共有持分を売却して現金化することは可能?トラブルなく売却するためのポイントとは?
共有不動産の持分権者には、「現金が必要になったので共有持分を売却したい」、「買取り金額が低く悩んでいる」、「共有持分だけでは共有地の活用が十分にできずに持て余している」、「固定資産税等の税金や管理費等のランニングコストがかかっている」など、共有持分の取り扱いに苦労されている方がいます。特に注意が必要なのが、共有持分の売却です。共有不動産全体の売却は、共有者全員の合意がなければできませんが、共有持分のみであれば持分権者のみの意思で(他の共有者の合意を得る必要もなく)売却して現金化することができます。この場合、共有持分の買取り業者に依頼をする方法もあります。確かに比較的早めに現金化することができるというメリットもあります。しかし、買取額が通常の市場価格よりかなり低いケースが多いというデメリットがあります。また、仮に売却できたとしても、他の共有者とこの買取業者との共有となるため、業者との間でトラブルになるケースもあります。
ここでは、共有持分を売却・現金化する具体的方法と、極力、トラブルの少ない共有関係の解消に向けた方法について説明します。
共有持分を売却する利点
共有持分の買取りは、買取価格等を巡り他の共有者とトラブルになりがちな反面、取引相手は対象の物件の共有持分権者にほぼ絞られてしまうためリスクも高く、以前は共有「持分」のみの買取りを積極的に行う不動産業者は多くありませんでした。
しかし近年は、核家族化や少子高齢化等により、共有持分権者の数自体が減ったこと及び共有者同士の関係も以前と比べると比較的薄くなるなど、変化も出てきました。「気が付くと居住もせず何年も共有不動産を放置していた」、「気が付くと相続により共有者が増えてしまい、権利者の全体像すら把握できなくなった」など、共有者同士の関係が希薄になるケースが出てきました。そのために共有持分を持て余すことも多くなったため、共有持分を積極的に買い取る業者も増加する傾向にあります。
共有不動産を賃貸に出す等格別運用しないと、固定資産税をはじめとする税金や管理費の負担が生じ、共有持分の扱いに苦慮している、あるいは、急遽現金を必要とするようなとき、共有持分の買取り業者に依頼をすれば、比較的早めの現金化も可能になりました。
こうした共有持分の早期現金化の実現が、共有持分を売却する最大の利点です。共有持分であれば、売却は持分権者のみの意思で行うことができ、他の共有者の合意を得ずに進められるため、「持分」のみの売却をする理由のひとつです。これも利点の1つと考えられます。
[共有持分売却の利点]
・共有持分の買取り業者と売買が成立すれば、比較的早めに現金化できる
・共有持分の買取り業者が増えてきているので、買取価格の見積もり比較検討ができる
・共有持分の売却は、他の共有者の合意は不要で、持分権者のみの意思で行うことができる
・共有持分の保有からくる諸負担から解放される
共有持分売却の不利な点
共有持分を買取り業者に売却することは、いくつかの不利な点もあります。まず、買取り価格は市場価格よりもかなり低い金額になります。共有持分はそもそも、他の共有者とトラブルになる可能性があり、買取り業者も、そのトラブルが解決されるまでは全体ないし持分自体すらも処分できないというリスクを負うことから、実際の買取り価格は低額になりがちです。
また、他の共有者に黙って業者に共有持分を売却した場合、買取り業者と他の共有者の間でトラブルになったとき、他の共有者から業者への持分の売却について売却した持分権者に代わって買い取った業者自身が責められる可能性もあります。
[共有持分売却の不利な点]
・共有持分の買取りは市場価格より低額になることが多い
・他の共有者とトラブルになる可能性がある
共有持分の買取りを行う業者
近年共有持分の買取りを行う不動産業者が増えてきているとお伝えしましたが、他の共有者とトラブルになりがちな共有持分をあえて買い取るには、さまざまな理由(ないし「思惑」)があります。ここでは、共有持分の買取りを行う不動産業者がどのような目的(意図)で買取りをしているのか、また、業者とトラブルになる可能性について解説します。
(1)共有持分を買い取った業者は他の共有者へ売却して自らは共有関係から離脱しようとする
共有持分の買取りを行っている業者は、買い取った持分を他の共有者へ売却しようとします。自由度の低い共有持分のままでは第三者へ売却することが難しいため、他の共有持分者へ働きかけることになります。共有持分の買取り業者は、自らが買い取った持分額よりも高額な金額で売却し、転売益を得ることで利益を獲得します。
買取り業者は共有不動産の状況をきちんと把握し、市場の動向を見据えながら買取りを検討します。共有不動産の活用実態があまりないために、他の共有者とトラブルを抱えていない物件などは、その後の交渉もスムーズに進められ、売却益を得られる可能性が高いものと判断します。このような場合は買取り交渉も早期かつ本格的に前進するでしょう。
共有不動産の権利関係が複雑な物件は、そもそも調査自体に手間がかかりますし、かつ、様々な、トラブルに発展しやすいです。そのため、持分の買取りが敬遠される傾向にあります。
(2)逆に共有持分買取り業者から他の共有者が、その持分の買取り提案を受けたらどうしたらよいか
もし、持分買取り業者から他の共有者の持分の買取り提案を受けた場合、事情を何も知らされてなければ、他の持分権者が共有持分を売却した事実について、ここで初めて知ることになると思います。売却した持分権者との関係性にもよりますが、突然の(まさに「寝耳に水」の)出来事で驚かれ、憤慨する人もいるでしょう。しかし、冷静に対応する必要があります。
怒りにまかせて買取り業者と対立してしまうと、仮にどんな交渉でも進まずトラブルになってしまいます。まずは共有物分割に詳しい弁護士へ相談することを検討しましょう。弁護士に相談・依頼し、共有不動産の市場価格等を調査・対応することで、持分割合に応じた金額がどの程度になるかも見えてきます。弁護士を代理人につけて、共有不動産を今後どのように取り扱うか方針を定め、業者と交渉にあたってもらい、よりよい条件で買取りないし売却する可能性を探ります。万が一、共有物分割訴訟にまで移行してしまうような場合でも、弁護士と相談しながら対応を進めていくとよいでしょう。
(3)共有持分を買い取った業者に共有物分割請求(調停・訴訟)を求められる可能性がある
共有持分の買取り交渉で揉めてしまうと、業者から「共有物分割請求」を求められるのが一般的です。この場合、協議が折り合わず共有物分割訴訟に発展し、競売の判決が出されてしまうと、継続を保有していた共有不動産を失う危険もあります。共有不動産を失いたくないとお考えの場合は、買取り業者と交渉し、共有持分の買取りを進めることになりますが、転売益を確保しようとする業者との交渉は一筋縄ではいかないでしょう。
(4)共有持分買取り業者から共有物分割請求を求められたら
共有持分の買取り業者から提案を受けた持分買取りについて、買取金額が低いことに持分権者が納得できず交渉が長引いてしまうと、業者から共有物分割の調停や訴訟を提起されることがあります。共有物分割を求められたら無視はせず、解決に向けた協議を行い、それでも調わない場合に初めて調停や訴訟で解決を図ることになります。
共有物分割請求を求められた段階で、早目に弁護士へ相談・依頼をし、どのように対応・解決するべきか方針を決め、相手と協議することが求められます。買取り業者は顧問や代理人として弁護士に依頼していることがほとんどですので、こちらも弁護士を代理人として対応しなければ、武器は対等ではなく、結果、納得できないかたちで共有不動産を失う可能性がでてきます。従いまして、この段階では、共有物分割請求に詳しい弁護士への依頼を検討・対応していくことが必要になります。
4.共有持分をすぐ現金化したいのか、市場価格に近い金額で売却したいか、どちらの希望を優先するかで対応が変わる
共有持分の売却を検討しているとき、急ぎ現金を必要としているのか、市場価格に近い適正な価格で売却したいのか、それぞれの利点と不利な点を考慮の上で進める必要があります。それ程急がず、あくまでも適正価格で共有持分を売却したいケースでは、共有物分割請求を視野に弁護士へ依頼することを検討する必要があります。
共有持分を買取り業者に売却するケースと、共有物分割請求により市場価格に近い金額で売却するケースの違いを表にまとめました。
買取り業者 | 弁護士による手続き | |
手間 | 少ない | 弁護士と和解条件などの方針を決める打ち合わせは最低限必要 |
期間 | 正式申込から1~2か月程度 | 協議/3~4か月、訴訟/1年程度※ |
金額 | 市場価格の30%~50%程度 | 市場価格の80~100%程度 |
利点 | 早めに現金化できる | 持分の市場価値に相応しい現金化を見込める |
不利な点 | 市場価格よりも大幅に安くなる | 時間がかかる |
※換価分割(競売)に関して法的な問題点がない訴訟の場合(の最短)を想定。競売、強制的明渡等に要する期間は別。
(1)他の共有者に迷惑をかけず、共有持分を売却するには?
ここまで共有持分売却における利点・不利な点や、共有持分買取り業者についてお伝えしてきましたが、共有持分を第三者に売却してしまうと、他の共有者が業者とトラブルに巻き込まれる危険があるなど、ときに大きな負担を与えることになります。共有持分売却が原因で共有持分権者全員が、その共有不動産を失えば、他の共有者と絶縁状態になること等もあるので、大きな禍根を残してしまいます。
このようなトラブルを起こさずに共有持分を売却・処分する方法について解説します。
(2)共有持分の売却は、他の共有者に相談して意見をきく
共有持分の売却を検討しているときは、まず他の共有者にご自身の考えを伝え、持分を買い取ってもらえるか、または今後の共有不動産の取り扱いについて話をしてみるのもよいでしょう。他の共有者と関係が良好であれば問題ないですが、仮に他の共有者と疎遠などの事情があったとしても、第三者へ持分等を売却してトラブルになるより、建設的に話し合いができると思います。相談をすることで他の共有者から「実は私も共有持分をどうしようか考えていたから、この際共有不動産全てを売却し、そこで得たお金を持分割合に応じて分けましょう」、「共有不動産を単独所有したいので、業者より高い値段で持分を全部買い取るよ」といった建設的な話になることもあります。
このようにうまくまとまることは少なくありませんが、全く相談などもせずに業者へ持分を売却したことで他の共有者から「相談してくれれば私の共有持分とセットで共有不動産全体を売却してもよかったのに…」、「先に声をかけてくれれば、持分をこちらで買い取ったのに…」といった不満をもたれる可能性も大いにあります。気まずい関係になるくらいで済めばよいですが、相手によっては激怒されて絶縁状態になり、大きな禍根を残すこともあるので、何らかのコミュニケーションは取るようにしましょう。
話し合いで他の共有者へ持分の売却ができれば、共有不動産の運用、管理も他の共有者に安心して任せることができ、将来的には共有物の相続等でトラブルを避けることにもつながるでしょう。
(3)他の共有者への共有持分の売却がまとまらなければ、共有物分割請求を検討する他ない
他の共有者と共有持分の売却で話し合いがまとまらないときは、共有物分割請求を進め、協議を行い、協議が調わなければ共有物分割調停の申立てや訴訟提起をし、共有関係の解消を目指します。共有物分割請求訴訟の被告となった場合、訴訟の結果は法的拘束力があることから、無視をすることができないため、最終的に何らかの方法で共有関係が解消されることになります。
共有物分割訴訟にまで発展した場合には、確かに共有者同士の関係性が悪化している可能性もありますが、最終的には何らかの解決方法が出されるはずです。従いまして、一部の共有者に不満があっても共有関係の解消に向けた解決を図ることができます。
(4)共有物分割請求の具体的解決方法(調停・訴訟)
共有持分を他の者に買い取ってほしいケースでの解決方法は主に2つあります。ひとつは共有不動産全体を売却し、売却して得た金額を持分割合に応じて分ける方法です。「換価分割」と呼ばれ、共有者同士の不公平感も少なく、かつ共有不動産「全体」を売却するため、共有「持分」を売却するよりも通常は、売却益が大きくなります。もう1つは、共有者のうち1人が他の共有者の持分全てを買取り、共有不動産を単独所有する代わりに譲渡した持分権者に対しては「代償金」を支払うという方法です。この方法は「代償分割」と呼ばれ、共有不動産を全て所有したい共有者がいる場合、この解決方法を模索することになります。しかし、この共有者が他の共有者から共有持分を買い取ることができるだけの資金力があるかが重要な要件となってきます。
共有持分をすべて買い取るだけの資金力がなければこの方法での解決はできなくなり、また、仮にこの「代償金」を時価よりも極端に低い価格とすると、親族間の場合には「贈与」と認定されて贈与税の課税関係が生じる可能性もあるため、注意が必要です。
(5)共有持分を売却しないで共有関係を解消する方法
共有不動産の共有持分を売却したいときは、第三者への売却を避け、他の共有者に持分を買い取ってもらえるかを相談したり、それが無理なら共有物分割請求を求めるなどの方法を検討すべきことは、ここまででお伝えしたとおりです。
しかし、持分権者が、仮に持分の売却益(ないし売却代金自体)を必要としなければ、次にお伝えする2つの方法も考えられます。
①共有持分の放棄
共有持分を放棄することで、共有関係を解消することができます。この場合、売却益(ないし売却代金自体)を得ることはできませんが、ご自身の意思で、他の共有者の合意を得ずに行うことができます。放棄した共有持分は、持分割合に応じて他の共有者へと帰属されることになります。
ただ、帰属した各持分の状況によっては、他の共有者に贈与税が課税されるかかる可能性はあります。そのため、共有持分を放棄するときは、事前に他の共有者へ報告し、後にトラブル(予想もしていない高額の贈与税負担等)へと発展しないよう進めるべきです。
②共有持分の贈与
特定の共有者へ持分を贈与することもできます。この場合、当然に、持分の贈与を受ける共有者に贈与税がかかりますので、注意が必要です。
トラブルなく共有持分を売却等処分するには?
ここまで共有持分の売却・処分について、いくつかの方法をお伝えしてきました。共有持分の他の共有(持分権)者への売却は、他の共有者との関係性で結果に差が出てしまう傾向にあります。関係性が悪くなければ、事前に他の共有者に相談し、共有者同士で共有持分の処理をすることもできます。この場合には、共有関係の解消とその売却益を得られ、お互い円満に解決できる可能性があります。
関係性において特段のトラブルはないが、長らく疎遠で連絡をとっていないケースでも、連絡をとり話し合いを重ねることで上記のような解決ができるかもしれません。話し合いで折り合わないのであればやむなく、粛々と共有物分割請求をし、共有関係の解消に向けて協議を進めることもできます。
共有者同士のトラブルで絶縁状態にあったり、共有者の実態が不明で共有不動産が放置されているケース等では、買取り業者からも敬遠されてしまいますので、トラブルなく共有持分を売却・処分することは難しいかもしれません。このケースでは共有者同士による解決は難しいと思いますので、共有不動産や共有物分割に詳しい弁護士へ相談し、解決に向けた提案(共有物分割調停や訴訟の活用等)を受けることをおすすめします。
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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