仮想通貨セミナー「その仕組みと規制ルール・税務上の問題点について」

1   はじめに

 1   仮想通貨の基礎知識(仮想通貨って何?)

  •  その名のとおり「仮想」すなわち硬貨や紙幣といった実物がなくデータのやり取りのみで取引が行われるもの。
  •  法定通貨とは異なる性質が多数ある。円やドルという法定通貨よりも、むしろ金に似ていると言われる。

 2  その仕組みと法定通貨(日本円等)の違い

  •   実体:①仮想通貨=なし・②法定通貨=あり
  •  発行上限:①あり(ex.2100万BTC(ビットコインの場合)。ただ、上限設定ないものも)・②なし(国の金融政策により発行量は調節される)
  •  価値の上下:①あり(需要と供給のみによって変動するため、変動幅がかなり大きい)・②なし(物価(と為替)によって変動はするものの通貨自体の額面は常に一定)
  •  管理者:①いない・②国や中央銀行
  •  用途:①決済、送金、保存、投資(、投機)等・②決済、送金、保存、投資等
  •  取引する場所:①取引所・②銀行、証券会社等
  •  送金手数料:①あり(0.01~0.1%程度必要。価格変動の影響を受ける。なお、取引所によっては無料のものも)・②あり(海外に送金する場合、金融機関を経由すると送り先によって数千円程度発生)
  •  金利:①なし・②あり
  •  課税:①あり(国内では利益分に「雑所得」課税が。将来的には区分が変わる可能性も。②なし(「所得」や「消費」は課税されるものの、通貨自体の所持が課税されることはない)

 3  仮想通貨のメリットとリスク

  •   メリット:A=偽造や改ざんは非常に行われにくい。←「ブロックチェーン」という独自のシステムが核に=多数のユーザーが監視することで通貨の改ざんや不正取引を防ぐ。

         B=国や銀行が実権を握っていない。→国や銀行等特定の諸団体によるコントロールがされにくい。

         C=通貨の発行上限が決まっている。→例:ビットコインの場合は約2100枚までと決まっており、通貨としてはインフレ(=通貨の価値が下がる)が起きにくいことに。

         D=将来的な実用性が買われている。←特に決済の分野では高い実用性が評価されており、今後は利用機会が広まっていくとの期待が。

         E=市場への参加者(投資家)が増えている。→2017年に爆発的に増加した。現在は沈静化してやや下落傾向だが再び上昇トレンドになれば購入者も増え市場も活発化することが予想される。

         F=安定資産として「逃げ場」に使われている。→例:「有事のビットコイン」と言われたときもあった程、特に法定通貨の信頼性が揺らいだとき等には価格崩壊や消滅のおそれは少ない資産と見られて「逃げる」人も多かった。

         G=手数料が安く、利用時間の制約もない。←銀行等金融機関を介さないため(そもそも窓口等に足を運ぶ必要すらない)。

  •  リスク:上記のAないしFは、そのまま裏返して「リスク」にもなる!!

A=「ブロックチェーン」により偽造や改ざんはほぼ不可能であるものの、仮想通貨の保管先からの「盗難」や仮想通貨が被害品となる形での「詐欺」や「恐喝」事件は増えている。←保管先へのアクセスの容易さからの盗難や、「うまい儲け話」に浮かれた輩の「泡銭」が詐欺師や暴力団等に狙われることが増加。⇔このような問題は本来は仮想通貨固有の問題ではないと言える。

         B=国や銀行等特定の諸団体による統制がほとんどなされない結果、上記Aの盗難や詐欺等は増加。かつマネーロンダリングの温床になってしまっている。⇔少なくともマネーロンダリング規制はかなり厳しく行われるようになってきている。

         C=通貨の発行上限が決まっている。→例:ビットコインの場合は約2100枚までと決まっており、「通貨」としては硬直すぎるかも。⇔例えばビットコインのような超人気仮想通貨になると、「株式分割」のような形で、名称を変えて1BTCをさらに分割する形で発行することもある(ex.ビットコインキャッシュ)が、実務上も理論上も「無制限」に発行できるわけではない。

         D=将来的な実用性が買われているのは特に決済の分野での「ブロックチェーン」技術なのであり、本来的にはこの技術を用いた形で国や銀行等が発行主体として「統制」できることが望ましいとの考えもある。⇔このような「統制」がなく「自由」であることが仮想通貨の中の際立った特徴でもある以上、特にマネーロンダリングも含めた金融規制が厳しくなると、仮想通貨そのものの人気が凋落するおそれがある。

         E=市場への参加者の増減(=投資家の需給関係)による値動きが激し過ぎる。→その結果、「投資」商品よりも、むしろ「投機」商品に。⇔FXの当初がそうだったように、社会的にみて必要な「取引」なのであれば、例えば先物取引の証拠金取引等の上限引き下げ等の規制によりうまくコントロールしていけば、きちんとした一つの「金融商品」として購入者も増え市場も活発化することは予想される。

         F=現在は、社会的な数々の不安要素が一応一掃された結果、むしろ法定通貨の方が、より「安定した」資産として「逃げ場」に使われている。→例:「有事の円」等。⇔「信頼性=価格崩壊や消滅のおそれの度合い」はあくまでも法定通貨や金その他の金融商品と比べた場合の相対的な問題なので、今後のトレンドにより仮想通貨の人気の復活の可能性もまだまだあり得るものとは思われる。

         G=ハッキンングの危険がある。←銀行等金融機関を介さない、あくまでも(実物すらない)オンライン上の通貨であるため。⇔(本人確認等に関して)二段階認証やIDやパスワード等をPCに記録しないといった形で対策を採ることも可能に。

 4 仮想通貨とブロックチェーン(技術)の将来

  •   ブロックチェーン(技術)とは?
    •  ビットコイン等仮想通貨の利用者がそれぞれ取引台帳を持って参照し合い、各取引の「正」または「不正」を確認する仕組みのこと。
    •  上記の確認する作業のことをマイニング(採掘)といい、マイニング者(主として業者だが、個人もいる)が行う。
    •  マイニング者には、一定の決められた割合での報酬が(当然だが、当該仮想通貨で)支払われる。
    •  マイニング業者とは別に、仮想通貨ネットワーク維持のために働く者(「コア・デベロッパー(開発者)」)もいる。
    •  仮想通貨自体には価値の裏付けはないが、上記マイニングのコストや開発者の労働対価分が仮想通貨の価値の土台と見る者もいる。
  •   ブロックチェーン(技術)の将来について
    •  アメリカの場合

A ニューヨーク州のビットコイン関連法案(Bit License)

    →これは、消費者保護の規制である。

  ニューヨーク州で2014年7月に発表され、2015年8月に施行された。

  ビットコインその他の仮想通貨に関する法律である。

        ニューヨーク州のNYDFS(ニューヨーク金融サービス局)が発行する「仮想通貨事業を行うための免許」の役割をBit Licenseは担っている。

B Bit Licenseの概要

       「仮想通貨事業の定義=取引所等の両替サービス、ウォレット等の送受信運営サービス、仮想通貨の操作、管理や発行(新仮想通貨等の)のサービスを行う場合は、ライセンスの取得が必要になる(但し、要約)。」

なお、仮想通貨ソフトの開発自体や投資目的だけの売買はライセンスは不要。

      C Bit Licenseの現在と将来

        2017年9月時点でBit Licenseを取得したのは次の3社のみ。

        ・Circle社(=決済事業を行う)

        ・リップル社(=仮想通貨リップルを開発する)

        ・coinbase社(2017年にライセンスを取得した取引業を主に行う)

        ライセンス内容は、我が国で2017年に施行された仮想通貨事業者免許と似ているが、その審査はかなり厳しい。多くの企業がライセンス取得に乗り出しているが、なかなか取得できずにいる。

        あと、SEC(米国証券取引委員会)が、ICO(後述)に関して規制の可能性を示唆する声明を発表している。→今後、様々な規制がアメリカでも行われていくはず。

  •  中国の場合

A マイニング業者の中国への集中

        2014年~2017年に入るまで中国(通貨=元)は最もビットコイン取引の盛んな国だった。

同年9月時点では、ビットコインのマイニングはほとんどが中国で行われていた。→ビットコインマイニング業者(グループ)の発言権は非常に重要←ビットコインシステムに関する変更や修正等は、ビットコイン開発者やマイニング参加者の多数決で決定するため。

⇒嫌でも中国国内の情勢に影響を受けビットコインと中国は深い関係に。

          ⇐中国でマイニング業者(グループ)が集中している理由は電気代の安さ。

       ←マイニングにはPCやその設置場所等の設備投資や消費電力などのコストがかなりかかり、報酬との差額でマイニング参加者は利益を得るため、主要コストの電気代が安いことが大きなメリットだから。

B 中国政府によるビットコインに対する規制

  2017年に入ってから中国政府による規制の動きが。

  具体的には1月に中国のビットコイン大手取引所に対する規制当局の呼び出しがあった。→これによりビットコイン取引量が半減し、ビットコイン価格も暴落。その後、2月にはビットコイン取引所へ出金の禁止命令が出された(後に解除)。→中国での取引量は徐々に減少していった。⇐中国では資本の海外流出を厳しく取り締まっており、ビットコインのような海外への容易な資金移動手段に対しては規制を強化。Cf.これが、2017年の我が国のビットコイン価格の暴騰の原因とも言われている。→後述するマネーロンダリング規制の目的から登録業者への規制や処分が非常に厳しくなった我が国の現在と状況は似ている?→「ほとぼり」が冷めたらまた中国から上記の海外への流出希望資産が特にビットコイン等人気の仮想通貨に流入する可能性はある。しかし、上記のとおり、我が国が規制を強めているのはマネーロンダリング問題が主なので、中国はむしろこれを嫌って、我が国(日本国)以外の国の取引所等を選ぶ可能性は十分考えられる。

C 中国におけるICO禁止命令

  2017年9月4日、ICO(仮想通貨を利用した資金調達。後述)規制を発表。近年はICOはコインという疑似株式(「トークン」と呼ばれる)を発行することで資金を調達してサービスの開発資金に充てるものに変質した。→このICOに対し中国は「禁止」を発表。既にICOを行っている個人・団体に対し資金の返却を求めた。←中国当局はICOは「不正な資金調達」であり仮想通貨取引所へ販売したコインを上場(=個人投資家の売買が可能になること)することで不正に価格を上昇させている、としている。⇐中国国内の金融システムを政府の監視下に置く意図がある。

D ビットコイン取引所の停止

  中国当局は、主要な仮想通貨取引所に対して、2017年9月15日までに仮想通貨の取引(仮想通貨と人民元の取引)を停止する旨発表することを要請した。その後、顧客資産の安全を確保しながら取引所を停止するための計画を9月20日までに提出すること、北京にスタッフ・技術者・管理者を滞在させること、毎日当局へ日報を提出することも求めている。→この要請を受け、多くの主要取引所が取引停止を発表。中国大手仮想通貨取引所(BTCC)は9月30日で取引所を閉鎖することを発表。⇔但し、BTCCの公式ツイッターでは顧客資産の返還に応じることや仮想通貨取引以外の事業は影響なく継続することを発表。BTCC以外の大手取引所(「OKcoin」「houbi」等)でも、仮想通貨取引以外の事業、例えば仮想通貨同士のトレードや海外取引所への仮想通貨の移管等は継続すると発表。→これにより当面の顧客資産の安全が確保された安心感もあり、一連の中国当局の規制を受けて大きく値下がりしたビットコイン価格も持ち直している(→その後、おそらく、我が国におけるビットコインの暴騰へとつながった)。⇔中国でのビットコインネットワーク制限の可能性は噂されている。制限されれば取引所が運営するマイニングビジネスも規制の対象になる。➡中国国内でビットコインが利用できなくなる恐れもある(この恐れを具体的かつ敏感に感じ取った取引者等が我が国のビットコイン取引所へ逃避したと昨年の暴騰を説明する者もいる)。

  •  我が国の場合

  コインチェック社の問題(約580億円の不正流出)が明るみに出た後は、無登録業者(含:登録申請中の「みなし業者」)への規制(立入検査等)がまず行われた。→これにより、事業から撤退した会社も。

 ごく最近(cf.日経新聞平成30年6月23日付朝刊)は登録業者ですら、マネーロンダリング規制で行政処分に(具体的にはビットフライヤー等登録業者6社に業務改善命令を)←資金洗浄といった犯罪の疑いがある取引の確認体制が不十分だったことから。←取引の伸びに交換業者の体制整備が追い付かず市場の危うさが浮き彫りになったことから。⇒今後、金融庁は、今回の登録業者への処分を踏まえ、新規の登録審査をより厳しく進める方針。金融庁による規制が一段落するまで、ビットコイン等の仮想通貨取引も沈静化する可能性が高い。⇔金融庁による、今回の位に厳しい規制が本当に一段落した後は、仮想通貨市場がより一段と成熟化する蓋然性は高い。⇔但し、この場合でも、上記コインチェック社の不正流出やマウントゴックス社の破綻のようなトラブルは仮想通貨である以上、起こる可能性は常にある。→まずは一つの取引所に大量の仮想通貨を置かず複数の取引所で分散管理しておくべき。かつ取引所には取引に使う分だけ置いておき余分な資産はより安全な場所に送金し自身でしっかり管理するのが重要➡いわゆる「ウォレット」(※)の活用等で、取引者は自己防衛を!!

※ウォレット=ビットコイン等仮想通貨用のネット上の財布のこと。大きく分けて5種類ある。更に大きく分けるとネット常時接続のホットウォレット(以下HW)とネットから完全に切り離されているコールドウォレット(以下CW)の2種類がある。ちなみに、ビットコインでは口座のことを「ウォレット(財布)」と呼ぶ。

ア Webウォレット=Web上に保管する(HW)。

長所:アクセスが容易。

短所:取引所に置いておくのとほぼ同じ→ハッキングに遭う危険性がMax

イ ソフトウェア(デスクトップ)ウォレット=自分のPC上に保管する(CW)。

長所:PCがオフラインであればハッキングの危険を防げる。

短所:PCが故障した際にバックアップしていないと2度と仮想通貨を引き出せなくなる。

ウ スマホ(モバイル)ウォレット=スマートフォン上で保管する(HW)。

長所:QRコードで簡単に入出金ができる。支払や送金で多用するならコレ。

短所:オンラインで使用するケースがほとんどなので安全性に問題あり。

エ ペーパーウォレット=紙で印刷保管する(CW)。

長所:ハッキングの心配はほぼない。

短所:紙を紛失したり、印刷がかすれてQRコードが読み取れなくなったりしたらアウト。

オ ハードウェアウォレット=物理的な機器で保管する(CW)。

長所:安全性が抜群。リカバリーフレーズに対応していれば故障・紛失時にも復旧可能。⇒その結果、これがベストウォレットか?

短所:購入に1万円程度の費用が必要。

   cf.ビットコインの場合:ビットコインアドレス=通帳:銀行の場合

            同上:ウォレット=口座:同上

            同上:公開鍵=身分証明書:同上

            同上:秘密鍵=暗唱番号:同上

  •  新興国の場合

 ここ最近はアフリカや南米などの新興国で仮想通貨の需要が高まっている。←不安定な経済状況やインフレなどで自国通貨に対する信頼性が低いことから。

A ケニア:エムベサ=携帯電話を利用して送金や貯金、決済ができる。銀行口座を持たない人たちの熱烈な支持を受け、アフリカ諸国に広く浸透するまでに。ちなみにエムベサのMはMobile(モバイル)を、Pesaはスワヒリ語で「お金」のことを指す。

B ジンバブエ:DASH=ハイパーインフレの影響下、決済サービスである「KuvaCash」との共同決済システムに出資し、新たな通貨として期待されている。

C ベネズエラ:Petro=2017年12月、マドゥロ大統領が仮想通貨「ペトロ」を導入する方針を発表した。

D ウルグアイ:e-Peso=世界で初めて「法定仮想通貨」を公式に発行した。ウルグアイペソと同等の貨幣として試験運転中。                                     

第2 仮想通貨の基礎ルール

 1 金融規制の概要

  •  (改正)資金決済法

2017年4月施行。仮想通貨に関する規制が新設された。

  •  仮想通貨の定義(金融庁「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律49頁より)

A 「物品を購入し、もしくは借り受け、または役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの」

B 「不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

⇒以上から、仮想通貨は「財産的価値」で通貨(法的通用性を有した貨幣)でも金融商品でもなく「モノ」である、と定義された。一般化されている商品で最も近いものは金(ゴールド)と言われている。「モノ」であるので監督省庁も金融庁のみならず、警察、財務省、経済産業省、日本銀行等、担当省庁の整理がされていくことが予想される。

  •  仮想通貨交換所のルール(金融庁「情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律案」にかかる説明資料9頁より)

取引所等の仮想通貨取引業者は金融庁への登録が義務付けられ、その監督下に。この規制目的は仮想通貨の利用者保護。

  上記新設によりビットコインを含む仮想通貨が決済手段として正式に認められ、仮想通貨を購入する際の消費税が非課税に(2017年7月1日より)。←仮想通貨を利用して物やサービスを購入した際にも消費税がかかるので、仮に仮想通貨を「物」や「サービス」と看做して消費税課税をすると、いわゆる「二重課税」に該たるから。⇒この扱いにより、ようやく「決済手段」として正式に認められることになった。⇐外国人(特に中国人)旅行客の増加等により、決済手段のキャッシュレス化について、諸外国に遅れていた我が国でも2027年までに、キャッシュレス決済の割合を20%台から40%台に上げることを目標に掲げているから。

A 最低資本金・純資産にかかるルール

B システムの安全管理

C 利用者に対する情報提供

D 利用者が預託した金銭・仮想通貨の分別管理

E 分別管理及び財務諸表についての外部監査

F 当局による報告徴求・検査・業務改善命令・自主規制等

  • 金融商品取引法
    •  改正資金決済法は相場操縦(やインサイダー取引、「風説の流布」等も)などに関する規制がない。←同法は仮想通貨を上記の定義のとおり交換手段や決済手段として位置付けており、金融商品取引法が定める投資の対象とは異なる。⇔実態として仮想通貨は投機的な色合いが強くなってきているから投資家はリスクを十分に認識する必要がある。➡相場操縦やインサイダー取引等明らかに不正な手段による事業は、不正競争防止法や詐欺や横領や業務妨害等の刑事法により規制していく他ないのか?⇒小豆や木材等の「相場物」「商品」先物に対する規制が参考になろうか?
    •  ICO(Initial Coin Offering=イニシャル・コイン・オファリング=新規仮想通貨の発行※1)への対応

実態は幅広い。改正資金決済法で取り込めないものがほとんど。➡95%以上が詐欺との見解もある。アメリカ(2017年7月に米証券取引委員会はICOで発行される仮想通貨は条件によっては「有価証券」に該たり規制の対象になることに)やシンガポール(シンガポール中央銀行も2017年8月に同様の声明を)のように法的規制の対象になって投資家が保護されるようになるまではまさにハイリスク・ハイリターンに。

※1ICO=株式投資でいうIPO(Initial Public Offering=イニシャル・パブリック・オファリング=新規株式上場)のようなもの。クラウドセール(Crowdsale)、トークンセール(「トークン」=独自仮想通貨のこと※2。事業が成功すればこの「トークン」の価値が上昇することで投資家は大きなキャピタルゲインを得られる)とも呼ばれる。IPOは未公開株を購入して上場益を狙う方法だが、ICOは未上場の仮想通貨を購入して上場益を狙う方法。株式公開や融資と異なり配当や利息の支払も不要でかつ株式と異なり議決権も与えられないことから経営に口出されることもなく、かつインターネット上で事業計画を示せば世界中の投資家から監査も受けずに手軽かつ安価に(株式上場と違い幹事証券会社を通じての審査や監査も不要かつ上場の際に幹事に支払う手数料すら不要)資金調達出来る。このように発行する側に非常に便利なため急増しているが、事業計画どおりに公開されないものも(IPOに比べても)圧倒的に多い。ちなみに仮想通貨における「上場」とは取引所で扱われるようになること。仮想通貨は、取引所で扱われるようになるとその価値は急上昇する。購入したのに逆に上場しない場合には売るに売れず、そのまま塩漬けに。上記「詐欺」案件のほとんどはこのパターン(cf.2017年8月26日読売新聞の記事)。ICO案件には、たいてい「ホワイトペーパー」という「コインの仕様書」が存在する。この仕様書には「誰がどんな目的で作った通貨なのか」「どういう技術が使われているのか」「バックにどういう会社が付いているのか」「何枚発行予定なのか」といった詳細が書いてある。ただ、特に海外発行のホワイトペーパーのほとんどは英語で書いてあるし、仮に英語は読めても専門用語も多く難解である。➡ICOは玄人向けの投資法であり、素人にとってはギャンブルと同じであると認識すべき。そもそも先行販売なので購入時よりも上場後の価格が下がることもあり得る。仮想通貨ゆえハッキングによる不正流出もあり得る。仮に騙されて仮想通貨を購入してしまったり不正流出した場合、詐欺や横領等刑事法での保護はともかく、出資者を守る法律も現在はまだ存在しない。

※2 トークン=①ビットコインやイーサリアムのように決済手段や送金手段として利用される「仮想通貨型」②保有数によって会員特典を受けられる「会員権型」③商品購入やサービスの利用料の対価になる「プリペイド型」④保有数に応じた収益を受けられる「ファンド持分型」⑤ネットワーク上のアプリケーション・プラットフォームの利用に必要となる「アプリケーション・プラットフォーム型」の大別して5つのタイプが存在する。

 2 マネーロンダリング規制

  •  (改正)犯罪による収益の移転の防止に関する法律。2017年4月から施行された。
  •  マネーロンダリング・テロ資金供与対策
    • 口座開設時における本人確認 仮想通貨にかかる法制度の整備
    • 本人確認記録、取引記録の作成・保存
    • 疑わしい取引にかかる当局への届出
    • 社内体制の整備
  •   国際的な犯罪問題→日本も含めた多国間組織「FATF(ファトフ)金融活動作業部会」によって対応中。➡対応が不十分なら「深刻な問題を持つ国・ハイリスク国」に登録される可能性もあるため、FATFとの連携が不可欠に。
  •   韓国は2017年9月29日、ICOと仮想通貨の証拠金取引を禁止した。←韓国金融委員会(FSC)の声明「当局はあらゆる形式のICOを禁止する。」

 仮想通貨の取引のために資金を貸し付けることも禁じた。禁止は即日有効に。➡上記日には、ビットコインやイーサリアム等主要な仮想通貨は下落。

  •   シンガポール(フィンテックの先進国と言われている)も2017年9月下旬に仮想通貨企業の銀行口座が閉鎖された。これに対しシンガポール通貨庁(MAS。通貨当局及び中央銀行)は、「銀行各行は顧客取引・関係を含めふさわしい手順と管理を確立し、マネーロンダリングとテロ資金活動を阻止するためのMAS規定の顧客査定要件に従うことが期待される」とコメント。直接の規制の発表はないものの、当局の意を汲んだ金融機関側が自主的に動いたと言われている。
  •  上記(4)(5)以外にも各国政府は、国が仮想通貨の発行を検討するか、という問題、すわなち、法定通貨との関係を整理するマクロレベルの対応も進めるはず。この場合には、上記マネーロンダリング規制の検討とともに、そもそも国の収入は税金と通貨発行益(シニョレッジ)から成り立っており、仮想通貨が発展すると、少なくとも通貨発行益という収入源を失い多大な損失を被ることにもなりかねない。

 ➡我が国の通貨当局の対応は、今のところフィンテックの一環としてのブロックチェーン(技術)の研究までで、仮想通貨の発行までは望んでいないものと見られている。むしろ、仮想通貨業者に対する個別の行政処分等を通じて、投資家保護やマネーロンダリング対策からの規制に取りかかったばかりと見られている。

 3 業界等による自主規制等

   既述の直近の各仮想通貨業者に対する行政処分等を受けて、特に投資家保護とマネーロンダリング各対策のための業者・業界側の今後の検討課題である。

第3 仮想通貨を巡る法的紛争等

 1 マウントゴックス社の倒産と再生

 (1) マウントゴックス社と事件の概要

  マウントゴックス社は2009年にトレーディングカードゲーム「マジック・ザ・ギャザリング」のカード売買を目的として設立されたオンライン取引所である。2010年にビットコイン取引事業に方針転換し、2011年にマルク・カルプレス氏によって買収された。東京都渋谷区に拠点を構え、マウントゴックス社は事業の拡大を続ける一方で、利用者に対する資金の払い戻しの遅延が常態化しており、ビットコインのフォーラムなどで度々問題が報告されていたと言われている。2013年には世界のビットコイン取引量の70%を占める取引所にまで成長したが、翌年2月23日にマルク・カルプレス氏がビットコイン財団の取締役を辞任し、翌日にマウントゴックスのウェブサイトでは全取引が中止となり、115億円相当が消失した大事件が明らかとなった。これはシステムの不具合を利用してサイバー攻撃を受けたことからコインが不正流出したものであり、いかに仮想通貨というものが怖いものなのかを日本中に拡散した事件となった。

  (2) 倒産と民事再生

     事件発覚後、事実上経営破綻したマウントゴックス社は、2014年2月28日、東京地裁に民事再生の申請をした。民事再生の申請に至った理由は、「ビットコイン」と「預かり金」の消失で負債が急増したためとされている。2月初旬、システムの不具合(バグ)を悪用した不正アクセスが発生し、売買が完了しない取引が急増。「バグの悪用により(ビットコインが)盗まれた可能性が高い」と判断された。その後、消失した分の補てんができることもなく、破綻してしまった。

   何度か債権者集会を行い資料の配布はしているようである。もちろん、現在は取引所の運営はしていない。

 (3) 民事再生からの破産

   その後、再生可能性がないものとして破産手続きに移行しましたが、破産管財人より破産財団を構成していたビットコイン等の仮想通貨が順次売却・処分されている結果、債権者全員に財団から、管財人等の費用控除後でも、届出債権額どおり配当した後にも余剰が残るという大変奇異な事態となっている。 

  (4) 破産から再び民事再生へ

「2014年に仮想通貨「ビットコイン」の大量消失で破綻し、破産手続き中だった仮想通貨交換会社「マウントゴックス」について、東京地裁は22日、民事再生手続の開始を決定した。同社や再生管財人に選任された小林信明弁護士が明らかにした。破産手続は中止された。破産手続の場合、債権者が同社に預けていたビットコインは破綻時のレートで金銭債権に転換されるが、民事再生手続の場合はビットコインの返還を求めることができる。ビットコインは破綻時より大幅に高騰しているため、債権者の利益は大きくなる。 

民事再生手続の開始に伴い、今後、同社のウェブサイトで債権届け出に必要な情報を知らせるという。

同社の元顧客らが2017年11月、民事再生手続への変更を東京地裁に申し立てていた。同地裁が選任した調査委員は今年2月、「破産手続きで得られる債権者の利益が確保されている」ことを条件に変更を認める報告書を出していた。

同社はビットコイン消失によって事業継続が困難となり、2014年4月に東京地裁は破産手続の開始を決定した。同社の破産財団は債権者への配当原資にするために、保有する仮想通貨の一部を既に売却している。マウント社社長で大株主のマルク・カルプレス被告は業務上横領などの罪に問われ、東京地裁で公判が続いている。」(日本経済新聞社 平成30年6月23日(土)掲載)

 2 コインチェック社への提訴と展望

仮想通貨を扱うコインチェック社では平成30年1月、約580億円もの仮想通貨NEMが不正に流失した。

これを受けて同社は、NEMを保有する顧客約26万人全員に対して、日本円で約460億円を返金する方針を示し、それに基づく補償を実行したが、既に複数の損害賠償を求める訴えが東京地裁に提起されている。

同社に対する損害賠償請求訴訟は未だ始まったばかりというべきであるが、今後は以下の点が訴訟上問題(争点)となっていくものと思われる。

 ①補償レートの問題

     NEMを実際に保有している状態と金銭による賠償価格との差額が「損害」であると考えられるが、補償実行時のレートよりも高いレートで補償を行った本件では、そもそも損害の有無が争点となり得る。仮に、補償以上のレートを前提として賠償を求める場合には、そのレート(補償時よりも高いレート)で売却していたことが確実である等の「特別事情」が必要となるものと思われる。この点は、顧客が取引を望む時に取引を行うというコインチェック社の債務が、どの時点で「履行不能」となったのか、という問題とも関連することになる。

②機会の喪失

    NEMの流失事件により、他の仮想通過等も取引が停止されたことから、これによって取引ができず、儲けられなかった=取引により利益を得る機会を失ったという点も問題となり得る。この点についても、上記①と同様、そのような取引をしていたであろうことが認められることが必要であると考えられる。取引をするか否か、あるいはするとしてもどのタイミングでするのかは顧客に委ねられていることから、「機会の喪失」による損害賠償請求が認められるのは、当該顧客が取引停止期間中に取引をすることが客観的に見て明らかであり、かつ、その取り引きにより当該顧客が利益を得ていたことが客観的に明らかである場合に限られるべきであるからである。

③管理体制における「過失」

    上記①及び②が認められる前提として、コインチェック社による仮想通貨の管理体制に問題=過失があったことが必要であることは当然であり、訴訟の中でもこの「過失」の有無が各損害の大前提として審理されることになる。この点についてはセキュリティー面が非常に甘かったと報道されているコインチェック社の仮想通貨の管理が万全であったということは困難であり、上記の「過失」がないということは考えられないように思われる。なお、いわゆる「ホットウォレット管理」(常にネットワークに接続されている状態での管理)が適切であったのかとの点は特に問題となり得ると考えられる。しかし、このような管理方法は禁止されていた訳ではなく、これだけで直ちに「過失」に結びつくものとはいえないように思われる。但し、通信技術が発達した現在においては、不正アクセス等の危険が極めて高いことに鑑みれば、仮想通貨の専門業者として、特にその管理には注意を要する。従って「仮想通貨」を扱う会社として「ホットウォレット管理」をしていたことの合理性ないし適切性は十分に問題になるように思われる。

以上のような問題のうち、実際の訴訟では、まずは③のコインチェック社の仮想通貨の管理体制に過失がなかったのかが審理判断され、過失があると判断された場合に、①その過失に基づくNEM流出という損害(上記のとおり、一応補償はなされているからこの損害自体の有無から判断されることになる)、続いて②NEM流出に伴う他の仮想通貨の取引停止に基づく損害(機会の喪失。これについても、認められるためには上記のような事情(=相当因果関係)がなければならいと解されるから、まずはこの損害の有無自体が問題となる)が判断されるものと思われる。

3 コインチェック社の買収

平成30年4月6日、コインチェック社及びマネックスグループが共同の記者会見にて、マネックスグループ株式会社がコインチェック社を「買収」することを発表。  

コインチェック社はマネックスグループ株式会社の「完全子会社」となることとなった。買収額は36億円。コインチェック社は平成30年1月に約580億円もの仮想通貨NEMの不正流出が発覚し、約466億円の補償金の支払を余儀なくされ、金融庁が2度にわたり業務改善命令を出すなど経営の再建が求められていた。

他方、マネックス社はマネックス証券株式会社と日興ビーンズ証券株式会社の経営統合のため、共同株式移転で設立された持株会社(設立時はマネックス・ビーンズ・ホールディングス株式会社)である。

なお、マネックスグループによる買収額は上記のとおり36億円であるが、両社間の契約では「アーンアウト条項」が使われている。

「アーンアウト条項」とは、企業の買収に対して支払う対価を買収後の業績に連動させる契約である。マネックス社はコインチェック社の買収時に36億円を支払ったが、同社が支払う買収対価は上記「アーンアウト条項」によりこれに限られず、今後3年間のコインチェック社の業績に応じて追加で買収の対価を支払うこととなっている。

また、買収後、コインチェック社の経営陣は一新され、マネックス社が完全に経営権を握る形となった。


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