〔裁判例3〕東京地判平2・12・26金判888号22頁

  所有者Xは、仲介業者を介して、買受希望者Yと本件土地の売却交渉を重ね、Yは、「国土法指導価格により本件不動産を買い付けることを証明する」

との買付証明書を提出し、Xは、「売買価格を国土法の許可によるものとして(土地3.3㎡当たり650万円、建物3.3㎡当たり30万円)、本件不動産をYに売却することを証明する」との売却証明書を交付した。XとYは、墨田区長に国土法の届出をして不勧告通知を受けたが、Yが依頼した本件不動産の鑑定評価額は前期届出価格よりも2億円余り低い19億1270万円であった。Yは、Xに対し、前記届出価格よりも2億円低い額で買い受けたい旨を申し入れたが、Xがこれに応じず、Yは購入を断念した。Xは、Yとの売買契約を解除し他へ売却し、Yに対し、①主位的に売買契約の債務不履行を理由に損害賠償請求し、②予備的に信義則上の義務違反または不法行為による損害賠償請求をした。

 裁判所は、「XとYは、買付証明書及び売却証明書を授受した昭和63年8月25日頃までに、本件不動産の主要な売買条件について概ね合意に達してはいたものの、細目についてはなお協議の余地を残し、これについては国土法24条1項又は3項の規定に基づく墨田区長の勧告又は不勧告の通知を受けた後に協議を尽くして、後日これに基づいて売買契約書を作成することを当初から予定していたものであること、もともと、買付証明書又は売却(売渡)証明(承諾)書が、不動産取引業者が不動産取引に介在する場合において、仲介の受託者たる不動産取引業者の交渉を円滑に進めるため、委託者又は相手方が買付若しくは売渡しの意向を有することを明らかにする趣旨で作成されるのが通例であって、一般的にはそれが売買の申込又は承諾の確定的な意思表示であるとは考えられていないこと、Xが作成してYに交付した前記の売却証明書には『本証の有効期限は昭和63年10月31日までとする。』との記載があること(略)、さらに、本件土地は、国土法27条の2の規定にあるいわゆる監視区域に所在し、その売買等については同法23条1項の規定に基づく墨田区長に対する届出を必要とするものであって、右の届出をしないで本件土地の売買契約を締結し又はその予約をした者に対しては同法47条1号の定める罰則の適用があることなどに照らすと、本件不動産売買条件等を巡るXY間の口頭によるやりとりや前記の買付証明書及び売却証明書の授受は、当時におけるX又はYの当該条件による売渡し又は買付の単なる意向の表明であるか、その時点の当事者間における交渉の一応の結果を確認的に書面化したに過ぎないもの」であって、本件不動産の売買契約の確定的な申込又は承諾の意思表示であるとすることはできないとし、Xの主位的請求を棄却した。②についても「本件不動産の売買契約の締結交渉の一連の過程におけるYの所為は、契約締結の交渉過程における諾否の意思決定の場面における対応として取引通念上許容される範囲を逸脱するものとはいえず、そこに信義則に違反してXの期待的利益を不当に侵害したとか、他の取引希望者との交渉、契約締結の可能性を不当に制約したものと目すべき点を見出すことはできず、それが不法行為を構成するものというべき余地もない」とし、Xの予備的請求を棄却した。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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