不動産取引と民法改正について

第1 はじめに

 1 周知のとおり、民法が120年振りに改正されました(平成29年5月6日成立、同年6月2日公布、平成32年4月1日に原則的施行(民法改正法施行期日政令)。

   これまでも民法の改正は何度かありましたが、いずれも部分的なものにとどまっており、全面的な改正は、まさに120年振りということになります。

 2 主な改正点は、債権に関する規定の全面的見直しです。

   よって、「契約」という意味では、売買契約、賃貸借契約、委任契約、請負契約、金銭消費貸借契約等の典型契約、それらに附随する保証契約等が改正の影響を受けます。

   また、「契約」に限らず時効期間の改正、損害賠償請求・解除権行使の要件、約款に関する一般条項に関する規定等も改正の影響を受けております。

 3 本セミナーでは、時間に限りもあることから、全てを網羅的にフォローすることはできませんが、特に不動産取引との関係で影響を受けるであろう点に絞り解説します。

第2 今回の民法改正の方向

 1 売買について

   大陸法(=成文法)から英米法(=判例法)へ

   解決のための指針が条文から判例へ(=事案ごとに異なる解決及び法的不安定性)

   ∴当事者の合意はより尊重される→合意中に解決指針をできる限り盛り込もう!←法的不安定性を少しでも解消するために。

    仮に条文や理論的には違う結論でも、「現実の」や「推定される」当事者の合意から導かれる妥当な結論なのであれば従うものとする。

    特に「瑕疵担保責任」については、従来の「特定物ドグマ」よりも当事者意思の尊重を。→いわゆる「法定責任説」から「債務不履行責任説」へ理論上は大きな転換→但し、実務的には、契約書上の合意により既に「債務不履行説」的な解決をしてきてはいた。→結論自体、それ程大きく変わるわけではないが、従前以上に、契約書上の合意、特約の記載が非常に重要な意味をもつことに。

 2 賃貸借について

   敷金や原状回復義務等の点に関する最高裁判例の蓄積あり→これらの最判の結論・流れを条文に明確化したような内容

  保証に関しても、判例の流れにも沿う内容で、特に個人保証の厳格化をし、事業者=債権者よりも、むしろ一般ユーザーを保護する内容に。

 3 委任について

   報酬の点→成果完成型の報酬支払方式の場合の規律を新設。また、履行途中で終了した場合の割合的請求を受任者の帰責事由の有無に関わらず認めたこと等。

   受任者の利益をも目的とする場合の委任者の任意解除権及びこの場合の損害賠償義務について新設された。

   受任者が自己執行義務を負うことを前提とする復委任の要件・効果→任意代理における復代理人の選任の場合に準じた規律を新設。

 4 請負について

   報酬の点→既履行部分により注文主が受ける利益に応じた報酬請求が可能に。

   請負人の担保責任の点→売主の担保責任と統一を(物の種類・品質における契約不適合に関する売主の責任と同等に)

第3 各具体的改正点について

 1 売買について

      上述のとおり、契約の目的な何か、売主と買主間の合意が何であったのかが非常に重要に。→契約書に契約の目的等を十分に記載する必要が、以前よりもはるかに大きくなった。

  •  買主の追完請求権(改正法562条で新設)

特定物か不特定物かを問わず、目的物の修補、代替物の引渡、不足分の引渡等による履行の追完を請求することができることに。

追完請求の選択権は第一に買主に。

但し、買主にとって不相当な負担を課するものでないときは、売主は上記買主の選択とは異なる方法による追完が可能。

改正前のように「隠れた」「瑕疵」であることは不要←全て契約に適合していたか否かの問題に帰着するから。

契約不適合が売主ではなく買主の帰責事由による場合には買主からの追完請求はできない。

  •  買主の代金減額請求権(改正法563条で新設)

要件は解除の場合と同じように相当期間を定めた履行の追完の催告が必要。

催告期間内に追完がないときは、買主は不適合の程度に応じて代金減額請求が可能。

履行の追完が不能等のときは催告しても無意味なので、買主は無催告で代金減額請求が可能。

買主に帰責事由があるときは、買主は代金減額請求できない(∵不公平)

従来は数量不足の場合しか代金減額請求は認められなかったが、改正法により種類や品質の不適合の場合も代金の減額請求が認められることに。

特に不動産の売買契約書とかには、次のような特約が必要に。

「売買の目的は○○なので、設備・仕様は別表のとおりとする」

「不具合が生じたときの修補は○○の方法による」

「追完の方法としては修補以外に○○と△△だけ認める

「○月○日までに修補しなければ契約を解除する」

「代金減額請求をするためには、受領後○日以内に不適合等の内容を通知しなければならない」etc.

  •  買主の損害賠償請求及び契約の解除(改正法564条で新設)

民法415条による損害賠償請求や同541条、542条による解除権行使が可能←契約責任説の採用から。

  •  移転した権利が契約不適合の場合の売主の責任(改正法565条で新設)
  •  買主の権利の期間制限(従前566条3項の1年の除斥期間等を改正法566条で改正)

契約不適合を「知った時から」1年以内に売主に対して「通知」しなければ追完請求権等の権利を失う。

但し、売主に悪意・重過失がある場合は除く(同条但書)。

※契約不適合は「種類または品質」に限られており「数量」は含まれていない点に注意→「数量」不足の場合には(債務不履行一般の場合となるため)上記566条にはよらず消滅時効の一般規定(次のとおり今回改正済)による。

買主が契約不適合を知った時(=「主観的起算点」)から5年間、権利を行使できる時(=「客観的起算点」)から10年で消滅時効に(改正法166条1項)。

※※現行民放下での契約書(標準約款もほぼ同じ)中では、解除や損害賠償等の請求は「引渡後3ヵ月」以内に行うものとされている(瑕疵担保責任の期間制限に関する特約)。→上記改正後でも、この特約は有効か?→結論!有効!←∵①契約不適合を「知った時」という主観的な基準を「引渡」という客観的な基準に変更している②期間を3ヵ月と短縮することで売買契約を巡る法律関係の早期安定を図っている(雨濡れや床の陥没等、それなりの「欠陥」は、居住してから「3ヵ月」(=一季節)も経てば出てくるものだ、との先人の知恵)のだが、この実務的要請は改正法の下でも存続するから。

(6) 目的物の滅失等に関する危険の移転(改正法567条で新設)

特定物売買で売買目的物が買主に引き渡された後に当事者双方の帰責によらず滅失・損傷した場合→危険は買主に移転(=履行追完請求・代金減額請求、損害賠償請求・解除はできず、代金の支払義務を免れない)

売主に帰責事由あるときは、買主は上記権利主張できる(同条1項)。

買主が受領遅滞をしているときに上記同様に滅失等した場合→危険は買主に移転(同条2項)。

※不特定物の場合→(契約への)「適合性」がない場合=そもそも「特定」されず→上記567条1項の適用はない→債務不履行責任の問題に。

  (7)  競売における担保責任等(改正法568条により改正)

     強制競売が競売一般に拡大(同条1項)。

    競売目的物に数量不足や移転した権利に不適合がある場合→買受人は債務者に対し契約の解除(改正法541条、542条)または代金減額請求(改正法563条)が可能。

    ※履行の追完請求(改正法562条)は競売には適用されない←債務者による「履行の追完」はないから。

    買受人の代金返還請求権等(568条2項・3項)は改正はない。

    競売の目的物の種類または品質に関する不適合については改正法568条1項~3項は適用されず=債務者または債権者は責任を負わない(同条4項)。=現行民法570条但書を実質的に維持した。←競売は債務者の意思に基づいて行われるものではない、債権者は競売目的物の性状(や権利内容)を知らないのが通常だから。

  (8)   危険負担(一般)(改正法536条により改正)

     特定物についての債権者主義(=滅失しても代金支払義務は残る)は否定(現行民法534条及び535条は削除)←売買代金と引換に買主へ所有権が移転かつその旨登記される=(所有権及び)登記移転や引渡できなければ代金債務も消滅する、という不動産取引の実務(の一般的な感覚)に民法の規定が追い付いた。

     現行民法の危険負担=「目的物消滅→代金債務も消滅」との規定が「目的物が消滅→買主は代金債務の履行を『拒絶できる』」と変更に。←売主・買主間の債権債務関 係は消滅しない。→関係を消滅したければ買主側から解除する必要あり。cf.売主に帰責事由なくても履行不能で買主は解除できることに(改正法542条1項1号)。

 (9) 履行不能の場合の債務不履行責任等(改正法412条の2及び同条の3で新設)

    履行不能=「債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」(改正法412条の2第1項)→債権者は履行の請求はできない(同項)。

      ※債務の履行が不能か否か→「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるとき」か否かにより判断されることに。「契約その他の……社会通念に照らして」判断される=契約内容を確定するにあたり債権者の主観的意思(主観的事情)だけでなく、契約の性質(有償か無償か等)、当事者が契約をした目的、契約の締結に至る経緯やその他の取引を巡る一切の客観的事情を考慮して履行不能か否かが決まる。

      契約成立時から不能(=原始的不能)の場合でも、415条により履行利益の損害賠償請求ができることに(412条の2第2項)。

      債務者の履行遅滞中の履行不能は債務者の帰責事由とみなされる(413条2第1項)。

      債権者の受領遅滞中の履行不能は債権者の帰責事由とみなされる(同条2項)。→債権者は契約の解除はできず(改正法543条)、債務者の反対給付請求を拒めない(同法536条2項)。

 (10)   債務不履行による損害賠償(改正法415条による改正)

     債務の不履行が債務者の帰責事由ではない事由による場合には債務者は免責される(同条1項但書)。

     ※帰責事由=「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることに(同条項但書)。

     cf .契約の場合→免責の可否は契約の趣旨に照らして判断され、「帰責事由=過失」を意味しないことになった。→「過失責任」の原則は否定された。

     cf. 従来の「履行補助者の(故意)・過失」の問題=履行補助者の行為が契約及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰すべき事由に該たると判断されるか否か(評価)(=免責されるレベルに達しているか否かの判断の一要素)の問題とされることに。

  (11)  法定利率(改正法404条により改正)

    年5%→年3%に(同法2項)。

    3年ごとに法務省令で定める割合により変動することに(同条3項以下)。

    ※法定利率よりも高い利率の利息・損害金の定め(=約定利率)も有効。但し利制限法等の規制あり。

  (12)  催告による契約の解除(改正法541条により改正)

    同条但書により「債務の不履行がその契約及び取引の社会通念に照らして軽微であるときは」解除できない。←過去の判例を明文化。

   ※改正法では、解除の要件として「債務者の帰責事由」は不要に(現行民法543条但書は削除)。←「債務不履行による解除」=「債務者に対して責任を追及するための制度(=現行民法)」⇒「債権者を契約の拘束力から解放するための制度」と変更に。

(13)  催告によらない契約の解除(改正法542条により改正)

   債務不履行により契約目的の達成不可能と評価される場合(改正法1項各号)

   債務の一部の履行不能または一部の履行拒絶の場合→無催告で契約の一部を解除可能(改正法542条2項)。

   (14)  買戻し(改正法579条により改正)

    売主と買主の両者の合意があれば、合意で定めた金額での買戻しも可能に。=同条は現行法は「強行規定」と解釈→改正法では「任意規定」に変更。

 2 賃貸借について

  • 賃貸借の存続期間(改正法604条により改正)

上限20年→上限50年に。但し借地法、借家法、借地借家法の各規定の適用はある。

cf.適用のない場合=例:発電用ソーラーパネル設置のための土地賃貸借等。

  • 賃貸人たる地位の移転(改正法605条の2)

賃貸人の地位の当然承継との判例法理の明文化(同条1項)

賃貸人の地位の移転を対抗するには登記が必要との判例法理の明文化(同条3項)

賃貸人の地位の移転に伴う敷金返還債務等の承継の明文化(同条4項)

※賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意を譲渡人・譲受人間でした場合の特則(同条2項)=同合意に加えて譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意までした場合→賃貸人たる地位は譲渡人に留保され、譲受人には移転しない(同項前段)。

 ⇒この場合に、譲渡人・譲受人間の賃貸借が終了したときは、留保されていた賃貸人たる地位は譲受人に移転する(同項後段)。

 (改正法の)同項の規定により上記譲渡人・譲受人間の賃貸借が終了しても元の賃貸借は譲受人と賃借人間で存在する→賃借人は譲受人からの所有権に基づく明渡請求等に応じる必要はない→賃借人の保護に欠けない→賃貸人たる地位を譲渡人に留保する場合でも賃借人の同意は不要に。

  • 賃借人による妨害排除請求(改正法605条の4により新設)

対抗要件を備えた不動産賃借権に妨害排除請求権及び目的物の返還請求権を認めた判例法理を明文化した。

  • 賃借人の修繕権(改正法607条の2により新設)

「賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき」等に認められる。

※賃借人が上記「通知」をしても、客観的にそもそも修繕の必要性が認められるかが争点になり得る。

 賃借人側が「修繕権」を行使した場合に賃貸人側がどこまで費用負担すべきか、という点も、上記に関連して争点になり得る。

 更に、賃貸人が(解約申入れや更新拒絶の)正当事由を充たすような老朽化を主張して立退き要求したときに、賃借人が上記「修繕権」を行使して老朽化を防止した場合、賃貸人と賃借人のどちらが優先するかも争点となり得る。

∴例えば「修繕権を有するのは『小規模修繕』に限る」などと特約して、賃借人が勝手に「小規模修繕」以外の修繕をすることは認めないようにする対処法が必要。

 cf.「修繕権」に関する上記改正法607条の2は任意規定=特約が優先する!

「小修繕」=ガラスの交換、電球の交換、障子の張替、ふすまの張替等。

  • 賃貸物件の一部を利用できなくなった場合(改正法611条により改正)

「滅失」だけでなく「その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において」=「滅失」だけでなく、「使用収益ができなくなった場合」かつ「賃借人の責めに帰することができない事由」によるときは賃料が減額される。

「減額を請求することができる」ではなく「減額される」と規定=賃借人からの請求は不要。

「滅失その他の事由」=故障や安全性の欠如を指す。例:安全性の欠如により「立入禁止」に。

※上記の「当然減額」を賃借人側が主張して賃料の支払を勝手に止める、等のトラブルが増えるおそれも→「賃借人は、賃貸物件に一部滅失した部分を発見した場合には、直ちに賃貸人に通知しなければならない。この場合、通知を受けた賃貸人は、賃借人と一部滅失の割合について協議しその割合を確定する。賃借人が上記通知をしなかった場合には、賃借人は、通知以前の賃料について減額を主張できない」のような特約を結ぶことも一案。

  • 賃借物の全部滅失による賃貸借の終了(改正法616条の2)

賃借物の全部について滅失等により使用収益が不能となれば賃貸借契約は終了するとの判例法理を明文化した。

  • 原状回復(改正法621条により新設)

賃借人は、賃借物の引き渡しを受けた後に対象物に損傷が生じた場合には、賃貸借終了時にその損傷を原状に回復する義務を負うが、その損傷が賃借人の帰責事由ではない事由によるときは負わない、と、従来の判例法理を明文化した。

平成17年の最高裁判例や平成12年の東京高裁の裁判例等を参考にすれば、上記改正後でも、原状回復に関する特約も当事者間で明確に合意されているのであれば経済的にも合理性はある。→有効と認められるので今後は、状況に応じた特約を設けて当事者双方が明確に合意していくことが重要。

  • 敷金(改正法622条の2)

従来の判例法理を明文化

敷金返還請求権における「明渡時説」(昭和48年の最判)

賃貸人側からの敷金による未払賃料等債務への充当は認められるが、逆に賃借人側からの充当要請は認められない←上記「明渡時説」からは当然の帰結。

  • 保証の極度額(改正法465条の2により新設)

例えば建物等の賃貸借契約の保証の場合、保証人は賃貸借契約関係から生じる損害の全部を賠償しなければならないので、根保証、かつ個人であれば個人根保証となる→極度額を定めないと保証契約の効力が発生しないことに(同条1項2項)。

∴個人の保証人は要請しづらくなり、保証会社の役割がさらに大きく!

※保証契約は書面で行わなければならない(同条3項)。

※※定期借家契約の場合には、「更新」ではなく「再契約」→民法改正後であれば、上記書面による等、(個人根)保証契約の要件(=極度額の規定)を充たさなければ効力(=保証人の責任)は生じない。

(10)保証人の負担と主たる債務の目的または態様(改正法448条による新設)

主たる債務の目的または態様が保証契約の締結後に加重されたときであっても、保証人の負担は加重されない。

上記のとおり、特に定期借家契約、定期借地契約の場合に、実務上、注意を要する。実務的には、契約書に「賃料や共益費等が増額された場合も保証人は責任は負う」旨を予め明記して保証契約を締結しておくのも一つ。

 3 委任について

1 (1)受任者の報酬に関する規定の整備

      成果が引渡しを要する時はその引渡し時が報酬支払時期となる旨の規定が定められた(改正648条の2第1項)。なお、成果が引渡しを要しないときには、成果が完成した後に報酬の支払請求が可能となる(改正648条2項本文←成果完成型の報酬に関する支払時期については、成果に対する対価として報酬が支払われるという方式が請負の方式と類似していることに鑑み、請負に関する633条の規律と同様に)。  委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなった場合(1号)および委任が履行の中途で終了した場合(2号)には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できる旨規定されている(改正648条3項 雇用に関する改正624条の2の規律と同様に)。成果未完型の報酬支払方式が採られた場合における割合的な報酬請求については、請負に関する改正634条の規定が準用されることとなった(改正648条の2第2項)。この場合には報酬の支払方式において請負と類似することに鑑みると、請負と同様の規律に服することが適切であるとされたから。

  (2)受任者の利益をも目的とする委任における委任者の任意解除権

      改正651条の1項の任意解除権に基づき、①相手方に不利な時期に委任を解除したとき、または②委任者が受任者の利益(もっぱら報酬を得ることによるものを除く)を目的とする委任を解除した時は、やむを得ない事由がない限り、相手方の損害を賠償しなければならない旨規定されている(改正651条2項)。→やむを得ない事由も解除権を放棄した者とは解されない事情もない場合でも、受任者(そのような場合における受任者の不利益は損害賠償によって塡補されれば足り、必ずしも任意解除を否定して委任契約を存続させるべき必要性はないと考えられたから)の利益をも目的とする委任を委任者が任意解除できることになる。 

  (3)受任者の自己執行義務

      委任者の許諾を得たとき、またはやむを得ない事由があるときに限り、復受任者を選任することができる(改正644条の2第1項)(復代理人に関する民法104条と同様の要件において復委任を容認する旨の規律ということ)。復受任者は、その権限の範囲内において、委任者に対し受任者と同一の権利義務を有する(改正644条の2第2項)(委任者と復受任者の間にいかなる内容の権利義務が生じるのかについて、改正106条2項における規律のうちの本人と復代理人の関係に関する部分と同様の規律ということ)

 4 請負について

2 (1)仕事が完成に至らなかった場合にあける割合的な報酬の請求

   ①  注文者の責めに帰することができない事由によって仕事の完成が不能となった場合(1号)、または②請負が仕事の完成前に解除された場合(2号)において、既に行われた仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文主が利益を受けるときは、その部分について仕事が完成したものとみなされ、その結果として、請負人は注文主が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる(改正634条)

       Cf.注文時に既に存在した帰責事由によって仕事の完成が不能となった場合における報酬請求に関しては、請負における特別の規定は設けられず、(現行法におけるのと同様に)改正536条2項の規律によって報酬請求権の発生が基礎付けられることに。

(2)仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合における請負人の責任

   cf.担保責任に関する新たな規律に準じて取り扱うこととされ、559条(改正後も同じ)の規定に従って、売買に関する規定が請負を含む他の有償契約に準用される。

仕事の目的物の瑕疵に基づく注文主の瑕疵修補請求・損害賠償請求・解除について定める現634条・現635条は削除、目的物の種類・品質における契約不適合を理由とする追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・解除に関する売買の規定(改正562条~564条)の準用によって、売買と同様の規律に服することに。担保責任を負わない旨の特約の効力に関する現640条についても、売買における改正572条の準用による処理で足りるとして、削除。損害賠償債務と報酬支払債務の同時履行に関する現634条2項後段については、売買における現571条とともに削除←(同時履行の抗弁に関する一般規定(改正533条)の新たな規律に委ねることを理由として―――改正533条では、自己の債務と同時履行の関係に立つ相手方の債務に関し、「(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)」というかっこ書きが追加されていることから)

現行法では当然には認められてはいない、売買における契約不適合による代金減額請求の規定(改正563条)の準用により、注文主に報酬減額請求権が認められる改正法の下では、契約目的が達成不能となっていない場合でも(軽微でない不履行であれば)催告解除が可能に。

 損害賠償については、履行に代わる損害賠償請求に関する一般規程(改正415条2項)の解釈・適用に委ねられている。(改正415条2項では、履行に代わる損害賠償請求の認められる場合が、履行不能・債務者による明確な履行拒絶・債務不履行による解除権の発生または解除の実行という各場面に限られているから)履行や追完に要する債務者側の費用がそれによる債権者側の利益と比べて著しく過大な場合における履行・追完の請求は、目的達成のための手段としての均衡性を欠いた濫用的な権利行使として―――比例原則を基礎とした権利濫用禁止の観点から―――、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能」(改正412条の2第1項)であり、この改正412条の2第1項の規定に従って履行(追完)請求権は排除されるものと理解される。現634条1項ただし書の規律内容は、改正412条の2第1項の定める履行(追完)請求権の限界に関する以上の一般的規律の中に、維持・統合された「目的物の引渡しを要しない場合には仕事の終了を引渡しと同視する」旨の現637条2項の規律を取り込みつつ権利行使の期間制限に関する売買の規律(改正566条)に即した内容に改められた(改正637条)。建物その他の土地工作物に関する担保責任の存続期間についての特則(現638条)、および担保責任の存続期間の伸長に関する売買の一般的規律(現639条)についても削除された。仕事の目的物の瑕疵が材料の性質または注文主の与えた指図によって生じた場合、目的物の種類・品質における契約不適合を理由とする責任(および救済手段)に関する規定として表現上の調整が施された上で、その規律内容が維持されている(改正636条)。

(3)注文主についての破産手続の開始による解除

  注文主が破産手続開始の決定を受けた場合に、請負人及び破産管財人に解除権を認める現642条1項前段の規定については、請負人から解除が認められるのは請負人が仕事を完成しない間に限られる旨の規律が追加されている(改正642条1項ただし書き)

(仕事が既に完成している場合についてまで請負人に解除権を認める必要はない、と考えられたため。現642条におけるその他の規定については、改正642条2項および3項として、その規律内容が維持されている)。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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