裁判例⑮【東京地判平27・6・23判タ1424号300頁】

売主A側の仲介業者Bと買主Y側の仲介業者XとC(代表者はYと同じ)との仲介により、Yは、本件不動産を購入した。Yが約定仲介報酬を支払わなかったため、XはYに対し報酬請求した。Yは、本件不動産の電気設備・消防用設備に補修すべき瑕疵があり、Xの債務不履行を理由に報酬支払義務を負わず、補修費用と相殺する旨主張した。

  裁判所は、(1)電気設備について、宅建業法35条1項4号の規定の「趣旨は、宅建業者が購入者等に対し取引物件、取引条件等に関する正確な情報を積極的に提供して適切に説明し、購入者等がこれを十分理解した上で契約締結の意思決定ができるようにするための、宅建業者の仲介業務における重要事項の説明義務について規定したものであると解されるところ、かかる趣旨からすれば、宅建業者が調査した上で説明すべき程度及び内容は、個々の取引における動機、目的、媒介の委託目的、説明を受ける者の職業、取引の知識、経験の有無・程度といった属性等を勘案して、買主等が当該契約を締結するか否かについて的確に判断、意思決定することのできるものであることを要すると解するべきである」。電気設備の整備の状況については、「生活や事業を営む上で必要不可欠の設備であり、その制限いかんによっては買主が契約の目的を達することができない場合もあることから説明すべき事項とされたものと解されることからすれば、一般的には、施設の内容はどういうものか、普通の状態で普通の使い方で継続的に使えるものかどうか、その施設が直ちに使えるものがどうか等について調査・説明が行われる必要があると解される」。(2)消防設備について、「上記の宅建業者の調査・説明義務の重要性からすれば、法35条1項各号の列挙事由は少なくともこれだけは説明しなければならない事由を規定したものと考えられ、列挙事由以外の事項についても直ちに調査・説明が不要と解するのは妥当ではなく、個々の取引における個別的な事情に照らして、個別具体的に検討する必要があると考えられる。

  この点、消防設備は建物の種類、性状等によってはその設置や維持、点検等が求められるものである(消防法17条以下)ことからすれば、売買の目的物が消防施設の設備が求められる建物でありながら、そもそも設置されていない場合や、設置はされているものの全く維持されていない場合などは、通常は買主の意思決定に重要な事項と考えられることから、買主の属性や経験、取引目的、契約条項等の事情によっては、仲介業者に調査・説明義務が生ずると考えられる」。(3)ア 本件調査・説明義務の程度等について検討するに、電気設備については、「本件建物はテナントが多数入居する商業ビルであるから、電気設備がそもそも設置されているか否かは当然調査・説明義務の対象となると解される。のみならず、この電気設備が通常の使用に耐えうるものであるか否か、直ちに修繕を要する事項があるか否かについても、基本的には調査・説明義務の対象とすべきと考えられる。ただし、本件売買契約においては、特約条項において、物件状況確認書の作成・交付を行わず、引き渡し時の状態のまま引渡すものとされ(2条)、付帯設備について設備表の作成・交付を行わず、引渡し[時]の状態のまま引渡すものとされ、各設備について売主が一切の修復義務を負わないとされている(3条)点に鑑みれば、当事者はかかるリスクを考慮の上価格を決定したものと考えられるから、価格決定に影響を及ぼすような修繕事項がある等の場合は別として、通常のメンテナンスの範囲内の修繕・交換等を要する事項がある程度の事項についてまで、調査・説明義務を負うものではない」。消防設備については、「本件建物が特定防災対象建築物に該当することからすれば、消防設備が設置してあることはもちろん、これが維持されることについては基本的には調査・説明義務の対象となると考えられるが、上記の特約に照らせば、電気設備と同様、価格決定に影響を及ぼすような修繕事項がある等の場合は別として、通常のメンテナンスの範囲内の修繕・交換等を要する事項がある程度の事項についてまで、調査・説明義務を負うものではないと考えられる」。イ 本件売買契約の仲介業者は売主側がB、買主(Y)側がXとCであり、「まず第一に、売主側に仲介業者がいるのであれば、売主側の仲介業者は(買主側に比して)調査が容易である、当該売買契約における売主の瑕疵担保責任等に配慮を要する立場にある等の観点からすれば、上記アのような調査・説明義務を負うのは一時的には売主側の仲介業者であり、買主側の仲介業者は、主として売主側の仲介業者を通じて説明に必要な情報を得るのが通常と考えられる」。「第二に、買主側の仲介業者が2名というのは、通常とは言い難い(略)、CはYと代表者が同一であり、(略)CがXのおよそ倍もの仲介手数料を得ているのは、Xへの本件媒介報酬の額を減額する目的であったと認められる。とすると、当事者間の合理的意思解釈ないし信義則の観点からすれば、Cへの仲介業者としての責任を差し置いて、Xの責任を加重する方向で考慮すべきではない」。Xは、「電気設備及び消防設備については、基本的には売主側仲介業者であるBから得た情報を基礎として説明すればよいものであり、これに加えて宅建業者として通常の注意を払えば知り得る情報や、特に買主から依頼があり、これを受託した事項についても、調査能力の範囲内であって、過大な費用ないし労力の負担なく調査できる範囲において、調査・説明を行えば足りる」とし、Xにおいて債務不履行はなくXの報酬請求を全部容認した。

 

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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