不動産業者が知りたい「離婚・男女トラブルへの対処法」
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一 離婚・男女トラブルにおいて不動産に関連して起き得る問題について
1 離婚時に起き得る問題
(1) 典型的なのは、夫婦になってから住宅ローンを組んで購入した自宅を、離婚する際にはどう分けたらよいのか?という問題があります。
(2) (1)以外にも、①慰謝料として居住している不動産をもらえないか?
②別居後の婚姻費用の1部を住宅ローンという形で支払えないか?
③離婚後すぐに生活にも困ってしまうので扶養(的財産分与)として住宅ローンを支払い続けてもらえないか?
④離婚後に支払う養育費の替わりに住宅ローンを支払っていくことはできないか?等の諸々の問題があります。
2 その他(離婚以外の男女トラブルにおいて起き得る問題)
(1) 典型なのは、同棲して半ば内縁状態だったのに、ある日、突然別れを切り出された。
不動産の所有(賃借)名義は全て彼名義なので追い出されてしまいそうだが、何とかならないか。
(2) 愛人名義で借りている部屋の家賃を、愛人関係が解消された後も居住している愛人が滞納しているのに出て行ってくれない。大家からは毎月家賃の倍額の請求をされて参ってしまっているがどうしたらよいか?等の問題があります。
二 離婚する際に不動産を巡って問題となること
1 財産分与
…財産分与とは?→離婚の際、配偶者の一方から他方へ分与される財産。
法的性格は、次の4つが実務上、認められている。
(1) 清算的財産分与=夫婦共有財産の清算。最近は、2分の1ずつとされることが多い。
(2) 慰謝料的財産分与=不貞や暴力等の不法行為で基礎づけられない慰謝料を財産分与の中で調整する場合があるが(≒離婚自体についての慰謝料)、離婚がいわば社会現象とまでなっている昨今では、このような「離婚そのものからの」慰謝料を積極的に認める扱いは極めて少なくなってきている。
(3) 未払婚姻費用の清算=婚姻費用の請求は、正式に要求した時点からの分しか、調停や審判では判断されない(婚姻費用請求の形成権的性格)。そのため、過去において、正式に要求する前の婚姻費用(但し、金額については合意されていることが前提)の未払が明らかで、その清算をしないと夫婦間における公平を著しく害するような場合には、このように正式に要求する前の婚姻費用も財産分与の中に含めて清算されることがある。
(4) 扶養的財産分与=特に専業主婦の妻が離婚する場合、離婚後、すぐに生活に困窮してしまうことも多い。そこで、離婚後も、一定の間は、例えば就職先を探したり、よりよい職を探せるよう資格等を取得したりするための期間として、夫婦だった間における生活レベルマイナスα程度のレベルの生活を元妻が送ることができるだけの費用を扶助費として渡すことが財産分与の中で決められることがある。ここでの一定期間とは、上記就職先探しや資格取得のための合理的期間と考えられるので、おおよそ6か月~最長1、2年と思われる。
☆ 不動産に関して問題となる財産分与は、(1)の清算的財産分与が圧倒的に多いものと思われる。
但し、配偶者の一方の潜在的持分(後述する特有財産からの出金が同額なら、2分の1宛が基本)を上回る持分の取得が認められる場合、上回る持分取得の根拠として(2)の慰謝料的財産分与や(3)未払婚姻費用の清算が言われることもある。
さらに、(4)扶養的財産分与の一環として、富裕層の場合には、不動産(の持分)を分与し、離婚後も特に妻が生活の場を失わないように配慮するような解決例もある。
2 慰謝料
…実務的には、配偶者に(1)不貞行為(2)暴力その他、の不法行為が認められる場合にのみ認定されるのが原則となり、上記1で触れた離婚自体の慰謝料は、上記財産分与の一環としても認められなくなってきている点は上述。
- 不貞行為=配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと。婚姻中は男女問わず、配偶者に対して貞操義務を負っているが、これに違反すること。
例外として婚姻中でも不貞行為とならない場合→夫婦関係が実質的に破たんしている場合。客観的事実としては、別居している場合等。ここでいう別居は、単身赴任のように物理的に離れているだけの場合は通常、含まれない。
なお、慰謝料の額は、婚姻期間、不貞の期間や頻度、子供等家族への影響、不貞相手との間に子が出来たか否か等の客観的事実から決められる。
- 暴力その他=夫婦間でなくても一般的に不法行為を構成するような暴力が慰謝料を発生させるのは当然。逆に夫婦間に一般的によくある小突き合い等を慰謝料の発生原因とするのは通常、困難。実務的には、暴行の結果である傷害を証明する診断書等が入手できていないと、傷害結果のみならず暴行の程度を主張・立証することも困難となり、慰謝料を認定してもらえない可能性が高い。→暴力は少なくとも診断書等で暴行による傷害結果等を明らかに!!
慰謝料の額が、暴行や傷害結果の各程度、後遺障害の存否等により決められるのは通常の不法行為の場合と同じ。
なお、暴力の場合は、不貞の場合と異なり、実損があれば、夫婦間であっても、慰謝料以外の損害賠償も認められ得る(例えば治療費・通院費等はもちろん、休業損害や後遺障害逸失利益も認められ得る)。
- 不動産との関係
上記1の財産分与ほど直接に関係する訳ではないが、2の慰謝料請求が認められる場合、仮に訴訟で勝訴判決を得ても強制執行等によりこの判決中で認容された請求が履行されないおそれが高く、判決前に予め履行すべき債務者の資産を押さえておかないと、これが散逸してしまうおそれがあるような場合には、訴訟提起前に債務者の資産を仮に差し押さえたりする保全手続の申立てができる。
上記保全申立てにより押さえておくべき債務者の資産が何なのかにより不動産の仮差押、預貯金や給料等の債権の仮差押、その他動産類等の仮差押等が考えられる。
慰謝料の場合、額の算定等の流動的要素が少なくないこと、証拠調べ手続等を通じた事実認定をしないと、そもそも不法行為の有無や本当に慰謝されるべき精神的損害が発生したのか不明瞭であること、等から、本来、上記保全(仮差押)申立てには馴染みにくいものではあるが、例えば興信所の報告書等により不貞の事実が客観的にも裏付けられるような場合には、相場額(おおよそ300万円前後)程度であれば、慰謝料請求権を被保全債権=請求債権として、仮差押え申立てが認められる場合も多い。
この場合、裁判所は債務者にとって最も影響の少ないものから仮差押を認めていくので(謙抑性)、通常は、①不動産②投資している上場株式等の金融資産(給料口座以外の預金口座も含む)③給料が入金される預金口座や事業者の場合の役員報酬等④給与所得者の給料・賞与や事業者の場合の取引金融機関の預金口座等の順番で通常は判断される。
3 婚姻費用
…夫婦間で分担すべき、夫婦の生活から発生する費用。いわゆる「生活費」。
夫婦間の同居・協力・扶助の義務に基づき、夫婦の一方は他方に対し、自己と相手の収入等に見合った婚姻費用を分担しなければならない。
この婚姻費用の額は、夫と妻の各収入額(年収が基本)と子供の数及び年齢で算定される算定表(ネット上にもあり)に基づいて算定される。
婚姻中であれば、たとえ別居中でも婚姻費用は発生する。
婚姻費用は、受領する側にとってはまさに「生活費」であることから、現金支給が原則。現物支給は基本的にはあり得ない。
但し、不動産との関係では、例えば、後述のとおり、妻と子供をそのまま従前の住宅に住まわせて夫が単身出て行き別居となった場合に、住宅ローンや家賃を夫が従前どおり支払っていく形で婚姻費用を分担する形式も考えられる。これは見方を変えれば住居の「現物支給」と言えるかもしれない(資産家であれば、ローンや家賃も支払わない本当の住宅の「現物」での支給も考えられる)。
この場合に、夫が支払う住宅ローンや家賃の額を婚姻費用として分担済とできるか、分担済とできる場合に、いくら分担済と算定できるのか、については後述。
1 財産分与に関して
(1) 財産分与の対象財産=夫婦共有財産とは?
→婚姻中に、夫婦双方の協力・扶助により築き上げられた財産をいう。
→具体的には、婚姻後築かれた財産のうち、夫婦どちらかの親等から相続・贈与
された財産を除いたもの。
→名義が夫婦どちらの名義であるかは基本的には問わない。
→婚姻前から夫または妻が有していた財産は除かれる。
(2) 夫婦共有財産と夫婦の各特有財産との違いについて
→夫婦いずれかの名義の財産のうち、上記の「夫婦共有財産」に該当しないものが、夫婦特有財産である。
→よくあるのは、婚姻前から各自が有していた財産、婚姻中でも各自の親等から相続・贈与された財産等である。
→上記は最終的には実質的に判断されるので、夫婦いずれの名義であるかは理論上は関係ない。
→但し、名義(形式)と違う所有を主張する者は、名義と実質がずれていること及びその合理的な理由を主張・立証しなければならない。
実務的には、交渉、調停・審判、訴訟いずれの段階においても、名義と異なる主張・立証をしていくことは、認定され易いか否かという点においては、いわば「ハイリスク・ハイリターン」という選択となることの認識は必須である。
(3) 夫または妻が親から相続した(または贈与された)財産は?
→婚姻前であれば、無条件に特有財産であろう。
→婚姻中は、基本的には上記のとおり特有財産。
→例外があるとすれば、例えば、相続・贈与でも、使途を定めたもの、すなわち、「夫婦の生活費として使ってくれ」「夫婦の負債の返済に充ててくれ」との趣旨で渡されたものがあるとすれば、場合によっては、受領した時点で夫婦共有財産と判断されて、夫または妻が、相手方の親からの相続・贈与金であっても潜在的持分を有すると認定されることも可能性としてはあり得る。
→但し、実務的には、夫婦のうち、実親から相続・贈与を受けた者に対する全額の相続・贈与と認定されることの方がごく一般的である。
→cf.夫婦の一方が他方の親の養子になっていた場合
(4) 夫または妻の一方が夫婦の他方に対して贈与した財産は?
贈与金の出所によって変わってくるものと思われる。
贈与金が特有財産から出た場合→受贈者の特有財産になることが普通。
贈与金が夫婦共有財産から出た場合→引き続き夫婦の共有財産になることが普通。
贈与金が夫婦共有財産から出ているが、受贈者の特有財産になる場合→仮に「離婚する」ことになった場合でも、清算の対象とは「しない」趣旨であれば、受贈者の特有財産になることも。
☆いずれにせよ、婚姻中になした贈与は、(契約なので)婚姻中は夫婦のいずれからも一方的に撤回できる(民法754条)。但し、第三者の権利を害することはできない。特に不動産が対象となったような場合、登記まで移転された結果、第三者に譲渡等された場合には、撤回できなくなる。
(5) 夫婦が婚姻中にローンを組んで購入した住宅について
① ローンの返済原資が夫婦の一方または双方の収入の場合
婚姻前の夫婦財産契約等により、収入の管理を分けて夫婦別々に管理していく旨が
合意されてでもいない限り、どちらの収入からいくらが返済原資に回ろうが、基本的には、返済中の支払分相当額は、夫婦共有財産となる。
Cf.夫婦共有財産となる割合は、購入額の中でこの支払分相当額分の割合にて算定
される。→返済全期間中の婚姻中返済期間等、期間計算でも近似値にはなるが、必ずしも正確でない。←∵期間と返済額は、前倒返済や滞納した場合等、必ずしも合致しないから。
なお、あくまでも購入額の中での割合で計算し、現在価格中での割合で計算しない
のは、値上がり、値下がり等、物件の価値は常に変動するため、負担した返済額との比較割合計算をするためには、現在価値では必ずしも妥当ではない(=場合によっては当事者間での公平を害する)ため。
② ローンの返済原資が夫婦の一方または双方の親から相続した(または贈与された)
預金だった場合
夫婦の一方または双方の親から相続等した預金は、通常、特有財産となる。
→特有財産からの返済がある場合の計算方法
上記夫婦共有財産の算出と同様、購入価額に対する割合で計算する。
例:購入時5000万円の住宅のうち、特有財産から1000万円を出した場合の計算方法(現在における持分割合を計算)→5000万円分の1000万円=5分の1
→(価額弁償で清算する場合)上記住宅の現在価値が3500万円→3500万円×5分の1=700万円が弁償すべき価額
③ ローンの返済原資が夫婦の一方から他方に贈与された預金だった場合
受贈金が上記のとおり、特有財産になるか、夫婦共有財産になるかによる。
特有財産になる場合→上記割合計算にて、特有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
夫婦共有財産になる場合→上記割合計算にて、夫婦共有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
④ ローン返済原資の1部または全部について夫婦どちらかの実親といわゆる親子ローンを組んでいた場合
親子ローンのうち、親が負担したローン中、親の不動産所有(共有持分)割合になっていない分は、通常、親から子に対する贈与分に該当する。
この分は、通常は贈与を受けた夫または妻の特有財産になる→上記割合計算にて、特有財産割合を算出。→持分か価額弁償かにより清算を。
☆親がローン負担しても親の所有(割合)となっている部分→名義上も、そもそも夫婦共有財産となってはいない→夫婦間の財産分与清算の対象とはならず。→あくまでも、名義人である親と夫婦の一方または双方の2(または3)者間の共有物分割の清算にすぎない→割合計算の仕方は、上記と同じ(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に上記算出された割合を乗じて弁償金を算出)。
⑤ 購入額の1部がローンで1部は頭金を出した場合
A 頭金を夫婦共有財産から出した場合
夫婦共有財産を返済原資とするローン支払分が夫婦共有財産になるのが通常である点は上述。
頭金も夫婦共有財産から支出なら、結局、全体が夫婦共有財産に。
B 頭金を夫婦の一方の特有財産から出した場合
特有財産から支出した頭金分は、上記と同様に特有財産となる。
割合計算の方法は上記と同様(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に割合を乗じて弁償金を算出)。
C 頭金を夫婦の一方または双方の親が出した場合
親が出した頭金分については次の場合分けが必要に。
(ⅰ) 親の名義で(持分の)登記が入れられている場合 →親の持分名義部分は通常は、そもそも夫婦共有財産にはなりえない。→親の名義以外が夫婦共有財産として、親(両親の、しかも夫婦両方の場合もあり得るから、最大で4人か。あるいは祖父母とかもあり得る)と夫婦の一方または両方間の共有物の分割の問題になる点は既述。
(ⅱ) 親の名義で(持分の)登記が入れられてはいない場合
親が出した頭金は、通常は、親が出した方の夫または妻に対する贈与と判断されることが多い。→出してもらった方の夫または妻の特有財産分として処理する場合が実務上は多いだろう。
但し、親が出した分の持分登記を求める場合→共有(持分)登記を入れる形で応じるか、あるいは、登記を入れる代わりに価額弁償して(=代償金を支払って)清算解決する場合が多い。
この場合の清算についても、既述の割合計算によるのが普通(=割合算出は取得額で。価額弁償による清算をする場合には、現在価格に割合を乗じて弁償金を算出)。
共有名義でも、一度登記名義を入れると、例えば登録免許税や不動産取得税、固定資産税・都市計画税等の諸税金が余計に課税されることにもなるので、登記名義を入れる前に金銭で清算した方が得策であることが多いだろう。
(6) 不動産が夫婦共有財産の場合の清算方法
① 物件の時価がローン残額を上回る場合
→ほとんどの住宅等ローンは抵当権により担保されているはずなので、物件の本来の価値は時価-清算時のローン残額≧0→この残価が清算すべき夫婦共有財産となる。
☆「清算時」とはいつか?→通常は、財産分与時(に直近した時点)。ちなみに調停ならば、調停不成立(現実には直近の期日)時、審判・裁判の場合には審判・裁判(だが、これも実務上は直近の審判・裁判期日)時。但し、物件価格を別居時等で固定した場合には、公平上、ローン残額も別居時を基準に計算することもある。
② 物件の時価がローン残額を下回る(いわゆるオーバーローンの)場合
→上記同様、物件の本来の価値は時価-清算時のローン残額<0→この残価が清算すべき夫婦共有財産となる。→残価がマイナス→清算すべきは負債→残る住宅ローンの負担を離婚後、夫婦でどう分担すべきか、の問題に。
→財産分与=プラスの財産だけでなく、負債、すなわちマイナス財産の分配も含む。→夫婦間の分与(分担)割合に応じて分担を。プラス財産も2分の1宛なら、マイナス財産も2分の1宛が通常。
☆この場合、マイナスの場合には、物件には資産的価値はないことから、上記残債務の分担の問題はともかく、物件自体は夫婦のうち、どちらが貰ってもよいことにはなる⇔住宅を貰えた側は、ローンの返済をしている間は少なくとも居住利益だけは確保できてはいることになる。→住宅を取得せずにローンだけ分担させられる側には余りにも酷で不公平な結果に。→上記居住利益分は、例えば同等物件を賃借したとしたら必要になるであろう賃料について支払を免れる分等から算出は可能→住宅を取得する側には、このような居住利益が存することを前提に清算をするのがベストか→上記居住利益≒残ローン中、住宅を取得する側が負担すべきローン残額、なのであれば、結局、住宅を取得して住み続ける側が、残ローンの全てを以後支払っていく形の清算も、あながち不合理とは言えない。
要は次の3つのファクター(要素)間の相関関係で決められる。
A 物件の時価
B ローン残額
C 居住利益(≒同等物件の家賃相当額)
③ 夫婦以外の者が共有者の場合
A 登記名義上も共有者として持分登記が入れられている場合→既述の親名義が入れられている場合等を参照を(但し、親や親族でなければ「相続」の問題は生じない)。
登記名義上は持分登記は入れられていない場合→親が出した頭金分等について、共有持分登記を入れることを求めた場合等を参照を。
C 登記上の持分割合と実体上の持分割合が異なる場合→主張・立証できるのであれば、実体上の持分割合に直すことも不可能ではない。登記は持分の更正登記等で申請することに。
④ いわゆる2世帯住居の離婚時における清算方法
A 1階と2階でそれぞれ表示登記及び所有権保存登記が分かれている(≒区分所有権)場合→親の所有部分と息子等夫婦所有部分とが登記上も分かれている場合がほとんど→財産分与の対象として問題となるのは、夫婦所有部分のみ。
Cf.この場合の親所有部分は、そもそも共有物分割の対象にすらならない。
B 登記上は表示登記も所有権保存登記も分かれていない場合
(ⅰ) 土地や建物を物理的に分けられる場合→例えば1階と2階で分離する等、極力、上記Aに近づける努力を。
(ⅱ) 土地や建物が物理的に分けられない場合→親も交えた当事者間で金銭での清算(既述の価額弁償=代償分割)ができればそれを。
→この清算ができない場合には、一括して第三者に売却等して、割合に応じて金銭を分配する他ない(換価分割)。
→任意売却が価額等で折り合いが付かず合意できない場合には、共有物として共有登記が入っていれば共有物分割訴訟を提起し、判決で形式競売にする他ないが、競落人が出るか、出るとしても幾らで競落するか等、不安定な要素が非常に多いため、通常は避けようとすることが多い。
C 表示登記上は分かれているが、所有権保存登記は分かれていない場合
上記Bのケースで、(ⅰ)は充たすが、親または息子等夫婦の親子関係において、どちらかが全ての名義をもっている場合ということ。→結局、上記Bの(ⅱ)の場合ということに。
(7) 離婚財産分与を被保全債権として対象不動産に対して不動産仮差押申請をすることの可否
① A仮差押申請は可能 Bその場合の被保全債権は?→財産分与請求権
② 仮処分申請まで可能か?A可否→通常不可(通説・判例) B被保全債権の考え方(=財産分与請求権の法的性質)→物権的請求権として、分与対象財産に及ぶものではなく、あくまでも債権的請求権として、価額に応じた金銭の支払を求めることができるものにすぎない。
2 慰謝料に関して
(1) 離婚に際して請求できる慰謝料は?→既述。
(2) 慰謝料の支払を確実にするために夫(妻)名義の不動産の仮差押ができるか?→既述。
① 夫婦の共有財産についてA名義上→債務者名義部分なら可。 B実体上→名義変更した上でなら可。
② 夫婦の特有財産についてA名義上→債務者名義なら可。 B実体上→名義変更した上でなら可。
(3) 仮差押以降の具体的手続
①本訴の提起 ②強制執行(本差押)→左記①②とも、仮差押決定との整合性が認められるよう、請求債権、当事者等を統一しておくことが大事になる。
3 婚姻費用について
(1) 離婚までの間に請求できる生活費=婚姻費用
(2) 婚姻費用の支払を確実にするために、夫(妻)名義の不動産の仮差押ができるか?
→可。Cf.(審判まで時間を要する場合等には)審判前の仮処分で婚姻費用の仮払いを命じられることも。
(3) 別居後、離婚時まで支払い続ける住宅ローンの全部または1部を婚姻費用の支払に充てることはできるか?(cf.養育費の場合)→可。(cf.養育費の場合→通常は不可)
但し、支払済とされる婚姻費用の額は、上記支払ローン額の全額ではなく、例えば支払う夫の資産形成に将来なり得る部分については、婚姻費用の既払額に算入されない場合がある(例えば、不動産の(推定)夫婦共有財産について、夫の潜在的持分部分(通常は2分の1)のローン負担分について等→仮に夫が支払っていたとしても、自身のローン負担分について支払っていただけで、将来分割される場合には夫固有の資産となるわけだから、それに対応するローン負担分は婚姻費用には含まれなくて当然。
→但し、既述の居住利益の問題は残る。もし、妻側に居住利益が認められる場合には、上記の「同等物件の家賃相当額分」だけ婚姻費用としての支払いを認めてもらえる可能性はある。→これはつまり、不動産という「現物」で、上記の「家賃相当額分」だけ婚姻費用を支払ったことと同じと考えられよう。)
(4) 離婚後も(完済まで?)支払い続ける住宅ローンの全部または一部を法律上どのように扱うべきか。
例えば、離婚財産分与に基づき所有権(移転)登記は全て妻に。完済まで(35年の返済期間中の)残15年間の住宅ローンは全て夫が負担する場合を想定(仮に30歳で65歳までの住宅ローンを組んだ場合、20年間返済し50歳で離婚した場合)
① 夫本来負担すべき分(=2分の1)について
既述の清算的財産分与によるならば、別の清算方法(例えば離婚時に売却して残ローンも全て清算する等)によらない限り、本来負担すべき分を負担するだけ。
→この2分の1については本来、清算の必要もない(当然の負担)。
② 夫が本来負担すべき分(=上記①の2分の1)を超えた分について
これをどのように考える(処理する)かは考え方が分かれる
A 慰謝料分として考える考え方
夫が本来負担する必要のない分のローン負担をするのだから、慰謝料と考える考え方。結局、この慰謝料(相当)分だけ、残ローン期間に応じての分割払となる。妻側としては、夫がこの分割払を滞納すると最終的には抵当権の実行により自宅を失ってしまうリスクもあるが、逆に、単に「慰謝料」としての分割払の債務名義(例えば調停調書や公正証書等)だけ取得している場合よりも、対金融機関への滞納としていわゆる「ブラックリスト」に載ってしまう(=クレジットカードすら使用できなくなる可能性あり)ことをおそれて支払いを履行する可能性は高い。
但し、「慰謝料」としての金額の相当性が問題として残る可能性はある(←(2分の1の額でも)長期・多額の残ローンの場合)
B 扶養的財産分与として考える考え方
妻が対象不動産に居住し続けていることに鑑みれば、実態にはもっとも即しているものと思われる。
但し、既述のとおり、不要的財産分与の支払期間が6か月~最長1・2年程度であることや支払総額(仮に2分の1でも)等を考え併せると、残15年間の全てを「扶養的財産分与」で説明するのは難しいものと思われる。
C 未払婚姻費用として考える考え方
別居後、離婚前の別居期間中については、既述のとおり、支払住宅ローンの中の一部を少なくとも婚姻費用の一部と考える考え方がある以上、実態に合う場合もあり得る。
しかし、離婚後については、通常は離婚財産分与により一旦は清算する以上、離婚後にも「未払」の婚姻費用とみるためには、余程の額の「未払」があったとされる必要があり、かつ、上記ABと同じように、支払総額(仮に2分の1でも)や支払期間との関係でも、全額を「未払」婚姻費用とみることは難しいものと思われる。
D 贈与として考える考え方
上記ABCのいずれにせ、支払総額との関係で解釈上難しいものと考える場合、通常の額(例えば有責配偶者の慰謝料で300万~500万円)を超えた分は、離婚後も夫から妻に(毎月?)なされる「贈与」という認定もありえなくはない。この場合、年間110万円を超える分には妻に「贈与税」が課税されることにもなりかねないので、注意を要する。ちなみに物件全部を妻に「財産分与」を登記原因として所有権移転登記(譲渡)をした場合にこれに伴い「所得」(≒譲渡益)が発生した場合にはその譲渡所得税が課税されるが、課税されるのは妻ではなく夫である点も注意を要する。特に最近は、タワー型をはじめマンションが購入時よりも「値上がり」して譲渡益が出ることが多くなってきているので、実務上、要注意である。
三 その他(離婚以外の)男女トラブルの際に不動産を巡って問題となること
「婚姻」していない以上、「離婚」もないのであるが、世の中には正式に入籍こそしていないものの夫婦同然の生活をしている男女も多く存在する。例えば同棲や内縁である。以下、簡単に触れておきます。
(1) 同居(同棲)の解消と財産関係(特に所有名義、賃借名義とその清算)について
① 同居(同棲)の場合について
同居(同棲)にも様々なレベルがあろうが、それが単なるルームメイトであろうとほぼ内縁状態だろうと、「婚姻」していない以上、法律上はあくまでも全くの他人と同居している場合のルールが適用されると考えてよい。よって、同居開始、関係解消、財産関係についても、それが所有ならば共有関係に、賃借であれば賃借人ないし同居人が複数の場合に該当し、処理すればよい。ちなみに賃借の場合には、同居人複数の場合には、通常はそのうちの一人と賃貸借契約を締結し、その余の者は「同居者」にとどめているのが通常である。なお、家計が別々の場合には、単なる「同居者」であっても共同賃借人(=連帯債務者)でなくても連帯保証人になってもらうのも一つの手である。
② 内縁の場合について
内縁とは同居して実態上は夫婦同然だが戸籍上届け出はしていない場合を指す。
この場合には、上記①の場合以上に戸籍上の夫婦の処理に近付いてA同居開始、B関係解消、C財産関係について処理されることが求められる可能性が高い。ちなみにAの場面では特に戸籍とかを提出させなければ「夫婦」としてみるであろうし、Bの場面でも「離婚」に準じた扱いをなるべく認めて実質上夫婦であることを尊重すべきであるし、Cの場面でも、単なる共有等関係にとどまらず「財産的分」的な考え方に基づいた処理をして、少しでも実質的には戸籍上の夫婦と変わらない扱いをすることを目指すべきである。
(2) 婚約不履行と慰謝料
一口に「婚約」と言っても、様々なレベルがあるが、例えば、結納の取り交わし、婚約指輪の交換や夫婦としての新居家具等の準備等、「婚約」を客観的にも裏付ける事実関係があれば、法律上も一定程度の保護は受ける。
但し、基本的には債務不履行や不法行為に基づいて損害賠償の中での保護にとどまり、「不履行」により実損が出た分を損害賠償請求し得る。「損害」の内容は事案によりまちまちだろうが、主として「慰謝料」と思われる。なお、例えば、婚約者と共同名義で不動産等を購入したとしても、それが「婚約」にとどまり「婚姻」ではない限り、上記の「財産分与」の法理は該当しない。一般の共有物分割の次元にとどまる。
(3) 生活費等とその清算(Cf.愛人契約)
① 生活費等と清算
「婚姻費用」の法理をそのまま適用することはできない。あくまでも、「同居している他人」間における金額の負担方法と快勝する場合の清算の問題にすぎない。
基本的には当事者間の話し合い(協議)で解消すべきであるが、協議が整わない場合には、調停を申し立てることもできる(男女関係を巡る紛争の解決調停)。
② 愛人契約とその適法性
古い判例には、愛人契約は公序良俗に反し違法だから無効であり、愛人(例えば女性)に対して貢いだ物等の返還請求も愛人側にすべての責任があるような場合を除けば認められない(不法原因給付)。これは貢ぎ対象が不動産等であっても同じである。
但し、「贈与」の場合、「書面によらない」もので、かつ「履行が済んでいないものは、いつでも撤回可能である。
③ 精算時に問題となり得ることから名義上気を付けておいた方が良いもの
A 不動産や車
いくら「愛人関係」があることが前提と言っても、将来、その関係がどうなるかは誰も保証できない。
従って、仮に典型的な、女性が愛人の場合を想定するならば、
男性側:極力、不動産に女性(愛人)の名義を入れるべきではない。将来、揉め
たときに即共有物分割の法律問題になる。
女性側:極力、名義を入れておいてもらった方がよい。なお、物件の大家について説明できなければ「贈与」と認定されて贈与税が課税される可能性もあることから、男女の関係が良好なうちに「贈与税」相当額程度の現金をもらっておいたほうがベター。
但し、上記、公序良俗違反→不法原因給付で女性側のみ責任があるとして返還請求される可能性はある。男性でここまでする者は少ないかもしれないが、例えば、本妻から焚き付けられて請求するような場合は十分ありうる。
Cf. 賃借の場合→不動産を賃借する場合、愛人(例えば女性)名義だと仮に家賃を滞納された場合の全責任を男性側は追及されることになる。関係解消・清算が首尾よくいき建物等を明渡してもらえれば損害はそこまでで収まるが、滞納しつつ明渡もしないような場合が十分考えられる。仮に大家等賃貸人側が解除通知をしてきて解除が認められた場合には「賃料相当額損害金」となって、下手をすれば賃料の2倍(や時には3倍も)支払わなくてはならない事態にすらなりかねない。
このような多大なリスクに鑑みるならば、賃借人名義は男性とした方がよい(大家側から見てもそれを求めるべき)。なお、賃借人が男性の場合には、全ての名宛人は男性とできる(例えば居住女性は「専有補助者」にすぎないことになる)ため、例えば建物明渡の強制執行手続において誰を債務者(占有者)とするかの点においても迷わなくて済む。
B その他の金融財産
男性側:よく「名義借」等で講座等を開設してもらうないしは開設できることがあるが、特に男女関係が悪化した場合には、基本的には「名義人のもの」と主張される覚悟が必要。仮に原資は男性側だと証明できても「贈与された」と主張される可能性がある。「名義借」する位なら「贈与した」と割り切る必要あり。
女性側:「名義借」をお願いされた場合、後日の紛争を避けようと思えば安易に名義も貸すべきではない。仮に男性側がどうしても女性の名義にしたがる場合には、むしろ「贈与契約書」まで作成しておいてもらうべき。これにより、書面による履行も少なくとも形式上はされたことになるから「いつでも撤回」はできなくなる。なお、この贈与の場合、贈与税が課税される可能性はある点、不法原因給付だとしても返還請求される可能性がある点は上記Aと同じ。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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