民法改正に当たり、注意すべき契約書

第1  はじめに

 1  令和2年4月1日施行の新民法への改正の重要性 

  •   改正箇所がかなり多岐に亘る→不動産事業者(=宅建業者、賃貸業者、建築請負業者、設計受託業者等)の業務の全般に影響がある。
  •   上記(1)から、まずは、上記各業者の業務の中核をなす各契約書のひな型に沿って主要(重要)改正点を見て頂くことにした。
  •  全般を見て頂いた後に、個別論点について、更に立ち入った契約書の改正条項案等の検討に入って頂くことにした。
  •   上記(1)ないし(3)の改正点は、主として債権法の分野が中心ではあるが、民法総則部分等にも従来の判例を踏襲等した改正は少なくはない→上記各業者の業務の中核をなす契約全般に影響を与える限りで民法総則部分的な改正点は最後にフォローすることにした。

2  改正の各具体的ポイント…実務上の改正影響箇所のチェック

第2 各契約ごとの改正の具体的項目について…具体的問題点については是非ご相談を!

 1 売買契約

  •  売買契約全般について
    • 売主の義務=契約の内容に適合した物を引き渡す義務

売主の義務の明確化の重要性←売主の賠償責任の範囲の拡大から

現状有姿取引の特約も直ちには売主の債務不履行責任を免責できない!

契約不適合責任に対する対応(例えば「土壌汚染」に関して条項例 1 、 2 、 3 )

  • 手付=従来の判例理論や「放棄・倍返し」を規定化
    • 錯誤についての変更=従来の判例理論の規定化と取消権への変更等

「要素」の錯誤の「要素」性の明文化

「動機の錯誤」(判例理論)の明文化

錯誤の効果→「無効」から「取消可能」へ

  • 表明保証条項と錯誤、暴力団排除条項との関係等

「表明保証」=契約時等一定の時点において、一方が他方に対して、契約するに当たり重要な事項(当事者の属性、財務状況、契約の目的物の内容等)、権利関係の存在・不存在に関して真実・正確であることを表明し、相手方に対してその内容を保証すること=契約において広く利用されている。

その機能=A契約締結前に当事者による情報開示を促進し、デューデリジェンスを補充する機能、B当事者の合意どおりに取引から生じるリスクを分配する。

☆錯誤との関係=ある取引において、ある事項についての表明保証がされたが、後にその事項の真実性・正確性が否定され、表明保証違反が判明したという場合において、取引当事者の一方が表明保証合意に従った解決を拒絶し、その事項についての真実性・正確性について、「動機の錯誤」に陥っていたと主張して、取引の合意の有効性を否定することができるかどうかという点が問題となる。

  • 売買契約解除の場合の原状回復義務の範囲

果実の返還→改正545条3項を追加し、物から生じた果実の返還をする義務がある旨の規定を新設 

  •  債務不履行による損害賠償
    • 債務不履行責任の条項例→各契約書ひな型を参照
    • 帰責事由のリスクの分担方法

帰責事由のリスク分担の必要性:債務者に「免責事由」があるとされる場合

「落雷」があった場合のリスク分担について

A契約の成立前に落雷→建物が燃えて滅失した場合

B契約の成立後履行期日までに落雷→同上

C契約の履行期日を過ぎてから落雷→同上

リスク分担を意識した条項例を設けておくべき!

  • 416条(損害賠償の範囲)の改正内容
    • 404条(法定利率)、412条(履行期と履行遅滞)、419条(金銭債務の特則)
    • 賠償額の予定…改正後でも旧条項例(  21 、 22 、 23  )を参照
  •  解除・危険負担・受領遅滞
    • 契約の解除についての改正内容…契約書ひな型を参照
    • 催告解除(催告解除通知の書式例  4 、条項例  5 、 6  )
    • 無催告解除(無催告解除通知の書式例(  10 、条項例  7 、 8 、 9  )
    • 危険負担(条項例  11 、 12 、 13 )
    • 受領遅滞(条項例  14  )

   (4)売主の契約内容不適合責任

  • 契約の内容に適合しないことの例
  • 売主の担保責任
  • 土壌汚染に関する条項(必要性)(条項例  45 、 46 )
  • 表明保証条項に関して(既述)(条項例  47 、 48 )
  • 期間制限(566条)の条項例(cf.※1の売買契約書11条3項)(条項例  43 、 44 )
  • 消滅時効の改正(一般論)
  • 追完請求権の期間制限と消滅時効の関係
  • 担保責任を追及する際の通知
  • 買主の追完請求権
  • 代金減額請求権(条項例  15 )
  • 契約内容不適合を理由とする責任を免除する特約

 2 賃貸借契約

  •  賃貸借契約全般について
    • 賃貸借の存続期間
    • 更新と更新料(条項例  26 、 42 )
    • 敷金・保証金の条項例(条項例  30 )
    • 賃貸人の地位の移転による敷金の承継(条項例  16 )
    • 賃借権の譲渡と敷金の承継等(特約例  27 )
    • 修繕費の負担等(条項例  31 )
    • (賃借人の)禁止事項等(条項例  32 )
  •  保証
    • 賃貸借の保証(対処法 37 )極度額(条項例 35 )
    • 元本確定とその事由(条項例  36 、 38 )
    • 契約が更新される際の保証人対応の例(条項例  34 )
    • 期限の利益を喪失した場合の通知(書式例  19 )
    • 情報提供義務(条項例  20 、 39 、対処法 40 )
    • 保証人に対する代理権の授与(条項例  41 )
  •  賃料債権の譲渡等
    • 賃料債権を譲渡する意味
    • 譲渡制限特約条項
    • 債権譲渡通知
    • 債権譲渡の履行拒絶通知
    • デッドロック回避通知
    • 供託請求権の通知
    • 併存的債務引受
    • 免責的債務引受(条項例  50 、 51 )
  •  賃料債権の管理
    • 消滅時効(不動産賃貸借関係)(書式例  52 (時効完成猶予の合意))
    • 多数当事者の債権関係の相対効(条項例  24 、 25 (絶対事項を及ぼす特則))
  •  賃貸借契約の終了
    • 契約の解除
    • 賃借人の原状回復義務(条項例  33 )
    • 賃借物の全部滅失による契約終了
  •  定型約款
    • 定型約款の一般論
    • 定型約款の表示と開示請求
    • 定型約款変更時の周知の例
  •  その他
    • 賃借人による妨害排除請求等(条項例  56 )
    • 原状回復義務の特約条項(条項例  17 、 18 )
    • 転貸借の効果
    • 賃貸人たる地位の移転の通知
    • 賃料の当然減額の条項例等(特約例  28 、 29 、 57 )
    • サブリース

第3 売買・賃貸・請負・委任の各契約に共通して影響のある改正点

 1 (消滅)時効

  •  消滅時効期間の短縮
  •  売買契約に基づく違約金債権の消滅時効期間
  •  賃料債権の消滅時効期間(cf.書式例  52 ((時効完成猶予の合意))

 2 遅延損害金(法定利率)

  •  法定利息の利率
  •  遅延損害金の約定

 3 定型約款

  •  定型約款の意味
  •  定型約款の合意または準備と相手方への表示(条項例  53 )
  •  定型約款の内容の相手方への表示義務(条項例  54 )
  •  定型約款の変更が有効な(=変更合意が擬制される)ための要件(条項例  55 )

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

事務所概要
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
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