〔裁判例10〕東京地判平成24・11・16WL

  買主Y1は、平成22年7月14日、仲介業者XからA所有の本件物件の紹介を受け、Xが買付交渉を経て、9月6日、本件売買契約(代金2億4000万円、手付金2000万円)を締結した。Xは、同月3日ころ、Aの仲介業者Bから本件物件に通行権の負担があることが判明し、契約当日にA側の弁護士から説明がある旨の連絡を受け通行権の負担が記載された和解調書を入手したが、Yには連絡しなかった。同月6日、Xは、Y1との間で一般媒介契約を締結し約定報酬額630万円を定めた。本件売買契約の締結時にAの債権者C側の弁護士Dから和解調書の内容について説明を受けたが、Y1代表者から特別の異議はなかった。翌日、Y1はXに対し、契約当日まで和解調書の内容を知らされなかったことに納得がいかないとして2億円に減額する折衝をするよう申し入れたが、Aはこれに応じなかった。Y1は甲銀行に和解調書を示して説明したところ、甲銀行から融資条件の変更に当たるから、9月10日までに融資を行うことは到底無理であるとの回答を得たため、Y1は、同月9日、本件売買契約をローン解約した。Y1は、Aと再交渉し、同月10日、本件売買契約2(代金2億2850万円)を締結した。手付金はAからY1に返還されることなく本件売買契約2の売買代金と相殺処理された。Y2は、11月10日、Y1から分割により設立された。Xは、Yらに対し、①本件約定報酬請求、②約款に基づく相当額報酬を請求した。

  裁判所は、本件売買契約と本件売買契約2とは別個の契約と解するのが合理的であるとした上で、①について、「仲介契約が、代金についての融資の不成立を解除条件として締結された後、融資の不成立が確定し、これを理由として契約が解除された時には、買主は、仲介業者に対して、仲介手数料の支払義務がないと解するのが合理的であり、本件売買契約は、上記のとおり、融資特約条項に基づく仲介手数料の支払い義務を負わない。」②について、「Y1は、一般媒介契約の有効期間内である平成22年9月10日に、Xの紹介によって知ったAとの間で、Xを排除して本件物件につき売買契約2を締結したものであるから、本件約款に基づき、売買契約2の成立に寄与した割合に応じた本件相当報酬請求権を有するというべきである。そして(ア)本件物件は、Xが平成22年7月14日Y1に紹介し、本件売買契約締結日である同年9月6日までの間、仲介業務を行い、同日、締結に至っているものであること、(イ)売買契約2は、本件売買契約解除の翌日に締結されていること、(ウ)本件売買契約及び売買契約2の融資銀行はいずれも甲銀行であり、売買契約2が速やかに締結・実行されたのは、本件売買契約において提出されていた資料等が売買契約2の融資に利用されていたものを推認されること、(エ)本件売買契約において手付金としてAに支払われていた2000万円が売買契約2の売買代金の一部と相殺処理されていること、(オ)本件売買契約解除後、Y1は、Xに対し、売買契約2の交渉を継続していることを一切告げていないこと、他方、(6)本件売買契約は、Xの提案により融資特約条項に基づいて解除されたものであること、(7)本件売買契約が解除されたのは、本件和解調書が、本件売買契約当日までY1に提示されなかったことが主たる原因となったものと認められることからすれば、Y1がXでなくYら代理人に売買契約2のこうしょうを依頼したことにも相応の理由があると認められること、(8)売買契約2は、Yら代理人による交渉がなければ、締結に至らなかったことが推認されるなど、本件証拠に顕れた事情を総合勘案すれば、Xが、売買契約2の成立に寄与した割合は5割と認めるのが相当」とし、Yらに対する請求のうち売買契約2の代金の5割の2.5%に6万円と消費税を加算した額の5割相当額を認容した。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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