マンション建替円滑化法について
幣所代表弁護士鈴木軌士が2015年11月25日(水)に横浜の不動産オーナーの方々のための「マンション建替円滑化法について」と題したセミナーを行いました。
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日時 | 2015年11月25日(水) |
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会場 |
開港記念会館 |
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講師 | 鈴木 軌士 |
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セミナー名 | 横浜の不動産オーナーの方々のための「マンション建替円滑化法について」 |
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主催 | 弁護士法人タウン&シティ法律事務所 |
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詳細 | 下記参照 |
___________________________________________________________________ セミナーの様子 |
横浜の不動産オーナーの方々のための「マンション建替円滑化法について」
平成27年11月25日実施
(主催者)
〒231-0021 横浜市中区日本大通14番地
KN日本大通ビル2階
弁護士法人 タウン&シティ法律事務所
TEL 045-650-2270
FAX 045-650-2271
代表弁護士 鈴 木 軌 士
以下、【 】は(ポイントとなるべき)重要部分を指す。
第1 はじめに
1 (改正後の)マンション建替円滑化法(以下「本法」という)の概要・背景
(1)マンション建替事業、(2)要除却マンション認定、(3)マンション敷地売却の3つの制度から構成。
(1) マンション建替事業
区分所有法のマンション建替決議がなされた場合に用いることができる事業手法を定めたもの。
Cf.区分所有法=マンション建替決議の要件・手続や反対者への売渡請求権は認められている。
本法=借家権や抵当権などの担保権を旧マンション⇒新マンション:一括して移行=権利変換手続(但し、区分所有者以外の関係権利者の全員同意が前提)を採用。
(2) 要除却マンション認定=直接的には、そもそも耐震性不足マンションのみを対象としているマンション敷地売却事業において、その耐震性不足を特定行政庁が認定することを定めた制度のことを指す。
間接的には、旧マンションを除却し、同一敷地に新マンションを建てる場合(建替)の場合でも、上記認定を受けた場合には、容積率の特例を認めるという効果もあり。←次の(3)マンション敷地売却事業により除却後新マンションを建設する場合に容積率の特例を認めることとのバランス上、通常のマンション建替(マンション建替事業を含む)にも同特例を認めることとした。
(3) マンション敷地売却事業
平成26年法改正(新法)の最大の目玉。耐震性不足マンション問題の解消を進めるために「マンション建替事業」があったが、十分な実績なし。
→そこで、一棟を丸ごと売却する制度を導入(≠建替)→一棟の購入者(買受人)がその後該当マンションを除却(≒解体等)する制度を創設→マンション建替事業による跡地の利用は「マンションだけ」という制約もなくなった。
(副次的効果)売却によって権利関係に決着→工事期間中の再入居予定者の居住費負担も軽減することが出来、耐震性不足マンション問題解消の選択肢が広がる。
2 平成26年法改正について
本法において、国土交通大臣はマンションの建替の円滑化等に関する基本方針を定めなければならないことになっている(法4条1項)。この基本方針を定め、または変更した場合には、遅滞なくこれを公表しなければならない(同条4項)。基本方針は以下のとおり(同条2項各号)
(1) マンションの建替等の円滑化を図るため講ずべき施策の基本的な方向
(2) マンションの建替等に向けた区分所有者等の合意形成の促進に関する事項
(3) マンション建替事業その他のマンションの建替に関する事業の円滑な実施に関する事項
(4) 再建マンションにおける良好な居住環境の確保に関する事項
(5) マンションの建替が行われる場合における従前のマンションに居住していた賃借人(一時使用のための賃借をするものを除く。以下、同じ)及び転出区分所有者(従前のマンションの区分所有者で再建マンションの区分所有者とならない者をいう。以下、同じ)の居住の安定の確保に関する事項
(6) 除却する必要のあるマンションに係る特別の措置に関する事項
(7) マンション敷地売却事業その他の除却する必要のあるマンションに係るマンション敷地売却の円滑な実施に関する事項
(8) 売却マンションに居住していた区分所有者及び賃借人の居住の安定の確保に関する事項
(9) その他マンションの建替等の円滑化に関する重要事項
第2 マンション建替事業について
1 「マンション建替事業」とは?
本法の第2章によって定められた手続に従って行われる、マンション建替に関する事業及びこれに附帯する事業(法2条4号・第2章)
具体的には、都道府県知事等の認可を得て、現在あるマンション(=施行マンション)を除却して新しいマンション(=施行再建マンション)を建築する事業並びにこれに附随する事業
→マンションであれば【耐震性不足とは関係なく】対象とすることが可能。
→権利変換手続という特殊な手法を用いて従前所有者・居住者の、建替後のマンションへの再取得・再入居を原則としている。
2 建替事業を施行できる者は?
区分所有法に基づく建替決議(同法62条)を行い、これを基礎として具体的な事業手法として定めたのが本法に基づくマンション建替事業
→「建替決議」=区分所有者→(建替提案)→区分所有者集会→(4/5以上の賛成)→建替決議
3 マンション建替組合
平成14年に、本法に基づく「マンション建替事業」が制度化される前→マンション建替組合(=民法上の組合であることが多かった)を設立して事業を遂行
→「法人」ではないことから、色々な問題や不便が。建替が途中で頓挫することも。
⇒本法において、所定の手続を経てマンション建替組合を設立した場合→マンション建替組合が法人格を取得することができ(6条)、組合そのものが法律上の主体となり債権債務の帰属主体となれる(cf.金融機関からの借入等)し、組合の運営並びに意思決定のルールを明確化したことでマンション建替のための合意の形成や事業の実施の円滑化が可能となり、かつ、法人税法上並びに消費税法上の特典を受けることができる(44条)。
ゼネコン等マンションの建替に関わる民間事業者が組合員(参加組合員)として建替事業に参加することができるようになり、従来と比較して、よりマンションの建替の円滑化が可能になった(17条)。
※1 「マンション建替組合」という文字の使用制限=本法に基づくマンション建替組合は必ずその名称中に「マンション建替組合」という文字を用いる必要あり。かつ、本法に基づくマンション建替組合でないものがその名称中に「マンション建替組合」という文字を用いてはならないことに(8条)。
※2 本法のマンション建替組合を設立するためには、都道府県知事等の認可を受ける必要がある(9条1項)。
※3 (マンション建替組合の設立のための手続)
① 62条の建替決議の内容によりマンションの建替を行う旨の合意をしたとみなされた者(64条=建替合意者)は、5人以上共同して「定款」及び「事業計画」を定める。
② 「定款」には、組合の名称やマンションの名称、その所在地並びに建替事業の範囲など法定事項(7条各号)を定める。
③ 「事業計画」は後述。
④ マンション建替組合がこれらを定め、建替合意者の4分の3以上の同意を得た場合には、都道府県知事等に認可の申請をする(9条1項・2項)。
⑤ 申請を受けた都道府県知事等は、事業計画を公衆に縦覧して関係者の意見を受け付ける(11条)。
⑥ 法定の認可基準(12条)に該当する場合には、当該都道府県知事等が認可をする。
⑦ ⑥の認可によってマンション建替組合が成立する(13条)。
⑧ ⑥の認可がなされると都道府県知事等により公告がなされる(14条)。
4 「事業計画」「権利変換手続」
(1) 「事業計画」とは?=上述のとおり、マンション建替組合を設立するために必要(9条1項)。
事業計画には、施行マンション(=除却されるマンション)の状況、その敷地の区域、居住部分の状況、施行再建マンション(=マンション建替事業によって新たに建築されるマンション)の設計の概要、施行期間並びに資金計画等を記載しなければならない(10条1項)。=建替の事業計画の概要であり、実現可能性のある建替か否かを判断するために必要に。
(2) 権利変換手続とは?=建替前のマンション(=施行マンション)に関する諸権利を建替後のマンション(=施行再建マンション)の権利へ移行させる法的手続(法技術)のことをいう(第2章第2節第1款)。
多数の権利が存在しているマンションについて、権利者の同意を取る等の手続のためには、通常の民事上の手法によれば旧マンションについての消滅及び新マンションについての設定の各々について関係権利者の同意を個別に得るなど煩雑な手続きに。
かつ、旧マンション⇒新マンション:権利を移行→担保権設定契約や登記を個別にする必要があり、手間や登記費用等もかかる。
そこで、建替前のマンションに関する権利を、建替後のマンションに関する権利として一括して移転させることで手続の簡素化・合理化を図ることに。
Cf.権利変換手続の法的性質=ある時点において建替前のマンションの権利を消滅させ、建替後のマンションに一度消滅させた権利を原始取得させるというもの。→法的には一度切断されているが、経済的には同一視して扱う特殊な法的手法
※4 権利変換計画とは?
権利変換の内容をマンションごとに、かつ建替前のマンションの権利者ごとの権利内容を定めた計画のこと(法第2章第2節第1款第2目)。
具体的には、
① 建替後のマンション(施行再建マンション)の配置設計
② 建替前のマンション(施行マンション)の区分所有者が有する建替前マンションの区分所有権及びその価額(評価額)
③ 建替前のマンションの区分所有者が、建替後のマンションについて新たに与えられる区分所有権の明細及びその価額の概算額(評価額)
④ 建替前のマンションの区分所有権に関する抵当権等の担保権を有する者が、建替後のマンションの区分所有権に有することとなる権利
⑤ 建替前のマンションの借家人が、建替後のマンションに新たに与えられる借家権の内容(場所等)
⑥ 補償金の支払いまたは清算金の徴収等の決定方法
⑦ 権利変換期日、建替前のマンションの明渡の予定時期
⑧ 工事完了の予定時期etc.を定めなければならない(58条各項)。
※5 権利変換計画の決定手続
① 建替事業の施行者が権利変換計画の原案を作成(57条1項)。
② マンション建替組合が施行者の場合(「組合施行」という)には、総会の特別決議が必要。※特別決議=議決権及び持分割合双方の5分の4以上の賛成が必要(30条3項)。
③ 組合施行の場合は組合員以外の権利者の同意が、個人施行の場合は施行者以外の権利者の同意が原則必要。但し、借家権者や底地権者等(∵事業により大きな影響を受けるから)は必ず同意が必要だが、抵当権者等それ以外の権利者から同意を得られなくても正当な理由があり、かつ、同意をしなかった者に損害を与えないような措置が予定されていれば同意は不要(57条)。
④ 審査委員(3人以上が施行者から任命される)の過半数の同意が必要(67条)。
⑤ 施行者が都道府県知事等に権利変換計画の認可の申請を(57条1項)。
⑥ 都道府県知事等は、権利変換計画の内容や手続が法令に違反していないこと、区分所有法上の建替決議がある場合にはその決議内容に適合していること等の条件を充たしていると認めた場合には、その権利変換計画を認可しなければならない(65条)。
※6 権利変換計画の内容に不満がある場合
① (そもそも)区分所有者等の権利が不当に害されないように厳格な手続が求められている(52条)。
② 不満がある場合(区分所有者が)
A マンション建替組合総会での対応
建替合意者=組合員となるが(16条1項)、総会で5分の1を超える人数の組合員が反対すると、施行者(組合)は総会に提示された権利変換計画案を変更しなければならなくなる。
B 買取請求権の行使
権利変換計画についての総会の決議で5分の4以上の賛成があった場合に、その決議に賛成しなかった区分所有者は、マンション建替組合に対して、自分が所有する区分所有権を時価で買い取ることを請求することができる(64条3項)。
C 都道府県知事等に対する権利変換計画の認可の取消請求
認可をした都道府県知事等に対して権利変換計画の認可の取消を求めることが考えられる→具体的手法:行政不服審査法に基づく不服申立てや行政事件訴訟による取消訴訟提起など。
※7 権利の変換の具体的内容
① 権利変換期日に、建替前のマンションに関する敷地利用権や抵当権等の担保権は、一度原則全て消滅(70条1項、71条1項)。
② ①と同時に、建替後のマンションの区分所有予定者は、建替後のマンション(建物部分)に対応した新たな敷地利用権を取得する(70条1項)。
③ 建替前のマンション(建物)自体の所有権は全て施行者に帰属することに(71条1項)。→施行者が古いマンションを合法的に取り壊し可能に。
④ 建替後のマンションの完成時に、建替前の区分所有者は新たな建物の区分所有権を取得し、担保権者等が従前と同様の権利を建替後のマンションについて取得する(71条2項、73条)。
A 建替後のマンション(施行再建マンション)の区分所有権取得を希望した 建替前のマンション(施行マンション)区分所有者→権利変換計画に記載された内容の権利を新たに取得(60条1項、70条1項、71条2項)。
→新たに取得する区分所有権の内容=マンションの専有面積やその評価額などをいい、権利変換計画に定められる(58条1項4号)。
B 施行再建マンションの区分所有権取得を希望しない施行マンション区分所有者→建替前に有していたマンションの区分所有権に対応した補償金を受け取ることに(75条1号)。
5 借家人等の扱い
(1) 借家人に対する扱い→借家人も希望すれば建替後のマンションに借家権を取得できる。
① 賃貸人(大家)である旧マンションの区分所有者が建替後のマンションに区分所有権を取得する場合→建替前と同じ賃貸人が取得したマンションの一室に借家権を取得する(60条4項本文)。→家賃その他の借家条件=同じ賃貸人と協議に(83条)。→新築に変わるから、家賃は通常、上昇することに。→マンション建築工事完了の公告日までに賃貸人との協議がまとまらない場合→施行者に対して家賃の額の裁定を求めることができる(83条2項)。→施行者は裁定のためには都道府県知事等の同意を得て任命した審査委員の過半数の同意を得る必要あり(同項)。→この裁定結果に、賃貸人と借家人の双方が納得すれば、裁定額が家賃に(83条4項)。→この裁定にも不服な借家人は裁定日から60日以内に裁判所に裁定家賃額の変更を求める訴えを提起できる(83条6項。訴えの相手は賃貸人)。この場合は裁判所の判決により家賃が確定。
② 賃貸人である区分所有者が建替後のマンションの区分所有権の代わりに補償金を取得する場合(56条1項)→借家人が再入居を希望→建替後のマンションの一部に借家権を取得(60条4項但書)。→この場合は賃貸人は施行者に(60条4項但書)。→家賃その他の借家条件=近傍同種の家賃を基準に施行者が決定(84条)。→新築だから家賃上昇になることは同上。→額に不服がある借家人は直接裁判所へ提訴する(訴えの相手は賃貸人=施行者)。
(2) 抵当権者等担保権者に対する扱い→権利変換によって建替後のマンション(施行再建マンション)に移行する(73条)。
① 旧マンションの区分所有者が建替後のマンションに区分所有権を取得する場合→区分所有者が取得した新たな区分所有権を目的物として移行
② 区分所有者が建替後のマンションの区分所有権の代わりに補償金を取得する場合→補償金に対して物上代位で権利行使する。→物上代位により補償金からの支払を確実にするために、補償金を支払側である施行者は、建替前の区分所有者に直接支払うのではなく、供託所に供託することを原則に(76条3項、4項)。
※8 権利変換期日と新マンションの区分所有権の取得時期(下記①②=ずれている)
① 敷地利用権→権利変換期日に施行マンションの敷地利用権は消滅し、施行再建マンションの敷地利用権が発生(し、取得)する(70条1項)
② 建物部分→権利変換期日に所有権以外の権利を全て消滅させるとともに、所有権は全て施行者に帰属する(71条1項)。→その後、除却工事や建設工事(=いずれも施行者所有で施工)→新マンションが完成したことを宣言(公告)した日に建物部分の区分所有権が新マンションの取得予定者のものに(71条2項)。
※9 権利変換期日後も工事に反対している者への対処
① 工事に反対してマンションに居住し続ける人(占有者)有→建替事業施行者は30日以上の期限を定めて、その明け渡しを求めることができる(80条1項、2項)。
② ①の明渡請求時に示された期限までに退去しない者に対して→施行者は裁判所に対し、その者に対する明渡請求の訴訟を提起する。
③ 施行者の明渡請求が認容されれば、退去しない者は不法占拠者として民事執行により強制的に退去させられる。
※10 新マンションの建築工事終了時の手続
① 工事完了の公告・通知(81条)
② 工事費用等の確定(84条)
③ 清算金の徴収・交付(85条)(施行マンションの区分所有者でも補償金を受領した転出者とは清算金は無関係。清算金徴収に応じない施行再建マンションの区分所有権取得者(清算金納付義務者)の区分所有権に対し施行者は不動産工事の先取特権(88条1項)に基づき競売も可)
④ 登記(82条)
※11 マンション建替事業の監督等
① 地方公共団体によるマンション建替事業に対する監督がある。
A 都道府県知事または市町村長は施行者に対してマンション建替事業に必要な報告、資料の提出を求め、あるいは勧告や助言などができる(97条1項)。
B 都道府県知事等はマンション建替事業の促進を図るために必要な措置を命じることができ(97条1項)、この命令に違反した場合には刑罰としての罰金が課される(同条2項172条2号)。
C 建替事業の内容の適正さを直接監督するために、施行者の事業や会計内容が法令や事業計画等に違反している場合には、都道府県知事は、施行者に対して工事の中止を求めるなどの強力な監督も可能(98条3項、99条1項)。→組合または個人施行者がこの命令に従わないときは、設立の認可を取り消すこともできる(98条4項、99条2項)。
D 組合の事業または会計が、本法もしくは行政庁の処分または定款、事業計画もしくは権利変換計画に違反する疑いがある場合には、総組合員の10分の1以上の同意を得れば都道府県知事等に組合の事業または会計の状況を検査させることができる(=組合員からの自発的な監督発動要請)(98条2項)。
第3 マンション敷地売却事業について
1 「マンション敷地売却事業」とは?
本法に定めるところに従って行われる「マンション敷地売却」をいう(2条1項9号)。
「マンション敷地売却」=現に存するマンション及びその敷地を売却すること(同項8号)=マンション1棟の建物とその敷地を一括して売却する法定事業のこと
←マンション敷地売却事業の対象となるマンション=【耐震診断を受けて耐震性不足として除却する必要があると特定行政庁から認定を受けた】マンションに限られる(106条、116条、120条)。
(1) 従来制度と改正法(本法)の違い
① 従来制度 耐震性不足マンション⇒耐震診断→過半数の賛成→耐震改修
→4/5以上の賛成→建替
→全員同意(民法の原則)→取壊・住替(売却)
② 改正法 耐震性不足マンション⇒耐震診断→過半数の賛成→耐震改修
→4/5以上の賛成→建替(容積率緩和)※
※マンション建替事業に限られない。
→4/5以上の賛成→取壊・住替(売却)(容積率緩和)
(2) マンション敷地売却事業の特徴
マンション=区分所有建物=売却も区分所有(戸)単位でなされる→マンション1棟丸ごと売却しようとすると戸数分の売買契約が必要かつ区分所有者全員の同意が必要。及び借家人や区分所有権に対する担保権者等関係権利者全員の同意が必要→上記区分所有者、関係権利者のうち一人でも反対がいれば丸ごとの売却は不可能に。⇔マンションが耐震性不足と判り、棟ごと一括売却して売却代金で他に住宅を購入しようとしても関係者が一人でも反対すれば実現できない。
そこで
⇒①【マンションが耐震性不足であることの行政庁の認定】②【区分所有者の5分の4の賛成】があれば、マンションを一棟丸ごと売却できるようにした。
→区分所有者以外の重要な利害関係者である借家人と担保権者の扱いも権利保護(補償金・供託)の方策を講じて同意がなくても事業を進められるようにした。
(3) マンション建替事業との違い
①
A マンション建替事業=施行マンションを同一敷地内で施工再建マンショ ンに建て替える事業=区分所有者も借家人も担保権者も施行再建マンショ ンに権利を再取得・再入居することが前提。
B マンション敷地売却事業=【耐震性不足の】マンションを売却して、区分所有者はその売却代金の分配を受けて他の住居に移転することが前提。売却の前提として借家人は補償金を受け取り退去し、担保権者も売却代金の供託などによる保護を受けて権利消滅することになる=「建替」と「売却」の違い。
②
A マンション建替事業→区分所有者の5分の4の賛成による建替決議(9条1 項・区分所有法64条、62条)に加えて、借家人や担保権者の同意が必要(45 条2項、57条2項)。
B マンション敷地売却事業→区分所有者等の5分の4の同意が必要(108条1項)だが、【借家人や担保権者の同意は不要。】←対象マンションが耐震性不足の要除却認定を受けたマンションに限定されているため、売却・除却には一定の公益性が認められるから。→但し、借家人や担保権者の正当利益の保護措置あり。
③
A マンション建替事業→対象マンションは【耐震性不足であることという限 定はない。】
B マンション敷地売却事業→対象マンションは、【耐震診断を受けた結果、耐震性不足で、マンションを除却する必要性があるとの認定を特定行政庁から受けたマンションに限定】される(108条1項)。
2 除却する必要があるマンションの認定
現行のいわゆる耐震診断における耐震性不足であるか否かを判定するもの。
実際には耐震診断資格を有する建築士により耐震診断を受ける。
その耐震診断結果が耐震性不足(=大規模な地震(震度6強以上)が発生した場合に倒壊する危険性のあるマンションであること)との判定結果が出た場合に、特定行政庁に申請して、耐震性不足のために除却する必要がある旨の認定を受けることをいう(102条)。
昭和56年にいわゆる耐震基準が大幅に強化された→それ以降に建築されたマンションは通常は耐震診断に合格することになった→昭和56年以前の旧耐震基準に基づき建設されたマンションの多くはマンション敷地売却事業の対象になり得る(102条1項)。
ちなみに、旧耐震基準に基づき建設されたマンションは約106万戸と推計されている。
⇔但し、古くても耐震改修を受けたり、もともと耐震性があるマンションは対象外。
⇒上記認定を受けた場合、区分所有者は除却を行う努力義務を負うが(103条)、認定後に改修により耐震性不足を解消することを禁じるものではない。
←そもそも、認定の申請は、あくまでもマンション管理組合・区分所有者から自主的な申請に基づきなされるものだから(102条1項)。
3 「マンション敷地売却組合」
(1) 「マンション敷地売却組合」=マンション敷地売却事業を行うために区分所有者で構成される組合(116条)。=マンション敷地売却事業の施行者(120条)。=マンション敷地売却事業のために設立された特別の法人格のある組合(117条)。
(2) 設立の必要性=マンションの一括売却という一大プロジェクトを実施するためには、必要となる売買契約や支払いなど多くの法的業務を処理する必要があるが、逐一区分所有者全員で意思決定することも合理的でない。
→そこで、法人格を有し、かつ事業実施に特化した法律上の組合としてマンション敷地売却組合を施行主体として法定化した(116条、117条等)。
(3) マンション敷地売却事業のためには同売却組合の設立は必ず必要
マンション売却事業を施行できるのはマンション敷地売却組合に限定されている。
Cf.マンション建替事業→施行者にはマンション建替組合だけでなく個人施行者も含まれる。←建替事業の個人施行者は全員同意を条件とするが(5条2項、45条2項、57条2項参照)、区分所有者全員及び関係権利者全員の同意があれば民法の原則に基づき任意の売却手続でマンション及び敷地全部を売却することが可能。→敢えてマンション敷地売却制度に個人施行者制度を認める必要はないから。
(4) 敷地売却の決議→組合設立までの流れ
① 売却決議
A 買受人(デベロッパー等)→都道府県知事等:買受計画の申請
買受意向←同認定
B 区分所有者→区分所有者集会:敷地売却議案(説明会の開催)
←4/5の賛成で決議
② 組合設立 5人以上の売却合意者→売却合意者:組合設立の提案
←3/4以上の賛成
→都道府県知事等:組合設立(申請)
←同認可
(5) 組合の構成員
「マンション敷地売却の合意者」全員が構成員に(125条)。
=①マンション敷地売却決議に賛成した区分所有者+②決議後に売却事業に参加することに合意した区分所有者等(120条1項、108条10項)。
Cf.マンション売却決議に反対し、かつ、決議後も売却に反対する区分所有者→マンション敷地売却組合から売渡請求権を行使される→時価で売却することになる→組合員として事業に参加する必要はない。
Cf.建替組合の「参加組合員」に該当する構成員は敷地売却組合にはいない。
4 分配金取得手続等
(1) 「分配金」=マンション(含:敷地)の売却代金から各区分所有者に分配される金銭のこと(108条2項3号)
=マンション敷地売却事業により各区分所有者が敷地売却組合から受け取る売買代金のこと。
(2) マンション敷地売却決議
分配金の算定方法=同決議事項に。←売却事業によりいくらもらえるのかが各区分所有者の事業への賛否を決めるために不可欠だから。但し、この時点では確定額ではなく算定方法に(108条2項3号)。
分配金の算定方法は、各区分所有者の衡平を害しないことが求められている(108条4項)。
(3) 分配金取得計画の作成・総会決議
① 事業が進行→売却組合は組合員(区分所有者)ごとに取得する具体的な額等を定めた分配金取得計画を作成しなければならない(142条1項3号)。
② マンション敷地売却組合の総会決議
分配金取得計画についてマンション敷地売却組合の総会決議の議決を受けなければならない(141条2項)。
③ 計画の都道府県知事への認可申請
組合の総会の議決を経た後に、都道府県知事等の認可を受けなければならない(141条1項後段)。
④ 都道府県知事等の認可
計画内容や手続の法令違反、マンション敷地売却決議内容との適合性、売却対象となる区分所有権等の先取特権者等の権利の不当侵害等の問題がないと認められると都道府県知事等が計画の認可をする(144条)。
(4) 分配金の具体的金額の算定
分配金の算定方法=マンション敷地売却決議における決議事項(108条2項3号)と売却代金の見込額(108条2項2号)を基礎として、この分配金の算定方法により区分所有者が取得できる分配金の概算額を知った上で売却決議の賛否を決めることができる制度に。→既にマンション敷地売却決議で「分配金の算定方法」が決められている→売却代金が確定すれば分配金の具体的金額が算定できる。
実際には
登記上の土地の共有持分割合による方法、不動産鑑定に基づく鑑定価格に応じる方法等が想定されている。
総会決議は4/5の特別多数の賛成が必要→組合員多数の合意により決定
(5) 分配金の支払時期
マンション敷地売却組合から各区分所有者に対して、権利消滅期日までに支払われる(151条)。
権利消滅期日:区分所有建物→所有権の目的物が一つである通常の建物→同時に各区分所有者の権利は消滅。マンションの建物及び敷地所有権等は全て組合のものに(149条)。→各区分所有者は自己の権利が消滅する前に分配金を受け取ることができ、分配金の支払が区分所有権消滅よりも事実上の先履行の関係に(法律的には同時履行関係)。
(6) 担保権者がいる場合の分配金の扱い
区分所有権に対する担保権者全てから分配金を供託しないでよいという申出がない限り、組合は分配金を供託しなければならない(152条、76条3項)。
権利消滅期日→担保権等は全て消滅→代わりに分配金を供託→供託金に担保権は物上代位
5 借家人等の扱い(補償金と明渡)
(1)権利消滅期日
→借家権は消滅(149条)→それまでにマンション敷地売却組合は期限を定めて借家人に対し明渡を請求する必要あり(155条)。
請求を受けた借家人は明渡の補償金を受け取ることができる(153条)。
補償金=権利消滅期日まで、かつ明渡までに支払う必要あり。→補償金と借家人の
明渡義務は、補償金支払が事実上の先履行の関係に(法律的には同時履行関係)
(2)借家人が受けられる補償金(153条)
補償金=借家人が明渡により通常受けるべき損失=具体的には政令で定められる
(143条3項)。具体的な算定方法=省令で定められ、公共用地補償基準に準じた補償内容として通損補償、地域によっては対価補償が想定されている。
(3)耐震性不足の特定行政庁による認定が前提→マンション建替とは大きく異なる。
→一定の公共性のために立退きを求められた場合の補償金額の算定方法→道路建
設等に必要な用地買収の基準に定められている公共用地補償基準あり。→上記補償金もこの公共用地補償基準に準じた額を支払うことに(143条2項、3項)。
公共用地補償基準(含:細則等)=移転料、営業補償、家賃差補償等の通損補償
(通常生じるべき損失の補償)と権利補償(借家権の対価)などについて、計算方法が細かく定まっている。
(4)借家人が補償金に納得できない場合
① 分配金取得計画の違法性を争う方法
補償金の額=分配金取得計画の内容(142条1項4号~6号)→都道府県知事等の認可を受ける必要あり→補償金の額が不当な額であることを理由として都道府県知事等の分配金取得計画認可の違法性を争う→認可の取消を求める行政訴訟を提起
② 組合に対し、決められた額と主張する額の差額の金銭を請求する方法
法律上本来もらえるはずの金銭が不足している→本法を請求の根拠とする不
当利得返還請求の民事訴訟を、売却組合を被告として提起
(5) 補償金の支払以外に借家人の受けられる保護
買受人←借家人の要請に係る代替建築物の提供が必要=代替建築物の提供等に関する計画を買受計画に記載することに(109条2項4号)。
⇒代替建築物の提供等が計画どおりになされていない場合→買受計画を認可した都道府県知事等は買受人に対して勧告や公表の措置をすることに。
国及び地方公共団体に対しても、借家人の居住の安定を図るために必要な措置の努力義務が課されている(115条)。
⇒借家人は代替賃貸住宅の紹介などを買受人に求めることができる。→借家人が満足するまでの紹介は不要。借家人の年齢や職業等の個別事情によるが、あくまで一般的には旧住宅と同種同等の物件や不動産仲介業者を紹介することなどを想定→代替住宅提供が全くない場合でなければ、代替住宅提供が不十分であることを理由に組合からの明渡請求が違法になることは考えられない。
⇔借家人が高齢者や障害者等のいわゆる住宅弱者の者→地域の実情に応じた公営住宅のあっせんや地方公共団体の家賃債務保証制度などの配慮は必要。→買受人に対して必要な措置の要求をすべき。
6 明渡請求
(1) 対区分所有者:権利消滅期日=区分所有ではない建物に
→所有権は全て敷地売却組合に帰属する(149条1項)。
→区分所有者は権利消滅期日をもって占有権原たる区分所有権を失う→権利消滅期日までに明渡をしなければならない(155条)。
(2) 対借家人:権利消滅期日=借家権も全て消滅(149条1項)
→借家人も権利消滅期日までに退去する必要あり。権利消滅期日=分配金取得計画に定められる(142条1項7号)→都道府県知事等の認可を受けると分配金取得計画は公告され、かつ借家人等関係権利者に書面で通知→この時点で借家人は正式に消滅期日を知ることができる→売却組合は公告日の翌日から起算して30日以降の日を明渡期限として明渡を請求することに(155条)。⇔但し、補償金の支払がされていない場合は明渡を拒否できる(同条)。
明渡請求=応じない相手に対しては民事訴訟を提起
7 マンション敷地売却事業の監督等
(1) マンション敷地売却事業の監督は都道府県知事が行う。
例:組合が法令に基づく行為を行わない場合→組合への必要な措置命令を認めている(161条3項)。
(2) 措置命令に従わない場合にはマンション敷地売却組合の設立認可自体の取消も可能(161条4項)。
第4 各事業の支援策について
1 支援制度とは?
(1) 耐震性の不足しているマンションの改修について
① 耐震性の診断について→ほとんどの地方公共団体で(国も一定割合で一体となった(以下、同じ))補助を受けることができる。
② 診断に基づいて改修→多くの地方公共団体で当該改修費用に対する補助を受けることができる。
③ 密集市街地で災害時の避難に用いられる道路の沿道にあるマンション(避難路沿道建築物)について→改修費用についてより高い補助を地方公共団体で受けることが可能
(2) 建替を行う場合
→優良建築物等整備事業(マンション建替タイプ)を活用し、共用通行部分等について補助を受けることが可能。
2 平成26年法改正に合わせた支援制度
(1) 耐震診断や改修、建替に係る支援制度は従来どおり。
(2) 除却後に建設されるマンションについて
→容積率の緩和措置→事業の採算性を向上させることが可能に。
(3) 税制改正によりマンション敷地売却制度による区分所有者の譲渡所得や借家人に支払われる補償金等について特例措置が。
3 補助制度とは?
(1) 耐震診断に対する補助
① 住宅・建築物安全ストック形成事業(耐震改修促進事業)が活用可能
② 建築士等の診断を受ける場合に、その費用の2/3について地方公共団体から補助を受けることができる制度。
③ 同じく地方公共団体による補助費の1/2(診断費用の1/3)は国が地方公共団体に対して交付金により補助を。
④ 耐震改修法に基づき、地方公共団体が指定した緊急時の避難道路の沿道など、早急に対応が必要なマンション→重点的に耐震化を促進する必要あり→地方公共団体の補助率に応じて国は最大1/2(交付金1/3+補助金1/6)まで支援を行うことができる。
(2) 耐震改修に対する補助
① 住宅・建築物安全ストック形成事業(耐震改修促進事業)が活用可能
② 管理組合等が耐震性の低いマンションについて診断に基づいて改修を行う場合に、その費用の23%について地方公共団体から助を受けることができる制度。
③ 同じく地方公共団体による補助費の1/2(改修費用の11.5%)は国が地方公共団体に対して交付金により補助を。平成27年3月までの措置だったが、国と地方で30万9000円/戸を加算できることに。
④ 耐震改修法に基づき、地方公共団体が指定した緊急時の避難道路の沿道など、早急に対応が必要なマンション→重点的に耐震化を促進する必要あり→地方公共団体の補助率に応じて国は1/3の支援を行うことができる。マンションを建替える場合でも改修費用相当の補助を受けることができる。
(3) 敷地売却制度に対する補助
① マンション敷地売却制度の利用のために行う耐震診断費用については、上述の耐震診断の補助(2/3)を受けることができる。
② 敷地売却後にマンションを建設する場合には、
A 耐震改修促進事業等に基づく改修相当費用の補助(※A)
B 優良建築物等整備事業(マンション建替タイプ)による補助(※B)
のいずれかを活用できる。
※A=従前のマンションの改修費用として4万8700円/㎡を上限に、その23%(国11.5%、地方11.5%)の補助を行うもの。この補助率について、耐震改修法に基づき、地方公共団体が指定した避難路等の沿道のマンションの場合には2/3(国1/3、地方1/3)、さらに戸当たり30万9000円を加算できる(平成27年3月まで)。
※B=調査設計費、土地整備費、共同施設整備費(廊下、階段、エレベーター等)について、当該経費の2/3(国1/3、地方1/3)が補助対象となる。
※Aと※Bの有利・不利…※Aは従前のマンションの規模により補助金の額が決定される。※Bは新たに建設するマンションの規模により補助金の額が決定される。→※Aと※Bのどちらが有利か、地方公共団体とも相談を!
(4) 敷地売却に対する補助制度の従前のマンション所有者に対するメリット
従前マンション所有者が直接補助を受けるものではない→一見、何のメリットもないようにも見える。⇔マンションの売却額は、こうした補助制度や容積率の緩和などを前提とした開発利益が織り込まれたものとなる→マンション敷地売却事業の実現性が高まる&より高額での売却が可能に⇒区分所有者にとっても分配金に反映されることからメリットに。
4 税法上の特例
(1) 売却に反対して売渡をした場合の税制上の特例
組合からの請求に基づき区分所有権及び敷地利用権を時価で売り渡すことに。→通常、マンションを売却した場合、売買から生じた譲渡益に対して15%(所有期間5年超の場合)の譲渡所得税が課税される。⇔今回の反対区分所有者=【耐震性の低いマンションを除却するために】売却する→【公益性が認められる】ので、通常の売却とは異なるいくつかの税制上の特例がある。
但し、下記①~③は重複して適用することはできない。
① 長期譲渡所得の軽減税率
敷地売却後に良好なマンションや公共公益施設が建設される場合→2000万円以下の部分について税率が15%⇒10%に軽減される措置あり(平成28年末まで)。個人住民税についても5%⇒4%に軽減され、合計すると20%⇒14%に軽減される。
② 一定の要件を充たす場合の特別控除
従前のマンションが緊急輸送道路等の避難路沿道の耐震診断が義務付けられたマンションで、除却後にマンションが建設される場合→譲渡所得から1500万円が控除されて1500万円を超える部分にのみ課税される。
③ 「マイホーム」の特別控除・買換特例(既存制度)
従前からの制度ではあるが、売却する住宅がマイホームの場合は、通常の税制特例である(譲渡所得からの)3000万円の特別控除が適用される。買換の場合でかつ所有期間・居住期間が10年以上の場合は、譲渡益について100%の課税繰り延べが適用される。
(2) 売却に賛成して分配金を受け取った場合の税制上の特例
マンション敷地売却に賛成し、マンション敷地売却組合に参加した区分所有者→権利消滅期日までに分配金を取得することに。
⇒通常、マンションを売却した場合、売買から生じた譲渡益に対して、それまでの所有期間に応じて15%(所有期間5年超の場合)の所得税が課税される。⇔今回の賛成区分所有者=【耐震性の低いマンションを除却するために】組合に参加し、分配金を取得→【公益性が認められる】ので、通常の売却とは異なるいくつかの税制上の特例がある。
但し、下記①~③は重複して適用することはできない。
① 長期譲渡所得の軽減税率
敷地売却後に良好なマンションや公共公益施設が建設される場合→2000万円以下の部分について税率が15%⇒10%に軽減される措置あり(平成28年末まで)。個人住民税についても5%⇒4%に軽減され、合計すると20%⇒14%に軽減される。
② 一定の要件を充たす場合の特別控除
従前のマンションが緊急輸送道路等の避難路沿道の耐震診断が義務付けられたマンションで、除却後にマンションが建設される場合→譲渡所得から1500万円が控除されて1500万円を超える部分にのみ課税される。
③ 「マイホーム」の特別控除・買換特例(既存制度)
従前からの制度ではあるが、売却する住宅がマイホームの場合は、通常の税制特例である(譲渡所得からの)3000万円の特別控除が適用される。買換の場合でかつ所有期間・居住期間が10年以上の場合は、譲渡益について100%の課税繰り延べが適用される。
(3) 借家人が受け取る補償金に対する税制上の特例
Cf.区分所有者が売却する場合→分離課税として譲渡所得税が課税される。
借家人が受け取る補償金→一時所得として他の所得と合算されて総合課税に。
⇔今回の借家人=【耐震性の低いマンションを除却するために】補償金を受け取り転出する→【公益性が認められる】ので、税制上の特例がある。
具体的には…受け取った補償金-移転等の支出に充てた費用を差し引いたもの+他の一時所得=(A)→{この(A)-特別控除の50万円}×2分の1+他の所得→所得税の課税対象に。
(4) マンション敷地売却組合への課税
① 譲渡所得税…マンション敷地売却組合の事業活動=【公益】法人の規定が適用される→【非収益】事業として非課税に。Cf.組合の活動に係る収支→買受人(民間デベロッパー)への売却益=譲渡収入(I)。区分所有者への分配金や補償金等=費用(C)。(基本的には)I=Cに。→課税所得は生じない。
② 分配金取得手続開始の登記に係る登録免許税(組合設立認可後)→非課税(平成28年度末まで)
③ 反対区分所有者から時価で買い取った場合の登録免許税、不動産取得税→非課税(同上)
④ 権利消滅期日に組合がマンションと敷地の権利を取得した場合の登録免許税、不動産取得税→非課税(同上)
5 容積率の特例
今回の法改正で措置された容積率の特例=耐震性不足のマンションの建替について、通常のマンション建設と比較すると、【危険住居や倒壊危険性の解消などの観点で緊急性が高い】→特定行政庁の許可により、容積率制限を緩和できるようにしたもの。許可にあたっては市街地の環境の整備改善に資すると認められるものである必要があり、特定行政庁において審査を行う。
Cf.従来の総合設計制度との違い→総合設計制度=敷地内に広い空地(公開空地)を設ける必要がある⇔【耐震性不足の】マンションの建替の場合→十分な公開空地を確保することが困難な場合や公開空地を確保することで高さが高くなる結果、却って環境上の支障が生じる場合も考えられる→公開空地を中心とした評価を見直し地域の防災性や景観等の向上に貢献する取組も併せて評価することで容積率を緩和できるように。
(特徴)
(1) 特定行政庁により【耐震性不足の認定を受けた】マンションの建替であればマンション敷地売却事業によらない場合でも対象となる。
(2) 敷地売却に対する容積率の緩和制度の従前のマンション所有者に対するメリット
従前マンション所有者が直接メリットを受けるものではない→一見、何のメリットもないようにも見える。⇔マンションの売却額は、こうした容積率の緩和や補助制度などを前提とした開発利益が織り込まれたものとなる→マンション敷地売却事業の実現性が高まる&より高額での売却が可能に⇒区分所有者にとっても分配金に反映されることからメリットに。
(3) 容積率の特例が認められる具体的程度
容積率の緩和の程度=敷地売却後に建設される各マンションの計画によって異なる。→一律にどの程度かは判らない。
但し、今回の【耐震性不足の】マンションの耐震化=公開空地の確保の要件が無い=現行の総合設計制度と一部条件が異なる⇔多くの場合で現行の総合設計制度と同程度の緩和が行われると考えられる。
(4) 容積率の特例の適用による周辺住民からのクレーム
今般のマンション敷地売却制度に伴うマンション建替は、公開空地を中心とした要件が見直されることとなるが、【危険な耐震性不足マンションが除却される】→地域の防災性や景観等の向上に資する→周辺の住民にとってもメリットに。→周辺住民からのクレームもされにくくなる。
具体的な特例の適用=一定の公益性を有することを評価した上で、周辺の市街地にとって過度な負担とならない範囲で特定行政庁が周辺の状況等を勘案して個別に許可(の判断)を行う。
第5 雑則・罰則
1 本法(改正法)の施行期日=平成26年12月24日
2 罰則=違反の内容に応じた懲役・罰金・過料が(法第6章)。
(1) 施行者(組合、建替事業は個人施行者を含む)の役職員の職務に関して、賄賂を受け取った場合(収賄)や、それらの役職員に賄賂を贈った場合(贈賄)
(2) 施行者が都道府県知事(地方公共団体)による報告や資料の請求などの監督措置に従わなかった場合や虚偽の報告や資料の提出をした場合
(3) マンション建替組合やマンション敷地売却組合が法定事業以外の事業を営んだ場合
(4) 施行者が本法上必要とされている帳簿などの書類を適切に管理していなかった場合
(5) マンション建替組合やマンション敷地売却組合以外の者が名称中にこれらの名称を使用した場合
投稿者プロフィール
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弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を残している。
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