遺産共有とは

不動産を持っていた人が死亡し法定相続人が2人以上いる場合で、遺言書が作成されていなくて、遺産分割協議も成立していない場合、不動産を2人以上で共有していることになりますが、この場合の共有を「遺産共有」といいます。

共有物分割請求ができないケース①

「遺産共有」の場合は原則として共有物分割請求ができません。

このように遺産分割協議が成立していない状態で法定相続人で共有する「遺産共有」の場合には、原則として共有物分割請求はできません。あくまでも紛争当事者を相続人に限定した、相続人間のみの遺産分割協議を先に行うべきというのがその理由です。その根拠の1つには、法定相続分から増減させる「特別受益」や「寄与分」といった相続人間固有の問題があるため、こちらから先に解決すべきとされているからです。

共有物分割請求ができないケース②

仮に「相続登記」をしていても「遺産共有」では原則として共有物分割請求はできません。

「相続登記」をしていれば共有物分割請求ができるのではないかと考える方もおられます。確かに、登記実務上は、「相続登記」が済んでいた後の登記原因は「相続」ではなく「遺産分割」となります。

ただし、相続登記といっても、相続登記の申請前に遺産分割協議書等により相続人ら共有にて取得する旨を定めて行う場合は、「相続」を登記原因とする「相続登記」ではありますが、既に上記の「遺産共有」ではない通常の共有ですので通常の共有状態と同様に共有物分割請求はできます。しかし、「相続登記」といってもこのように遺産分割協議等に基づいて行う場合だけでなく、遺産分割協議等が成立していなくても法定相続分の割合に応じた登記ができる(相続人の誰か1人からでも、戸籍謄本さえ揃えれば単独申請が可能。狭義ではこれのみを「相続登記」と呼ぶこともあります)ものとされています。このように遺産分割協議が成立していなくて法定相続分の割合に応じて行われた(狭義の)「相続登記」の場合は『遺産共有』の状態ですので、原則として共有物分割請求をすることができません。

例外となるケース

しかし、「遺産共有」があっても共有物分割請求ができる場合があります。

「遺産共有」であれば原則として共有物分割請求ができず、先に遺産分割協議等をしなければならないこと及びその理由は上述しました。

ところが、「遺産共有」であれば必ず先に遺産分割協議をしなければならないという訳ではありません。

例えば、兄弟で2分の1ずつの割合で不動産を共有していたとします。この時に兄が死亡して兄の妻と子供が法定相続人になっていてまだ遺産分割協議が成立していないとします。  

確かに、この場合兄の2分の1の持分については妻と子で「遺産共有」となっています。

しかし、この場合は、共有物分割請求ができると解釈されています。これは<弟だけでなく兄の妻や子供もできる>と解釈されています。その理由は、<元々兄弟間でふつうの共有>であったので、兄弟が共有していたときには共有物分割請求ができた状態であったからです。兄が死亡したことによって兄の<持分について>「遺産共有」となったものの、不動産全体でみると元々共有物分割請求が可能な通常の共有状態であったので共有物分割請求ができるわけです。

なお、共有で不動産を取得させるという遺言書がある場合も共有物分割請求ができます。

遺言書で相続人に法定相続分の割合で不動産を取得させる(「相続させる」)という遺言書が作成されている場合も結構あります。

「法定相続分どおりに取得させるという遺言書を作っても意味がないのではないか」と思われる方もおられると思いますが、そうではありません。

この場合は遺言書で遺産を確定的に取得したことになるので、遺産分割協議等が未了という状態ではないことから共有物分割請求ができます。

ちなみに、上記「遺産共有」の状態について家庭裁判所で遺産分割の調停や審判が行われる場合は特別受益や寄与分を考慮して遺産の配分を決めることになるため、共有物分割請求はできません。しかし上記のように、遺言書がある場合は遺言者が諸般の事情を考慮して上記配分を決めたものと解釈されるので特別受益や寄与分の問題は通常は起きません。よって、この場合には上記のとおり共有物分割請求ができることになるのです。そして、この場合には、上記の共有物分割請求の可否とは直接関係しませんが、最低限の取り分である遺留分すら確保できない相続人は遺留分減殺請求ができるだけということになります。

相続によって共有になった場合で原則として共有物分割請求ができないケース

①不動産を死亡した人1人が単独で所有していた場合に限られます。そうではなくて死亡前から数人での共有状態であったところ共有(持分権)者の1人が死亡して頭書の「遺産共有」になった場合は共有物分割請求ができます。

②遺言書が作成されていないことも条件となります。共有で取得させるという遺言書が作成されている場合は遺言書で共有取得が確定している(=分割協議は不要、かつ遺言者の意思で特別受益や寄与分も折込済なので「遺産共有」の状態でも共有物分割請求ができます。

③遺産分割協議が成立していないことも条件となります。遺産分割協議等によって共有取得した場合は確定的に共有取得しているのでもはや「遺産共有」ではなくなっていることから共有物分割請求ができます。

このように見てみると、相続がらみの共有の場合に共有物分割請求ができない場合は限られていることになります。この点を誤解されている方もおられます。お悩みの方はご相談ください。

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不動産を複数人で共有している場合、個々人の使用収益・処分が法律上制限されてしまう場合があります。そのため、個々の共有者において満足な利用ができず、不便を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。この場合、共有者間において共有関係の解消を目指していくことになります。しかし、共有関係の解消は予期せぬ紛争となり得る可能性がありますので、専門家である弁護士等に相談・依頼する必要があります。
当事務所では共有不動産に関するご相談を数多くいただいており、豊富な解決事例を有しています。お持ちの共有不動産をいかによりよく処分するか、法律と実務に精通した弁護士がご提案いたします。
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投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。
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