効果的な登記を促進する遺言執行者の役割

 

効果的な登記を促進する遺言執行者の役割

 

 

 2 遺言執行者

(1) 制度:遺言をその内容どおりに執行する者。弁護士や司法書士等の専門家以外では受遺者がなる場合が多い。
 
(2) 選任手続:遺言中にて、または家裁が利害関係人の請求によって選任する。
遺言の有効・無効と選任=遺言の無効なことが一見明らかである場合には、家庭裁判所はこれを理由に遺言執行者の選任の申請を却下することができるが、遺言の効力が実体的審理をまって初めて決せられるような場合には、家庭裁判所はその効力について審判することなく、遺言執行者を選任するを相当とする(東京高決昭27.5.26高民集5-5-202)。

(3) 就任通知等:遺言執行者は、就任後、遅滞なく相続財産の目録(遺産目録)を作成して相続人に交付しなければならない(民法1011条1項)。実務的には、就任時に就任通知と一緒に遺言書の写を同封し、その時点で、ないしそこから遅滞なく遺産目録を作成して各相続人に送付している。各相続人は送られた①遺言書の写と②遺産目録を見て、自己の遺留分が侵害されているかを判断することができる。→後述する遺留分減殺請求の消滅時効の起算点は、この①②を受領した時点となる。

(4) 遺言執行者の権利義務に関する諸判例
「公共に寄与する」遺言:受遺者の選定を遺言執行者に委託する旨の遺言は、遺産の利用目的が公益目的に限定されているため、右目的を達成することができる被選定者の範囲が国または地方公共団体等に限定されているものと解されるときは、有効である(最判平5.1.19民集47-1-1)。

 

遺言執行者は「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」(民法1012条1項)。かつ「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」(民法1015)。しかし、上記1012条は受遺者が自ら遺贈の目的物につき自己の請求権を保全する仮処分の申請をすることを妨げるものではないし、上記1015条で相続人の代理人とみなされるからといって、必ずしも相続人の利益のためにのみ行為すべき責務を負うものではない(最判昭30.5.10民集9-6-657)。

 

減殺請求の相手方:包括遺贈の減殺請求は、遺言執行者に対してその意思表示をしても差し支えない(大判昭13.2.26民録17-1481)。

 

遺言無効確認の訴えにおける被告適格:相続人は遺言執行者を被告となし、遺言の無効を主張して、相続財産につき、共有持分権の確認を求めることができる(最判昭31.9.18民集10-9-1160)。

 

受遺者の所有権移転登記請求訴訟の被告:遺言執行者がある場合においては、特定不動産の受遺者から遺言の執行として目的不動産の所有権移転登記手続を求める訴えの被告適格を有する者は、遺言執行者に限られ、相続人はその適格を有しない(最判昭43.5.31民集22-5-1137)。

 

遺贈による所有権移転登記の抹消請求の被告:遺贈による所有権移転登記の抹消登記を相続人が求める場合、遺言執行者でなく受遺者を被告とすべきである(最判昭51.7.19民集30-7-706)。

 

「相続させる」旨の遺言(※1※2※3)と遺言執行者:
※1 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるかまたは遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである(最判平3.4.19民集45-4-477)。
※2 「相続させる」旨の遺言の効力:特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らかの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される(最判平3.4.19民集45-4-477)。
※3  登記の要否:「相続させる」趣旨の遺言による権利の移転は、法定相続分または指定相続分の相続の場合と本質において異なるところはない。従って、「相続させる」趣旨の遺言によって不動産を取得した相続人は、その権利を登記なくして第三者に対抗できる(最判平14.6.10判時1791-59)。

 

A 遺言執行者の登記義務:特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言により、その者が被相続人の死亡とともに当該不動産の所有権を取得した場合には、その者が単独でその旨の所有権移転登記手続をすることができ、遺言執行者は、遺言の執行として上記の登記手続をする義務を負うものでない(最判平成7.1.24判時1523-81)。

 

B 登記請求できる場合:特定の不動産を特定の相続人甲に相続させる趣旨の遺言がされた場合において、他の相続人が当該不動産につき自己名義の所有権移転登記を経由したため、遺言の実現が妨害される状態が出現したような場合場合には、遺言執行者は、遺言執行の一環として、上記所有権移転登記の抹消登記手続の他、甲への真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求めることもできる(最判平11.12.16民集53-9-1989)。

 

C 賃借権確認請求訴訟の被告適格:遺言によって特定の相続人に相続させるものとされた特定の不動産についての賃借権確認請求訴訟の被告適格を有する者は、遺言執行者があるときでも、遺言書に当該不動産の管理及び相続人への引渡を遺言執行者の職務とする旨の記載があるなどの特段の事情のない限り、遺言執行者ではなく、上記の相続人である(最判平10.2.27民集52-1-299)。

 

遺言執行の妨害行為の禁止:遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(民法1013条)。
A 絶対無効:遺言執行者ある場合、相続人が相続財産につきした処分行為は、絶対無効である(大判昭5.6.16民集9-550)。
B 受遺者の対抗要件等:a 相続人が民法1013条に反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し、またはこれに第三者のため抵当権を設定して登記したとしても、相続人の上記処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして上記処分行為の相手方たる第三者に対抗できる。b 「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含む(最判昭62.4.23民集41-3-474)。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
事務所概要
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
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