管理会社をめぐる紛争

マンションオーナーが考えるべき、どの管理会社にするか?

多くの場合、分譲当初から管理会社は分譲会社の関連の会社で決まっており、その後も特に契約内容などを見直すことなく来てしまっているとぃうこともあります。その場合、管理組合が管理会社の業務を十分に把握していない、あるいは契約内容が適切でないにもかかわらず是正されないまま来てしまったなどということで、管理会社の業務に問題があり、管理組合に損害が生じる場合も起きうるところです。 この場合、管理組合としては、管理会社と対応を協議し、管理会社を変更するなどの対応で解決することも多くあることと思います。裁判例等を見ても、現実に管理組合と管理会社との間の問題が訴訟にまでなることは必ずしも多くはないと思われますが、こういった背景もあるものと思われます。

不動産管理会社が負う義務

管理会社は、前述のような管理業務を行いますが、適切な管理がなされるよう、平成13年にマンション管理適正化法が施行されました。この法律は、基幹業務(経理に関する事務および大規模修繕に関する事務のことをいいます(マンション管理適正化法2条6号))を含む業務を受託する管理会社に対して、管理業務を受託するためのさまざまな規制を設けています。 一般的には基幹業務を含む管理業務を委託することが多いと思われますので、管理組合から管理業務を受託する管理会社は、マンション管理適正化法の規制を受けて、業務を行わなくてはなりません。具体的には、管理会社は、同法に基づき、以下のような規制を受けます。

信義誠実の原則(マンション管理適正化法70条)

民法上、受託者は善管注意義務を負います(民法644条)。このことは、マンション標準管理委託契約書においても明文化されているところです。マンション管理適正化法も、管理会社に対し、業務を行うにあたって信義誠実義務を負わせています。

管理委託契約締結時の重要事項説明義務等(マンション管理適正化法72条)

管理会社が管理組合との間で管理委託契約を締結しようとする場合(新築マンションの場合を除きます)、管理会社は、あらかじめ、管理組合の区分所有者および管理者の全員に契約内容等に関する重要な事項を記載した書面(重要事項説明書といいます)を交付し、区分所有者および管理者に対して、説明会を開催して重要事項の説明をしなければならず、また、同一内容にて管理委託契約を締結するものとされています(同条1項)。更新する場合にも、区分所有者全員に重要事項説明書を交付し、管理者に対して契約内容を説明しなければなりません(同条2項。3項)が、この場合、説明会の開催は不要です。重要事項の説明は管理業務主任者が行わなければならず、説明書には管理業務主任者が記名押印しなければなりません(同条5項)。

管理委託契約締結時の書面交付義務(マンション管理適正化法73条)

管理会社は、管理組合から管理業務を受託した場合、管理事務の内容や実施方法、管理事務に要する費用並びにその支払いの時期や方法など法定の事項を記載した書面を、管理者(管理者がいない場合には、区分所有者全員)に、交付しなければならないとされています。

基幹業務の一括再委託の禁止(マンション管理適正化法74条)

管理会社は、管理組合から業務を受託する場合であっても、基幹業務を一括して再委託してはなりません。

財産の分別管理義務(マンション管理適正化法76条)

管理会社は、修繕積立金など管理組合から預かっている財産と、自己の財産とを分別して管理しなければなりません。そのほかにも、帳簿作成義務(マンション管理適正化法75条)、管理事務報告義務(同法77条)などを負います。 管理組合から、まずは、委託している管理会社がマンション管理適正化法を遵守しているかどうかを監督される必要があります。しかし、それだけで管理会社の管理が問題なくなるという保証はありません。 そのため、マンション管理士などの専門家も活用しながら、管理会社が適切に監督される必要があります。

不動産管理会社と不動産管理組合の紛争

管理組合と管理会社との紛争の中で多いのは、やはり金銭に関するものです。たとえば、管理会社自身が預り金を横領したことへの責任追及、理事が横領したことに対する管理責任の追及、管理会社が支出した費用が不適切であるなどとして損害賠償請求がなされる場合などがあります。管理組合が行う業務内容は多岐にわたりますので、紛争類型も多岐にわたります。

不動産管理会社自身の横領

管理会社は、管理組合が行う修繕積立金等の徴収業務を代行し、徴収した金銭を預かることになります。あってはならないことですが、管理会社の従業員が預り金を横領する事例もあります。 この場合、実際に横領した従業員はもちろん、管理会社も、横領されたことにより生じた損害の賠償をしなければなりません。 この事例に関する裁判例としては、東京地裁平成22年3月22日判決などがあります。 管理組合としては、個人に対して責任を追及していたのでは資力がなく損害賠償を受けられない場合でも、より資力があると見込まれる管理会社から損害の賠償を受けられることになります。 もっとも、従業員個人の責任を追及する場合であれ、管理会社の責任を追及する場合であれ、管理組合の過失が考慮され、全額の賠償が認められないこともあり得ます(なお、前掲。東京地裁平成22年3月22日判決では過失相殺の主張は否定されています)。 ですので、管理組合は、管理会社の担当者の出納業務について、適宜チェックをしていくことが重要といえるでしよう。

不動産管理組合の理事による横領

管理会社だけではなく、管理組合の理事が管理費等を横領する事態も生じています。近時では、横領額が多額となり、刑事事件に発展する事態も生じています。 この場合、管理組合としては、管理会社に対しても、財産管理に不備があったとして被った損害の賠償を求めたいところです。しかし、基本的には、管理組合が理事の業務の執行を監督する立場にあります(標準管理規約51条も理事会は理事の職務の監督をすることとされています)。 そのような事例に関し、東京地裁平成17年9月15日判決は、以下のとおり述べています。 この事案は、管理組合が、管理会社を相手として、理事長が横領した金銭についての損害賠償請求をしたものです。判決文が認めた事実によれば、理事長が通帳の届出印を、管理会社が通帳を保管している中で、理事長が、無断で通帳の再発行をするなどして預金口座から金員を引き出して横領しました。その後、通帳が再発行されたことを知った管理会社が理事長に問合せをしたところ、その弁解は不審なものだったのですが、管理会社は、理事長から再発行した通帳を預かっただけでそれ以上の措置を講じなかったのです。そうしたところ、理事長は再度通帳の再発行をして無断で預金を引き出して複数回にわたり横領行為を繰り返しました。 判決では、上記の事実関係のもと、管理会社が、理事長が通帳を無断で再発行した事実を認識した時期以降の横領行為に関しては、管理会社の債務不履行であるとして、その賠償を命じました。 もっとも、この事案では、管理組合の担当理事が適切な任務を怠っていたことや監事の監査が十分になされていなかつたことが損害を拡大させた大きな要因であるとして、管理会社は債務不履行により生じた損害のうち4割の賠償のみ命じられました。 このように、管理会社が理事の横領行為を認識し得たにもかかわらず、これを防ぐ適切な措置を講じていない場合には損害賠償が認められることがあります。しかし、基本的には管理組合が理事の監督を行うべき立場にありますので、そのような場面は限定的に解されますし、賠償が認められるとしても、過失相殺がなされる可能性が大きいと思われます。 ですので、管理組合としては、理事が適切に業務を行っているのか、管理会社に任せきりにせずに、監督をしていくことが重要です。

不動産管理会社が負うべき日常的な費用の支出に関する責任

管理会社は、管理組合の予算に基づいて、管理組合の口座から、管理や修繕等にかかる経費を支出することになります。この場合、個々の支出について管理組合の事前の承認がない場合もあるでしよう。 このような場合に、管理会社が行った支出が不適切なものであるとして、その賠償を請求することができるかが争われることがあります。裁判例としては、①東京地裁平成16年11月30日判決、②東京地裁平成21年5月21日判決があります。 ①の事案は、管理会社が、管理人室の机やいすなどの備品の購入に関して、事前に管理組合の承認を得ずに支出したとして、債務不履行を理由として賠償が求められた事案です。この事案において、裁判所は、事後に総会で承認されている点を理由に、管理会社に債務不履行はないとして管理組合の請求を棄却しました。 また、②の事案は、管理人(管理会社の従業員)が、理事長の事前の承認なく種々の支出をしたことなどが、管理会社の不法行為にあたるとして損害賠償を求めた事案です。当該事案でも、裁判所は、少額の支出につき逐一承認を求めることが現実的ではなく、決算において支出についての承認がなされていることなどから、管理会社には不法行為はないとしました。 費用について、予算に概算が計上され、また決算が承認されているような場合には、個別の支出について事前に承認を得ていないからといつて、当然にその賠償を求めることは難しいと考えられます。 もっとも、このような少額の支出が管理されずになされていった結果、多額の横領事案につながるということも考えられます。ですから、管理組合は、管理会社が行う支出について、適宜報告を受けるなどして適切な監督をしていくことが重要であるといえるでしよう。

管理委託契約の終了に関する紛争

管理組合と管理会社との契約は、準委任契約ですので、契約上特段の定めがなければ、管理組合はいつでも契約を解除することができます(民法651条1項)。受任者にとつて不利な時期の解除の場合には、委任者は、受任者の被った損害を賠償する義務を負います(同条2項)が、「不利な時期」とは、委任の内容である事務処理自体に関して受任者が不利益を被る時期として、報酬を喪矢した場合を含まないとするのが判例です(最高裁昭和43年9月3日判決(集民92号169頁))。マンション標準管理委託契約書を前提にした場合、解約の申入れに関して、相手方に対して少なくとも3ヶ月前に書面で行うという要件を設けていますので、この場合には契約内容に従って処理することになると思われます。しかし、そのような特約がない場合には、基本的に、解除が否定されたり、あるいは管理会社が受け取ることができたであろう報酬の支払いを管理組合がしなければならないということはないと思われます。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

事務所概要
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
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