〔裁判例8〕東京地判平成6・2・23判時1492号92頁

  Aの相続人Xらは、遺産分割調停中に、遺産である本件土地をYに対し、売却する交渉をして覚書を締結した。覚書には、本件土地がXらの所有になったときはYに売渡すこと、坪当たり55万5000円の単価を定め(ただし、国土法の規定に従う)、その他の条件はXらとYが協議の上定めるとした。ところが、Yは、国土法所定の事前届出をせず、銀行融資が難しい状況にあるとして契約の実行の延期を求めた。XらとYは、坪当たりの単価の額を確認し、契約締結期限を約4か月後の平成3年3月末を目途とした。Yは、その後、解約を表明し、Xらは、Yに対し債務不履行に基づく損害賠償請求をした。

  裁判所は、覚書による合意の法的性質について「売買は、売主がある財産権を買主に移転することを約し、買主がこれにその代金を支払うことを約するによってその効力を生ずる」。「覚書においては、売買の対象は本件土地であり、その代金は坪当たり55万5000円であることが合意されているのであるから、これによって売買契約が成立したものということができる。覚書には『その他の条件については、Y及びXらが協議の上定める』旨の条項があり、売買の対象と代金以外の事項について後日さらに協議して合意することが予定されているが、Xら及びYがこれらの事項をも売買の要素とする意思であったことを認めるに足りる証拠はない(略)。不動産の売買契約については通常契約書が作成されるが、当事者が契約書の作成によって契約を成立させるものとする意思であった場合は格別、常に契約書作成の時点で契約が成立するというものではない」。「本件においても、契約書の作成が予定されていたものと推認されるがXら及びYが契約書の作成によって初めて契約を成立させるという意思を有していたことを足りる証拠はない」。Yの債務不履行について、「当事者双方は、協定書によって、平成3年3月末までには覚書には定められていない事項について協議の上合意を成立させる義務を負っていたものであるところ、右認定事実によれば、Yは、Xらの催告にもかかわらず、このような義務を履行しなかったのであるから、Xらが同年12月17日にした売買契約の解除は有効である」とし、「買主の債務不履行によって売買契約が履行されない間に売買の目的物の時価が下落した場合には、売主は、約定の代金額と契約解除当時における目的物の時価との差額」を債務不履行による損害として認められ、Xの請求を一部容認した。