賃借権の終了を主張する

1 そもそも賃借権が成立していないとの主張

(1)具体例
その1 親兄弟間で,長年にわたりごくごくわずかの地代しか払ってこなかったような場合でも(地代月額500円等),借地権といえるのか。使用貸借しか成立していないのではないか。
その2 また,社長が親切で自分の土地を使って家を建ててよいと言われ,そこに建物を建てて住んでいる従業員が,相場より安い給料しかもらっていなかった場合,労働力が対価としての性質を持ち賃貸借が成立するのではないか。
その3 固定資産税都市系計画税などの必要経費だけを払っている場合でも,借地権が設定されたと言えるのか。
(2)結論
ポイントは,両者の間で使用収益の合意があるか,そして使用収益の対価を決めていたかいなか,である。
●  その1では,どんなに低額だとしても使用収益の対価として当事者が合意している以上,賃貸借であり,使用貸借ではない。土地を借りている方は借地人としての法的な保護を受けることになる。
こう考えると,親切で安く貸していた方に酷とも考えられるが,その不利益は法的に賃料増額請求などを怠ってきた貸主が負うべきである。
●  その2では,労働力がどの程度の金額に換算されるのか,実際に金額を提示して使用収益の対価としていたわけではないので,借地権は成立しない。すなわち,黙示の賃貸借契約が成立していたという主張は認められない。
この場合,黙示の使用貸借契約が成立していると考えるべきであろう。
●  その3では,たとえその額がその1よりも高い場合であっても,賃料の支払とはならない。
それは土地の必要費であり,それを借主が支払っているだけであり,まさに使用貸借に他ならない(使用貸借は通常の必要費を借主が支払うと法律に定められている)。やはり,使用収益の対価を定めたとは言えないので借地権は発生しない。
 
以上より,金額の多寡ではなく,合意の内容が大事だということになる。
借地だと思っていたが,合意の内容を吟味したらそもそも借地権自体が成立していないということもありうる。特に古い契約の場合は賃貸借契約書自体がない場合も多く,安易に借地人といわれるものから「今後何かあるとも思えないが,念のため」と言われ賃貸借契約書なるものを持ってきたときは本当に賃貸借なのかと疑ってかかることは必要と思われる。
賃借権ではなく使用貸借であると主張し,使用貸借の終了を根拠に立退き請求をすることも考え得るのである。
 

2 建物の朽廃による土地賃貸借の終了の主張

(1)具体例
その1 祖父の代の契約で「木造の建物,期間は20年」とされた。その後,更新の合意もせずにその建物に50年住んでいる。建物が老朽化で朽廃状態となった。賃貸借は終了するか。
その2 祖父の代の契約で「木造の建物,期間は20年」とされた。その後,更新の合意をして20年と合意した。さらに二回目も20年と合意した。その建物に50年住んでいる。建物が老朽化で朽廃状態となった。賃貸借は終了するか。
その3 祖父の代の契約で「木造の建物」とされた。その後,更新の合意をしたが期間を定めなかった。その建物に50年住んでいる。建物が老朽化で朽廃状態となった。賃貸借は終了するか。
(2)結論
その1は終了する。
その2は終了しない。
その3は終了する。
 
結局,朽廃があれば必ず終了するのではなく,期間の合意がされていない場合の期間中に朽廃すると終了する。期間の合意がされてしまっていると,その期間中に朽廃しても終了しない。
(3)注意点
結局,地主の側からすると,期間を定めて契約(更新契約)を締結するとその期間の朽廃の終了を主張できなくなってしまう。
そこで,朽廃が近いと思ったら敢えて更新の合意をせずに法定更新にするとか,更新の合意だけして,期間を定めないなどの方策を取る方がよい。
 

3 期間満了による土地賃貸借の終了の主張

(1)期間についての規定のおさらい
ア 旧借地法
●堅固60年 非堅固30年
(但し合意によって堅固30年 非堅固20年まで短縮できる)
●法定更新は堅固30年 非堅固20年
(ちなみにそれより短い合意は合意自体無いものとされる)
イ 借地借家法
●30年
●20年(一回目の更新)→10年(二回目の更新)
(2)建物がない場合
ア 具体例
非堅固建物という契約で30年の期間で賃貸借契約を結んだが,25年後に建物を取り壊し,いずれ建物を建てようとしてそれまでの間,資材置き場として利用していた。
30年が過ぎて期間満了を地主は主張し異議を述べた。
地主に正当事由なく借地契約を終了させることが出来るか。それとも正当事由がない以上法定更新がされてしまうのか。
イ 結論
法定更新の要件
①期間満了時に建物が存在すること
②土地所有者が遅滞なく異議を述べないこと
③土地所有者に自ら土地を使用することを必要とする場合など正当事由がないこと
したがって,建物がない以上法定更新は認められない。
借地権は消滅するので地主は立退きの要求ができる。
もちろん正当事由が必要ないので,立退き料も払う必要がない。
ウ 例外
借地人が,建物が火災で焼失したので,再築をしようとしていたところ,地主が建築禁止の通告をしたり土地明け渡しの調停を申し立てたりしている最中に期間が満了してしまった場合,確かに建物がない。
しかし,地主により再築が妨害されていたような場合にまで更新請求の権利がないとすることは信義に反する。
従って,このような場合には例外的に法定更新が肯定されうる(最判昭和52年3月15日)
(3)建物がある場合
ア 建替えの建物がある場合
(ア)地主の承諾のある建物がある場合
非堅固の建物の借地で30年の合意期間の定めがある場合,25年目で建物を取り壊し新しい非堅固建物を再築した。
地主が再築に承諾していた場合,いつ賃貸借期間が終わるのか。あと5年しかいられないのか。
答え 取り壊してから堅固30年,非堅固20年借地権は存続する(旧借地法7条)。
要件 ①借地権の存続期間満了前に建物が滅失したこと
②借地権の残存期間を超えて存続する建物を建築
③建築について土地所有者が遅滞なく異議を述べないこと
(イ)地主の承諾のない建物がある場合
結論  堅固だろうが非堅固だろうが,再築をされたら即刻異議を出せば,従来の期間で借地契約は終了する。遅滞なく異議を出さないと(ア)と同じく承諾をしたのと同じになってしまう。
遅滞なく異議を出しておいた場合,従来の期間満了で賃貸借契約が終了したとしても,建物買取請求されることはある。しかし,建物付きで土地を売却できるのだから費用は回収ができるので,賃貸借を修了させるメリットの方が大きいはず。
また,増改築禁止特約を締結しておけば債務不履行で解除を認められる場合がある。もっとも信頼関係が破壊したと言えないと解除は認められない。
ただ,この場合も異議を出しておけば従来の期間満了で賃貸借契約は終了すると考える。
また,無断増改築の場合,解除が認められなくても無断で増改築したことには変わりがなく,本来であれば朽廃で消滅したはずの期間満了で賃貸借契約の終了を主張しうると考える。
結局,地主としては取りうるすべての方策を尽くすべきである。
そこで,むやみに承諾をしない。改築をされたら書面ですぐに異議を述べておく。契約書に増改築禁止特約の条項を必ず入れる。増改築禁止特約違反があれば解除を主張しておく(信頼関係破壊が認められなくとも和解金を支払って賃貸借契約を修了させられることが多い。結果として,割安で借地人を追い出し建物付きで売却できる可能性が出てくる)。解除が認められなくても異議を出しておけば従来の期間満了で消滅請求しうるので異議を出しておく。また朽廃の時期を主張して終了させることも可能性がある。
イ 大修繕の建物がある場合
大修繕を行った建物があることで,建物の耐用年数が著しく延長された場合も,旧借地法7条が適用されるか。
争いがあるが,裁判上も適用を肯定したものがある。
そうであれば,大修繕(そもそも何が大修繕か不明だが)があった場合,早急に異議を出しておくに越したことはない。
例えば,増改築に当たるか否か争いになっていた事件で,増改築に当たらないとして債務不履行ではないと主張する借地人がいたとする。地主側としては,もちろん増改築禁止特約違反で解除を主張するが,仮に解除が認められなくても,無断増改築であることから借地法7条の適用があることを視野に入れ異議を出しておき,従来の建物であったなら朽廃で消滅していた時期での終了を主張することも考えられる。
ウ 建替えや大修繕の建物でない,当初からの建物がある場合
(ア)要件
前述した法定更新の要件
①期間満了時に建物が存在すること
②土地所有者が遅滞なく異議を述べないこと
③土地所有者に自ら土地を使用することを必要とする場合など正当事由がないこと
→遅滞なく異議を出して(ここで注意すべきは建物の賃貸借と異なり事前の異議ではダメ。満了後遅滞なく異議を出す),かつ正当事由があれば,たとえ建物があっても終了を主張できる。
(イ)問題点
正当事由とは何か?
①地主側の土地の利用の必要性
例えば,他に住むところがないのか,親の介護のためにその土地を利用するしかないのか
②借地に関する従前の事情
例えば,きちんと地代を支払ってきたか,その土地でどのくらい生活をしてきたか
③土地の利用状況
どのような建物を建て,どのように利用してきたか,借地人自身が利用しているのか
④地主の財産上の給付の申し出
いわゆる立退料をいくら出すのか
を総合的に判断される。
例えば,地主側が息子夫婦に建物を建てさせてやりたいという必要性がある,一方で借地人もその土地で建物を建てて生活している場合はどうなるか。
答え 借地人がその土地で生活している以上,よっぽどの地主側の事情(ほかに住むところがない,介護のために必要だ,地代について支払がないことが多い,立退料を一定程度出す)がない限り正当事由は認められない。
ここで,立退き料の相場っていくらなのと聞かれることがある。
しかし,立退き料は正当事由の補完の意味合いがあり,他の正当事由が大きければ立退き料は少ないという具合に,金額は区々である。
 
 

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
事務所概要
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