更新の際に更新料の支払合意をした場合に更新料支払義務が発生するのは当たり前です。そもそも、この場合は予め契約書に書いておく必要すらもありません。そこで、更新料についてわざわざ契約書に書いておいたのはそれなりの理由(=法定更新の場合も含めたい)があるという判断がありました。

しかし、上記とは逆に、単に合意更新をする場合の「条件を記載した」という解釈も成り立つため、上記条項の場合、法定更新は含まない(=法定更新の場合には更新料の支払義務を否定する)のが多数説だと思われます。この点、東京高裁令和3年 3月18日判決は「『合意により更新する場合』と明記されているから,法定更新の場合に適用することができない」と、更新料支払義務を否定しました。

以上のように契約書上に、将来の更新料についての定めが書いてあっても、争いになるケースはあります。争いを避けたければ、明確に「法定更新の場合にも更新料を支払う」と書くべきです。借地人の反対により書けなかった場合は、すなわちそれは「法定更新の場合にも更新料を支払う」という合意は成立しなかったものと現在では考えるべきものと言えます。

(※1) 上記を理由に更新料支払義務を否定した判決はあります。合意更新は、更新料の合意ができたことで成立します。合意更新の場合には更新料を払うのはいわば当然と言えます。逆に言えば、「合意更新の場合に更新料を支払う」とわざわざ契約書に書く必要はないということになります。にもかかわらず契約書に書いてあるということは、何らかの意味があるとも考えられます。つまり、「その場合には」に法定更新を含めて「更新」の場面一般を指すとの解釈もできます。どちらになるのかは、更新料の支払の有無や金額等に関するそれまでの両当事者間での経緯など借地契約ごとの判断になる可能性があります。

借地契約書にて支払義務を定めたが、更新料を支払わないリスク

更新料支払義務が法律上認められるのに、更新料を支払わなかったらどうなるか、ということですが、更新時に更新料を支払うことを約束して、更新料の金額も決めたのに、その支払いをしなかったために、借地契約を解除された例があります(最高裁昭和59.4.20日判決)。ただし、これは「金額まで決めた(=地主側もその支払を具体的に期待した)」のに支払わなかった(=上記の地主の期待を裏切った→信頼関係をおおいに破壊した)ケースです。(※1)、 (※2)

「相場相当の更新料を支払う」と契約書上に書いてあった場合には、更新料支払義務は認められますが、「相場相当」について両当事者は、自分に有利な金額を考えがちです。話し合いにも応じないのは問題ですが、話し合っても決まらなければ、裁判で決めてもらうし方法かありません。地主側が自分が考える相場相当の金額の更新料を請求して、借地人がそれを払わなかっただけでは、解除が認められることはありませんが、借地人側の対応があまりにもひどいと客観的に認められる場合(上記のように信頼関係の破壊まで認められるような場合)には、解除が認められることもあり得ます。

なお、最近の契約書中には「更新の年の(相続税)路線価÷0.8で求めた更地価格[に借地権割合を掛けて求めた借地権価格]の3%[5%]の更新料を支払う」というように、契約書上で更新料額が具体的に算定できる場合もあります。この場合に再三の支払催促にもかかわらず更新料を支払わないときは、契約の解除が認められることもあり得ると思います。[相続税路]線価÷0.8というのは、路線価から公示価格を算定するためです。路線価は公示価格の8割を基準に定められているので、0.8で割り戻す(=1.25倍する)、ということです)。

(※1) この最高裁判決は、更新料支払合意の事情を認定した上で、「その更新料が 更新後の賃貸借契約の『重要な要素』として組み込まれ、当事者の『信頼関係を維持する基盤』をなしている」として、更新料の不払いによる解除を認めました。そこまででない場合は、「更新料の支払義務は認められる(判決を得た上で強制執行により支払わせることができる)けれども、借地契約の解除までは認められない」という場合もあります。上記のように金額まで具体的に決めたのにもかかわらず支払わなかった場合には、「信頼関係の破壊」は認められ易くなり、結果、解除が認められる可能性が高くなるものと思われます。

( ※2) この場合、解除とともに、未払更新料請求はできるのでしょうか。上記の最高裁の事案は、更新料の総額を100万円と決め、これを2回に分けて支払うことにして、50万円は支払ったのに、残りの50万円は支払わなかったという事案です。これで解除が認められました。この裁判では地主側は、解除(の結果としての借地上の建物の収去と土地の明渡)だけを求めていたため、未払(未請求)の50万円については裁判所は何も判断していません。また、支払済みの50万円についてもどうするのか(借地権者に返す必要があるのかどうか)についても、借地人側から請求されていないため判断されていません。賃料不払の解除の場合、解除の前後を通じて、物件の解除までの未払賃料及び解除後は賃料相当損害金を請求できることになっています。これは実際に使用していたのだから当然です。これに対し、更新料は更新後の全期間を賃借できることになったことの対価(前払賃料のようなもの)なので、契約解除したら、未払分全額を支払えと求めることはできない(むしろ上記ケースでは受領済みの金額(50万円)は地主から借地人に返金されるべき)と思われます。


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