横浜の弁護士がお伝えする「事業用不動産とロ-ンに対する処方箋」

第1 事業用不動産とは

   事業=継続して業務として行い、営利事業の場合はそれにより収益を得ることを目的としていること

   ∴事業用不動産=不動産を賃貸してそこから賃料収入を得ることを目的とした不動産

   確かに「事業」は賃貸業に限られたものではないが、賃貸業以外の事業は、自己所有地であろうと賃借地であろうと行えるものであり、その事業内容に着目されることはあっても、不動産自体に着目されるものではない。

   ∴ここでは「事業用不動産」は上記の定義で理解して下さい。

 1 居住用不動産との違い

  • 居住用不動産は自己が居住すること自体を目的とします。よって、そこから収益を得ることは通常は予定しません。自身が他者に賃料を支払わなくても済むことがメリットです。
  • 居住用不動産をローン(通常は住宅ローン)を組んで購入する場合、支払うローンについて、収入の3分の1基準等、収入面からの制約もありますが、一般的には、同等物件を賃借した場合に支払う賃料以下だからローンを組んで購入する、ということが圧倒的に多いです。
  • 仮に同等物件を賃借した場合に支払う賃料(=人に賃貸した場合に受領できる賃料)よりも支払うローンの方が多額の場合には、後述する事業用物件の場合にはいわゆる「逆ザヤ」物件ということになるし、居住用であっても、少なくともいわゆる「含み損」をかかえた物件ということになります。
  • 居住用不動産でも含み損の処理をいつ、どういう形でするかは常に問題になりますが、自己の生活の本拠となっているだけに厳密な対処はしづらいのが通常です。
  • 居住用不動産の場合には居住用として自己使用できていることに一つの価値はあります(経済的にみても自己居住用住居の賃料分は浮いている計算にはなります)ので、上記「含み損」があるだけでは、「損切り」のための売却等にはすぐにはつながらないのが通常です。
  • しかし、少なくとも事業用不動産の場合には、上記「逆ザヤ」状態が長く続くことは、損益計算上、損失を累積させていくだけであり、これは単純にみれば自己の資産を目減りさせていくだけなのであるから、余程将来的に楽観的な見込が立つような特殊事情でもない限り、できるだけ早期に上記「損切り」のための売却等を検討すべきということになります。

☆この点が、同じように「含み損」がある場合でも売却をすぐには考えない場合も多い居住用不動産と、「逆ザヤ」で「含み損」があればできるだけ早期に売却等改善策(もちろん、賃料値上げ等の改善策が可能なのであれば、できる限り検討することは望ましい)を考えるべき事業用不動産とでは明らかに異なっていると言えます。

  (7) あと、居住用と事業用との違いの一つとしては、借り入れるローンの金利が違ってくることが挙げられます。借入期間や借入額等の個別事情によって変わってきますが、通常は事業性が高いもの程、借入期間は短くなり、その分、金利も上がるのが一般的です。

2 所有することによるメリットとデメリット

  • ローンが無い物件を所有している場合、それが居住用であっても事業用であっても、毎月の返済がない分だけ賃料負担がないことになるわけですから、所有していることがまさにメリットです。但し、毎年の固定資産税・都市計画税等、所有するがためにかかる経費もありますから注意が必要です。
  • ローンが有る物件を所有している場合、同等物件の賃料と比較して毎月支払うローンの方が多額の場合、その時点ないし月ごとの決算の時点だけでみれば上記「逆ザヤ」であり「含み損」があるということにもなりかねず、一見、早期の処理が必要かとも思えます。極端な場合、上記固定資産税・都市計画税等の負担も考えれば「所有」していること自体にメリットを感じなくなって当然です。
  • しかし、仮に上記「逆ザヤ」物件であり「含み損」物件であっても、将来、ローンを完済した暁には、完全な(=担保権等の負担のない)自己所有物件を手に入れることができる=上記(1)の状態にできることから、我慢してローンを支払い続けることも一つの選択です。
  • この場合には、ローンの支払総額と支払が終了した時点での物件の価値(=居住用であっても事業用であってもその時点になれば客観的に必ず把握可能なはずであり、それを現時点から推測(=将来予測)することも、近似値までは十分可能と思われます)とを比較して、相場的な価額よりもどれだけ費やすのか、その差額を把握しておくことが何よりも肝要です。
  • 事業用、居住用にかかわらず所有することのメリットは上記のとおりですが、所有することのデメリットとしては、①毎年固定資産税・都市計画税がかかる②取得の際に不動産取得税や登記のための費用(登録免許税や司法書士手数料等)、仲介手数料等、取得のための諸経費がかかる③所有物件の売却の際にも譲渡所得税や仲介手数料等、売却のための諸経費がかかる等、所有することによるデメリット(=所有しない(=通常は賃借する)ことのメリット)があります。

3 取得方法によるリスクの違い

  • 全額即金で購入した場合

上記2までで述べた「ローンを組む」ことによるデメリットが全くないこと、少なくとも借入ローン利息分だけは支払総額から減る分、「安い買物」になることから、極力これを目指すべきです。

居住用不動産の場合には、上記のとおり賃借した場合の賃料分だけは浮くことからまだ、支払うローンについても許容される面はありますが、特に事業用不動産の場合には、ローンを組んで購入した場合、家賃収入が空室等から無くなる、あるいは賃料が下がって低額にとどまってしまうこと等により上記「逆ザヤ」「含み損」状態になってしまうリスクも十分あることから、ローンを組んでの購入には、本来、相当慎重であるべきです。

  • 全額ローンで購入した場合

居住用不動産ならまだしも、事業用不動産の場合にはかなりリスクが高くなることは上記(1)で上述したとおりです。

余程、「将来利益」が見込めたりする場合でもない限り、全額ローンでの購入は避けた方が無難と言えます。

  • 一部頭金、残部をローンで購入した場合

リスクの度合いも頭金額、ローン額に応じて変わります。当たり前ですが、頭金額が多くてローン額が少なければ少ない程、リスクは低くなりますので、これを目指すべきです。

第2 ローンに対する対処法

 1 ローン貸主に対する直接の対処法

  • リ・スケジュール(=いわゆる「リスケ」)

通常、リ・スケジュール後の条件の変更点には2点が考えられます。

  •  返済月額を減らして返済期間を延ばして貰う方法。→返済総額の変更はないか、むしろ返済期間が増えることから支払総額は増えるはずです。支払総額が増えることから、貸主にも一定の利益があるため応じて貰え易い反面、利息も含めた支払総額が相当増加する可能性があります。

 これの最も極端なケースが、借主が本当に苦しい一定の期間だけが通常ですが「利息」のみ支払っておく場合です。

 この分、増えた支払期間に応じて利息が増えますので支払総額は増えるのが普通ですし、何よりも仮に元本に充当される金額がゼロということですと、少なくともこの期間分は元本が増える(∵約定利息は通常複利)ことはあっても減ることは決してないので、貸主からの仮に親切さを感じさせる提案であっても、自身の状態から許される限り、安易に乗ってしまうことは危険であり極力避けるべきと言えます。

  •  返済期間そのままに支払総額(→返済月額)を減らして貰う方法。

減らして貰った分だけ貸主にとっては損失(=損金)になることは明らかです。

よって、余程の事情がない限り、簡単には減らして貰えません。

このように、交渉での「減額」が必ず条件となることから、後述の「任意整理」手続の一環です。よって、「任意整理」の中で借主に有利に働く事情が存在しないと交渉決裂の可能性も高いです。

  •  返済月額そのままに支払総額(→返済期間)を減らして貰う方法。

減らして貰った分だけ貸主にとって損失になることが明らかなことは上記②と共通です。

よって、余程の事情がない限り、簡単には減らして貰えないこと、交渉での「減額」が必ず条件となることから、後述の「任意整理」手続の一環であること、「任意整理」の中で借主に有利に働く事情が存在しないと交渉決裂の可能性も高いこと、いずれも上記②と共通です。

  •  一部前倒し返済も組み合わせることで、上記①②③に加えてより多くの効果を得られる可能性もあります。

前倒し返済は、借主の期限の利益を放棄することに他ならず、これは、期間を約束して、その期間発生する利息を期待してお金を貸したローン債権者の収益期待を一方的に奪うものでもあるため、期限の利益の放棄が相手方の利益を害する場合に該たり、このような場合には放棄は出来ない旨の定めが民法上あります。

しかし、従来は、金融機関も、返済されないトラブルに繋がり得る位なら、例え期間利息分の期待利益を失っても返済を受け入れるのが当然とされ、ローン約款にも、前倒し返済により借主が期限の利益を放棄する場面についての合意事項が予め定められていることが通常でした。

 しかし、現在はいわゆる「マイナス金利」の時代であり、貸主も貸出先がいないことで困っているような稀有な時代です。

 このような時代であることからすれば、前倒し返済に関しても、消費者保護法の保護対象となる消費者は格別、個人であっても事業者と認定される場合には、例えば予想期間利息分だけ支払って初めて前倒し返済出来る、というように上記約款の規定も変わっていく可能性がないわけでありません。

  • 利率変更等

次の(3)と近い内容ですが、利率を変更して貰えれば、変更後の利率での支払とでは支払総額に随分と差が生じてきます。そのため、ローン債権者と交渉して任意に利率を下げて貰うことができれば、実質的には後述の任意整理手続を行ったのと同じことになります。

ローン債権者も、現在では貸出先が無くて困っていることから、借り手の側からある程度、利率変更を要求することも出来る可能性はあります。

その際には、言わば客として「乗り換える」ことに他ならない、次の(3)で述べる(他の金融機関への)「借換」を匂わせるのも交渉手段の一つと言えます。

  • 他の貸主への変更(=「借換」)

利率の点他諸条件の面で有利な借り入れ条件を提示してくる金融機関は現在は、かなり多く存在しています。

よって、より有利な金融機関からの借入への変更(=借換)が出来れば、借主側にとっては返済等が随分楽になる場合もあり得ます。

特に、固定金利の高利率で一度組んでしまったローンを、変動金利の低利率で借り換える、等が一つの方法として挙げられています。

☆但し、申し上げるまでもありませんが、「変動金利」への変更は、市場金利が上昇していく場合、契約締結(=借換)時よりも将来、より借主に不利に金利が変更されていくことに他なりません。現在は借入(借換)時の特約等により急に極端に上昇することは防がれていることが多く、例えば半年や1年間のうちに上昇できる金利には上限が付けられています。しかし不利に変更されていくことは間違いありません。いくらインフレ等により賃金等も上昇局面にあるという場合でも、この変動金利の上昇については、特にローン借入額が多額に上る場合には、自身の収入からの返済可能性を厳密にシュミレーションしておく等の注意が必要です。

  • 債権回収会社への譲渡願い等

現実に返済が不能となって回収可能性が低い債権となる程、銀行等のローン貸出債権者は、このような不良債権をかなりの廉価で債権回収会社等へ売却等譲渡しているのが現状です。

よって、自身への請求権者を、譲渡等により、このような債権回収会社に変更することが出来れば、自身の返済額を下げることが出来る可能性もあり得ます。

債権回収会社とすれば、要は、銀行等から購入した代金を上回る回収が出来れば利益が出る訳ですから、ローン債務者側としても交渉してみる余地は十分にあります。

相場的には、もちろん、最終的には、具体的な回収可能性次第なのですが、バルクセール(=回収可能性の高い良質の債権と同低い悪質の債権をまとめて売却する方法)の場合、だいたい銀行等の貸出時の簿価の5~10%が一般的と言われています。

 2 ローン借主が債務整理手続を使う方法

  • 任意整理 概要=各債権者との交渉により、弁済金額・方法等を個別に決めていく債務整理手段。各債権者との合意が成立しないと達成できない。

あと、各債権者ごとの合意成立(=和解)条件に極端に差を設けると、後に債権者取消権や破産手続中の否認権等の対象になり得ること及び偏ぱ弁済として免責不許可事由にもなり得ることにも注意を要する。

  • 民事再生 概要=裁判所への申立てを行い、裁判所の手続は利用するが、基本的には、法律が定める一定のルールの下でだが各債権者の合意を得ることにより債務者の再生を図る法的手続。不動産との関係で言えば、例えば住宅をどうしても残したい者の為の住宅ローン特約付き個人再生手続等に特徴がある。
  • 自己破産 概要=裁判所への申立てにより、一定の時点(=破産時)における資産と負債を明らかにした上で、その時点に存在する資産でのみ負債を、基本的には「按分」弁済することで終わりにする法的手続。残債務については免責を申立て、免責不許可事由等、特に問題ある行為等をしていたり、非免責債権等でなければ免責される法的手続。不動産がある場合には、①破産申立前に任意売却②破産手続中に破産管財人にて(任意)売却③破産手続中において、設定された担保権に余剰が出ないことから破産財団から放棄、等の各手段のいずれかにより処理される。③の場合には、破産手続の終了後に通常は競売されるであろうが、任意売却されることもある。

第3 不動産自体を用いる対処法

 1 任意売却

概要:不動産を売却することにより、その売却代金でもってローン債務者の債務の弁済に充てること。弁済の内容には具体的には様々あるが、売却時に、抵当権等の、登記された担保権が設定されている場合には、まずはこれら担保権の被担保債権を、その順位に応じて優先して弁済しないと、担保権等の負担が何もない不動産を買主に取得させられないので、この点が検討すべき最優先課題ということになる。逆に仮にこれらの担保権の負担が付いたまま買主に取得させる場合には、弁済を強いられる被担保債権額分だけ代金から控除しない限り売却できないことに他ならない。

    金額の調整等、難しい面もあるが、一旦売買が成立すれば、違約とならない限り合意した代金額が買主から支払われることから、特に債務整理の場面において代金額の分配手続(=「任意配当」等と呼ばれている)は、一般的に予測を立て易いメリットあり。

 2 強制売却

概要:設定された抵当権等の担保権の実行としてや、一般債権等を請求債権として差押えられた不動産の強制執行が申立てられた場合等によって、執行裁判所を通じて不動産を強制的に売却する手続。手続を公示して入札を募り、開札して最も高額の入札者に競落させる方法が通常。但し、債務者自身等、競落人になれない等、法律上の制約は多少存在する。

    上記の競売に付すことがほとんどなので、そもそも応札者が出るか否か、落札額がいくらとなるかについて、予測が立てづらい、という点が最大のデメリット。

    但し、以前は、競落額の面でも非常に安価となり易いという特徴があったが、最近は競売の方が、むしろ落札競争となった結果、高めで売却されるケースも増えている。

 3 その他

債権者側からの担保権消滅請求権など

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

事務所概要
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
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