裁判例⑭【東京地判平28・3・10WL】

Xは、介護施設として利用する目的で仲介業者Y2、Y3の仲介により賃貸人Y1と本件建物の1階部分367.49㎡(本件賃貸部分)の賃貸借契約を締結して借り受けた。重要事項説明書の用途制限には「介護施設」と記載されていた。本件建物は1階が物品販売業を営む店舗、2階以上が共同住宅として利用され、1階部分を介護施設として利用するためには、建築基準法上、原則として用途変更の確認申請が必要となり(同法6条)、申請手続には本件建物の確認済証と検査済証が必要であったが、Y1は建築時において完了検査を(同法7条)を受けておらず、検査済証の交付を受けていなかった(本件事情)。Y1側の仲介業者Y2の従業員甲は、複数の業者から、本件賃貸部分を介護施設として利用したいとの照会を受けた際、本件建物には検査済証がない旨告知すると業者らは全て諦め、問い合わせてきたY3の担当者乙に対しても、本件建物には検査済証がなく、介護施設として利用したいと照会してきた業者がいずれも諦めたとの事情を告知したが、乙は、X代表者にその旨伝えていなかった。Y1との賃貸借契約締結後、Xは、本件賃貸部分の内装工事を完了したが、介護施設として利用するには用途変更の確認申請が必要になること、当該建物が適法であることなどが指摘され、Xは、調査報告制度(同法12条5項)を用いることにより用途変更の確認申請が可能となるためY1に対応の回答を求めたが、Y1はこれを拒否した。Xは、Y1との賃貸借契約を解除し建物を明渡し、①Y1に対し介護施設として使用収益させる義務違反(債務不履行)に基づき、②Y2に対し説明義務違反(不法行為)に基づき、③Y3に対し調査義務違反(債務不履行)に基づき、Yらに対し連帯して損害賠償請求し認容された。

  裁判所は、不動産賃貸借を仲介する宅建業者は、「当該契約の目的不動産について、賃借人になろうとする者の使用目的を知り、かつ、当該不動産がその使用目的では使用できないこと又は使用するに当たり法律上・事実上の障害があることを容易に知り得るときは、それが重要事項説明書の記載事項(宅建業法35条1項各号)に該当するかどうかにかかわらず、賃借人になろうとする者に対してその旨を告知説明すべき義務がある」。上記③について、「介護施設としての利用に適する物件の探索を依頼して、X・Y3間の仲介契約が成立していたのであるから、Y3は、当然、賃貸借契約の対象となる不動産の使用目的が、介護施設としての使用であることを認識し」、「Y3は、Xの本件賃貸部分の使用目的を知り、かつ、本件建物には検査済証がないという事情を知っていたことになる。(略)仲介業者であれば、仲介する賃貸借契約上の目的建物の使用目的によっては、当該建物について建築基準法6条1項の定める用途変更確認が必要となること、その場合、当該建物の確認済証と検査済証が必要になることは、身に付けておくべき基本的知識といえるから、上記の事情を認識した段階で、Xが本件賃貸部分を介護施設として使用するためには用途変更確認が必要であるのに、その確認申請に必要な検査済証がなく、そのままではXの使用目的に支障が生じることを容易に認識し得たといえる。また、その時点では用途変更に関する知識を欠いていたとしても、甲[Y2の担当者]から告知された情報を前提とすれば、Y3としては、本件賃貸部分を介護施設として使用することに疑問を持ち、その原因を調査する義務を負うというべきであり、かかる調査を尽くしていれば、上記の認識に到達することは容易であったといえる。したがって、Y3には、X・Y3仲介契約に係る信義則上の義務として、甲から本件建物には検査済証がないことを聞いた段階で、必要な調査をした上で速やかに本件事情をXに告知説明する義務が発生しており、それを怠ったことにより生じた損害について、債務不履行に基づく賠償責任を免れない」。②について、Y2の担当者甲は、「本件建物に検査済証がないことを従前から知っており、かつ、乙とのやりとりにおいて、Xの本件賃貸部分の使用目的を知ったのであるから、Y2は、遅くとも本件賃貸借契約締結時に、Xに本件事情を告知説明すべき義務を負っていたというべきであり、これを怠ったことによりXに生じた損害について、不法行為に基づく賠償責任を免れない」。甲がY2に対し、本件建物に検査済証がないことなどを伝えていたが、「X以外の業者は、いずれも検査済証がないと知った段階で諦めていたというのであるから、そのことを聞いたはずのXがあえて契約締結を希望することに対して疑問を持つのが通常であり、少なくとも本件賃貸借契約締結の際には、Xに直接その旨を伝えて意思を確認する機会があったのであるから、事前に仲介業者であるY3に伝えていたというだけでは、宅建業者としての注意義務を履行したことにはならない」とし、Y2の説明義務違反を認めた。裁判所は、XのY1に対する主張を排斥し、Xの過失を3割、Y2とY3の過失を7割とし、損害は、Y2とY3がそれぞれの立場で仲介した本件賃貸借契約を巡り、いずれもXに本件事情を告知・説明しなかったという共通の注意義務違反に基づいて発生したものであり、その責任の法的根拠において、債務不履行と不法行為という違いがあるにすぎないから、Y2とY3の支払義務は、不真正連帯債務の関係にあるとした。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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