裁判例⑥~⑬【宅建業者の調査・説明義務を認めた裁判例】
⑥ (1)都市計画区域の指定の可能性(都市計画法5条) 施行令3条1項1号には都市計画法5条が掲げられていないが、東京地判昭56・10・30判時946号78頁は、仲介業者は、土地付近の区域に対する都市計画区域の指定の可能性及び本件土地の市街化区域もしくは市街化調整区域のいずれに含まれるかについて調査、告知義務があるとする。
⑦ (2)開発許可手続(都市計画法36条1項) 都市計画法36条1項(工事完了検査済証の交付)は、施行令3条1項1号に掲げられていないが、大阪高判昭58・7・19は、買主が建物を建てる計画で土地を購入することを売主業者及び仲介業者が知悉していた事案において、重要事項説明書で開発許可を取得することを説明しただけでは足りず、建物を建築するには都市計画法に基づき開発行為について開発許可を受けたうえ開発許可を受けた者が開発行為に関する工事を完了し検査済証の交付を受けることが必要であるとの建築規制が存在することについて説明義務を尽くさなかったことは宅建業法35条1項に違反し違法であるとした。
⑧ (3)建築確認(建築基準法6条)
施行令3条1項2号には建築基準法6条(建築物の建築等に関する申請及び確認)が掲げられていないが、大阪高判昭58・7・15判時815号119頁は、宅建業法違反等被告事件において、買主が既存建物を買い受ける場合、建築確認を受けた建物かどうかは、「購入者の利益に関する重要な事項であることが明らかである」とし、宅建業法35条各号、施行令3条は宅建業者として契約締結までに説明すべき最小限度の条項を列挙したものであることは、同条1項に『…少なくとも次の各号に掲げる事項について説明しなければならない』とあることからも明らかである」とする。
⑨ (3)横浜地判平9・5・26判タ958号189頁は、買受け仲介業者は、耐火建築物違反の増築部分が存在すること(違法建築であること)について説明義務があるとした。
⑩ (3)大阪高判平11・9・30判時1724号60頁は、売主業者及び仲介業者は、土地付建物(未完成物件)が適法な建築確認を受けていないことについて説明義務があるとする。
⑪ (4)建築基準法40条に基づくがけ条例
東京高判平12・10・26判時1739号53頁は、施行令3条1項2号に建築基準法19条4項、40条に基づくがけ条例、行政指導が掲げられていないが、仲介業者は、買主が土地上に建物を新築する場合、同法19条4項、神奈川県建築基準条例、がけ付近に建築する建築物の指導指針による規制があることについて告知義務があるとする。がけ条例に関する裁判例はREITO94号40頁以下に詳しい。
⑫ (4)東京地判昭59・12・26判時1152号148頁は、施行令3条1項2号に建築基準法42条及び開発指導要綱が掲げられていないが、仲介業者は、建築基準法42条の道路及び開発行為に関する指導要綱(行政指導)の説明義務があるとする。
⑬ (5)建築基準法7条、指導要綱
買主Xが売主Y(宅建業者)から給油所を購入したが建築基準法・都市計画法に違反した状態になっていることなどが判明した事案において、東京地判平26・3・26は、「宅建業者である売主は、売買当時における売買目的不動産についての法令に基づく制限について説明義務を負うことからすれば、Yは、都市計画法及び本件要綱[甲町宅地開発指導要綱]により、本件売買契約締結当時に必要になる排水施設の内容について調査説明すべき義務があったというべきである。そして、Yがこの調査義務を履行すれば、本件給排水図との対比により本件不動産における排水施設の現状が法令の制限に反していることがYには容易に認識できたことになる。本件不動産への排水施設の設置は相当額の費用を要するものであることからすれば、上記事実は売買契約を締結するか否かを決定するために重要な事項に該当するというべきである。したがって、Yは、本件不動産において、必要な排水施設に関する法令の制限について調査義務を負っていたというべきであるが、Yは同義務を履行せず、Xに対する説明を行っていない」。Yには、宅建業者としての調査・説明義務を懈怠したことによる不法行為が成立するとし、Xの請求を一部認容した。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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