〔裁判例6〕東京地判平成10・10・26判時1680号93頁

  所有者Xと買受希望者Y(宅建業者)は、平成5年3月15日、本件土地に分譲マンションを建築する目的で基本協定を締結した。Yは、12月上旬を経過しても基本協定を履行せず、マンション市場の冷え込みを理由として売買契約の締結を拒否した。Xらは、Yに対し、①首位的に協定書を売買契約・売買予約または類似の無名契約とし債務不履行に基づく損害賠償請求、②予備的に契約締結上の過失に基づく損害賠償請求をした。

   裁判所は、①について、本件協定書の性質及び効力は、「本件協定書の文言についてみるに、同協定書は、XらがYに本件土地等を譲渡することに双方が同意する旨(第1条)及び代金額が1億8000万円である旨(第2条)を定めており、売買契約の要素である目的物と代金額の特定性に欠けるものではないが、売買契約の時期は平成5年12月上旬を目途とする旨(第3条)を明確に定めていることからして、それ自体が本件土地等の売買契約ではないことが窺われる。また、本件協定書中には、一方当事者のみの意思表示によって売買の効力又は相手方の承諾義務が生じることを示唆する文言は何ら存在しないから、これが売買の予約であるとも解し難い。また、協力金の支払い約束については、本件協定書第5条の文言上、右支払いが本件土地等の売買契約の成立することを前提としていることが明らかである。次に、前記認定の本件協議書締結の経緯を見ると、Xらは、Yが本件土地等について売買契約の締結を求めたにもかかわらず、これを拒絶し、代わりに本件協定書を締結したものであって、Xらが、本件協定書の締結の時点において、本件土地等をYに売り渡すことを拒絶する自由を留保する意思を有していたことが認められる。これらの事実によれば、本件協定書は、売買契約又は一方当事者のみの意思表示により売買契約の効力又は相手方の承諾義務を発生させる趣旨の合意(予約)であるとは認めがたいといわねばならない。また、前記説示のとおり、本件協定書のとおり、本件協定書における協力金の支払約束は本件土地等の売買契約が成立することを前提とするものと解されるから、右売買契約成立前において協力金支払約束が法的拘束力を有するものとはいい難い」。②については、「契約交渉の開始から契約締結までの間に相当の期間を要し、その間に、両当事者が契約の締結に向けて順次何らかの事実上及び法律上の行為を行っていく場合において、契約交渉がある段階に達し、相手方に契約の成立に対する強い信頼を与え、その結果、相手方が費用の支出、義務の負担等をした場合には、契約交渉を一方的に打ち切ることによって相手方の信頼を裏切った当事者は、信義則上、相手方が契約が締結されることを信頼したことにより被った損害を賠償する義務を負う」。「XらとYは、平成元年3月頃、本件土地等の売買についての交渉を開始し、その後Xらが取得する代替地が特定され、平成3年7月頃には、Yの開発行為について横須賀市の許可を得るため、Xらが、Yの求めに応じて、Yの開発行為に対する同意書を提出し、その結果、本件土地における建築制限を伴う開発行為の許可がされたものであるから、遅くとも右同意書提出の時点において、Yは、Xらとの間で本件土地等の売買契約の成立に向けて誠実に交渉する信義則上の義務を負うに至った」。「Yは、本件協定書に定める契約締結時期である平成5年12月を1年6カ月以上過ぎた平成7年6月になっても、マンション市場の冷え込みというYが負担すべき経済上の危険を理由として、本件協定書の履行ができないと述べているのであるから、本件協定書に定める契約の締結を拒絶したものというべきであり、そうすると、Xらが右契約が締結されるものと信頼したことにより被った損害を賠償する責任がある」とした。ただし損害の立証がないとしてXの請求を棄却した。