兄と弟の間の遺産分割、調停を行い、長男の妻が夫の父の介護をした分を父に対する寄与分と見てくれたこと、弟に生前特別受益が若干あったことから、全体的には兄が遺産の65%程度、弟が35%程度を取得する形で遺産分割調停が成立した事例

兄と弟の間の遺産分割調停を行い、兄(長男)の妻が夫の父(=被相続人)の介護をした分を長男の父に対する寄与分と見てくれたこと、弟(次男)に生前特別受益が若干あったことから、全体的には兄が遺産の65%程度、弟が35%程度を取得する形で遺産分割調停が成立した事例

第1 依頼内容と結果

相模原市内に2箇所に分けて不動産を持っていたお父様がお亡くなりになり、遺産としてその2つの不動産と株式、預貯金等で遺産総額1億5000万円から2億円程度を残されました。相続人は子どもの男兄弟2人です。長男である松本様(仮名)からお父様が亡くなって10ヶ月以内の相続税の申告のところから相談に乗り、相続税の申告は税理士が担当しました。

申告時から遺産分割の交渉は行っていましたが、残念ながら相続税の申告時までに分割まで至りませんでした。その結果、未分割(兄弟2人に2分の1ずつ)の状態で相続税を申告、納税することになりました。

相続税申告後、遺産分割の交渉では埒が明かないため、遺産分割の調停を申し立てることになりました。相談の時点から松本様からはお父様が亡くなるまでの数年間、松本様の奥様がお父様の面倒を看てきていたことをうかがっていたため、これを松本様の「寄与分」とし、かつ、弟は2000万~3000万円を生前にお父様から援助を受けていたことが調停中に判明したため、これを弟の「特別受益」と主張しました。遺産分割の調停まで申し立てることになった事情には、このような背景があったわけです。

遺産分割の調停の中で、上記「寄与分」の主張および「特別受益」の主張はしていき、かつ、それ以外にも、相模原市内に2箇所ある不動産の評価等が問題になりましたが、この評価の点は本来の価格よりも若干金額面で譲歩する内容にしました。その代わり、上記の松本様の奥様の介護の「寄与分」及び、弟への2000万円の援助を「特別受益」として認めてもらいました。

第2 ご相談内容(事案背景),解決方法,費用と時間と得られた利益

松本様は、金額面で弟と争っていた、というよりも、松本様の奥様からの松本様のお父様に対する介護に対して法律上の正当な評価をしてもらいたいとの希望を強くお持ちでした。これは、松本様本人のため、というよりは、むしろ松本様が、その奥様を労るお気持ちを強くお持ちだったことからでした。そのため、弟への2000万~3000万円の「生前贈与」が「特別受益」となるという主張よりも、奥様のお父様(義父)への介護に対し正当な評価を求める、「寄与分」の申し立てに重点をおきました。

本件のように、相続人の妻による被相続人への介護の法的評価はまちまちで、子である松本様がやるべき介護を奥様が代わりにやっているに過ぎないという見方をし、その介護による貢献というのは、子の親に対する扶養義務の範囲内という見方をして、金銭的な評価に繋げないという審判例もあります。本来、兄弟間で介護を行った人間とそうでない人間との間で、相続への差を認めないこの審判例自体、問題と言えば問題なのですが、その点はさておき、松本様の奥様の介護貢献分を「寄与分」と見てくれた本件の裁判官は現在における家族間介護の実態を遺産分割という金銭等分配の場に上手に反映させてくれた一例とは言えるでしょう。ちなみに本件は、裁判官が強く心証を開示してくれ、審判になったら、この寄与分を認めるというところまで開示した上で、相手方(弟)を説得してくれたので、幸い審判には至らず、調停で上記松本様が65%、弟が35%という形で終わらせることができました。これによって、松本様は通常の2分の1よりも15%増加してもらえただけでなく、審判に至ることで要する時間・手間・費用も節約できたことになります。

なお余談ですが、不動産の評価で松本様が譲歩したという点は、結局調停成立当時は、価値も比較的高く面積も広い土地と建物(亡父母の自宅)を弟へ譲渡し、兄の松本様は価値も一見劣り、面積も狭い土地を取得する、という内容で妥協した形でした。ところが、実は、その調停成立の頃から、噂で将来は松本様が取得した土地の方が、周辺の開発等により価値が上がるのではないかと言われていました。ただし、調停成立時はあくまで噂に過ぎませんでした。ところが、その後、10年以上も経過した後、松本様が取得した土地から徒歩で行ける場所に「リニアモーターカー」の駅ができることに決まり、今では数倍の格差が付いています。世の中、上記のとおり、ほぼ「善意」から譲った側に最終的には大きな利益が入ることは少なくないということのまさに一つの例かもしれません。

3 依頼者の支払った弁護士費用と時間,およびそれにより得られた利益

調停に1年半ほど時間を要しました。また、松本様が手に入れることができた経済的利益は少な目に見ても1億5000万円の65%程度である1億円弱であったにも関わらず、支払った弁護士費用は総額で800万円弱程度と大幅に少なくすることができました。

投稿者プロフィール

弁護士 鈴木軌士
弁護士・宅地建物取引主任者。神奈川県にて25年以上の弁護士経験を持ち、特に不動産分野に注力している。これまでの不動産関連の相談は2000件を超え、豊富な経験と知識で依頼者にとって最良の結果を上げている。

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