空き地のずさんな管理をしていた建設会社に対して地元住民が解体を求めた事例
空き地のずさんな管理をしていた建設会社に対して地元住民が解体を求めた事例
●事案の概要
本件事案は、廃業した建設会社の事務所や車庫、倉庫として使用されていた建物計5棟について、当該建物が会社倒産後、全く管理されておらず、強風時には建築材の一部が周辺道路や小学校敷地内に飛散するおそれがあることから、住民から解体を含めた対処の要望があったものである。
そこで、大仙市長は、義務者に条例9条に基づき勧告を行ったうえで、条例12条に基づき解体を命じた。しかし、義務者は資力不足を理由に当該義務の履行を拒否したため、代執行が行われたものである。
●実施主体
大仙市
●除却義務者
本件建物の所有者
●除却対象物件
場所:秋田県大仙市
構造、用途、規模:鉄骨造2階建て 事務所 101.79㎡
単管パイプ造平屋建て 車庫 38.5㎡
木造平屋建て 車庫 26.5㎡
木造平屋建て 倉庫 30.24㎡
木造平屋建て 倉庫 155.4㎡
●命令の原因となった法令違反
大仙市空き家等の適正管理に関する条例4条
(適正管理義務違反)
●実施時期
平成24年
●代執行に要した費用および回収状況
1,785,000円(未回収)
●刑事告発等
特になし
●本件代執行の特徴
(1)条例制定の背景
大仙市では、平成18年の豪雪のころから空き家等の除雪の問題が顕著となってきたため、防災の観点から空き家等の活用をはじめとする個別の対策事業が行われてきた。その後、雪害対策以外の観点から空き家等への対策の必要性が認識され、また、大豪雪にも見舞われたことから、空き家等の対策についての本格的制度整備に向けた検討が行われた。そして、平成23年に本条例が制定されるに至った。本件条例の制定について、大仙市の担当者による解説がある(進藤久「大仙市空き家等の適正管理に関する条例の制定について」自治事務セミナー51巻6号(2012)34-37貢)。なお。本条例の施行は、平成24年1月1日である。
(2)条例の内容
条例は、「法令に定めるもののほか、空き家等の管理の適正化を図ることにより、倒壊等の事故、犯罪、火災等を未然に防止し、もって市民の安全で安心な暮らしの実現に寄与することを目的」としている(1条)。
条例の対策となる「空き家等」とは、「市の区域内に所在する建物その他の工作物(既に倒壊したものを含む。)で常時無人の状態にあるもの及びその敷地並びに空き家(原則として農林業用地を除く。)」とされる(2条1号)。
この空き家等の所有者等は、「危険な状態」にならないように管理しなければならない(4条)。いかなる状態が「危険状態」であるかについては、市長の規制的権限発動における最も重要な用件であるため具体的に規定されている(2条2号アからウまで)。何人も、空き家等が危険な状態であると認めるときは、市長に対し、当該危険な状態に関する情報を提供することができる(5条)。同条は、市長の職権発動の端緒となるものである。この情報提供などにより、市長は、空き家等の所有者等の所在、当該空き家等が危険な状態であるかどうかについての調査に着手する(6条)。必要があれば立入調査も実施する(7条)。
市長は、空き家等が現に危険な状態にあり、又は危険な状態になるおそれがあると認めるときは、当該空き家等の所有者等に対し、必要な措置について、助言し、又は指導することができる(8条)。さらに、市長は、空き家等が現に危険な状態にあり、かつ、当該危険な状態が相当程度であると認めるときは、当該空き家等の所有者等に対し、期限を定めて必要な措置を講ずるよう勧告することができる(9条)。なお、市長は、第8条の助言若しくは指導又は勧告に従って措置を講ずる者に対し、助成をすることができる(10条)。
市長は、空き家等の所有者等が9条の勧告に基づく措置を期限までに講じないときは、所有者等の氏名、住所、空き家等の所在地等を公表することができる(11条)。文理上、制裁的公表の性格を有する公表と解され、立案者もその意図を有していたようであるが、住民に危険な空き家等の情報を提供するという意味で、情報提供的趣旨を多分に含む「公表」であるといえよう。危険な状態にある空き家等に対する最も直裁で効果的な措置は解体であると考えられる。本条例の公表の制度は、行政代執行法2条に定める執行要件を充足しない場合に備えて、実効性確保の手段としての役割が期待されている。
市長は、9条の勧告に従わない者に対し、期限を定めて必要な措置を講ずるよう命令することができる(12条)。市長は、行政代執行法に定める執行要件に該当する場合には、代執行ができるとしている(13条)。
(3)執行の特徴
全国初の行政代執行による空き家解体事例である。解体対象となった空き家は根抵当権が設定されていたため、金融機関に対し根抵当権登記の抹消を依頼している。金融機関は当該建物に担保価値がないと判断し、大仙市の申出に応じた。本来担保権の存在は、執行障害事由にはならないはずである。また、このような対応が条例上、求められているわけではない。しかし、本件では、将来のトラブルを未然に防ぐという観点から、「実務上の知恵」として根抵当権登記の抹消の依頼が行われている。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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