〔裁判例5〕東京地判昭57・2・17判時1049号55頁
建設業者Y1は、A所有の土地を取得するに当たって、Aから代替地の探索を依頼され、買受予定者Y2に対し土地の探索と買収を依頼した。Y1は、X1とX2が所有する本件土地の買受け交渉を進め、Y2は不動産売買仮契約書を作成した。仮契約の前文には、XらとY1とY2が「不動産売買に関する基本事項について仮契約を締結し、正式契約を円滑かつ支障なく締結するための証として当該仮契約書各1通を保有する」、第2条に「さらに具体的細部事項を定めて正式契約を締結するもの」と規定していた。昭和46年6月15日、XらとYらの担当者が集まり、XらとY2は仮契約書に記名押印したが、Y1の担当者は、記名押印の予定はなく印を所持していない旨を述べた。今後の正式契約締結までのスケジュールが話し合われたが手付金の授受はなかった。その後も協議が続いたが正式な売買契約は締結されなかった。Xらは、Yらに対し、昭和46年6月15日にYらとの間で本件売買契約が成立したと主張し売買契約・仮契約の債務不履行に基づく損害賠償請求をした。
裁判所は、「売買契約は、当事者双方が売買を成立させようとする最終的かつ確定的な意思表示をし、これが合致することによって成立するものであり、代金額がいかに高額なものであったとしても、右意思表示について方式等の制限は何ら存しないものである反面、交渉の過程において、双方がそれまでに合致した事項を書面に記載して調印したとしても、さらに交渉の継続が予定され、最終的な意思表示が留保されている場合には、いまだに売買契約は成立していない」。「本件仮契約は、不動産売買仮契約書と題するものであり、その前文では、本件仮契約書が正式契約でないことを示す趣旨があり、第2条では更に具体的細部事項を定めて正式契約書を締結するものと明確に規定して、右仮契約書の記載上も、後日正式契約書を締結すること及びその締結に向けて、正式契約に盛り込むべき具体的細部事項について交渉を継続することを予定しており、実際にも、右規定の趣旨に基づいて、具体的細部事項についての交渉を継続して同年6月28日に正式契約を締結し、その際、買主側から手付金として5200万円を支払うという今後のスケジュールが予定されていたのであるから、本件仮契約書の第2条にいう正式契約の締結が既になされた売買契約の確認というような単なる形式的なものであるとは認め難く、かえって、本件仮契約書は、後日正式契約を締結し、正式契約書を作成することにより売買契約を成立させるという当事者の意思を明確に示したもの」とし、XらとYらの間において本件売買契約が成立したものと認めるとはできないとし、Xらの請求を棄却した。Xらは、Y2の契約締結義務、誠実交渉義務違反を理由に損害賠償請求したが、いずれも排斥された。
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