所在不明等共有者の持分取得または第三者に譲渡するための手続【令和3年民法改正】について
1. はじめに
近年、土地の所有者が死亡しても相続登記がされないこと等を原因として、不動産登記簿により所有者が直ちに判明せず、又は判明しても連絡がつかない「所有者不明土地」が生じることが多くなり、土地の利用等が阻害される等の大きな社会問題となっています。
そこで、令和3年4月、民法や不動産登記法などが改正され、改正民法については、令和5年4月1日に施行されることが決まりました。(参考:法務省HP)
2.所有者不明等の場合における共有者の持分の取得や、第三者への譲渡をするための条文が新設
共有不動産について、所在等不明共有者がいる場合、共有者が裁判所に請求し、裁判所の決定を得ることにより、請求した共有者により所在等不明共有者の持分を取得することが可能となりました(令和3年改正民法262の2、改正非訟事件手続法87条【新設】、※令和5年4月1日施行)。
(所在等不明共有者の持分の取得) 第二百六十二条の二 1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合で按あん分してそれぞれ取得させる。 2 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。 3 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。 4 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。 5 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。 |
(所在等不明共有者の持分の取得) 第八十七条 1 所在等不明共有者の持分の取得の裁判(民法第二百六十二条の二第一項(同条第五項において準用する場合を含む。次項第一号において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分の取得の裁判をいう。以下この条において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 2 裁判所は、次に掲げる事項を公告し、かつ、第二号、第三号及び第五号の期間が経過した後でなければ、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることができない。この場合において、第二号、第三号及び第五号の期間は、いずれも三箇月を下ってはならない。 一 所在等不明共有者(民法第二百六十二条の二第一項に規定の持分について所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあったこと。 二 裁判所が所在等不明共有者の持分の取得の裁判をすることについて異議があるときは、所在等不明共有者は一定の期間内にその旨の届出をすべきこと。 三 民法第二百六十二条の二第二項(同条第五項において準用する場合を含む。)の異議の届出は、一定の期間内にすべきこと。 四 前二号の届出がないときは、所在等不明共有者の持分の取得の裁判がされること。 五 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをするときは一定の期間内にその申立てをすべきこと。 3 裁判所は、前項の規定による公告をしたときは、遅滞なく、登記簿上その氏名又は名称が判明している共有者に対し、同項各号(第二号を除く。)の規定により公告した事項を通知しなければならない。この通知は、通知を受ける者の登記簿上の住所又は事務所に宛てて発すれば足りる。 4 裁判所は、第二項第三号の異議の届出が同号の期間を経過した後にされたときは、当該届出を却下しなければならない。 5 裁判所は、所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするには、申立人に対して、一定の期間内に、所在等不明共有者のために、裁判所が定める額の金銭を裁判所の指定する供託所に供託し、かつ、その旨を届け出るべきことを命じなければならない。 6 裁判所は、前項の規定による決定をした後所在等不明共有者の持分の取得の裁判をするまでの間に、事情の変更により同項の規定による決定で定めた額を不当と認めるに至ったときは、同項の規定により供託すべき金銭の額を変更しなければならない。 7 前二項の規定による裁判に対しては、即時抗告をすることができる。 8 裁判所は、申立人が第五項の規定による決定に従わないときは、その申立人の申立てを却下しなければならない。 9 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、確定しなければその効力を生じない。 10 所在等不明共有者の持分の取得の裁判は、所在等不明共有者に告知することを要しない。 11 所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを受けた裁判所が第二項の規定による公告をした場合において、その申立てがあった所在等不明共有者の持分について申立人以外の共有者が同項第五号の期間が経過した後に所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てをしたときは、裁判所は、当該申立人以外の共有者による所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てを却下しなければならない。 |
これにより、共有者の一部について、必要な調査を尽くしてもその氏名または名称やその所在を知ることができない場合でも、令和5年4月1日以降、裁判所の手続を利用し、所在等不明共有者の持分譲渡を受けることにより、共有不動産の売却、大規模修繕などが可能となります。
また、同様に、共有不動産について、所在等不明共有者の持分の第三者への譲渡の条文が新設されたため(改正民262の3、改正非訟事件手続法88条【新設】、※令和5年4月1日施行)、令和5年4月1日以降、裁判所の手続を利用することで、直接第三者に売却することも可能となりました。
(所在等不明共有者の持分の譲渡) 第二百六十二条の三 1 不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。 2 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。 3 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。 4 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。 |
(所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与) 第八十八条 1 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判(民法第二百六十二条の三第一項(同条第四項において準用する場合を含む。第三項において同じ。)の規定による所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判をいう。第三項において同じ。)に係る事件は、当該裁判に係る不動産の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に属する。 2 前条第二項第一号、第二号及び第四号並びに第五項から第十項までの規定は、前項の事件について準用する。 3 所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判の効力が生じた後二箇月以内にその裁判により付与された権限に基づく所在等不明共有者(民法第二百六十二条の三第一項に規定する所在等不明共有者をいう。)の持分の譲渡の効力が生じないときは、その裁判は、その効力を失う。ただし、この期間は、裁判所において伸長することができる。 |
3.実務上の注意点等
以上述べたとおり、今回の民法改正で、共有者の一部について所在等不明者がいる場合でも、令和5年4月1日以降、裁判所の手続を利用することで、共有不動産の売却、大規模修繕などが可能となります。
もっとも、所在等不明共有者についての生死や所在についての調査や、所在等不明共有者の持分の取得や第三者への譲渡等のための裁判所への申立てについては、専門的知識が必要となります。
共有者の中に「所在不明者」がいるために、不動産を売却または有効活用等できないなどお困りの方は、一度気軽に当事務所までご相談下さい。より良い解決を目指し、お力になれるかもしれません。
※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
投稿者プロフィール

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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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