〔裁判例1〕東京地判昭和63・2・29判タ675号174頁

買受希望者Yは、所有者Xに対し買付証明書(売買代金16億21万円、代金の支払時期などはXY間において別途協議するなど)を発行し、翌日、Xは、同じ内容の売渡承諾書を発行し、2週間後に正式な売買契約書を取り交わすことを合意した。その後、XY間で条件交渉を続け売買契約書案を作成したが、Yは、調達の見通しを立てられず、契約予定日に売買契約書は締結されなかった。Xは、買付証明書・売渡承諾書の発行をもって売買契約が成立したとしてYの債務不履行解除を理由に違約金請求した。

 裁判所は、「売買契約が成立するためには、当事者双方が売買契約の成立目的としてなした確定的な意思表示が合致することが必要であるが(略)不動産売買、とりわけ本件のように高額な不動産売買の交渉過程においては、当事者間で多数回の交渉が積み重ねられ、その間に代金額等の基本条件を中心に細 目にわたる様々な条件が次第に煮詰められ、売買条件の概略について合意に達した段階で、確認のために当事者双方がそれぞれ買付証明書と売渡承諾書を作成し手取り交わしたうえ、更に交渉を重ね、細目にわたる具体的な条件総てについて合意に達したところで最終的に正式な売買契約書の作成に至るのが通例である」。「不動産売買の交渉過程において、当事者双方が売買の目的物及び代金等の基本条件の概略について合意に達した段階で当事者双方がその内容を買付証明書及び売渡承諾書として書面化し、それらを取り交わしたとしても、なお未調整の条件についての交渉を継続し、その後に正式な売買契約書を作成することが予定されている限り、通常、右売買契約書の作成に至るまでは、今なお当事者双方の確定的な意思表示が留保されており、売買契約は成立するに至っていない」。本件について、①XとYが本件土地建物の売買の本格的な交渉を始め、代金総額、取引形態、支払方法、所有権移転時期、引渡時期、質権設定、違約金等に関する事項の概略について合意に達し、その内容を明らかにすべく買付証明書・売渡承諾書を作成したこと、②この時点では、内金の支払時期、所有権移転時期及び質権設定時がいずれも「売買契約締結時」と合意され「契約内容については別途協議して定める」と明確に記載され、その余の売買条件の細目はいまだ合意に達しておらず、正式な売買契約書の作成に至るまでXY間で未調整の事項について更に交渉を継続していくことが予定されていたこと、③その後、現実にXY間において交渉が継続され、売買契約締結時を同年3月10日とし右同日正式な売買契約書を作成することが現実に合意されながら売買契約書の作成に至っていないことから、XY間で「本件土地建物の売買契約に不可欠な確定的な意思表示がなされたものとは認められ(ない)」とし、Xの請求を棄却した。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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