〔裁判例4〕東京地判平26・12・18WL

  Y(医師)は、仲介業者AからX(宅建業者)が所有する本件不動産(賃貸収益物件)を紹介された。Y夫婦が現地を訪れた際、本件不動産の南側に接する隣地の指導道路部分に長さ1m程度の太い杭が打たれていることに気付き、Yの妻甲は、Aの担当者乙に対し、隣地の通路部分を通行できるか、境界承諾書の取得の有無の確認を依頼した。現地件分の後、Aから、本件不動産の購入交渉や融資を受けるうえで必要な書類であるとの説明を受け、本件不動産を合計2億2500万円で購入する意向である旨のA宛の不動産取り纏め依頼書への署名押印と提出を求められたため、Yはこれに署名押印してAに交付した。乙による重要事項説明時に、Yが上記の点を確認したところ、乙は隣地所有者から境界承諾書を取得できていない旨回答した。Yは、本件不動産を第三者に賃貸する予定であるため、将来通行を巡って隣地所有者との紛争をおそれ、Xとの本件売買契約を締結しないことを伝えた。Xは、①首位的に売買契約の債務不履行に基づく損害賠償請求、②予備的に契約上の過失に基づく損害賠償請求を求めた。

  裁判所は、①について、「上記依頼書には『売主の承諾が得られ次第、売買契約の締結を致します』との記載及び契約予定日を平成24年10月17日などとする記載があるものの、Yは本件銀行から融資が受けられることを前提として購入を検討していたにとどまる上、その時点でYが融資申込手続を行っていた形跡もうかがわれないことに照らし、本件依頼書は本件不動産の購入を希望する意向を示したものにすぎないもの」とし、XY間の売買契約の成立を認めなかった。②について、「Yと甲は、本件不動産の購入に関する交渉の当初から、隣地通を部分の通行の可否及び隣地所有者との紛争のおそれについての懸念を示し、甲を通じてXに境界の明示及び通行についての承諾書の取得等の対応を求めていたもので、上記の点についてのYの懸念ないし不安が払しょくされなかったことが契約締結に至らなかった最大の理由であったと認められる。上記のようなYの意向は、甲が本件不動産の内見を行った平成24年9月28日及び重要事項の説明を受けた同年10月11日に、乙に対して隣地との境界承諾書の取得の有無及び隣地通路部分の通行の可否の確認を求めたことなどから、乙においても十分認識していた上、上記乙ないしYとのやりとりについては逐次、乙からXに対して報告されていたのであるから、XもYの上記要望等を認識していたと認められるのであって、Yに本件売買契約の契約締結に努めるべき信義則上の義務があったと認めることはできない」し、Xの請求を棄却した。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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